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2019-11

別の世界を願うなら―5

第5話「溶けない雪だるま」
4.子守唄2の続き。
なのはとティアナの物語。パラレルです。
ティアナは嫉妬深いとおもうのさ。

――それは戯れ遊び。
忘れた稚気を取り戻すかのようになのはは雪の中に身を投じる。
だがふと冬空を見上げた時、そこには何もなかった。

なのはと彼女が雪遊びをする話。
もしよろしければ続きよりどうぞ。



 別の世界を願うなら

 5.溶けない雪だるま


 首輪をつけた黒猫が、音もなく通り過ぎた。
 ふっと空を見上げると、灰色の雲が垂れこめている。もしかしたら近いうちに降り出すかもしれない。
 ちょっとした高さのある石垣に猫が登っている。そこほぼ無音で地面に着地すると、彼(もしくは彼女)は一切の無駄を排除した機敏な動作で立ち去ろうとしていた。しかし私と猫は目が合ってしまう。私は数瞬ためらった後、おいで、と手招きをしてみるが、黒い毛並みの猫はそっぽを向き、そのまま身を翻して建物の隙間へと逃げて行ってしまった。私は何となくやりきれない気持ちになってしまったのだが、気を取り直し、本来の目的にしていた場所を向いた。
 レコード店。しかし本当にレコードを売っているわけではなく、昔からの名残でそう呼ばれているにすぎない。今では主にCDやDVDが売られている。ミッドチルダのものだけでなく、私の出身世界のものも、ここには多く取り揃えられている。
 普段行かないコーナーに足を運び、手に取ったのは、一枚のクラシックCDだった。音楽界の偉人チャイコフスキー。彼について簡単にではあるが調べてみると、いくつか目に留る事項があった。
 一つは彼が同性愛者ではないかということ。地球某国出身の彼は、同性愛者に対する理解が深く、施設の少年達と共に時間を過ごすことも多かった、ということでそんな卑下た予測がされていた。
 私は思わずその項目に目を留めてしまった。事実がどうかなど私にはどうでもいいことだったが、関係がないわけではない。同性愛という言葉。些かそれは現実離れしているように感じる単語ではあったが、事実私とティアナの間に横たわるものを表現するならそうなのだろう。例えそこにどんな苦悩があろうとも、第三者以下にとってはおよそ関係のないことである。しかし、私が彼の音楽を手に取ったのはもちろんそのような理由からではない。心を引っ掻くことではあったが、しかし違う。
 『悲愴』だ。
 彼が生み出した多くある名作の中で、最後の大作とされている交響曲第6番ロ短調『悲愴』。全四楽章ある中でもティアナが弾いてみせてくれたのは、どちらかというとよく聴く第二楽章の方ではなく、第一楽章だった。
 しかし希有なこともあるもので、手に取ったCDをレジに持って行く途中でふと店内で流されている小さな音に足を止めることになる。普段は意識することのないBGM――何故ならそれは決して自己主張することのない、云わば呼吸の音みたいなものだったからである――が、この時ばかりは違った。聞き覚えのある曲に気付いたのはただの偶然であったが、恐らくどこぞの夢想家であるなら、運命という言葉に当てはめたかもしれない。
