その境界線は。
高町なのはを全力全開で愛していく。そんな小説を書いてます。
幸福の在処 三章 2007/09/06
「幸福の在処」三章です。
なのは×ティアナの描写があります。
苦手な方は回避をお勧めします。
それでも大丈夫という方は、続きからどうぞ。
幸福の在処 三章
髪を撫でる柔らかな何かの感覚で目が覚める。それが隣に眠っていた彼女の掌だということに私は気付くまでしばしの時間を要した。
意識が覚醒するまで前髪の隙間から覗く紅の瞳をぼんやり眺めていると、咎められているとでも思ったのか罰の悪そうにその人は苦笑した。
「おはよう、なのは」
「おはようフェイトちゃん」
至近距離にあったそれは大きくてとても綺麗な眼をしている。出会ったあの頃よりも穏やかになっていることは比べるべくもない。今の彼女に、無感情を込めた鋭い眼光やそれでいて愛情の枯渇により滲み出る寂しさを思わせるものは、もはやどこにもなかった。
そしてこれは絶対に口にだすことは出来ないのだけれど――。
「ご、ごめんね。綺麗で、つい触っちゃって……その。ごめんなさい」
――私はもしかすると、彼女があの瞳のままなら恋をしていたのかもしれない。
あの母親だけを純粋な心で信じ、自らのことなど歯牙にもかけないような、あの瞳ならば。
フェイトちゃんと交わるようになってから、私は以前よりもずってはやてちゃんのことを考えるようになっていた。それは行為の最中にまで思考を侵していき、相手を突きとばしてしまいたい衝動に駆られるほどだ。
甘えてくれるフェイトちゃんは素直に可愛いと思う。普段の頼れるフェイト・T・ハラオウン執務官の格好良さはいうまでもない。
私はだけど、彼女に子犬のような目をされるのが耐えられないのだ。
私はたぶん、私を好きな人に興味がない。イコールそれは自分の想いが永遠に叶わないことを意味する。
「なのは、最近どうかしたの? 元気ないみたいだよ」
すでに起床の時刻を過ぎ、着替えを始めていると後ろから声がかかった。私は手を休めずにその質問に返答する。
「いきなりだね。どうかしたの?」
「どうかって、なんとなくでしかないんだけど……」
「ううん、私は元気だけどな」
「でもなんだか私といる時のなのはって、あまり楽しそうにしないし」
納得がいかないのか、彼女は少し躊躇いがちに呟く。
「……やっぱり私に飽きちゃったとか、なのかな」
か細いながらもその声はちゃんと耳に届いた。聞こえた以上は反応せざるをえなくて。
「そんなことないよ」
首を振ってはみるが直視することは出来なかった。代わりにできるだけの笑顔を浮かべる。
「そんなことないから。心配しないで」
だって始めから何もなかった。飽きるわけがない。
だがそうと説明できるはずもなく、立ったままの自分を見上げる彼女の頭にそっと手をおいた。
「フェイトちゃんが何でそう思ったかは分からないけど、私はずっとフェイトちゃんのことで頭がいっぱいなんだ」
「なのは……」
「それなのに飽きるなんてありえないよ」
抱きついてくる彼女をなんとか受け止めながら、それが自然なのだろうと迷いながらも抱きしめることにする。
胸に顔を埋めるのは、自分をきっと信じてやまない人。私にはもったいない人。
「だから安心して。フェイトちゃん」
ねえはやてちゃん。私、自分のことが嫌いになりそうだよ。
そんな朝を通り抜けてきたからか、ただ単にそういう気分だったからなのかはわからなかったが、たしかに自分はそれを選択した。
目の前には自らの欲求を満たすには丁度いいものがあったから、そうしただけに過ぎない。
「命中精度が弱いのが気になるのは分かるけど、もっと回避や防御も身につけなきゃ駄目だよ。でないと今みたいにぼろぼろになっちゃうから」
これは他の人に言わせれば自分の砲撃威力が馬鹿高いせいらしいのだが、それにしてもリミッターをつけているのだからもう少し威力を軽減して欲しいものだ。見るからにぼろぼろである。シューターが、しかもフォワード隊の司令塔が立ち上がれないなどチームにとって致命傷以外のなにものでもないからこそ気になった。
