その境界線は。
高町なのはを全力全開で愛していく。そんな小説を書いてます。
目を赤くして、瞼の下でユキを溶かして 2007/12/30
Christmas企画SSです。
アリサ×なのは。
どうすればハッピーエンドを迎えられるのだろうと三日間考えた。……でも。
アリなのでありながら、軽くなのすず要素もあったりします。
機動六課が解散した年のクリスマス。日を追うごとに忙しくなるなのはは、それでも時間をみつけ、久し振りに海鳴に帰郷する。
長さ的に普通の短編でよかった気がします。
もしよろしければ続きよりどうぞ。
目を赤くして、瞼の下でユキを溶かして
もっと煌びやかだと思っていた、反してその扉は仄かな明かりのみがついていただけだった。彼女ならもっと盛大にしていることだろうと思っていたけれど、どうやらその予想は外れていたみたいで、見上げるほど大きな建造物の窓のいくつかの部屋にのみ明かりがみられる。身嗜みを今一度確認し、頷いてから玄関の守衛に頭を下げる。扉をくぐれば、久方ぶりに会う友人が快い笑顔で迎えてくれた。
「時間ぴったり、相変わらずきちんとしてるわね」
「なのはちゃん、久しぶり」
二人それぞれの笑顔を受けて思い直す。そうだ、訂正。掛け替えのない友人と、恋人だったと。
柱に括り付けられた鐘が鳴る。午後七時を指していた。
ただ広い空間にいるのは三人で、それぞれが皿を片手に立食と朗らかな会話を交わす。会話というよりは質問のような気もする。もっぱら対象は自分だった。私としてはもっと二人の話が聞きたいのだけれど、そうさせてくれそうな雰囲気ではない。それに。
「ねえ、なのは」
大きな目を輝かせて、日常の些細なことを訪ねてくれる彼女たちの笑顔を見ているだけで、私はすでにそれなりの充足感を得てしまっていた。
掛け時計の短針が数字二つ分進んだ頃、騒ぎも幾分沈静化されてきた。だがそれも当然である。三人だけで、むしろ二時間も騒ぐことがあったこと自体驚愕の事実である。離れていた時間は短くはない。距離や価値観の違いもあるだろう。だというのに、二人が以前と変わらない笑顔を向けてくれる。それが嬉しい。
私は変化が嫌いだった。成長も精進ももちろん必要だったけれど、変化だけは嫌。外見はいい。だけれども心が変わってしまうことだけは苦手だった。離れている人の心が、離れている間に移り変わってしまっていたのなら、それは私にとって何よりも耐えがたいこと。
まだ彼女が自分を好きでいてくれるなんて過信は出来ない。離れていた自分が悪いのだし、何よりも彼女の周りには多くの魅力的な人がいるだろう。そう、例えば。
疑ったわけではない。ただ確かめたい、と思っただけだ。
お手洗いに、とすずかちゃんが席を外したのを見計らって、私はグラスを片手に大学生活について取り留めなく話すアリサちゃんを抱きよせた。甘ったるさがまず広がり、それから舌にじわりとお酒が滲み込んでいく。
抵抗しないの?