 聞き違うはずもない。それは先日、ティアナが二番目に弾いてくれた曲に相違なかった。
 私はすぐにレジに駆け寄って、店員に曲名を訪ねた。そして手にしたままの『悲愴』とその曲の入ったCDを購入し、そのまま一直線に部屋に戻ろうと早足で店を出るが、予想していた通り雨が降り始めていた。それほど長くいたつもりはなかったんだけど、と溜息を吐いてから、大降りでないことに感謝をしながら家へと一目散に駆けた。
 早くも地面のくぼみには水たまりができており、それを避けつつ走った。部屋に着くと、簡単に濡れた髪をタオルで拭ってから逸早くそれを聞いた。ディスクを丁寧にコンポに挿入し、座椅子に腰かける。炬燵のスイッチを入れた。
 炬燵の熱がじわりと足に広がっていくうちに、その音楽も少しずつ、静かに鼓膜に浸透していった。それはどこか懐かしい情景を思い描く旋律。
 私は自分が住んでいた町の景色を思い出した。そう言えば母はどうしているのか、なんてことを。どうしているも何もない。翠屋を兄や姉と経営している。そんなこと考えるまでもないのに、曲を聴いていると、彼女たちの顔が浮かんだ。私は静かに瞼を落とし、瞑想する。ティアナの音を重ねてみる。それらは微妙に噛み合わなかったが、それで正しいような。
 ……今度、家族に会いに行こうか。
 いつまた居なくなるか分からないのだ。見たくないと目を背けたところで、見たくないことが起きないわけでもない。それにたまには実家に帰るのもいい。母の若さは変わっていない気もするけれど。
 ティアナがこの曲に何を願い何を込めたのか、瞼の裏に描きながら、雨の音を聴く。天から降ってくる雨が乾いた地面に滲み込むように、メロディはやはり自分の中に沁み込んできて。今ティアナは何をしているんだろう、などとぼんやりとした頭で考えていた。
 翌日、朝起きるとやけに体が重く感じたが、私は振り払うように冷水で顔を洗った。ぞくりと背筋を寒気が伝ったが、カーテンを開けた時に一面が雪に覆われていたのでその所為だろうと思っていた。見てしまえば余計な寒さを感じてしまうものだろう。朝日が雪を磨くように街を輝かせていて、寒くて体が震えているのにも関わらず窓を開けてしまったくらいだ。
 久し振りの雪に、心が多少なりとも踊ってしまう。雪だるまが作りたいな、できれば彼女と。
 子供のような自分の思考に、今更ながら呆れる。彼女はとても雪遊びに興じるようには見えないし、私自身、来年には成人を迎えようとしている。一笑されてお終いだろう。
 でももしかしたら。そんな思いが浮上する。もしかしたら、ティアナなら誘えば来てくれるかもしれない。
 掛け時計に目をやると、今は八時過ぎだ。あと一時間程したら電話してみよう。断られたら部屋でおとなしく昨日買った曲を聞いていればいい。そう考えてはいたが、彼女に誘いを断られるという想像が何故かできなかった。
 それから私は体の気だるさもあって、もう一寝入りすることにした。

