FC2ブログ

2020-01

別の世界を願うなら―4

第4話「子守唄2」
3.子守唄1の続き。
なのはとティアナの物語。パラレルです。
ティアナはなのはさんの部下でもなんでもないので、ちょっと対応がフランク。
あと。これは一応、なのティアではなくティアなのだったり、するのですよ。はい。

――本当にあるのだろうか。
きっと色あせてしまうような言葉。
言えば叶わない想いのような気が、なのははした。

それは歌わない詩。
もしよろしければ続きよりどうぞ。



 別の世界を願うなら

 4.子守唄2


 そう言えば、二番目に弾いてくれた曲の名前を聞きそびれてしまった。


 耳の奥深く、鼓膜を突き抜けて渦巻く部分でぐるぐると音が回っている。
 眠りの淵にいる時でも、ティアナの弾いてくれた曲がずっと頭の中で流れている。哀愁を帯びた旋律が自分の中にとどまったまま出て行こうとしない。
 好きです――そう、まっすぐに告げられた。初めて彼女が口にした言葉だった。曖昧な呟きのようで、それは明瞭な響きを持って私の胸に届けられて。……正直に言おう、私は彼女の言葉を持て余していた。
 私はティアナのことを大切な存在だと思っている。それは誤魔化しようもないし、誤魔化す気もない。己の胸に仕舞われたままにあるが、それは事実として確かにあった。だというのに、私は彼女に想いを告げられた時、何も応えることができなくなってしまった。一時の失語症のように声を失ってしまったのだ。別に同性愛を否定したいわけではなく、ただ単に――怖い。
 永遠を信じているわけでもなければ、求めているわけでもないというのに、お互いの距離が変わることが怖かった。心地良いどころか、苦しささえ覚える距離。だけど、かけがえのないようにも思える。
 根拠のない妄想。
 それは求めれば失ってしまいそうで。臆病な私は伸ばされた手を掴むことができない。