まあそれでも、この白い防護服を汚せるくらいには上達してきているのだけれど。
「は、はい。すみませんでした!」
「うーん。あまり根詰めない程度に頑張ってね」
無理をするなとはあえていわない。レベルアップに多少の無理は必要だと自分の過去を振り返って思う。それに限度は以前も注意してあるし、分かってくれているはずだ。
「よし、今日の訓練はこれでおしまい。お疲れ様」
「お疲れ様です! ……と、あっ」
足に力をいれて立ち上がろうとして叶わずに少女はそのまま崩れ落ちた。
そんな、満身創痍になった少女を眺める。全身に力を込めてふらふらと立ち上がる少女の橙のツインが揺れて、唐突に自分の心が動いたのが分かった。所々シャツの破れた箇所からのぞく肌もそれを後押しした。
気付けば私はしゃがみ、彼女の頬を両手に包んで視界の真正面に捕らえていた。
今自分はどんな顔をしているのだろう。
目の前の瞳をのぞけば直ぐにでも分かるのだろうが、それは躊躇われた。
「あの、なのはさん……?」
首筋から耳朶まで、これでもかというほど真っ赤に染めた少女に微笑んで見せた。
「ティアナ、少し私とお散歩しようか」
「えっ、あの……」
「大丈夫、説教なんかじゃないよ」
「いえっ。別にそういうわけじゃなくて……」
「そう。じゃあこれから私がしようとしてること、分かる?」
赤く染まったままの耳たぶを指先で包みながら、なるべくいやらしく首筋に下ろしていく。
髪を梳きながら尋ねると、うつむきながら少女が答えた。
「……はい」
「よかった。それで受け入れてくれると嬉しいんだけどな。もちろん上司だからって考えて受け入れなくても良いし、無理強いするつもりもないよ」
だから二人の間に横たわる沈黙は、当然だとばかりに主張し、先ほどまでの喧騒はどこへいったのか堂々と闊歩を続ける。だが破るのは簡単である。少女にとって大切な人の名前を出せばいい。私にとってのはやてちゃん。はやてちゃんにとってのフェイトちゃん。彼女にとっての――。
「ティアナにはスバルがいるもんね。やっぱり嫌だよね」
だからこそ求めているのだと知ったら、彼女はどうするのだろう。
親しみ慣れているだろう名前にぴくりと反応するさまは見ていて楽しいものがある。きっとティアナにとって、パートナー以上の存在であるだろうスバルの名前をだすと、面白いほどに動揺を見せた。
予想外だったのは次の言葉。
「そんなことはありませんっ」
「えっと……?」
問い返すのは今度はこちらの番だった。
「あたしにとってスバルはパートナーで、認めるのは悔しいけど多分親友で。えっと、その、だから……」
剣幕に叫ぶこの少女の姿を久しぶりに見たような気がする。普段上官には絶対逆らうことのないティアナだっただけに、以前噛み付かれた時には今以上に動転し、気落ちしたものだ。それこそ周囲の人に心配されるくらいだった。
特に黒が似合う、金色の髪の女性に。
だけど一番心配して、いやそこまでではなくても、気にかけて欲しかった人に、我関せずの態度をとられたのがショックといえばショックだった。それこそ一発心配事の張本人にディバインバスターでもいれてささっさと終わらせたいくらいには。
「ティアナ……?」
「あたしはなのはさんになら……いいんです」
それなのにその本人八神はやては、今日もきっと頭の片隅にフェイトちゃんのことを置きながら仕事に勤しんでいるのだ。
当たり前だけど、寂しい。
そんな自分を前にして、ティアナは頬に当てていた手に自らの手を重ねた。お互いのグローブで直接触れ合う面積は少ないものの、温かみを感じるのには十分だった。
「それに今のなのはさん、凄く寂しそうです」
ただ体が欲しいだけならフェイトちゃんを抱けばいい。寂しいならフェイトちゃんを求めればいい。
だが彼女を抱くのは、今の自分には重すぎるのだ。気持ちだけで押しつぶされてしまって、更に身動きが取れなくなるような気がするのだ。