 ――失敗した。

 淡色の空に映える、群青の髪をした少女が跳ねる。なのはさんっ。そう私を呼ぶ。陽の下で見るスバルは、あの晩私たちの間にあった行為など微塵も感じさせなかった。
 彼女の元気さに押し負かされるように手をあげる。握った手の中には、体温でもなかなか溶けない、冷たく白い雪玉。私はいくつか作り溜めていた雪玉をスバルに向かって投擲する。もちろんスバルが黙って当てられるはずはなく、きゃっきゃと逃げ回る。ついた溜息が思わぬ熱さだったことに意表を突かれる。吸い込んだ空気は肺をきりきりと冷やし、体が軋むような寒気に襲われる。だけれども私はこれを没却した。
 あのあと時間を潰そうとベッドに入ったのはいいが、深い眠りに沈んでいたようで、見れば昼も近かった。これでは彼女がどこかに出かけて、家に居ない可能性もある。暗くなれば戻るだろうが、それでは意味がない。
 アラームをセットしておかなかったことを悔みながら、私は僅かな希望をかけて携帯電話を手に取った。上半身を持ち上げるのにかなりの労力を要してしまったが、二度寝などしたからだろう。
 結局ティアナは電話には出なかった。
 私は携帯電話を離せずに、再びボタンを押し電話をかけた。そして相手はティアナではない。
 スバルは雪遊びという子供みたいな戯れの誘いを、快く引き受けてくれた。
「へへん。そんなへろへろの玉は当たりませんよ。じゃあ今度は私の番ですね。スバル・ナカジマ、行きます。ディバイィン・バスタァァー!」
 それは有名な作品に出てくる英雄の技名だった。確か――という題名の本だったのが様々なメディアで紹介され、有名になったんだったか。
 それはごくごく平凡な小学三年生がふとしたきっかけで、デバイスと呼ばれる赤い宝石と魔法を手にし、事件をいくつも解決していくうち時空管理局でエースオブエースと呼ばれるまでに成長する少女の話だ。綺麗で優しく強いその少女の物語は、ミッドチルダではかなりの人気を集めたという。
 スバルは架空に生み出された英雄の技名を、テレビを見た子供のように叫びながら雪のつぶてを投げてくる。呆気にとられた私がとどまっているうちに、顔面に直撃した雪がはらはらと落ちていった。
「やったね。それじゃあ今度は、こっちの番だよ」
 私は真似るよう、同じくその英雄の技を叫びながら、雪を山積みにしていく。スバルが先ほど投げた、まだ形が残った雪も山に加える。少しの気だるさは気にしないよう、雪を固めることだけに神経を集中する。きっ、と顔をあげると、スバルが青ざめている。
「え、ちょっと待ってください。それずるい」
「ずるくない、これが私の全力全開。スターライト・ブレイカー!」
 私は今まで積み重ねてきた雪玉を一斉にスバルへと集中投擲する。全弾投げ終えた後に見ると、彼女はきゅうと雪の上に倒れた。
「ちょっと、やりすぎた?」
「……ドントウォーリー、なんて言えませんよ」
「はは、ごめん」
「うう、ひどいです」
 でもまさかのってくれるとは思わなかった、とスバルが呟くが、その言葉には返さなかった。
 私は仕方なく傍に寄り、涙を溜めるスバルの頭を撫でてあやす。雪まみれになったスバルのコートをはたいて、雪を払いながら立たせる。なんだか本当に近所の子供と遊んでいる気分だなと微笑ましくスバルを眺めていた。
 だからその光景を自分の知る誰かが見ているなんて到底気付かない。
 私の人間関係はそれほど広くはない。知り合いも両手の指で容易く数えきれるし、顔と名前を知っているだけの人はいても、部屋に連れてきた人は二人だけ。ティアナとスバルだけだ。知り合いがこの近くに住んでいるはずもなく、また店が遠いことからも、たまたま誰かが通りがかるなんてことはない。だから私は、さほど人の目を気にせずに雪遊びに興じることができたのだ。
 そもそも私の声が好きだと言ってくれるファンの子たちの顔だって覚えていない。むしろスバルにだって二度会うなんて予想していなかった。
 スバルがティアナの友人でなければ、連絡もしていなかったはずだ。そしてスバルがいなければ、私はティアナの連絡先を聞くことも出来なかったかもしれない。ついでという理由をこじつけることができなければ。ティアナとはおそらくそれ以降会うこともなく、あのまま無機質な生活を送っていたことだろう。いや、今と以前がそれほど変わっているとは言い難い。外見やそもそもの生活に変わりなどない。ただ心だけが落ち着かないんだ。
