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2019-11

帰る家?そうね、空かしら

Christmas企画SSです。
ラストはヴィータ×なのは。
とうとうクリスマス関係ない話になってしまいました。
名残として「プレゼント」が残っているくらいで。ゴメンナサイ。
珍しくヴィータが病んでない。

読んでやるぜ、という方は、続きよりどうぞです。



 帰る家?そうね、空かしら


 不安になるきっかけなんてどこにでも転がっているものだと思う。
「なあ、なのはの好きなものってなんだ」
「たくさんあるけど、ぱっと思い付くのは、空かな」
「お前はその為にリハビリしていたんだもんな」
「うん。だって空を飛ぶことが、大好きだから」
「ああ。知ってるよ」
「うん。大好き。特に……ヴィータちゃんと一緒に空を飛ぶことが」
 それはありふれた日常の中で交わした些細な会話だったが、あたしはずっとなのはの言葉を覚えていた。空が好きななのはが、空を飛ぶ時に見せてくれる笑顔。それらを思い出していくと、本当になのはにとって空というものは大事なのだろうと思う。
 見上げればそこに蒼穹が広がっている。青く澄みきっているのは、どこの世界でも同じだ。なのはは、だからこそ好きなのかもしれない。変わらない空は、永遠ではないと知っているからこそ信じられるものである。自分を奮い上がらせてくれる。飛ぶことを考えて、力を振り絞ることができる。
 だがその空に手が届かなくなってしまったら?
 考えれば考えるだけ、夜ごと、不安が群をなして襲ってきた。


 ――つくづくあたしも往生際が悪いと思う。
 当日になってもプレゼントが決まらずにいる。渡すものは決まっているというのに、“それ”の種類はあまりにも多い。色や形、表情まで多種多様を極めてもいる。だというのに、今となってはどれも同じように見えるから困る。
 甘く見ていたのかもしれない。大好きなものだから大丈夫だと高を括っていたのかもしれない。
 三年目まではよかった。四年目から苦しくなった。さて、六年目の今はこの通り。
 どいつもこいつも、こちらを見ているような気がする。ただの虚構だというのに、何時間も睨んでいるせいか、その感じはどうしても拭い切れない。そうすると不思議なことに、みんな同じに見えてくる。
 と、その大勢から離れた一体に目が止まった。黒く円らな瞳が空白を見つめている。あたしを見ているようで、どこも見ていないような。曖昧だがまっすぐな目線。その何故だか惹かれる耳の垂れたうさぎは、ぽつんと外れに座っていた。あたしは思わず手を伸ばしかけて、だがすぐに引いてしまった。そのうさぎのぬいぐるみは紛れもない拒絶を示している。意味不明な気まずさもあって、あたしは仕方なく他の台へと移った。
 しかし目ぼしいものは見つからない。どうすればいいのか考えあぐねたあたしは、ついに項垂れてしまう。
「面倒だな」
 口に出してみれば頭にかかる重量が軽減になるかと考えたが、今までよりも重くなってしまったような気がした。いっそやめてしまえば楽なのだろうな、と思う。
「なんでこんなもの考えたんだ、あいつは。……いや」
 手前のぬいぐるみを手にとった。破ってしまいそうな、暴力的な思いに捉われる――だけど。
「そうだな、決めたのは、あたしだったか」
 商品台の上に群がるうさぎのぬいぐるみの前で、あたしは大きく溜息をついた。
 ――それは数年前。今考えれば酷く馬鹿らしい約束をした日のこと。
「大丈夫か?」
 その日、病院を出ると、あたしは自分よりも若干背の高いなのはを見上げながら問いかけた。大丈夫だと医師に太鼓判を押されたというのに、無茶するなのはがまた倒れてしまわないか心配だった。それは言葉では拭えない淀みだった。
「にゃはは、大丈夫だよ」
「お前は無理するからな、信用できないんだよ」
「ううん、でも本当に大丈夫だから」
「……ああ。だけどよかったな、終わって。また空飛べるようになってさ」
「うんと、あのねヴィータちゃん。私考えたんだけど、今日を記念日にしようか」
「は?」
「ほら、入院中にうさぎのぬいぐるみをくれたでしょ? あれ凄く嬉しかったんだよ。だから今度は私がヴィータちゃんにうさぎをプレゼントしようと思ってね」
「あのな、なのは」
「感謝してるの。皆にもだけど、任務があって忙しい中でも出来るだけ病院についてきてくれるヴィータちゃんに、私は感謝してる」
「そうかよ」
「そう、だから、ね。了承してほしいな」
 なのはが笑う。
 この笑顔が作りものだと識った日から、あたしはなのはに逆らえない。自分の前では出来る限り本物の笑顔をさせてやりたいと思った日のこと。
 仕方ないな、とあたしはなのはの頭を撫でてやる。うにゃ、となのはがくすぐったそうに片目を閉じた。なのはが年齢よりも幼く見える表情のひとつである。いつもは自分が撫でられているから、その表情は新鮮で。
 あたしは深く息を吐いてみせた。
「じゃあこうするか。あたしもお前にうさぎをプレゼントしてやる。それで交換し合うんだ」
「毎年?」
「そう、毎年だ」
「でも、それじゃヴィータちゃんに」
「素直に受けとけよ。でないとあたしも受け取らねーぞ」
「ヴィータちゃん……、ありがとう」
 それは、なのはがリハビリを終えた日。
 目の淵にいっぱいの涙を溜めたなのはの手を引きながら、夕間暮れの道を歩いた日。