行為の先に発生しうる分かりきった矛盾を無視して、とりあえずのものに飛びつくほど自分の思考回路は安易に出来ていなかった。だからといって、この感情を押し殺せるほど大人ではなくて。
――幼少期の愛情の枯渇。それが今更のように駄々をこねる。
幼い頃親の愛情に飢えていたのはフェイトちゃんだけでなく、自分もなのかもしれない。
部屋に戻ると、少女の体中に痣を刻み込みながらその行為に没した。
十分にティアナを貪り尽すと、幾分自らの精神は落ち着いた。
罪悪感はなかった。浮気しているという感覚もなかったし、それどころか精神安定剤と自分の中で理由が見つけられたからである。ここ数日落ち込んでいたものも、随分発散できたように思う。これで少しはフェイトちゃんに優しく出来そうだった。
彼女が自分とはやてちゃん、フェイトちゃんの関係と直接関係のない人だからよかった。
これが、そう。例えばヴィータちゃんとかだと、少々厄介なことになっていたはずだ。もっともヴィータちゃんに手を出すつもりはないし、ヴィータちゃんもやはり自分と同じようにはやてちゃんを慕っている。でなくとも、こんな汚い人間を受け入れてくれるとは思えない。
そこまで考えて、ふとあることに思い当たる。
私はただ、はやてちゃんへの狂おしいほどの愛欲を誤魔化したいだけなのではないか。それを抑えてくれるなら誰でもいいのではないか。
貪り尽くしたはずだったが、それでもまだどこかが熱していた。どれだけ削って取れない錆が執拗にこびりついているような幻覚を覚えて、体を起こした。夢現を漂いつつある少女に覆いかぶさって、誘うように頬を撫でた。
「ティアナ」
「なのは……さん。えと、はい……」
夜も深い時刻、私は名前を呼んで、ティアナの前髪を払うように額に手を当てた。ティアナも私の首に手を回してくれる。
そこで扉が音を立てた。
ただいま、と落ち着いた声が部屋に響く。この部屋のもう一人の主が帰ってきたのである。当然私は内心で慌てた。今日は出張で、帰るのは朝になるときいていて、だからこそティアナをこの時間まで自室に連れ込んでいたというのに。
小さく舌打ちをしつつ、絶体絶命ともよべる回避すべく方法を、しばらく使わなかった脳の部分でフル回転させながら考え、どうにか思いついた私は勢いよくベッドをとび降りた。高速でシャツだけを羽織り、ドアに向かう。
(ちょっと隠れてて)
と慌てるティアナに念話を送りながら、今にも入ってこようとする人の元へ走った。
「フェイトちゃんっ」
そのまま彼女の胸に飛び込む。背中に腕を回し、力の限りに抱き締めると、しばし戸惑いながらも彼女は私の肩に手を添えてくる。疑問を含んだ声で名前を呼ぶ彼女から少し体を離して顔を見上げた。
「今日はどうしたの?帰るの朝になるって聞いてたけど」
「うん。本当は朝までかかる予定だったんだけど、なのはに会いたくてはやく終わらせてきたんだ。ごめんね、何か迷惑だったかな」
「そんなことないよ! 帰って来ないって聞いてたから……寂しかったよ」
「なのは……」
何故か感極まっている彼女に抱きしめられながら、私はティアナに再び念話を送る。
(ごめん。少しフェイトちゃんと部屋をでて散歩してくるから、その間に自室に戻ってて)
(い、いえ全然……。分かりました)
(本当にごめんね。また埋め合わせするから。それじゃあ切るね)
フェイトちゃんとの会話を継続させながら、ティアナとの念話を終了させる。それから考えた作戦に出ることにした。少しの罪悪感が体に浸透していくのを感じながら、私は口にする。
「せっかく戻ってこれたんだし、たまにはフェイトちゃんと星空を見たいな」
「……うん!」
その言葉に頷く大切な人の顔を見て。やはり私は思ってしまうのだ。
「とりあえず服着てくるから、ドアの外でちょっとだけ待ってて」
ごめんね、と。
駆けていく足がどうにも重い。銃弾に抉られてもこれほど重くはないはずだった。
積み上げては崩れる謝罪に埋もれ、私は身動きが取れなくなっていく――。