私が尋ねると、頬を染めながらも彼女は眉を吊り上げ、わずかに視線を逸らす。
「そんな無駄な抵抗、してる暇ないわよ」
彼女には珍しく、甘えるよう首筋に顔を埋めてくる。
「あんたは明日にはまた帰っちゃうんだから、抵抗なんてしない。できない」
「アリサちゃん」
「不安? だけどあたしだって不安なのよ。ううん、むしろあたしの方が。だってなのはの周りには魅力的な人がたくさんいる。アリサ・バニングス程優れた人物は稀少だってのに、どういうことかあんたの周りにはあたし以上の人が溢れてる」
アリサはドレスの裾をつかんだまま、言葉を続けた。
「フェイトやはやては当然として、ヴィータだっていい子だし、去年任務で来たあんたの部下だってあたしに劣らず美人だった。ボーイッシュな青い髪の子もそうだけど、ほら、橙色をしたツインテールの子」
「あ、うん。ティアナね。今は髪下ろしてるけど」
「そんなことどうでもいい。つまりね、あたしはあんたのことが、ただ」
普段自分に対しては強硬な態度をとってくるアリサちゃんが、この日はやけにしおらしかった。調子が狂う。久々に会ったせいだろうか、私はいまいち彼女との距離を掴みかねていた。
「なのは、あたしは」
「アリサちゃん」
名前を呼んだだけで、びくりと怯えるような反応を返される。少しだけ……傷つく。
だけどきっと、その反応は正しい。
「私の存在は、アリサちゃんの心に優しくないね。なんだか傷つけるだけみたい。頻繁にも会えないし、つらい時には支えてだってあげられないから」
だから。
「別れよう」
言葉が心を上滑りするように出ていった。
と、視界の端に菫色が映り、それが何かを認識する直前画面が振れた。なのはちゃん、と穏やかな少女の声が降ってくる。だけれども感じるのは頬の痛み。構わず首を元に戻せば、目の前の少女の、コバルトグリーンの瞳からは涙の放流が起こっていた。
本当に傷つけて、泣かせるだけしかできない。こんな日にまで自分は彼女の涙を見てしまった。流させてしまった。自分に彼女はもったいない。そう、彼女の身近には魅力的な人がたくさんいるではないか。例えば、そう、例えばこの菫色の綺麗な髪と目をした少女。
すずかちゃんが、ふらついた私を支えるようにして背に手を添える。
「普通にさ、友達でいいよ。アリサちゃんお見合い話きてるんだよね。多分その人は私みたいにアリサちゃんを寂しがらせたり、不安にさせたり、ましてや泣かせたりなんてしない。私は……いつか墜ちるかもしれないんだよ」
「っ、この」
再び振り上げられた手を避けることなど容易い、だけれども私はあえて受ける。
部屋に小気味のいい音が響いて、じわりと口の中に鉄の味が広がっていく。
「バカちん! 黙って聞いていれば、何よ。そんなの関係ないじゃない。お見合いの話を誰から聞いたか知らないけど、この場合どうでもいいわ。大事なのは、あたしとなのはの気持だけ」
「……時間が経てば、人の気持ちなんて簡単に薄れる。アリサちゃんの気持ちだって、そのうち雪みたいに溶けてなくなる。幸せになれる」
「あたしはなのはしかいない」
「すずかちゃんがいる」
「あたしにはなのはしかいない!」
頬を思い切りつまんだかと思うと、左右にひどく引っ張られる。言葉を発することもままならず、痛みを訴える。それでも一向に弱まらない彼女の細い指の力と、彼女の頬にできた道筋にそれ以上の言葉を失う。
「なのはのいない世界で、幸せなんてつかめない」
身が焼き切れるほどの視線を向けられる。別れようとは適当に言った言葉ではなかった。だのに「前言を撤回して」という彼女の叫びに頷いてしまったその理由は、後になっても分らなかった。
後で聞いた話だけれど、すずかちゃんは私のことが好きだったらしい。そう、あの後こっそりと本人から聞いた。アリサちゃんが執事の鮫島さんに連れていかれた後のこと。
薄暗がりの中、庭の石垣に腰かけて、すずかちゃんが優しく微笑んだ。庭に咲く灯が淡く、少女の輪郭を映し出す。
「でもね、私はアリサちゃんとなのはちゃんが仲良くしているなら、ただ応援するだけだよ」
俯き加減の私の頬を、すずかちゃんはそっと包む。