 今、あたしは夕暮れの道を歩いている。毎年会うことに決めていた場所に向かって歩いている。時間はあと一時間程で、ここからだとかなり時間の余裕を持って到着できるだろう。こんなにも早く向かっているのは、手ぶらでいることのやましさからか。
 結局あたしは何も買わずに店を出てしまった。日が落ちるまでにはまだ時間があるというのに、今日はやけに空が暗かった。もしかしたら雨が降りだすかもしれない。そうだ、だから待たせたら悪いと、そう思っているからなんだ。風邪を引いたら大変だから――。
 胸がずきりとした。足が重い。だというのに、歩幅はいつもより大きく、速い。そして目的の場所の目印が見えた。
 と、あたしはつい腕にはめた時計を見た。今自分の目にしているものが信じられなかったのだ。しかし時計は正確に時を刻んでいるし、目の前の光景は決して幻覚などではない。
 秒針がゆっくりと回っている。長針は辿り着くべき場所まであと六つの文字を超えなければいけない位置でもたついていて、これ以上になくゆっくりとした時間が流れていた。流れが止まっているとさえ感じる。まだ待ち合わせの時間まで三十分はあるというのに、目線の先には、ベンチに腰かける一人の女性の姿があった。
 ――なのはがいる。
 陽が急速に陰っていく。雨雲が頭上を覆い尽くしていく。なのはは本を読んでいる。
 あたしはなぜこんなに驚いているのだろう。別に三十分早く来たくらいで、どうして取り乱さなければいけないのか。
 多分それは、なのはの座るベンチの上に、可愛らしい絵柄の袋があったから。
 うさぎのぬいぐるみ。
 疑うことなんてしない、今更違うかもなんて考えない。それはとても失礼なことなのだ。
 なのはは用意してくれていた。毎年のように、今日を記念日としてあたしの好きなうさぎをプレゼントしてくれようとしている。あたしの方は用意していないのに、なのはは律儀にあたしのした些細なことに感謝をし、未だ約束を守ってくれている。
 雨粒が鼻頭を弾き、次の瞬間には別の雨粒が頬を伝った。
「何やってんだよ」
 声が届かない距離のまま、あたしはきつく奥歯を噛み締める。
 大降りなっていく雨にも関わらず、なのはは帰ろうとしない。本を仕舞うとそのままベンチの背に凭れた。傘を持っていないのだ、あいつは。
「馬鹿だよ、お前」
 あたしは踵を返し、背を向けて駆けだしていた。
 今から間に合うかどうかはわからない、だけれどもなのははきっと待ってくれる。雨足が強くなっても、例えば雪が降っても、ずっと待っていてくれる。その自信があった。……だからその自信に寄りかからせてもらう。
 今日だけだ。そして明日からはなのはが力を抜いて寄りかかってくれるような“人間”であるために。
 数年の間に見失った大事なものを取り戻すため、あたしは商店街に向けて走った。

