その境界線は。
高町なのはを全力全開で愛していく。そんな小説を書いてます。
あなたを想って流した涙は 2007/09/17
なのははフェイトが好き。
フェイトはそれを押しつぶすくらいなのはが好き好き大好き愛してる。なのはを自分のものに、あるいは自分がなのはのものになるためならなんだってする。
それが自分のなかのフェイト像。なんだけど。
だからこのフェイトは自分の中のフェイトではありえない。
ありえないからこそ書いてみたくなるのが自分です。
フェイトの浮気を発端になのはが――。
途中の「SIDE : VITA」というあたりからは、なのは←ヴィータになりますので、苦手な方はそれ以前でストップをお願いします。
あなたを想って流した涙は
「もういいや、好きにしていいよ」
唇の端からこぼれ落ちる言葉が、自身の全てを代返してくれる。
あとは吐き出される言葉に任せればいい。
「どうでも良くなっちゃったんだ、フェイトちゃんのこと」
きっと悲しんでなんていない。重荷が減った、くらいにしか考えていないのだろう。
それとも今更嘆いてくれているのだろうか。そんなはずはなかった。もしそうなら私の胸はこんなに悲鳴を上げたりはしなかった。
そう、ならばこれは自業自得。そうだよね、フェイトちゃん。
◇
時を刻む針の音がうるさくて寝返りを打った。時間を確認すれば、まだ一時間も経っていない。
ごろりとうつ伏せになってみても、横向きに寝てみても、広すぎるベッドの上で自分が触れられるものは何もない。ほぼ毎日のこととはいえ、滲み出る寂寥感はどうしても拭う事ができなかった。
枕が濡れる、という時期は既に過ぎていた。
数時間前に送られてきた念話の相手は今の時間ならば隣にいるはずの人である。が、同時に、隣にいないはずの人でもあった。
聞き慣れた一方的な言葉にまたかと思いながら、何か言葉を返そうとしてできない。どうしても、喉の真ん中の部分で蓋をされ押し込められてしまう。
自身を守るための処世術、なのだろうと思う。下手に言い返して反撃をもらったときに、これ以上自分が傷つかないために編み出した防御策だった。
「今日は仕事が残っちゃって、急ぎだし終わらせなきゃならない。だから帰れそうにないよ」
――今日も?
「ごめんね、でも、なのはなら一人でいい子にしていられるよね」
――そうさせたのは誰?
「っと。そろそろ作業に戻らなきゃ。それじゃあおやすみ」
――でも今日は誰がその後ろにいるの?
言葉にしたら終わってしまう言葉は、内に溜め込むだけ溜め込んで、溢れそうになったら物理的に涙を流してしまって。空っぽになった心が言う。
「おやすみ」
他に自分が口にしていい言葉などなかった。
学校へ行っていた頃と比べ、卒業してからというもの同じ管理局局員でありながら、執務官と教導官という役職では一日に一度すれ違うことすら滅多にあることではない。意識して会う約束を取り決めておかなければ、顔を見ることも声を聞くこともできない。
覚悟はしていたが、いざ実際になってみるのとでは段違いの現実があった。
それでも会えば柔らかく名前を呼んでくれたし、自分だけに笑いかけてくれたから、それで十分だった。
もちろん言いたい我侭は沢山あったけれど、押し込める術はもう幼い頃父が入院した頃につけている。
だから、フェイトちゃんがあまり部屋に帰ってこなくなっても我慢できた。
それはひとえに、我慢しないとそれ以上の苦痛が訪れる、とこの頭が理解しすぎてしまったせいだった。
同じ部屋になって、ようやく一緒に過ごせる時間を持てると知り狂喜した。表に出すことはしなかったが、はやてちゃんが一緒の部屋をあてがってくれたことを知ると、思わず飛びついてしまったくらいには喜んだ。
一緒の部屋、一緒のお風呂、一緒のベッド。
想像するだけで心が躍って仕方がない。
フェイトちゃんも少しは喜んでくれるかな、とも想像して、また嬉しくなった。
機動六課を設立し、待ちに待った生活がやってきた。初めは想像していたとおりの生活がおとずれた。
仕事から帰ったフェイトちゃんを向かえて、新人達やこれからについて少し話し合って、お互いの一日を聞いて微笑み合って。その後は小さい頃のようにお風呂で戯れて、夜は向かい合って眠った。
多忙の中ではあったけど、確かな幸せがそこにあった。
だけれども本当に幸せな時間は、僅かしかないもので。
この幸せもそうだった。少しずつ、少しずつその幸せは泥の中に沈んでいった。
沈めたのは他でもない、フェイトちゃんだった。
今日の相手は誰だろう。
念話から擬似的に聞こえてくる声の裏側で思考する。
シグナムさん?ギンガ?それともまた別の人?