 決断を迫られていた。
 私が背を向けた、無数のつぶてから成る壁が迫ってくる。逃げようとも追ってくるのなら、振り返って、切り捨ててやればいいと気付いた朝のこと――。ティアナは未だ微睡みの中に居る。私は冬の心地よいベッドの中から振りきるような思いで抜け出し、携帯電話を手にした。かける相手はあのギタリスト、内容は謝罪。
 ごめん、というのが私の第一声だった。
 こんな朝早くにどうした、と彼のぼんやりとした声が聞こえてくる。もしかしたら寝起きだったのかもしれない。
「恋人に逃げられて行方を探しているのか? 残念ながら協力出来そうもないが」
 彼は苦笑気味に言っていたが、すぐに電話の向こうで姿勢を正したのが伝わった。思ったより早かったじゃないか。彼が若干掠れた声で続ける。
「昨日の件、考えてくれたんだな。その様子から良い返事とは思えないけれど、一応聞いておくよ」
「私は協力できない」
 もちろん恋人の行方探しなどではない。彼、いや、彼らの音楽活動に。
「私は表舞台にでるような人間じゃないし、そもそもバンド活動にそこまでの魅力を感じられないの。もちろん演奏に合わせて歌うのは愉しめていたし、ライブは凄く気持ち良かったよ。こんなことを言うと、あなたの気分を害してしまうかもしれないけど」
「いや、なんとなくお前のいうことは想像ついていた。言うなれば、ほんの少しの希望に縋りついていたようなものだからな。――じゃあバンドも辞めるんだな」
「そうなるよね。ごめんなさい」
「いいよ。他に何かやりたいことでもあったんだろう。最近練習にも出ないから、軽く心配してたんだが。面倒だからってサボるような奴じゃないことは分かってる」
「恋人」
「え?」
「じゃあないけど。でもそんなこと関係ないくらいに大切な人が出来たよ。私にとって、凄く大切な人が」
 私はそれらしい嘘を混ぜていった。
 電話の向こうから、彼は無言を届けてくる。溜息も呼吸の音もこちらには届かない。彼は無言だけを届けてくる。
「ごめんなさい」
 なんて責任感のない人間なんだ、と思われても仕方がなかった。大きな道が見えた途端に逃げ出そうとするのだから。だけれども、中途半端な気持ちで、適当に請け負っていたとして。その先は更に暗い未来になっていたはずだ。ティアナがいなければ、断ることもなく、きっと昨日の地点で二言目には頷き、受けていた。
 ――本当に?
「そこまで言うんなら、きっと大切な人なんだろうな」
 にゃはは、と。今度は私が苦笑した。
「ところで一週間後のライブには来るんだろう? 最後のライブになるから、できれば来てほしい。それにきっと区切りにもなるだろうからな」
「私が行ってもいい、のかな」
「当り前だ。むしろヴォーカル様には来てくれないと困る。なんせお前の変わりなんてそう見つからない」
「……うん」
「馬鹿だな、お前は」
「馬鹿でいいよ。それで、私が聞いてもいいのか分からないけど、これからどうするか決まってる?」
「バンドのことか。まあヴォーカルは適当に向こう、ああ、スカウトしてきた会社のことな。大丈夫、会社が適当に見つけてくれるさ。メンバーの入れ替えなんて有り触れたことだし問題はない。お前じゃないのが残念だけど、仕方ないよな」
「ごめん」
「そういう意味で言ったわけじゃなくてだな。まあ、いいか。俺もなんだかんだでこういう事に慣れてるつもりなんだけど、難しいな。うん、つまり高町は何も心配しなくていいってことだ」
「ちょっと寂しい気がするって言ったら、我が侭になるかな」
「そうだな。我が侭だ」
 電話の向こうで、溜息を吐いたのが分かった。嫌な感じではない。馬鹿な妹を持って気苦労の堪えない兄のような溜息だ。もっとも私の兄は更に無口だけれど。
「だからライブには出てくれよ。それで、その日までに以前言ってた曲の歌詞を、考えてほしいんだけど。大丈夫か?」
 うん、と頷く。
「大丈夫だよ」
「そうか。ならよろしく頼むよ」
 携帯電話を閉じると、テーブルに置いてから洗面所に向かう。顔を洗い、いつものように自分の顔を眺める。何の変哲もない顔。一般的に綺麗で可愛らしいとされている母の面影をわずかながらだが感じられる高町なのはの顔面。母を知る誰かが自分を見て、「桃子さんによく似ている」と言った。自分では分からないけれど、私は母の若い頃(今でも十分に若いが)に似ているらしい。だけどそこに関連性などない。血の繋がり以上のものなど存在しない。
 今だって電話一本さえかかってはこない。私からかけたこともない。だけどそれは母が嫌いだからではない。気まずい何かがあったわけでもない。母の声を聞いてしまったら、逃げた事を突き付けられるような気がしたからだ。母は感の鋭い人だから、きっと私のそんな気持ちに気付いているのかもしれない。
 頬を伝い、顎から冷たい水が滴り落ちていく。今日の水はやけに冷たかった。もしかすると雪が降っているのかもしれないな、なんて考えながら、もう一度水をかけてからタオルで拭いた。
「ティアナ、朝だよ」
 部屋に戻ると、まずティアナを起こした。ほどいた髪が枕の上へ乱雑に散らばっていた。カーテンを突き抜けて差し込む力強い朝陽が、彼女の髪を銀朱に輝かせていた。数秒、私は見惚れてしまう。心の中に浮かんだ言葉は、出してみれば安っぽくなってしまうような気がして、そのまま呑み込んだ。私は再度肩を揺さぶる。
「ん、なのはさん」
 零れる艶やかな溜息が、冷え込んだ室内を漂い、小さな雲となった。
 呼ばれた名前には、ふとすれば身震いをしてしまいそうな程に魅力的な色香が含まれていた。軽い眩暈を覚える。なんだか、ずるい――そんな湧き上がる悪戯心に押されるようにして、私は彼女の唇に自らのを乗せた。布団から顔を出していた為に彼女の唇も冷えていたけれど、先ほど冷水で顔を洗ったばかり自身の唇も冷えていて、温度差はほとんど感じられない。
 彼女の方がほんの少しだけ乾いていた。それだけの違い。
「起きてよ、ティアナ」
「そんなことを言わないで。もう少しだけいいじゃないですか」
 えっ――。
 と。声に出す暇もなく、先ほどまで眠っていた人間とは思えないほど強い力で、布団の中に引き込まれる。もしくは自分が油断していたのかもしれないが、とにかくティアナが私を下から抱えるようにしてベッドに引き寄せた。
「いつのまに起きて、というかまさかさっきまでのはたぬき寝入りじゃあ」
「なのはさんが起こしてくれたんでしょう、……唇で」
 かあっと首から上が熱くなった。それはもう誤魔化せないほどに。赤くなっただろう顔を逸らそうとしたところで、私の体は既に彼女の腕の中にあり、体勢的に抜け出すことは叶わない。せいぜい彼女の胸の中で足掻くくらいのものだ。それさえもおそらくティアナにとっては微笑ましく映るかもしれない。
「ね、苦しいよ。放して」
 初めは動きを固定する程度の抱擁だったのが次第に力を強めていき、今は腕に痛みを感じるほどで、たまらず私は身じろぐ。
「無理です」
「いや、無理ってそんな」
「起き抜けにあんなことをした罰と思って、少しくらいは我慢してください」
「……えっと。もしかしてティアナ、照れてる?」
「それを言わせるんですか。貴女は」
「舌は確か入れてなかったと思うけど」と口にすれば、両の腕が背中に回された。これで完全にティアナに囚われたことになる。
 そんな、まるで恋人同士みたいな戯れ。朝の風景。カーテンを引けばきっと雪が降っているよ、と凍えるような空気が教えてくれている。もしも恋人同士なら、二人でそれを眺めるのもいい。だけれども私たちは、言葉よりも先に身体を繋いでしまった。それならばやはり、抱き合うことを選ぶのだろう。寒さもどうせまた熱に紛れるし、雪だってすぐに溶ける。
 きっと今の自分を一番安心させてくれるのは、ティアナと交わり悦楽を感じることなのだ。
 耳朶にそっと口付けられる。ざらついた舌が優しく首筋を撫でていき、私はぞくりと背筋から何かがせり上ってくるのを感じる。私が内側に溜まった熱いものを少しでも吐き出そうと顎を上げて呼吸しようとすれば、そんな抵抗は無駄だと言わんばかりに口を塞がれる。彼女は私の口を無理矢理開かせようとはしない。じっと待つのだ。私が自ら開くまで。そして私は、固く閉じた唇を緩め、開く。途端に口内に甘い蜜が流れ込んでくる。模索するように舌が私のを追い詰める。逃げ惑っているうちに、私はいとも簡単に捕えられてしまった。そのうちに衣類さえ、彼女の手によって脱がされていく。私は仰向けになって、ティアナの背中に手を回す。彼女の太腿の間に片膝を割り込んで、気付けば自分から求めている。
 全てが終わるのにはまだ時間がかかりそうだった。多分、一晩かけてゆっくりと降り積もった雪が、全て溶けてしまうくらいには。