「もちろん疲れたらいつでも寄りかかっていいし。なのはちゃんに対しての門戸はいつだって開放してるからね」
素敵な笑顔で言われて、ほんの僅かに心が揺れる。この二人に自分は何を返せているのか、不安になって――彼女を思い出す。アリサちゃんが先ほど自分に投げてくれた言葉。『なのはしかいない』と、つまりそういうことなのかもしれない。自分の存在そのものが、彼女に役立てているのなら。
「管理局を辞めて、海鳴に戻ればいいんだろうね」
私の小さな呟きに、すずかちゃんは小さく笑うだけでなにも答えはしなかった。わかっているのだ、それがただの呟きでしかないことを。
雪が降っていた。見上げればたんぽぽの綿毛のような雪が降っていた。この雪は積もらない。
次にこの町へ帰る時は、この雪が干乾びる位に後なのだろうと考えると、もう自分は石垣から立ち上がる気力すらなかった。
ただ、ふっと。頬に手を当てると、少し腫れた自らの肉の感触が掌に浮かぶ。明日になればもっと腫れ、熱をもつようになるかもしれない。でも痛いのはこの頬よりも自分の周りの人の方。自分の我侭で振り回され、縛られる彼女の心。いっそ行動に移してしまえばいいのに、自分ときたら出来もしない事を言うだけ。
「アリサちゃんって、優しいよね」
すずかちゃんが私の手の甲に触れる。
「だから痛いんだ」
だから寄りかかってしまう。
何故だろう、アリサちゃんには言えないことがこの少女には言えてしまう。はやてちゃんやヴィータちゃん、フェイトちゃんにさえ言えなかったのに、こんな言い訳じみた事。
「凄く、痛い」
「なのはちゃんはアリサちゃんが好きなんだよ、凄く」
そうかもしれない。そうなんだ、だけどだけどだけど。だけど、と反論が次々と沸いてくる。
――ならばどうして自分はこの町に残ろうとしないんだろう。
今進んでいる道は、大好きな人を悲しませてまで選ぶ道なんだろうか。
「なのははそれでいいの」
声のする方をみれば、白銀のショールを羽織って一人の少女が立っていた。アリサちゃんが歩いてくる。距離が近づいて、私の目の前で膝を折った。それから子供をあやすように彼女は私の手をとった。いつのまにか、すずかちゃんの手は私の手を離れていた。
「この手の魔法は、悲しみを撃ち抜く力。それを教えるために戦技教導官になったんでしょ。なら辞めるとか言っちゃ駄目なんだから」
「それじゃアリサちゃんが辛いばかりだから、私別れた方がいいって」
「それも嫌」
「アリサちゃん、我侭だよ」
「嫌いになった?」
「……まさか」
ああ、隣を見れば、微笑むすずかちゃんの姿があった。昔の、魔法と出会う以前の時間が戻ってきたみたいだ。
「何だか色々、考えるのが馬鹿らしくなってきちゃった」
「そうね、でも考えるのはなのはが優しいから」
みんな優しすぎるのよ、とはアリサちゃんの言葉。
……考えなくていいかもしれない、今はもう少し。この微睡みのような空間の中でしばらく漂っていたい。
赤く染まった目の畔は、見なかったことにして。
先に帰るね。そんなすずかちゃんの声で解散となったクリスマスパーティ。
私たちは手を繋ぐ。冷え切ったアリサちゃんの手を包む。胸に圧し掛かる贖罪を悟られないように力一杯手を握る。彼女の部屋に入り、意味のないやり取りをいくつか交わした後、無垢な表情を装って彼女に押し倒される。
「好きよ、なのは」
「……私も」
この気持は偽りなどでは決してないのに、どうしてこうも後ろめたいのか。私は今でもわからないままだった。
払いそこねた瞼の下の雪が、彼女に気付かれぬようこっそりと流した涙に溶けていった。
× あとがき ×
甘くするって言ったのにあまり甘くありませんでした。ごめんなさい。
なのティアのときも書いたけどごめんなさい。ある意味こっちの方が行き着く先でバッドのような気がしないでもない。
そろそろアリサにはお見合いの話がきていてもおかしくないと思うんだけど、それをこのなのはが聞いた時の気持ちはどれほどのものだったんだろう。アリサは断ったけど、断らない方が幸せだったのにって本気で思ってそうなところが、また。
アリサ難しいです。というかツンデレがね、書けないというかね。すみません。うう、頑張れ自分。