 ティアナに電話をかけて繋がらなかったのは初めてだった。それまで、こちらからかければいつだって連絡が繋がったから、電話をかけてティアナがでないなんてことを予測できなかった。実際にそんなはずはないのに、錯覚は刷り込まれればそのうち錯覚でなくなってくる。
 当然だ、と。電話は繋がって当然なのだと。
 ――ありえない。
 分かっている。でも分かっていなかった。
 今の今ままで、その気になればいつでも会えるだなんて可笑しな考えを持っていたんだ、私は。
 そう思えば、彼女のことが途端に恋しくなるから不思議というもので。呟きが無意識にこぼれる。
「会いたいなあ」
「誰にですか?」
 スバルを見送った後、私は部屋の中に入る気がせずに小さな雪だるまを作っていた。スバルと別れると急激に疲れが襲ってきて、元々だるかった体はさらに重くなった。だが、だんだんと自覚してきていた。
 たぶんこれは風邪。
 理解したのなら、本当はさっさと部屋に戻り、暖かい布団の中でもうひと眠りして体を休めるべき、むしろそうしたかったのだが、自分の中で何かが足らなかった。その何かがわからずに、持て余すように雪を固めて転がしている。背中に声がかかったのは、そんな時だ。
「随分と楽しそうでしたね」
「ティアナ。どうしてここに」
「質問に答えてはくれないんですか」
 私の問いにも答えてくれてないけど、と言いかけて、ふと頭に積った雪に気付く。薄っすらとではあるが、白い雪が、彼女の肩や朱の髪に覆い被さっている。私は普段よりも気合いを入れて立ち上がると、それを払ってやる。何故かその間もティアナに睨まれたのだが、こちらとしてもさっぱり分からない。不機嫌な理由を言ってくれないと応対のしようがなく、気にはなったが黙過することにした。
「ほら、できたよ」と頭にぽんと手を乗せると、渋々ながら彼女は小声でお礼の言葉を口にした。
「こんなに雪が積もるまで……いつからいたの?」
 私は少しだけ口調を強めて言う。長く外にいたのなら、風邪を引いてしまうだろう。自分の言えることではないけれど。
 なのはさんが、とティアナが言う。
「なのはさんが、よくわからないことを叫びながらスバルに雪玉を投げていたあたりから」
「それはまた結構前の話で」
「それから――なのはさんが今みたいに、スバルの頭を撫でているところまで」
 私は反応を忘れたみたいに、ただ聞いている。ティアナが付け加えるように「あとは背を向けて隠れていたので知りません」と言った。
「もっとも笑い声は届いてきましたけど」
 そう言い切った後、ティアナは頭に載せていた私の手を払い、顔ごと視線を外した。彼女の綺麗な顔を、綺麗な髪が覆い隠している。
「誰にでもするんですね。こういうこと」
 それは拒絶だった。
 前髪に隠れた表情は見えなくて。だけど彼女のわななく肩は、きっと感情を表している。それが怒りなのか。
「許可なんてしなければよかった」
 それとも、悲しみなのか。判断はつかない。
 だが理由もはわからなくても、息が詰まり、詰まった息が私を窒息させる。胸が荒縄かなにかで縛り付けられたみたいに呼吸が苦しくなったのは、風邪の所為などではない。
 私はもっと根本的なものを見落としている。何をだろう。一人で雪だるまを作っていた時から感じていることだ。何を、何かが……。
 その何かは深い海に落としたありふれた小石に似て、いくら探ろうとも掴みようがなかった。ただ悲しいことだけはわかる。理不尽と思えるくらいに唐突なティアナの言葉が、ティアナの拒絶がこれほどまでに痛い。でもきっとティアナの方が痛いんだろう。ティアナがこんな、自分をはねのける言葉を口にしたことは今までになかった。なら私は彼女を責めたりはできない。してはいけない。受け入れて、考えなければ。……いけないのに。
 駄目だった。脳が考えることを拒否している。
 だから片頬に手が添えられるまで、自分が泣いていたことにすら気付けなかった。
 自身の涙がティアナの指を濡らしていく。だけど止めることはかなわず、ようやく合わせてくれた目をじっと見詰めるだけで。
「お願いだから、そんなこと言わないで」
 片側だけだった頬が、両手で包まれる。ティアナの手の平は思っていたよりもずっと冷たくて、触れられた唇はそれよりも少しだけ温かい。
「ずるいですよ、なのはさん」
 ああ、そうなんだろうな、って。抱き締められながら、私は彼女の髪に頬を寄せた。
 気付かない内にゆっくりと。だが確実に私の中でティアナの存在は、軽く震撼するくらいに大きなものになっていた。雪が夜中、音もなく降り積もるように。
「許してあげます」
 そして彼女は私を包んだ。