 私は机に向かいつつ、イヤホンを耳に差し込んだ。
 円柱のポットに差した何本かの鉛筆の中から一本だけを抜き出し、十分に尖っていることを確認すると、用意していた白い紙に、頭に浮かんだ単語をばらばらと写していく。丁寧に並べてではなく、子供の落書きのように、あちこちに散らせた。脳内の言葉を書き写しているうちに、空白さえ重要なことのように思えてくる。
 ずっと以前、曲が出来上がってからもらったMDから、音楽が流れてくる。音楽から感じることと気持ちとを混ぜ合わせながら、小さな文を並べていく。ある程度まとまったところで、鉛筆を用紙の上に置いた。振り向いても誰もいないのに、つい何となくそうしてしまったのは、今までよりもずっと長く一緒にいたせいかもしれない。自分が送り出したというのに、まだベッドで眠っている気が拭えない。自分よりは短い彼女の朱色の髪が、静かにシーツの上で波打っている光景さえ容易に思い描くことができた。
 少し、触り過ぎたかもしれない。指の腹にまだ彼女の髪の感触が残っている。
 どうして彼女は突然触らせてくれるようになったのだろう。以前はあれほど拒んでいたというのに、ピアノの演奏を聞かせてくれた夜に、何気なく――それは本当に何気ない口調だった。例えば今朝起きた時間を口にするように――彼女はいいですよ、と言ったのである。
「触ってください」
 今まで見たこともない、表情でティアナは言った。私はその表情を、素直に可愛いと思った。普段は綺麗な彼女の表情も、その時は可愛らしく思えた。
 テーブルに乗せた白い用紙に目を移す。歌詞はもう書けていた。左上に書かれた『別の世界を願うなら』というのがタイトルだ。
 私は一度その用紙を手にとり、眺めてみる。それから指の力を抜き、テーブルの上に落とした。でも落ちたのは紙ではなく、嘘でも真実でもない言葉の羅列に過ぎなかった。