いくつかの夜を越え、溢すしかなかった涙の染みこんだ枕が乾いた頃。
もう自分の目が涙を流すことはなかった。
ああ今日も夜が来て。またフェイトちゃんの声を遠くに聞くのかな。
そんな自分の想像を全く裏切らずに今日もフェイトちゃんは私に呼びかける。
「なのは……、起きてるかな」
「うん」
薄暗い部屋に広すぎるベッドがぽつりと存在している。その上で、仰向けになった私がぼんやりと答えた。
またか、と思った。だからいつものように対応して。念話を閉じる。
いつものよう布団をかぶって、いつものように無為な一人の夜を過ごすのだ。
だが直後に聞こえた声で、意識が途端に引き摺りだされた。
脳に叩き込まれるような声。実際には違う、通常となんら変わらぬものだと知っていてもそう感じてしまう、今一番聞きたくない声だった。
「夜分遅くにすまない。どうしても伝えねばならない事があってな」
「ちょっ、シグナムっ」
それから割り込んできた声も、そんな不快感を増長させた。
「おまえに言ったことは全て嘘だ。テスタロッサは今私の部屋にいる。……無論、その理由はわかるだろう」
その瞬間、全てが裏切られたような気がした。
――考えるだけよりも実際に目にしたほうが辛いものだ、と。そんな当たり前のことを言葉を誰かが遠くで呟いた。
何を考えていいのか、どう自分は反応すればいいのか。
どうして自分はまだ呼吸ができているのか。
色んなものが曖昧となっていく中で、いつもとは違う細いフェイトちゃんの声が聞こえて。
全てがどうでもよくなった。
「もういいや、好きにしていいよ」
「なの、……は?」
「疲れちゃった。もうどうでも良くなっちゃったよ、フェイトちゃんのこと」
「なのは……っ」
「バイバイ、フェイトちゃん」
だって他にどうすれれば良かったのか。どうすれば今までと何も変わらず穏かにいられたのか。
もう分からなかった。
◇
寝間着のままふらりと廊下に出ると、冷えた空気に包まれた。空調が効いて忘れていたが、今は冬。この格好では寒くて当たり前だった。
部屋に戻ろうとして、ふと足を止める。
――まあ、いいか。
全部。そう。全部『まあ、いいか』な気分だった。
そのまま廊下を歩いていると、幼馴染の顔を見つけた。同時にもう一人の幼馴染も思い出してしまったが、今は心の底においやる。
私ははやてちゃんを前に慌てて笑顔を取り繕った。
「あれなのはちゃん、どないしたんこんな時間に」
「うん、ちょっと散歩」
「服ぐらい着替えんと。風邪引くでー」
「あは、そうだね」
「そうだねって、ほんまに気をつけんとあかんよ……なんか顔色悪いけど、大丈夫なん?」
「うん。ねえ、それよりも」
唇が走る。何よりも忠実に私の想いを代返してくれる。
だからあとは、吐き出される言葉に身を任せればよかった。同じように。
「ヴィータちゃんどこにいるか知らない?」
近づいて耳元に囁かれれば、応えない人はいないと思っていたわけではない。なんとなくこうすれば、はやてちゃんは教えてくれるのだと。なんとなく感じて、実際にそうなって。
扉を開ければ驚いた顔の少女。
赤く束ねていた髪を今は解かれていて。私を誘う。
この人なら、――いや、この人でも。今夜訪れる一人の時間を埋めることが出来るのだと。
計算ずくの笑顔で、その少女を揺さぶり、落とす。そうしてとも簡単に崩落したその少女の名前は、私にとってどうでもよかった。
彼女は高町なのはの不完全な部分を埋めるための生贄に、まず最初になっただけだった。
――ねえフェイトちゃん。私にだってその気になれば相手なんて、幾らでもいるんだよ。それでも私はフェイトちゃん一筋で。フェイトちゃんしか要らなかった。それなのにどうしてかな、どうしてフェイトちゃんはいつも私のところに帰ってきてくれなかったのかな。
今更ながら、体内の奥底に忘れ去られた涙が表に出てくる。押し込めようとすればするほど、瞳の表面を覆い、ついには頬を伝いはじめる。
ただ一つ。今までと違ったのは、その涙を拭うのが自分の手ではなく、傍にいてくれる人だということ。
ヴィータちゃんは普段からは想像もつかないくらいに優しく、壊れ物に触れるように涙を払ってくれる。それだけで、救われた気分になる。
こうして、フェイトちゃん以外の人を抱き締めていてもいいのだと。思ってしまう。
久々に感じた人肌というものは離しがたく、闇の隙間から差し込む月明かりに照らされながら、私はしばらくの間そうしていた。