アリサ×なのは。
どうすればハッピーエンドを迎えられるのだろうと三日間考えた。……でも。
アリなのでありながら、軽くなのすず要素もあったりします。
機動六課が解散した年のクリスマス。日を追うごとに忙しくなるなのはは、それでも時間をみつけ、久し振りに海鳴に帰郷する。
長さ的に普通の短編でよかった気がします。
もしよろしければ続きよりどうぞ。
目を赤くして、瞼の下でユキを溶かして
もっと煌びやかだと思っていた、反してその扉は仄かな明かりのみがついていただけだった。彼女ならもっと盛大にしていることだろうと思っていたけれど、どうやらその予想は外れていたみたいで、見上げるほど大きな建造物の窓のいくつかの部屋にのみ明かりがみられる。身嗜みを今一度確認し、頷いてから玄関の守衛に頭を下げる。扉をくぐれば、久方ぶりに会う友人が快い笑顔で迎えてくれた。
「時間ぴったり、相変わらずきちんとしてるわね」
「なのはちゃん、久しぶり」
二人それぞれの笑顔を受けて思い直す。そうだ、訂正。掛け替えのない友人と、恋人だったと。
柱に括り付けられた鐘が鳴る。午後七時を指していた。
ただ広い空間にいるのは三人で、それぞれが皿を片手に立食と朗らかな会話を交わす。会話というよりは質問のような気もする。もっぱら対象は自分だった。私としてはもっと二人の話が聞きたいのだけれど、そうさせてくれそうな雰囲気ではない。それに。
「ねえ、なのは」
大きな目を輝かせて、日常の些細なことを訪ねてくれる彼女たちの笑顔を見ているだけで、私はすでにそれなりの充足感を得てしまっていた。
掛け時計の短針が数字二つ分進んだ頃、騒ぎも幾分沈静化されてきた。だがそれも当然である。三人だけで、むしろ二時間も騒ぐことがあったこと自体驚愕の事実である。離れていた時間は短くはない。距離や価値観の違いもあるだろう。だというのに、二人が以前と変わらない笑顔を向けてくれる。それが嬉しい。
私は変化が嫌いだった。成長も精進ももちろん必要だったけれど、変化だけは嫌。外見はいい。だけれども心が変わってしまうことだけは苦手だった。離れている人の心が、離れている間に移り変わってしまっていたのなら、それは私にとって何よりも耐えがたいこと。
まだ彼女が自分を好きでいてくれるなんて過信は出来ない。離れていた自分が悪いのだし、何よりも彼女の周りには多くの魅力的な人がいるだろう。そう、例えば。
疑ったわけではない。ただ確かめたい、と思っただけだ。
お手洗いに、とすずかちゃんが席を外したのを見計らって、私はグラスを片手に大学生活について取り留めなく話すアリサちゃんを抱きよせた。甘ったるさがまず広がり、それから舌にじわりとお酒が滲み込んでいく。
抵抗しないの?
私が尋ねると、頬を染めながらも彼女は眉を吊り上げ、わずかに視線を逸らす。
「そんな無駄な抵抗、してる暇ないわよ」
彼女には珍しく、甘えるよう首筋に顔を埋めてくる。
「あんたは明日にはまた帰っちゃうんだから、抵抗なんてしない。できない」
「アリサちゃん」
「不安? だけどあたしだって不安なのよ。ううん、むしろあたしの方が。だってなのはの周りには魅力的な人がたくさんいる。アリサ・バニングス程優れた人物は稀少だってのに、どういうことかあんたの周りにはあたし以上の人が溢れてる」
アリサはドレスの裾をつかんだまま、言葉を続けた。
「フェイトやはやては当然として、ヴィータだっていい子だし、去年任務で来たあんたの部下だってあたしに劣らず美人だった。ボーイッシュな青い髪の子もそうだけど、ほら、橙色をしたツインテールの子」
「あ、うん。ティアナね。今は髪下ろしてるけど」
「そんなことどうでもいい。つまりね、あたしはあんたのことが、ただ」
普段自分に対しては強硬な態度をとってくるアリサちゃんが、この日はやけにしおらしかった。調子が狂う。久々に会ったせいだろうか、私はいまいち彼女との距離を掴みかねていた。
「なのは、あたしは」
「アリサちゃん」
名前を呼んだだけで、びくりと怯えるような反応を返される。少しだけ……傷つく。