  ピアノの音が聞こえてくる それは君の音 僕への気持ち
  僕の言葉を 君の音にのせて
  君を呼びとめようとする泣きそうな声が自分のものだと知って
  僕はきっと絶望してしまったんだ
  情けなく追いすがるのはいつだって自分で それが嫌で
  瞼を閉じて再び開いた時 そこが全くの別世界だといいのに
  ここではないどこか 別の世界ならば君を護れる
  恰好良く 颯爽と君の前に現れて そして
  夢はいつもそこで終わる
  だって現実の僕は魔法なんて使えないし それじゃあ君を護れない
  君は僕よりもずっと強いから 手を伸ばしてくれても掴むことはできない だから
  僕は歌うのだろう せめて
  せめて想いを歌にして 君が大切なんだって 普段言えないことをも歌う
  ねえこんな僕に 絶望してしまったのなら今すぐ逃げてくれ
  そんな顔で笑わないで 抱き締めないでいいんだ
  僕は弱いけど 一人で生きていけるくらいには強いから
  大丈夫 僕は君の前で泣いたりなんかしない
  一言だけ言いたいことがあるんだ それは歌の中じゃ言えない言葉
  別の世界の僕だったら スマートに表せる想いの形
  それじゃあ歌の外でまた
  だってもう夜が明ける ピアノの音色は聞こえてこない


 ⇒5.溶けない雪だるま

● COMMENT FORM ●


管理者にだけ表示を許可する

別の世界を願うなら―5 «  | BLOG TOP |  » 別の世界を願うなら―3

Web Clap

ご意見、ご感想などあればどうぞ。
  

Recent Entries

Categories

Novel List

― Short Story ―
アリサ×なのは
心が君の名前を呼んでいた
違えた道の端  前編 / 後編
すずか×なのは
無想と空想と、紋黄蝶
フェイト×なのは
No title...フェイトver
あなたを想って流した涙は
溶けた灰色の小石
白 -white-
穴の開いた箱
なのはへ。
ヴィータ×なのは
StarDust
21.5話妄想
No title...ヴィータver
大切な Trash Box
誰よりも君に笑ってほしくて
Reinforce
真紅のグラス
Limited Sky
強奪者
蒼い棘
薄氷の上で
摩擦熱
あやふやな星
語ろうとした震え
消えない夕立ち
青と白、それから赤
優しい境界線
はやて×なのは
Sky Tears  SIDE:H / SIDE:N
夜色の羽根
eyes on...
孤島の夢
なのは×リインフォースII
小さな涙
スバル×なのは
君は空しか知らない、僕は大地しか知らない
ティアナ×なのは
月明かりよりも頼りない
貴女の血の味すら
失われた部分と残された部分
命を吹き込まれた落葉
台所で。
求めるままの逃亡
涸れた土
ティアナの適当に幸せな一日
迷子へと示す道標  1 /  /
Don't shake off.
空さえ貴方の前を覆わない  前 /  /
窓を打つ雨みたいな恋
月が堕ちてきた
もっとも不誠実な恋人
世界の終わり
銀朱の残照
僕に重ねて、君は夢をみて
ヴィヴィオ×なのは
掌で心をころがして
擬似家族
小さな声で求めて
蜂蜜
硝子内のひめごと
レイジングハート×なのは
午睡
虚空の紅玉
その他
ヴィヴィなのフェイもどき
SHOUT!  前編 / 後編
猫と主と変質者。
なのはにチョコをプレゼントされたときの台詞
なの!!
雷の憂い

― Long Piece Novel ―
幸福の在処
目次
星たちの休日
 /  /  /
別の世界を願うなら
設定 / 目次 / あとがき
追憶の色に埋もれて
目次 / あとがき
秋、はらむ空
前書き / 目次 / 後書き

― Project Story ―
聖夜 ……目次
拍手SS
一代目 手を伸ばして
二代目 時間
二代目 光の章/夜の幻
描写する100のお題 ……目次
陽の中に塗りこめて。 ……目次
振り返る ……目次

About

魔法少女リリカルなのは二次創作物、主に小説を扱っています。
このブログ内で使用している文及び画像の転載は、例外なくご遠慮下さい。

◇小説の傾向
なのはが絡んでいる百合、修羅場が多め。
なのはさんをめためたに愛し、いじめていきます。

◇リンクについて
リンクフリーですが、貼っていただく場合には下の本館にお願いします。
本館:

何かありましたら下まで。
kone6.nanoなのgmail.com(なの⇒@)



Profile

Author:こねろく
リリカルなのはが大好き。
なのはさん溺愛。そしてゆかりさんにめろめろ。
詳しいプロフィールは本館のMYSELFに。

Pixivtwitter

Monthly Archive

11  09  05  04  03  02  01  08  07  04  07  02  06  03  08  07  06  02  01  11  08  07  06  06  05  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09 

Link

その境界線は。(本館)

Search Area