◇ ◇ ◇
SIDE : VITA
――私、空を飛ぶのって好きなんだ。
誰をも魅了してしまう笑顔を咲かせながら楽しそうに呟いた以前の彼女を、通り抜けざまにガジェットを撃破してしまうその人に重ねる。かつてヴィータが悪魔と呼んだ少女は女性となって、凛々しい姿で飛翔している。
少女と彼女を重ねようとする。だけど、それが重なることはなかった。
――だから、また空を飛べるって分かった時、凄く嬉しかった。
不意に耳を掠める声。いつの間に離れてしまったのか、遠く彼方からなのはがヴィータの名前を呼んでいた。
色に深刻そうな様子は見えず、何かがあったわけでもないだろう。がしかし、声を聞いてしまっては顔が見たくなる。重症なのかもしれないな、と自分で呆れつつもヴィータは彼女との距離を詰めた。
その間にもあちこちで見え聞こえる斬撃と後に起る爆発音。次々と落されていく残骸を見るに、なのはによるものに違いなかった。
「どうした、なのは」
正面に大きく彼女の姿が映るまでに近寄ると、硝煙の中から現れた。多数のアクセルシューターを操りながら敵機を落していくその様は、エースオブエースの名に決して恥じることはないだろう。
なのはの蒼穹の瞳と、ヴィータの群青の瞳が交差する。
ただの戦闘のパートナーだけでなくなってしまった今となっては、それだけで心臓が早鐘を打った。自らのそれを諫めながら、ヴィータは戦場の女神を前にしてそれ以上進むこともなく立ち止まった。もっとも空であるから、立つという表現は相応しくないのだろうが。
爆発音も止み、まったく音がない世界は妙な違和感を感じさせる。
なのはが傷一つない防護服のまま、ただ、帰ろうか、と呟いたことで世界が動いた。既に背を向けた彼女を追うように、ヴィータは慌てて通信を開き、ガジェットその他の撃墜を伝えた。
帰還命令が下りるとすぐに姿の消えかけているなのはを追った。
なんとか追いついて横に並ぶも、声を掛けようとして言葉を失う。覗き込んだなのはの顔には表情がなかった。薄く、本当に薄く浮かべられた笑みなど、表情と呼ぶには足りないだろう。
ヴィータは吹っ切るように頭を振って、なのはの腕を引いた。彼女は表情を崩すことなく、こちらを振り向く。
「帰ったらさ、どこかいって気晴らしでもするか」
「無理。スケジュールいっぱいだし」
即座の却下にもヴィータが怯むことはない。予想されてはいたことなのだ。胸が痛んだのは今更気にすることでもない。
「大丈夫だって。なのはの頼みなら聞いてくれるよ」
「駄目だよ。迷惑かけられない」
「んなこと言ってるとまた前みたいに……!っ、……悪い」
いつの間に血が上ってしまったのか、気付いた時には遅く、口にしてはならない言葉が漏れていた。可笑しなほどの静寂が自身を追い詰めていく。
なのはは何も言わない。笑うことも、悲しむこともしない。ただ寂しげに「優しいね」と呟いた。
局に着くと、なのはは何でもなかったように笑顔を浮かべた。張り付かせたそれは不自然でもなんでもなく、そこにあるのがさも当然のようにある。先ほどの背筋が凍るような表情を、あるいは部屋に一人きり残された子供のような表情を見ていなければ、本物のものと思ってしまうほど。その笑顔は本物以上の偽物であった。
「ヴィータちゃんは、優しいね」
なのはは再び口にした。
「ありがとう、心配してくれて。……大好き」
「な、なの――」
――は。なのは。なのはなのは。
名前は吐き出される寸前、虚空に閉じ込められた。背中に強く回された腕に呼吸が苦しくなり、頭は柔らかな胸に抱え込まれ、彼女特有の優しい香りが鼻腔をついた。
だが息が出来ないのは、なにも顔を胸に押し付けられた所為だけではなかった。
ひとたび身体が話されたかと思うと、すぐにまた距離を詰められた。
「ぁ……う、……んぅぅっ」
息が苦しい。喘ごうとして唇を開くと、そこへ入ってくるものがある。それが何か考える余裕をなのはは与えない。口腔を蠢く軟体動物に目をひたすらにきつく閉じ、たまらずこぼれてくる涙は生理的なもので。
苦しい。
だけど何が苦しいのか。ヴィータには分からない。
ただ苦しかったけれど、それだけでないのも事実だった。
散々に歯列をなぞり、行き場をなくした舌はなのはのそれに捕らえられて。