 私がしているのは、空虚に何でもいいから代わりの物を詰め込んでおけばいいと適当なものを投げ込むようなものだった。でも其処らに転がっている石を適当に詰めただけ体は重くなった。本当の石は軽い。石は石ではない。本当の石は水の底に沈めてしまったから、自分では見つけられない。だから落としたはずの石を拾われればどうすればいいかわからなくなる。落とした石を探し出してくれて、掌に乗せてもらえば嬉しい。落としたとはいえその石は確かに大切だし、誰にでも見つけられるというわけではないのだ。
 ただその石は大切だけど、同時に手にしたくないものだった。石は自身を揺るがすものだから、出来るなら落としたままにしておきたかった。
 運命の出会いが、必ずしも素敵なものでないことぐらい知っている。知っていたからこそ、私は薄く浅い関係を求めていたのではなかったか。それなのにどうして私は、スバルではなくティアナを二度目に誘ったのか。 
 私はどうして泣いてしまったのだろう。そして何を間違えたのか。私にはわからない。

 限りなく銀色に近い朱が、暮れる陽を浴びていた。
 まるで彼女が――ティアナが、湖畔の上を白鳥が飛んでいるように見えた自分はどうかしているのだ。だがもちろん、雪の上を飛んでいるのは白鳥などではない。さっきまで不機嫌だったのが嘘みたいに思える程、笑顔を溢れさせたティアナだ。
「なのはさん見てください。雪がいっぱいです」
 ティアナがはしゃいでいる。私はそのあとを追う。
「雪の上を走ると危ないよ」
「大丈夫です。あたしはそんなに間抜けじゃありません」
「それは暗に私のことを指しているのかな」
 お気に入りのジャケットが雪まみれになり、せっかく渇いた涙が再び浮かび上がってしまったのはつい先ほどのことだった。泣き止んだ自分の手を引いてくれようとしたが、私が「もう大丈夫だよ」と言うと、彼女は頷いて小走りに駆けた。あっという間に私は置いて行かれ、慌ててティアナを追おうとして足を強く踏み出すと、途端足が滑った。行き場を失くした力が空回りし、私は派手に転んでしまったのである。おかげで未だに全身が痛い。
 別に普段からこんなに抜けているわけではなくたまたまだ、という言い訳は信じていない様子で、「それよりも凄いですね、こんなに積るなんて」と話をはぐらかされた。
 まだ怒っているのか。
 ――許してあげます。
 ティアナは私を抱き締めながらそう言ってくれた。要するにティアナはやきもちを焼いていたらしいのだが、不思議と不快な感じはせず、素直に受け入れられた。焼かれるのは別に嫌いじゃない。
 とはいえ今は下手なことを言えず、じっと口をつぐんでいると、彼女が不意に振り返った。
「厭味なんかじゃありませんよ、ちょっとした言葉の戯れ合いじゃないですか。それにさっきのなのはさん、ペンギンみたいで可愛かったです」
「ティアナっ?」
 それははたして褒められているのだろうか。
 しかし彼女は返事をせずに、そのまま走っていく。その姿は、可愛らしい白うさぎか何かが跳ねているみたいであり、それ以上口を開けなかったのだからどうしようもない。自分よりもよほど彼女の方が可愛い。
「ほら、なのはさんこっちに来て。雪だるま作りましょう」
 あまりにティアナが笑顔でいるので、楽しそうだねと聞いてみた。私もはしゃいでいる方なのだけど、ティアナはそれ以上だ。ティアナは「はい」と頷く。
「楽しいです。なのはさんは楽しくないんですか?」
「そんなことはないけど、なんとなくティアナはそういう遊びが好きだとは思わなくて」
 言うと彼女は首を振り、「じゃあ何で誘ったんですか」と、さも呆れ顔で言ったが、私は曖昧な返事をしただけだった。だってまさか、ティアナと雪だるまが作りたいからだなんて言えはしないだろう。それも向こうから誘われるのではなく、こちらから強引に誘わなければならないと思っていた。
 私は初めてティアナのこんな稚気に溢れた笑顔を見た。それだけでも収穫かもしれない。
「じゃあ出来たら見せ合いっこしましょうね」
「え、一緒には作らないの?」
「いえ、それはさすがに」
 さすがに?
「そ、そっか」
 なんだ……。
 私が少し落胆していると、彼女が楽しそうに、ふふと笑った。
「なんだか今日のなのはさん、少女みたいです」
「年上なんだけど?」
「可愛いってことですよ」
「……ティアナ。私は向こうで作ってくるから、できたって言うまで来ないでね」
「はい」
 彼女が笑う。自分でも今照れて顔が赤くなっていることくらいわかる。今日はなんだか、褒めすぎだと思うのだけれど。
 私は頭をぼうっとさせながらも、急いでティアナに背を向け、彼女から離れた。
 それから適当な場所に腰を下ろすと、汚れのない奇麗な雪を掻き集めて玉を作る。先に頭部を作った後、頭部より大きめの雪玉を作る。胴体部分にするためだ。胴体が出来上がると上に頭部を乗せた。味気はないが、こんなものだろう。
 とりあえずの完成を迎え、私は息をついた。無理はしていても体はだるい。気持ち悪い。症状は思ったよりも進行しているようだったが、まだ大丈夫なはずだ。もう少し彼女と遊んでいたい。
 出来たと伝えようと思っているところで、ティアナの声が聞こえた。
「なのはさん、こっちはできました」
「ティアナ。うん、ちょうどね、私も」
 立ち上がった瞬間、視界が揺らいだ。ふらりと足もとが揺らいだと思えば、世界が反転していた。映像が切断される。音さえも遮断されてしまう。ドサリと雪の落ちる音がした。雪だるまが崩れた音。
 私はティアナの叫び声さえも聞こえない程遠くに追いやられようとしていた。世界から遠ざけられたように精神を投げられ、雪に背中をつける頃には、私の意識はすべて溶けていた。
 瞼の裏には黒くて赤い色の空。それらが全部混ざり合って、もう何が何か分からない。

 この寒さで雪だるまは溶けない。ただ崩れただけ。
 紅い紅い雪だるまが、他の雪の上に戻っただけだった。


 ⇒6.匣、あるいは水の底に落とした石

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