だけどきっと、その反応は正しい。
「私の存在は、アリサちゃんの心に優しくないね。なんだか傷つけるだけみたい。頻繁にも会えないし、つらい時には支えてだってあげられないから」
だから。
「別れよう」
言葉が心を上滑りするように出ていった。
と、視界の端に菫色が映り、それが何かを認識する直前画面が振れた。なのはちゃん、と穏やかな少女の声が降ってくる。だけれども感じるのは頬の痛み。構わず首を元に戻せば、目の前の少女の、コバルトグリーンの瞳からは涙の放流が起こっていた。
本当に傷つけて、泣かせるだけしかできない。こんな日にまで自分は彼女の涙を見てしまった。流させてしまった。自分に彼女はもったいない。そう、彼女の身近には魅力的な人がたくさんいるではないか。例えば、そう、例えばこの菫色の綺麗な髪と目をした少女。
すずかちゃんが、ふらついた私を支えるようにして背に手を添える。
「普通にさ、友達でいいよ。アリサちゃんお見合い話きてるんだよね。多分その人は私みたいにアリサちゃんを寂しがらせたり、不安にさせたり、ましてや泣かせたりなんてしない。私は……いつか墜ちるかもしれないんだよ」
「っ、この」
再び振り上げられた手を避けることなど容易い、だけれども私はあえて受ける。
部屋に小気味のいい音が響いて、じわりと口の中に鉄の味が広がっていく。
「バカちん! 黙って聞いていれば、何よ。そんなの関係ないじゃない。お見合いの話を誰から聞いたか知らないけど、この場合どうでもいいわ。大事なのは、あたしとなのはの気持だけ」
「……時間が経てば、人の気持ちなんて簡単に薄れる。アリサちゃんの気持ちだって、そのうち雪みたいに溶けてなくなる。幸せになれる」
「あたしはなのはしかいない」
「すずかちゃんがいる」
「あたしにはなのはしかいない!」
頬を思い切りつまんだかと思うと、左右にひどく引っ張られる。言葉を発することもままならず、痛みを訴える。それでも一向に弱まらない彼女の細い指の力と、彼女の頬にできた道筋にそれ以上の言葉を失う。
「なのはのいない世界で、幸せなんてつかめない」
身が焼き切れるほどの視線を向けられる。別れようとは適当に言った言葉ではなかった。だのに「前言を撤回して」という彼女の叫びに頷いてしまったその理由は、後になっても分らなかった。
後で聞いた話だけれど、すずかちゃんは私のことが好きだったらしい。そう、あの後こっそりと本人から聞いた。アリサちゃんが執事の鮫島さんに連れていかれた後のこと。
薄暗がりの中、庭の石垣に腰かけて、すずかちゃんが優しく微笑んだ。庭に咲く灯が淡く、少女の輪郭を映し出す。
「でもね、私はアリサちゃんとなのはちゃんが仲良くしているなら、ただ応援するだけだよ」
俯き加減の私の頬を、すずかちゃんはそっと包む。
「もちろん疲れたらいつでも寄りかかっていいし。なのはちゃんに対しての門戸はいつだって開放してるからね」
素敵な笑顔で言われて、ほんの僅かに心が揺れる。この二人に自分は何を返せているのか、不安になって――彼女を思い出す。アリサちゃんが先ほど自分に投げてくれた言葉。『なのはしかいない』と、つまりそういうことなのかもしれない。自分の存在そのものが、彼女に役立てているのなら。
「管理局を辞めて、海鳴に戻ればいいんだろうね」
私の小さな呟きに、すずかちゃんは小さく笑うだけでなにも答えはしなかった。わかっているのだ、それがただの呟きでしかないことを。
雪が降っていた。見上げればたんぽぽの綿毛のような雪が降っていた。この雪は積もらない。
次にこの町へ帰る時は、この雪が干乾びる位に後なのだろうと考えると、もう自分は石垣から立ち上がる気力すらなかった。
ただ、ふっと。頬に手を当てると、少し腫れた自らの肉の感触が掌に浮かぶ。明日になればもっと腫れ、熱をもつようになるかもしれない。でも痛いのはこの頬よりも自分の周りの人の方。自分の我侭で振り回され、縛られる彼女の心。いっそ行動に移してしまえばいいのに、自分ときたら出来もしない事を言うだけ。
「アリサちゃんって、優しいよね」
すずかちゃんが私の手の甲に触れる。
「だから痛いんだ」