……いくらかの時間がたった。舌がようやく解放され、行為の終わりを感じるのと同時に流れ込んでくる唾液。唾液と一緒に流れ込んでくる、嬉しいという感情。おぼろげなものであったが、こくりと嚥下すれば、それはヴィータの中で確実なものとなった。
おそらく抗おうと思えばできたのだろう。いくなのはが強いといっても、接近戦ではヴィータに分があった。だがそういう問題ではない。なのはにする抵抗などヴィータにあるはずもなかったのだから。
「すごく可愛いよ、ヴィータちゃん」
「なのは……」
悪魔に一方的に魅せらたのはヴィータ。
その愛しい人を見詰めながら、名前を呼んだ。その蒼く澄んだ瞳に自分が映ることは決してないと、知っていて。だからただ心の中で一人ごちる。
なのはは残酷だ、と。
一人になって、ヴィータはフェイトについて思った。
空を飛ぶのが好きなあの人を、撃墜させたのは、おそらくフェイトに違いないだろうと、ある種の確信を持って考えていた。
あの人にあんな悲しい顔をさせるフェイトに激しい憤りを感じる。
――なのははもう落させねえ。絶対に、救ってやるんだ。
ただの道化師でしかありえなくても、その想いを心に硬く刻み込まずにはいられなかった。この胸になのはがいてくれるかぎり、いや、離れていったとしてもその思いはもう揺らがない。
守りたい、守ってやる、守らせて欲しい。だからいつか、自分だけの笑顔が欲しい――。
小さな胸に青き炎を宿らせて、ヴィータは隣に眠るなのはの寝顔を見詰めていた。
× あとがき ×
ここで一応の話はおわりです。
自分の中では続きがあったりなかったり。
ここで終わるのが綺麗かなって思ってやめたんですが。いやもう後に残るのはひたすらどろどろとした人間関係でしかなく。((はやても微妙にフラグが立てちゃったからヴィータ支援もできないしむしろ第三勢力。
忘れ去られた頃に続きが書かれるかもしれませんが。
ちなみにフェイトの浮気の理由は考えてあります。が、ここでいっちゃうとあまりにも、フェイトさんが不憫というかアレなので。想像してみてくれると嬉しいです。
そしてどうして自分はフェイト×なのはを書こうとしたらなのヴィになっちゃうのでしょう。ああ、きっとなのヴィが大好きなんだ。プロットの段階で既にヴィータが好戦的だもんなあ。これはきっと21話の所為です!というか実際21話でなのヴィ大好きになりました。
フェイトはそれを押しつぶすくらいなのはが好き好き大好き愛してる。なのはを自分のものに、あるいは自分がなのはのものになるためならなんだってする。
それが自分のなかのフェイト像。なんだけど。
だからこのフェイトは自分の中のフェイトではありえない。
ありえないからこそ書いてみたくなるのが自分です。
フェイトの浮気を発端になのはが――。
途中の「SIDE : VITA」というあたりからは、なのは←ヴィータになりますので、苦手な方はそれ以前でストップをお願いします。
あなたを想って流した涙は
「もういいや、好きにしていいよ」
唇の端からこぼれ落ちる言葉が、自身の全てを代返してくれる。
あとは吐き出される言葉に任せればいい。
「どうでも良くなっちゃったんだ、フェイトちゃんのこと」
きっと悲しんでなんていない。重荷が減った、くらいにしか考えていないのだろう。
それとも今更嘆いてくれているのだろうか。そんなはずはなかった。もしそうなら私の胸はこんなに悲鳴を上げたりはしなかった。
そう、ならばこれは自業自得。そうだよね、フェイトちゃん。
◇
時を刻む針の音がうるさくて寝返りを打った。時間を確認すれば、まだ一時間も経っていない。
ごろりとうつ伏せになってみても、横向きに寝てみても、広すぎるベッドの上で自分が触れられるものは何もない。ほぼ毎日のこととはいえ、滲み出る寂寥感はどうしても拭う事ができなかった。
枕が濡れる、という時期は既に過ぎていた。
数時間前に送られてきた念話の相手は今の時間ならば隣にいるはずの人である。が、同時に、隣にいないはずの人でもあった。
聞き慣れた一方的な言葉にまたかと思いながら、何か言葉を返そうとしてできない。どうしても、喉の真ん中の部分で蓋をされ押し込められてしまう。
自身を守るための処世術、なのだろうと思う。下手に言い返して反撃をもらったときに、これ以上自分が傷つかないために編み出した防御策だった。
「今日は仕事が残っちゃって、急ぎだし終わらせなきゃならない。だから帰れそうにないよ」
――今日も?