 道中あちこちにできた水溜りを踏んで、飛沫が足元に掛かっても、かまわずに走る。はやてに買ってもらった靴下が濡れたけど、後で洗えばいい。
 あいつが待っていてくれるという自惚れはあったけれど、やはり気持ちは急く。いくら丈夫な体をしているといっても、なのはは人間だ。長い間雨に打たれていれば風邪も引くだろう。だが店は遠かった。
 どのぬいぐるみを選ぶかが問題ではなかったのだ。きちんと自分が選んで、それをなのはのものと交換しあって、という行為が大事だったのだ。何でもいいとまでは言わない。だが自分が一生懸命選んだものなら、きっとなのはは笑顔で受け取ってくれるに違いない。その笑顔を見ることが、何よりも大切なのだ。その笑顔を見て、自分も笑顔になって。笑い合うことこそが大事だったのだ、と今更思う。
 どうして忘れていたのだろう。最初の頃、約束を取り決めた時の気持ちを、どうして忘れてしまっていたのだろう。あたしはもう少しで、なのはの信頼を裏切るところだったのだ。なのはの笑顔に影を差してしまうところだった。
 びしょ濡れになりながら、ようやく先ほどの何時間も唸っていた店の前へ到着する。迷惑にならないよう、なるべく短時間で済まさなければならない。いや、店に入った時点で迷惑を被っているかもしれないが、購入することで目を瞑ってもらおう。悪いな。
 向かう台は決まっていた。あの耳の垂れた黒い目のうさぎだ。濡れた手を朝はやてに持たされたハンカチで軽く吹き、レジに持っていく。心配そうな店員の顔に構わず、お金を払い、濡れないような袋に入れてもらった商品を受け取ると、すぐに駆けだす。
 なのは。
 待っていてくれるだろうか。なるべく早く走っているつもりなんだ。
 なのは。
 ごめんな、風邪引いたらあたしのせいだよな。
 ――なのは。
 辿り着いたその場所に、変わらずなのはは居て。
 ずぶ濡れの頭を上げた。唇は変色しかけていて、あたしは何も告げることが出来ない。
 濡れて重そうな髪のことなど忘れているかのように、なのはは笑った。
「にゃは、忘れているのかと思っちゃった」
 嘘だ。その顔は信じ切った顔。こんなやつのことを信じてくれて、ずっと待っていてくれたんだ。きっと寒いのに、文句ひとつ言うことなく自分を見上げている。
「それうさぎだよね、袋がおんなじだ。もしかして同じ店だったりする――」
「もういい」
 喉を通る言葉を結局探せずに、あたしは綺麗な笑顔を浮かべたままのなのはを抱き締めた。なのはの小さな頭を胸に抱えてしまう。
 苦しいよ、なんて声は聞いてやらない。涙声になっているのも、嗚咽が胸から聞こえてくるのにも気づいてやらない。なのはの腕が腰に回される。お互いの体に隙間ができないほどくっつく。二人の間を隔てるものなど今必要ではない。
「ごめんな」
「……っ、そうだよ。私、本当はずっと不安で、来てくれないかもって、思ってて」
「ごめん」
「ヴィータちゃん、遅いよお……っ」
 約束の時間より二時間が過ぎていた。
 今までなのはとの約束に一度も遅刻したことがないという事実が、なのはに余計の精神的苦痛を負わせてしまったのだ。
 なのはの好きな空は、今では暗闇を運ぶものでしかなくなっている。見上げても鬱屈としたものしか得られない空に、何一つ求められず、なのはは一人でここに座っていた。髪から雨粒が滴り落ちていく。顎を冷たい雫が伝っては落ちる。幾筋も幾筋も伝っていった。それでもなのはは待ってくれていた。
 抱き締める腕に力がこもる。
「……なのは」
「でもヴィータちゃんがここにいてくれるから」
 震える声。しゃくり上げながら言葉を続けるなのはは。
「今、ここにいてくれるなら。それだけで私は幸せだよ」
 空が暗くて、帰る場所が見つからなくても、私は幸せなんだ、と。そう笑って言った。
 雨は相変わらず降り続けて、あたしやなのはの肩を容赦なく冷やしていく。このままでいれば風邪をひいてしまうと分かっていた。だけれどもあたしは腕の力を緩めることが出来ない。なのはの声は弱々しく、放してしまえばそのまま見失ってしまいそうで。これが忠信を極めた騎士なら、このお姫様を抱え上げて雨の凌げる場所にいくのかもしれない。
 どこまでも騎士になりきれない自分は、ふとすれば崩れそうになるけれど、腰に回された腕がそれを支えてくれる。なのはがあたしを支えてくれる。
「なんだか私たち、息がぴったりだね」
 それから随分と時間が経った。差し出しあった意志の強そうなうさぎのぬいぐるみが、二人して同じものを選んでいたと知り、思わず苦笑しあう。生まれる穏やかな談笑は冷えた胸に心地良い。
 その日、部屋に並ぶうさぎのぬいぐるみがまた一つ増えた。