⇒四章
なのは×ティアナの描写があります。
苦手な方は回避をお勧めします。
それでも大丈夫という方は、続きからどうぞ。
幸福の在処 三章
髪を撫でる柔らかな何かの感覚で目が覚める。それが隣に眠っていた彼女の掌だということに私は気付くまでしばしの時間を要した。
意識が覚醒するまで前髪の隙間から覗く紅の瞳をぼんやり眺めていると、咎められているとでも思ったのか罰の悪そうにその人は苦笑した。
「おはよう、なのは」
「おはようフェイトちゃん」
至近距離にあったそれは大きくてとても綺麗な眼をしている。出会ったあの頃よりも穏やかになっていることは比べるべくもない。今の彼女に、無感情を込めた鋭い眼光やそれでいて愛情の枯渇により滲み出る寂しさを思わせるものは、もはやどこにもなかった。
そしてこれは絶対に口にだすことは出来ないのだけれど――。
「ご、ごめんね。綺麗で、つい触っちゃって……その。ごめんなさい」
――私はもしかすると、彼女があの瞳のままなら恋をしていたのかもしれない。
あの母親だけを純粋な心で信じ、自らのことなど歯牙にもかけないような、あの瞳ならば。
フェイトちゃんと交わるようになってから、私は以前よりもずってはやてちゃんのことを考えるようになっていた。それは行為の最中にまで思考を侵していき、相手を突きとばしてしまいたい衝動に駆られるほどだ。
甘えてくれるフェイトちゃんは素直に可愛いと思う。普段の頼れるフェイト・T・ハラオウン執務官の格好良さはいうまでもない。
私はだけど、彼女に子犬のような目をされるのが耐えられないのだ。
私はたぶん、私を好きな人に興味がない。イコールそれは自分の想いが永遠に叶わないことを意味する。
「なのは、最近どうかしたの? 元気ないみたいだよ」
すでに起床の時刻を過ぎ、着替えを始めていると後ろから声がかかった。私は手を休めずにその質問に返答する。
「いきなりだね。どうかしたの?」
「どうかって、なんとなくでしかないんだけど……」
「ううん、私は元気だけどな」
「でもなんだか私といる時のなのはって、あまり楽しそうにしないし」
納得がいかないのか、彼女は少し躊躇いがちに呟く。
「……やっぱり私に飽きちゃったとか、なのかな」
か細いながらもその声はちゃんと耳に届いた。聞こえた以上は反応せざるをえなくて。
「そんなことないよ」
首を振ってはみるが直視することは出来なかった。代わりにできるだけの笑顔を浮かべる。
「そんなことないから。心配しないで」
だって始めから何もなかった。飽きるわけがない。
だがそうと説明できるはずもなく、立ったままの自分を見上げる彼女の頭にそっと手をおいた。
「フェイトちゃんが何でそう思ったかは分からないけど、私はずっとフェイトちゃんのことで頭がいっぱいなんだ」
「なのは……」
「それなのに飽きるなんてありえないよ」
抱きついてくる彼女をなんとか受け止めながら、それが自然なのだろうと迷いながらも抱きしめることにする。
胸に顔を埋めるのは、自分をきっと信じてやまない人。私にはもったいない人。
「だから安心して。フェイトちゃん」
ねえはやてちゃん。私、自分のことが嫌いになりそうだよ。
そんな朝を通り抜けてきたからか、ただ単にそういう気分だったからなのかはわからなかったが、たしかに自分はそれを選択した。
目の前には自らの欲求を満たすには丁度いいものがあったから、そうしただけに過ぎない。
「命中精度が弱いのが気になるのは分かるけど、もっと回避や防御も身につけなきゃ駄目だよ。でないと今みたいにぼろぼろになっちゃうから」
これは他の人に言わせれば自分の砲撃威力が馬鹿高いせいらしいのだが、それにしてもリミッターをつけているのだからもう少し威力を軽減して欲しいものだ。見るからにぼろぼろである。シューターが、しかもフォワード隊の司令塔が立ち上がれないなどチームにとって致命傷以外のなにものでもないからこそ気になった。
まあそれでも、この白い防護服を汚せるくらいには上達してきているのだけれど。