「ごめんね、でも、なのはなら一人でいい子にしていられるよね」
――そうさせたのは誰?
「っと。そろそろ作業に戻らなきゃ。それじゃあおやすみ」
――でも今日は誰がその後ろにいるの?
言葉にしたら終わってしまう言葉は、内に溜め込むだけ溜め込んで、溢れそうになったら物理的に涙を流してしまって。空っぽになった心が言う。
「おやすみ」
他に自分が口にしていい言葉などなかった。
学校へ行っていた頃と比べ、卒業してからというもの同じ管理局局員でありながら、執務官と教導官という役職では一日に一度すれ違うことすら滅多にあることではない。意識して会う約束を取り決めておかなければ、顔を見ることも声を聞くこともできない。
覚悟はしていたが、いざ実際になってみるのとでは段違いの現実があった。
それでも会えば柔らかく名前を呼んでくれたし、自分だけに笑いかけてくれたから、それで十分だった。
もちろん言いたい我侭は沢山あったけれど、押し込める術はもう幼い頃父が入院した頃につけている。
だから、フェイトちゃんがあまり部屋に帰ってこなくなっても我慢できた。
それはひとえに、我慢しないとそれ以上の苦痛が訪れる、とこの頭が理解しすぎてしまったせいだった。
同じ部屋になって、ようやく一緒に過ごせる時間を持てると知り狂喜した。表に出すことはしなかったが、はやてちゃんが一緒の部屋をあてがってくれたことを知ると、思わず飛びついてしまったくらいには喜んだ。
一緒の部屋、一緒のお風呂、一緒のベッド。
想像するだけで心が躍って仕方がない。
フェイトちゃんも少しは喜んでくれるかな、とも想像して、また嬉しくなった。
機動六課を設立し、待ちに待った生活がやってきた。初めは想像していたとおりの生活がおとずれた。
仕事から帰ったフェイトちゃんを向かえて、新人達やこれからについて少し話し合って、お互いの一日を聞いて微笑み合って。その後は小さい頃のようにお風呂で戯れて、夜は向かい合って眠った。
多忙の中ではあったけど、確かな幸せがそこにあった。
だけれども本当に幸せな時間は、僅かしかないもので。
この幸せもそうだった。少しずつ、少しずつその幸せは泥の中に沈んでいった。
沈めたのは他でもない、フェイトちゃんだった。
今日の相手は誰だろう。
念話から擬似的に聞こえてくる声の裏側で思考する。
シグナムさん?ギンガ?それともまた別の人?