だから寄りかかってしまう。
何故だろう、アリサちゃんには言えないことがこの少女には言えてしまう。はやてちゃんやヴィータちゃん、フェイトちゃんにさえ言えなかったのに、こんな言い訳じみた事。
「凄く、痛い」
「なのはちゃんはアリサちゃんが好きなんだよ、凄く」
そうかもしれない。そうなんだ、だけどだけどだけど。だけど、と反論が次々と沸いてくる。
――ならばどうして自分はこの町に残ろうとしないんだろう。
今進んでいる道は、大好きな人を悲しませてまで選ぶ道なんだろうか。
「なのははそれでいいの」
声のする方をみれば、白銀のショールを羽織って一人の少女が立っていた。アリサちゃんが歩いてくる。距離が近づいて、私の目の前で膝を折った。それから子供をあやすように彼女は私の手をとった。いつのまにか、すずかちゃんの手は私の手を離れていた。
「この手の魔法は、悲しみを撃ち抜く力。それを教えるために戦技教導官になったんでしょ。なら辞めるとか言っちゃ駄目なんだから」
「それじゃアリサちゃんが辛いばかりだから、私別れた方がいいって」
「それも嫌」
「アリサちゃん、我侭だよ」
「嫌いになった?」
「……まさか」
ああ、隣を見れば、微笑むすずかちゃんの姿があった。昔の、魔法と出会う以前の時間が戻ってきたみたいだ。
「何だか色々、考えるのが馬鹿らしくなってきちゃった」
「そうね、でも考えるのはなのはが優しいから」
みんな優しすぎるのよ、とはアリサちゃんの言葉。
……考えなくていいかもしれない、今はもう少し。この微睡みのような空間の中でしばらく漂っていたい。
赤く染まった目の畔は、見なかったことにして。
先に帰るね。そんなすずかちゃんの声で解散となったクリスマスパーティ。
私たちは手を繋ぐ。冷え切ったアリサちゃんの手を包む。胸に圧し掛かる贖罪を悟られないように力一杯手を握る。彼女の部屋に入り、意味のないやり取りをいくつか交わした後、無垢な表情を装って彼女に押し倒される。
「好きよ、なのは」
「……私も」
この気持は偽りなどでは決してないのに、どうしてこうも後ろめたいのか。私は今でもわからないままだった。
払いそこねた瞼の下の雪が、彼女に気付かれぬようこっそりと流した涙に溶けていった。
× あとがき ×
甘くするって言ったのにあまり甘くありませんでした。ごめんなさい。
なのティアのときも書いたけどごめんなさい。ある意味こっちの方が行き着く先でバッドのような気がしないでもない。
そろそろアリサにはお見合いの話がきていてもおかしくないと思うんだけど、それをこのなのはが聞いた時の気持ちはどれほどのものだったんだろう。アリサは断ったけど、断らない方が幸せだったのにって本気で思ってそうなところが、また。
アリサ難しいです。というかツンデレがね、書けないというかね。すみません。うう、頑張れ自分。
| ホーム |


アリサ×なのは

comments
アリなのが世に浸透したら、なのはのGLSSも幅広くなりますね。
安心できてよかったです。
アリなのはよいです!あのアリサとなのはの微妙な距離がすきです。なのヴィのように半ば縛られたものでなく、かといってなのティアのように歪なものでもない。あ、主観はいってますがw
純粋な関係でいてほしい二人です。
それとも…次なる道が解けゆくセカイから顔を出し…
その思いは解け合い混ざり合うのか。
その答えを見せるのは…仄かに解け行く雪の向こうに…
(顔をこたえと読み、答えを顔と読んでみて…そうすると、分かりましたか?)
ただ今から全部見ようと思っています(これより上のをね)
やっと仕事とお家の色んな事が終わりました。
こんな感じの愛も良いですね、次も頑張って下さい。
お疲れのところ読んでいただき、ありがとうございましたm(_ _)m嬉しいです!
返信遅くなってすみません。
詩的な表現は、好きです。
なんだか春を連想してしまいますね。
行き着く先は離別かもしれないし、またこのまま交り合ったまま進んでいくのかもしれない、ということ・・・かな?
うう、違ったらすみません。読解力はそれほどよくはなかったもんで。
post a comment