「は、はい。すみませんでした!」
「うーん。あまり根詰めない程度に頑張ってね」
無理をするなとはあえていわない。レベルアップに多少の無理は必要だと自分の過去を振り返って思う。それに限度は以前も注意してあるし、分かってくれているはずだ。
「よし、今日の訓練はこれでおしまい。お疲れ様」
「お疲れ様です! ……と、あっ」
足に力をいれて立ち上がろうとして叶わずに少女はそのまま崩れ落ちた。
そんな、満身創痍になった少女を眺める。全身に力を込めてふらふらと立ち上がる少女の橙のツインが揺れて、唐突に自分の心が動いたのが分かった。所々シャツの破れた箇所からのぞく肌もそれを後押しした。
気付けば私はしゃがみ、彼女の頬を両手に包んで視界の真正面に捕らえていた。
今自分はどんな顔をしているのだろう。
目の前の瞳をのぞけば直ぐにでも分かるのだろうが、それは躊躇われた。
「あの、なのはさん……?」
首筋から耳朶まで、これでもかというほど真っ赤に染めた少女に微笑んで見せた。
「ティアナ、少し私とお散歩しようか」
「えっ、あの……」
「大丈夫、説教なんかじゃないよ」
「いえっ。別にそういうわけじゃなくて……」
「そう。じゃあこれから私がしようとしてること、分かる?」
赤く染まったままの耳たぶを指先で包みながら、なるべくいやらしく首筋に下ろしていく。
髪を梳きながら尋ねると、うつむきながら少女が答えた。
「……はい」
「よかった。それで受け入れてくれると嬉しいんだけどな。もちろん上司だからって考えて受け入れなくても良いし、無理強いするつもりもないよ」
だから二人の間に横たわる沈黙は、当然だとばかりに主張し、先ほどまでの喧騒はどこへいったのか堂々と闊歩を続ける。だが破るのは簡単である。少女にとって大切な人の名前を出せばいい。私にとってのはやてちゃん。はやてちゃんにとってのフェイトちゃん。彼女にとっての――。
「ティアナにはスバルがいるもんね。やっぱり嫌だよね」
だからこそ求めているのだと知ったら、彼女はどうするのだろう。
親しみ慣れているだろう名前にぴくりと反応するさまは見ていて楽しいものがある。きっとティアナにとって、パートナー以上の存在であるだろうスバルの名前をだすと、面白いほどに動揺を見せた。
予想外だったのは次の言葉。
「そんなことはありませんっ」
「えっと……?」
問い返すのは今度はこちらの番だった。
「あたしにとってスバルはパートナーで、認めるのは悔しいけど多分親友で。えっと、その、だから……」
剣幕に叫ぶこの少女の姿を久しぶりに見たような気がする。普段上官には絶対逆らうことのないティアナだっただけに、以前噛み付かれた時には今以上に動転し、気落ちしたものだ。それこそ周囲の人に心配されるくらいだった。
特に黒が似合う、金色の髪の女性に。
だけど一番心配して、いやそこまでではなくても、気にかけて欲しかった人に、我関せずの態度をとられたのがショックといえばショックだった。それこそ一発心配事の張本人にディバインバスターでもいれてささっさと終わらせたいくらいには。
「ティアナ……?」
「あたしはなのはさんになら……いいんです」
それなのにその本人八神はやては、今日もきっと頭の片隅にフェイトちゃんのことを置きながら仕事に勤しんでいるのだ。
当たり前だけど、寂しい。
そんな自分を前にして、ティアナは頬に当てていた手に自らの手を重ねた。お互いのグローブで直接触れ合う面積は少ないものの、温かみを感じるのには十分だった。
「それに今のなのはさん、凄く寂しそうです」
ただ体が欲しいだけならフェイトちゃんを抱けばいい。寂しいならフェイトちゃんを求めればいい。
だが彼女を抱くのは、今の自分には重すぎるのだ。気持ちだけで押しつぶされてしまって、更に身動きが取れなくなるような気がするのだ。
行為の先に発生しうる分かりきった矛盾を無視して、とりあえずのものに飛びつくほど自分の思考回路は安易に出来ていなかった。だからといって、この感情を押し殺せるほど大人ではなくて。