× あとがき ×
ヴィータの好感度が最初からMAX。でれでれ状態。
とまあこの話はそんな雰囲気ではないわけだけど。
ヴィータはなのはの騎士になろうとして、なりたくて足掻くけど、どこかなりきれない自分が歯がゆくてしかたがない。なのはは自分のことをすきでいてくれるけど、でもいつか近いあの金色の髪をした人に奪われてしまいそうで。
そんな気持ちも、慣れてしまえば次第に薄れていく。完全な騎士になれなくても、なのはは好きでいてくれるし、いいかって思うようになる。なのはが傷つかなければそれでいいと思って、実は自分が一番傷つけていることって結構あるのではないかと思う。そして今回のこと。
なんか。どうにもなのはとヴィータには、思わず幸せになって欲しいと思わせるものがある。
どうでもいい話ですが、なのはが読んでいた本は魔導書です。なのはは決してヴィータに気付かせはしないけど。

● COMMENT FORM ●

もう時間で読めないけれど…一番は貰いましたわ!!!
ごめんなさい、皆様。

>月夜さん
無理矢理コメントするのはどうかと思ってしまいます。
コメント時間がある時、読んでからのほうが嬉しいです。我が侭をすみません。

ですよね、ごめんなさい。
時間が一日に沢山あれば良いですのにね。

二人の間を隔てるものなど今必要ではない。 の文章でホロリと来ましたよ♪
今回のヴィータちゃんは、悩んで、努力して、忘れかけた気持ちを思い出す。
その思いの流れがとても綺麗でした。
次も頑張って下さいね☆

>月夜さん
気付けばクリスマスSSでヴィータは他のカプにくらべて幸せになっている件。ただ普段のSSで病んだり壊れたりしてるので、帳消しかなとか。
ヴィータとなのはは幸せにしたくなります。
なのはとフェイトみたいならぶらぶってやつではなく、一歩ずつ進んでいって、たまに道を間違うけど、それでもお互いの所に辿り着くという関係が理想(何
ありがとうございます、がんまります!


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