いくつかの夜を越え、溢すしかなかった涙の染みこんだ枕が乾いた頃。
もう自分の目が涙を流すことはなかった。
ああ今日も夜が来て。またフェイトちゃんの声を遠くに聞くのかな。
そんな自分の想像を全く裏切らずに今日もフェイトちゃんは私に呼びかける。
「なのは……、起きてるかな」
「うん」
薄暗い部屋に広すぎるベッドがぽつりと存在している。その上で、仰向けになった私がぼんやりと答えた。
またか、と思った。だからいつものように対応して。念話を閉じる。
いつものよう布団をかぶって、いつものように無為な一人の夜を過ごすのだ。
だが直後に聞こえた声で、意識が途端に引き摺りだされた。
脳に叩き込まれるような声。実際には違う、通常となんら変わらぬものだと知っていてもそう感じてしまう、今一番聞きたくない声だった。
「夜分遅くにすまない。どうしても伝えねばならない事があってな」
「ちょっ、シグナムっ」
それから割り込んできた声も、そんな不快感を増長させた。
「おまえに言ったことは全て嘘だ。テスタロッサは今私の部屋にいる。……無論、その理由はわかるだろう」
その瞬間、全てが裏切られたような気がした。
――考えるだけよりも実際に目にしたほうが辛いものだ、と。そんな当たり前のことを言葉を誰かが遠くで呟いた。
何を考えていいのか、どう自分は反応すればいいのか。
どうして自分はまだ呼吸ができているのか。
色んなものが曖昧となっていく中で、いつもとは違う細いフェイトちゃんの声が聞こえて。
全てがどうでもよくなった。
「もういいや、好きにしていいよ」
「なの、……は?」
「疲れちゃった。もうどうでも良くなっちゃったよ、フェイトちゃんのこと」
「なのは……っ」
「バイバイ、フェイトちゃん」
だって他にどうすれれば良かったのか。どうすれば今までと何も変わらず穏かにいられたのか。
もう分からなかった。
◇
寝間着のままふらりと廊下に出ると、冷えた空気に包まれた。空調が効いて忘れていたが、今は冬。この格好では寒くて当たり前だった。
部屋に戻ろうとして、ふと足を止める。
――まあ、いいか。
全部。そう。全部『まあ、いいか』な気分だった。
そのまま廊下を歩いていると、幼馴染の顔を見つけた。同時にもう一人の幼馴染も思い出してしまったが、今は心の底においやる。
私ははやてちゃんを前に慌てて笑顔を取り繕った。
「あれなのはちゃん、どないしたんこんな時間に」
「うん、ちょっと散歩」
「服ぐらい着替えんと。風邪引くでー」
「あは、そうだね」
「そうだねって、ほんまに気をつけんとあかんよ……なんか顔色悪いけど、大丈夫なん?」
「うん。ねえ、それよりも」
唇が走る。何よりも忠実に私の想いを代返してくれる。
だからあとは、吐き出される言葉に身を任せればよかった。同じように。
「ヴィータちゃんどこにいるか知らない?」
近づいて耳元に囁かれれば、応えない人はいないと思っていたわけではない。なんとなくこうすれば、はやてちゃんは教えてくれるのだと。なんとなく感じて、実際にそうなって。
扉を開ければ驚いた顔の少女。
赤く束ねていた髪を今は解かれていて。私を誘う。
この人なら、――いや、この人でも。今夜訪れる一人の時間を埋めることが出来るのだと。
計算ずくの笑顔で、その少女を揺さぶり、落とす。そうしてとも簡単に崩落したその少女の名前は、私にとってどうでもよかった。
彼女は高町なのはの不完全な部分を埋めるための生贄に、まず最初になっただけだった。
――ねえフェイトちゃん。私にだってその気になれば相手なんて、幾らでもいるんだよ。それでも私はフェイトちゃん一筋で。フェイトちゃんしか要らなかった。それなのにどうしてかな、どうしてフェイトちゃんはいつも私のところに帰ってきてくれなかったのかな。
今更ながら、体内の奥底に忘れ去られた涙が表に出てくる。押し込めようとすればするほど、瞳の表面を覆い、ついには頬を伝いはじめる。
ただ一つ。今までと違ったのは、その涙を拭うのが自分の手ではなく、傍にいてくれる人だということ。
ヴィータちゃんは普段からは想像もつかないくらいに優しく、壊れ物に触れるように涙を払ってくれる。それだけで、救われた気分になる。
こうして、フェイトちゃん以外の人を抱き締めていてもいいのだと。思ってしまう。
久々に感じた人肌というものは離しがたく、闇の隙間から差し込む月明かりに照らされながら、私はしばらくの間そうしていた。
◇ ◇ ◇
SIDE : VITA
――私、空を飛ぶのって好きなんだ。
誰をも魅了してしまう笑顔を咲かせながら楽しそうに呟いた以前の彼女を、通り抜けざまにガジェットを撃破してしまうその人に重ねる。かつてヴィータが悪魔と呼んだ少女は女性となって、凛々しい姿で飛翔している。