――幼少期の愛情の枯渇。それが今更のように駄々をこねる。
幼い頃親の愛情に飢えていたのはフェイトちゃんだけでなく、自分もなのかもしれない。
部屋に戻ると、少女の体中に痣を刻み込みながらその行為に没した。
十分にティアナを貪り尽すと、幾分自らの精神は落ち着いた。
罪悪感はなかった。浮気しているという感覚もなかったし、それどころか精神安定剤と自分の中で理由が見つけられたからである。ここ数日落ち込んでいたものも、随分発散できたように思う。これで少しはフェイトちゃんに優しく出来そうだった。
彼女が自分とはやてちゃん、フェイトちゃんの関係と直接関係のない人だからよかった。
これが、そう。例えばヴィータちゃんとかだと、少々厄介なことになっていたはずだ。もっともヴィータちゃんに手を出すつもりはないし、ヴィータちゃんもやはり自分と同じようにはやてちゃんを慕っている。でなくとも、こんな汚い人間を受け入れてくれるとは思えない。
そこまで考えて、ふとあることに思い当たる。
私はただ、はやてちゃんへの狂おしいほどの愛欲を誤魔化したいだけなのではないか。それを抑えてくれるなら誰でもいいのではないか。
貪り尽くしたはずだったが、それでもまだどこかが熱していた。どれだけ削って取れない錆が執拗にこびりついているような幻覚を覚えて、体を起こした。夢現を漂いつつある少女に覆いかぶさって、誘うように頬を撫でた。
「ティアナ」
「なのは……さん。えと、はい……」
夜も深い時刻、私は名前を呼んで、ティアナの前髪を払うように額に手を当てた。ティアナも私の首に手を回してくれる。
そこで扉が音を立てた。
ただいま、と落ち着いた声が部屋に響く。この部屋のもう一人の主が帰ってきたのである。当然私は内心で慌てた。今日は出張で、帰るのは朝になるときいていて、だからこそティアナをこの時間まで自室に連れ込んでいたというのに。
小さく舌打ちをしつつ、絶体絶命ともよべる回避すべく方法を、しばらく使わなかった脳の部分でフル回転させながら考え、どうにか思いついた私は勢いよくベッドをとび降りた。高速でシャツだけを羽織り、ドアに向かう。
(ちょっと隠れてて)
と慌てるティアナに念話を送りながら、今にも入ってこようとする人の元へ走った。
「フェイトちゃんっ」
そのまま彼女の胸に飛び込む。背中に腕を回し、力の限りに抱き締めると、しばし戸惑いながらも彼女は私の肩に手を添えてくる。疑問を含んだ声で名前を呼ぶ彼女から少し体を離して顔を見上げた。
「今日はどうしたの?帰るの朝になるって聞いてたけど」
「うん。本当は朝までかかる予定だったんだけど、なのはに会いたくてはやく終わらせてきたんだ。ごめんね、何か迷惑だったかな」
「そんなことないよ! 帰って来ないって聞いてたから……寂しかったよ」
「なのは……」
何故か感極まっている彼女に抱きしめられながら、私はティアナに再び念話を送る。
(ごめん。少しフェイトちゃんと部屋をでて散歩してくるから、その間に自室に戻ってて)
(い、いえ全然……。分かりました)
(本当にごめんね。また埋め合わせするから。それじゃあ切るね)
フェイトちゃんとの会話を継続させながら、ティアナとの念話を終了させる。それから考えた作戦に出ることにした。少しの罪悪感が体に浸透していくのを感じながら、私は口にする。
「せっかく戻ってこれたんだし、たまにはフェイトちゃんと星空を見たいな」
「……うん!」
その言葉に頷く大切な人の顔を見て。やはり私は思ってしまうのだ。
「とりあえず服着てくるから、ドアの外でちょっとだけ待ってて」
ごめんね、と。
駆けていく足がどうにも重い。銃弾に抉られてもこれほど重くはないはずだった。
積み上げては崩れる謝罪に埋もれ、私は身動きが取れなくなっていく――。
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