その境界線は。
空を駆け抜ける無口な星に、あの人を見た。
別の世界を願うなら―0
2008年 03月 17日 (月)
第〇話「悠遠なる熱」
各タイトルはこちら⇒目次
なのはとティアナの物語。パラレルです。
もしよければこれからしばしの間、お付き合いいただければと思います。

これはプロローグ的な話。
それでは続きよりどうぞです。



 別の世界を願うなら

 0.悠遠なる熱


 無心に街をふらついたあと部屋に戻ると、ドアの前に少女がいた。
 扉に背を凭れた彼女はマフラーをのぞけば装飾一つない簡素な恰好で、小さなバッグ一つを抱えて立っていた。尤も、整った顔の彼女の美しさはそれだけで際立って見えたのだが。
 寒い日だった。雪こそ降っていないものの、身のあちこちが軋むように冷え、実際に指の先の方が凍えていた。今まで外に出ていたことを後悔しながら、部屋に着いたら真っ先に熱いシャワーを頭から浴びようと考えていたのである。鉄筋の階段を踏みしめ、吐く白い息さえ煩わしくなってきていた。そこにこれだ。
 しかし私はこの少女を知っている。ティアナとはひと月前にライブの帰りで出会った。ティアナは私が歌うバンドのライブに、友人と来ていたのだ。
 私はしばらく状況が飲み込めずにいたが、やがてつい二時間ほど前に連絡をしたことを思い出した。そういえば自分から会おうと言ったんだった。私はそのことをすっかりと忘れてしまっていた。
 彼女はこちらを凝らし見ている。綺麗な目だ。自分とは違い、澄んだ“空っぽ”の瞳をしている。
 まあいいか、と思う。まあ熱いシャワーを彼女と浴びたとしても、別に大して変わりはしないだろう。
 私はドアを開けて彼女を部屋に上げる。服を脱ぎ、また彼女の服も脱がせると、腕を引いて浴室に行った。腕をつかんだ時に彼女の体がびくりと震えたが、おそらく手が冷た過ぎたせいだろう。彼女の腕は暖かかったから、熱を奪ってしまったのだ。でも手と腕が触れ合うくらいでは暖かくならない。だから湯を浴びる。熱いシャワーを浴びて湯に浸かれば、たちどころに寒さは剥がれ落ち、体に熱が宿る。
 指先がしっかりと動くようになると、私はティアナの手首を壁に押し付けた。今は彼女の背中が見える状態だ。なだらかな腰のラインから形の良い尻が後ろに突き出ている。芸術のようなそのラインを私は指でなぞるが、まだティアナと私との間に温度差があった。同じ湯を浴びているのに、ティアナの体は私の指先よりもずっと熱い。そこに私は微かな違和感を覚えた。その違和感は、行為の始まりから終わりまで付き纏い、どうしても離れなかった。後ろから腰を抱え込んでも、湯船に浸かって内股をまさぐろうとも、だ。指に水とは違う、とろりとこぼれてくるものをそのまま口に運び、舐め取っても駄目だった。
 仕方なく諦めて浴室を出て、寝間着に着換えベッドに腰を下ろした。髪を適当に拭くとそのまま上半身を倒して窓を見る。カーテンを突き抜けて入ってくる光は白くて美しい、どこか物悲しさを含んでいる。
 ティアナが部屋に入ってくる気配を感じたけれど、無視をする。彼女は何言かを言ったが、私はどうでもよかったので聞き流していた。彼女は溜息を吐いてベッドに横になった。そのうちに寝息が聞こえてきたので振り向くと、彼女はすでに瞼を落とし、眠りに入っていた。月の光を浴びた彼女の髪は、銀朱に近い輝きを放つ。それは風景画のように美しく綺麗な光景だというのに、どこか月明かりのように哀しくなった。
 夜になると、部屋にはいつでも月明かりが零れていた。分厚く引かれたカーテンの丈は明らかに窓に合っておらず、夜天に二つ寄り添った月の光は、隙間を縫って部屋に潜り込んでくる。故に、全ての電気を消そうともこの部屋で明かりが途絶えることはない。唯一、雨が降る時だけは暗黒が訪れた。雨の日は、だから落ち着かない。いつもある光がないから。あの光は私を悲しくさせ、そして落ち着かせてくれる。
 ティアナが隣で瞼を落としていることを確認し、それから堅く布団を握り締めた。眼瞼を落とす。そして私はいつの間にか眠りについている。


 ⇒1.名もなき詩人1

Comment
おおっ!ついにきましたね〜♪
密かに楽しみにさせていただいてましたので、わくわくしておりますっ。
何だかなのはさんが随分と冷めてる感じでぞくぞくしちゃ(殴…睦月はこういうなのはさんもめっさ好きなのですよねー。あは。
ティアナとどうなるのか楽しみです。それにしてもなのはさんは何か過去にあったんでしょうかねぇ?

いや〜でもさすが西野さんっ。相変わらず綺麗な描写で惚れ惚れさせていただきました。
続きの方も楽しみにしてますね!

では、これでー。
2008/ 03/ 17 (月) 22: 44: 47 | URL | 睦月 [ 編集 ]
なのはの誕生日を普通にスルーしてしまったため、一日遅れで祝った垂れ坊です。くっそう……油断してたぜ!

前々から話題になっていたパラレルがついにきた! うっほう!
というわけで早速読ませてもらいました。
むっ、なのはさんが妙に冷めてるな。というよりいきなりティアナを浴室でってちょwwwなのはさんwwwエロいっすwww
それでも終始冷めきっていたなのはさん。いやはやホント、どうしたんでしょうか?
とはいえまだまだプロローグ。これからの展開を楽しみにさせてもらいます! ではでは!
2008/ 03/ 18 (火) 05: 53: 47 | URL | 垂れ坊 [ 編集 ]
>睦月さん
たた、楽しみにっ?ありがとうございますm(_ _)m
冷めたなのはさんは素敵ですよ〜。自分も大好きです。
無表情にティアナを責めるとか。すきなのですよ。
なのはさんに過去は……たぶんあるかと。
ティアナもいろいろあるんですが、過去という意味ではなのはさんの方がメインですね。
そして描写…ありがとうございます!精進中ですので、嬉しいです。励みになりますよ!
これからも頑張っていきますので、できれば長い目でみてやってください。

>垂れ坊さん
とらハをプレイしていない自分は祝えませでしたorz
ごめんよなのは。
なのはとティアナのパラレル物語、どうにかできました(>_<;)
なのはさんが冷めているのは、昔いろいろあったというかなんというか、です。実は普段はそんなに冷めてるのが分かる人じゃないんですが、こういう時には心を出してしまいますからね。
その辺はそのうちにまた。
個人的に浴室で、というのは好きですね。特にシャワーを浴びながらというのはなかなか。泣いてもわかりませんからね。
これから一日一話づつくらいのペースであげていきますので、また読んでやってくださいです。
ありがとうございました!
2008/ 03/ 18 (火) 20: 35: 08 | URL | 西野加奈 [ 編集 ]
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