少女と彼女を重ねようとする。だけど、それが重なることはなかった。
――だから、また空を飛べるって分かった時、凄く嬉しかった。
不意に耳を掠める声。いつの間に離れてしまったのか、遠く彼方からなのはがヴィータの名前を呼んでいた。
色に深刻そうな様子は見えず、何かがあったわけでもないだろう。がしかし、声を聞いてしまっては顔が見たくなる。重症なのかもしれないな、と自分で呆れつつもヴィータは彼女との距離を詰めた。
その間にもあちこちで見え聞こえる斬撃と後に起る爆発音。次々と落されていく残骸を見るに、なのはによるものに違いなかった。
「どうした、なのは」
正面に大きく彼女の姿が映るまでに近寄ると、硝煙の中から現れた。多数のアクセルシューターを操りながら敵機を落していくその様は、エースオブエースの名に決して恥じることはないだろう。
なのはの蒼穹の瞳と、ヴィータの群青の瞳が交差する。
ただの戦闘のパートナーだけでなくなってしまった今となっては、それだけで心臓が早鐘を打った。自らのそれを諫めながら、ヴィータは戦場の女神を前にしてそれ以上進むこともなく立ち止まった。もっとも空であるから、立つという表現は相応しくないのだろうが。
爆発音も止み、まったく音がない世界は妙な違和感を感じさせる。
なのはが傷一つない防護服のまま、ただ、帰ろうか、と呟いたことで世界が動いた。既に背を向けた彼女を追うように、ヴィータは慌てて通信を開き、ガジェットその他の撃墜を伝えた。
帰還命令が下りるとすぐに姿の消えかけているなのはを追った。
なんとか追いついて横に並ぶも、声を掛けようとして言葉を失う。覗き込んだなのはの顔には表情がなかった。薄く、本当に薄く浮かべられた笑みなど、表情と呼ぶには足りないだろう。
ヴィータは吹っ切るように頭を振って、なのはの腕を引いた。彼女は表情を崩すことなく、こちらを振り向く。
「帰ったらさ、どこかいって気晴らしでもするか」
「無理。スケジュールいっぱいだし」
即座の却下にもヴィータが怯むことはない。予想されてはいたことなのだ。胸が痛んだのは今更気にすることでもない。
「大丈夫だって。なのはの頼みなら聞いてくれるよ」
「駄目だよ。迷惑かけられない」
「んなこと言ってるとまた前みたいに……!っ、……悪い」
いつの間に血が上ってしまったのか、気付いた時には遅く、口にしてはならない言葉が漏れていた。可笑しなほどの静寂が自身を追い詰めていく。
なのはは何も言わない。笑うことも、悲しむこともしない。ただ寂しげに「優しいね」と呟いた。
局に着くと、なのはは何でもなかったように笑顔を浮かべた。張り付かせたそれは不自然でもなんでもなく、そこにあるのがさも当然のようにある。先ほどの背筋が凍るような表情を、あるいは部屋に一人きり残された子供のような表情を見ていなければ、本物のものと思ってしまうほど。その笑顔は本物以上の偽物であった。
「ヴィータちゃんは、優しいね」
なのはは再び口にした。
「ありがとう、心配してくれて。……大好き」
「な、なの――」
――は。なのは。なのはなのは。
名前は吐き出される寸前、虚空に閉じ込められた。背中に強く回された腕に呼吸が苦しくなり、頭は柔らかな胸に抱え込まれ、彼女特有の優しい香りが鼻腔をついた。
だが息が出来ないのは、なにも顔を胸に押し付けられた所為だけではなかった。
ひとたび身体が話されたかと思うと、すぐにまた距離を詰められた。
「ぁ……う、……んぅぅっ」
息が苦しい。喘ごうとして唇を開くと、そこへ入ってくるものがある。それが何か考える余裕をなのはは与えない。口腔を蠢く軟体動物に目をひたすらにきつく閉じ、たまらずこぼれてくる涙は生理的なもので。
苦しい。
だけど何が苦しいのか。ヴィータには分からない。
ただ苦しかったけれど、それだけでないのも事実だった。
散々に歯列をなぞり、行き場をなくした舌はなのはのそれに捕らえられて。
……いくらかの時間がたった。舌がようやく解放され、行為の終わりを感じるのと同時に流れ込んでくる唾液。唾液と一緒に流れ込んでくる、嬉しいという感情。おぼろげなものであったが、こくりと嚥下すれば、それはヴィータの中で確実なものとなった。
おそらく抗おうと思えばできたのだろう。いくなのはが強いといっても、接近戦ではヴィータに分があった。だがそういう問題ではない。なのはにする抵抗などヴィータにあるはずもなかったのだから。
「すごく可愛いよ、ヴィータちゃん」
「なのは……」
悪魔に一方的に魅せらたのはヴィータ。
その愛しい人を見詰めながら、名前を呼んだ。その蒼く澄んだ瞳に自分が映ることは決してないと、知っていて。だからただ心の中で一人ごちる。
なのはは残酷だ、と。
一人になって、ヴィータはフェイトについて思った。
空を飛ぶのが好きなあの人を、撃墜させたのは、おそらくフェイトに違いないだろうと、ある種の確信を持って考えていた。
あの人にあんな悲しい顔をさせるフェイトに激しい憤りを感じる。
――なのははもう落させねえ。絶対に、救ってやるんだ。
ただの道化師でしかありえなくても、その想いを心に硬く刻み込まずにはいられなかった。この胸になのはがいてくれるかぎり、いや、離れていったとしてもその思いはもう揺らがない。
守りたい、守ってやる、守らせて欲しい。だからいつか、自分だけの笑顔が欲しい――。
小さな胸に青き炎を宿らせて、ヴィータは隣に眠るなのはの寝顔を見詰めていた。
× あとがき ×
ここで一応の話はおわりです。
自分の中では続きがあったりなかったり。
ここで終わるのが綺麗かなって思ってやめたんですが。いやもう後に残るのはひたすらどろどろとした人間関係でしかなく。((はやても微妙にフラグが立てちゃったからヴィータ支援もできないしむしろ第三勢力。
忘れ去られた頃に続きが書かれるかもしれませんが。
ちなみにフェイトの浮気の理由は考えてあります。が、ここでいっちゃうとあまりにも、フェイトさんが不憫というかアレなので。想像してみてくれると嬉しいです。
そしてどうして自分はフェイト×なのはを書こうとしたらなのヴィになっちゃうのでしょう。ああ、きっとなのヴィが大好きなんだ。プロットの段階で既にヴィータが好戦的だもんなあ。これはきっと21話の所為です!というか実際21話でなのヴィ大好きになりました。
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アリサ×なのは

comments
ダメだよ〜…なのはさん大事にしてあげてよ〜!
でもなにやら理由があるようで…シグナムさんにちょっぴり殺意が芽生えてしまった…。
ヴィータのところに行ってしまったなのはさんですが、きっとフェイトのとこに戻るっていうかフェイトさんが迎えに行くのを期待しています!!
では、これにて失礼!!
P.S ボクのとこに記事見ました?参加…ダメ…?ww(どっかコメントする時はついでに言ってるヤツ
おはようございます♪
そうだよ、なのはを悲しませる人はたとえフェイトだって許さないよ!(ぉ前・・
シグナムさんもね、苦労してるんです、ああ見えて。一番とばっちりを受けてるひとですね。
実は最近シグなのもいいかとおもっていたりしてw
さて、フェイトは無事になのはさんを取り戻すことができるのか。このままヴィータに掻っ攫って欲しい気がしないでもないのです。実は(苦笑
見ました!参加してもよいのですか?
それじゃあ作品……、な、なにをかこう。よければカップリングとジャンル(シリアス・鬱・甘など)をリクしていただければ、ありがたいですw
これは続きが楽しみですね!!(笑
もっちろん!ぜひご参加ください!!(^O^)/
リ、リク?!いいのですか?ww
えーと、じゃー…フェイト×なのはでシリアスラブをお願いしたいのですが…(内心ビクビクッ
だ、だめならおっしゃってくださいませ!!
では、失礼します!!
そうです、被害者です。フェイトの弱さゆえに巻き込まれてしまったのです。でもシグナムさんも、理由がどうであれフェイトさんと一緒にいる時間をもてて全くの不幸というわけでもないんですけど。
ってなんかこう書いてしまったらフェイトが悪者みたいですね((汗
くはっ!フェイなのでシリアスラブですかw
ほとんど書いたことないジャンルで、うまくできるか不安ですが、がんばってみます(ぐっ
さて、9歳と19歳どっちにしようかな。
シグナムさんは密かにフェイトを狙ってたのか?!
たとえフェイトが悪人でも「悪人なフェイトもいいなぁ!」とか思ってしまうほどフェイト好きーなので全然オッケー!!(^O^)/
(…でもやっぱりフェイなののセットが好きww
うぉ!が、頑張ってくださいますか!!
えっと、ちょう楽しみに待ってます!!(^^)
9歳か19歳かどっちもいいですなww
けど迷っておられるなら間をとって15歳とか?ww
フェイトの頭の中はなのはでいっぱいなんだけどねw
じゃあ、15歳でフェイなのをですねwフェイトが攻めとは、ひさびさにカッコイイフェイトがかけるかもw
最近自分の書くフェイトさんがかわいそうなので((汗
頑張ってみます。
ぜひとも期待はしないでくださいm(__)m
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