2017-08

StarDust

なのは×ヴィータです。
あるMADに感銘を受けて思わず自分のヴィータのヤンデレ観を捻じ曲げて書いてしまったSS。

ヤンデレ大好きです。でも人を殺すのは好きではないので自分はもしかしなくてもヤンデレは書けないようです。でも好きなんだ。ということで今度は人死なしで、精神的に追い詰めることにしよう。
ヴィータは凄く一途だから、でもヴィータは何があってもなのはだけは殺さないイメージであります。
なのはを手に掛けるのはフェイトですね。ヴィータはぜったいなのはには何があっても手は出しそうに無い。
今はもう書けない話でもあります。

それでは続きよりどうぞです。



 StarDust


 あいつを見ていた。
 あたしはずっとあいつを見ていたんだ。白い防護服に身を包み、空を舞うあいつの姿を。そうしてその白い防護服が、あたしのそれのように真っ赤に染まっていったのも。
 力の抜けていく手足。温度が失われていくあいつの肌。一度重たく閉じられた目蓋はもう開かない。
 そんな、もう二度と微笑みを見せてくれないんじゃないかっていうあいつを、あたしはずっと見ていた。
 それから同時に、あいつを傷つけるもの全てから守ってやるんだって、決めたんだ。もちろん自分はあいつよりも弱いけれど、それでも役に立ちたかった。
 何でも良かった。
 あいつが傍にいて、笑って。子供扱いは嫌だけど頭を撫でられるのは嬉しい。
 だから、そう。それを得るためならば何でもよかったんだ。
 ――なのは。高町なのは。
 靄が掛かったような視界。今も空は白く霞んで見えはしない。全身を襲う痛みだけが、辛うじてここが夢ではなく現実なのだと気付かせてくれる。僅かに開いた目蓋。睫毛の隙間から覗くあいつの姿は、いつもの笑顔を張り付かせていた。その手にはレイジングハート。切っ先は自分の方向へ。
「ディバイン――」
 それから先は、再び意識が閉ざされて聞き取ることは出来なかった。

    ◇

 いつからだろう。こうなってしまったのは。
 いつからか、なのははあたしを模擬戦と称して魔法の練習台にするようになった。あいつに想いを伝えて、それをなのはが笑顔で受け取ってくれてから、幸せな日々が訪れるとなんの根拠もなく思っていた。以前自分が呟いた『悪魔』などという言葉の片鱗も感じさせない笑顔を向けてくれる。それは凄く嬉しくて、名前を呼んでくれれば反射的に頬が緩んでしまうくらいだった。何物にも変えられない、酷く僥倖な時間。なのはと過ごすことは、はやてといた頃以上に幸せだった。
 だけど金色のやつが現れてからあいつは変わってしまった。現れた、というのは語弊があるかもしれない。金色のやつ――フェイト・テスタロッサはずっと初めからあいつの隣にいたんだ。ある一定の時を越えて、艶やかな金色を二つに結った少女は、いつでもあいつの横にいるようになる。そういえば、なのはと初めて出逢った時にも妨害してきていたか。
 闇の書――今は夜天の書――のページ蒐集の為に魔力の高いなのはを襲ったときに駆けつけたのがフェイトだった。フェイトはなのはの前に立ち塞がって、まるで物語のヒーローみたいに言った。――友達だ、と。やけにはっきりとした声の少女の睨む紅い瞳は、鋭利な刃物を目の前に突きつけているようだった。なのはに手を出したら許さない。そんな無言の制圧だった。事件が終わり和解してからも、その言葉を鵜呑みにしていた自分はフェイトがなのはの隣にいるのは当たり前だと思うようになっていた。
 それが、あまりにも“当たり前”だったのだ。
 例えばなのはがフェイトの腕に抱きついても、それは仲のよい友達同士のじゃれ合いでしかなかったし、抱き合っていてもそれは同じだった。だがあくまでもそれは周りから見てのこと。その頃既に、笑顔を振りまく快活な少女に心を打ち抜かれてしまっていた自分は、当然が当然と思えなくなっていたのだ。
『た、高町なのはっ』
 だからついにあたしは想いを告げた。
『なのは、あたしは……、あたしはなのはが好きなんだ。もうこれ目の前で以上フェイトと仲良くしないで』
『ヴィータちゃん』
 その悪魔の微笑みに、心ごと撃ち落とされていたから。
 大好きななのはに抱き締められて、唇が触れ合うともう駄目だった。今まではどうにか気持ちを殺すことで耐え切れていたものが耐え切れなくなった。でもそれは、やはり周りが言うところの当たり前だったんだと、思う。

 それから後、事故にあってから、もう何度目かわからないくらいお見舞いに行った。
 だけどガラス越しに顔が見えるだけで会話をすることは出来なくて。ようやく目を覚ましてくれたかと思うと、狙ったように自分は管理局の仕事が忙しくなった。もっともそれは自業自得で、今まで溜まりに溜まっていたものが還ってきただけなのだが。
 そんなわけで、折角目を覚ましたというのに、初日以一週間もなのはのお見舞いができずにいた。
 その日あたしはようやく仕事が一段落着いたこともあり、病室に向かっていた。こつこつと軽快な音が廊下に響く。自らの足音さえもどかしい。
 あと少しでなのはの顔が見れる。
 どうしているだろうか、元気にしてるかな、それともまだ寝ているかな。
 様々ななのはの表情や思いを巡らせているうちに、扉の前に来ていた。表札に名前があることを確認してから扉を引くと、それは音もなく開いた。飛び込んでくるのは、栗色の髪の少女のはずだった。だけれども実際にあたしがまず目にしたものは、思考がかき混ぜられるような金色。既に見慣れた髪の色だったが、このときほど見たくないと思ったことはなかった。
 フェイトがなのはのベッドに圧し掛かっている。手は頬に添えられていて、後からだとキスしているように見える。その真実は分からない。きっと声を掛ければ気付くはずだったが、その時の自分に声など出せるはずもなかった。ただ遠くで何かが落ちる音がして。それは自らがなのはにと買ったぬいぐるみと果物だった。
 キスしていたのだということが決定的なものとなったのは、フェイトがこちらを振り向いた時。なのはとフェイトの口は透明な一条の糸で繋がれているのを見てしまったとき。
「な……のは」
 凝縮されていた想いが決壊する。ギシギシに固められていたものがひび割れていく。
「ああ、ヴィータちゃん」
 目の前にあったのは、どうしようもない現実だった。


 結論として、あたしはなのは争奪戦に敗れたのだ。
 気付いてみればあたしの周りは揃いも揃って敵ばかり。
 フェイトだけじゃない。はやてだって、あいつの事を想っている。
 その中であいつはフェイトを選んだ。
 だがそうだと認識できなかったのは、なのはが自分に優しく微笑んでくれたからだ。
 いっそ冷たくあしらってくれれば期待も削がれたのに、なのははそうしてくれなかった。
 ふと気を抜いた瞬間に、好きだよ、と耳元で呟いてくる。以前と変わらぬ動作で頭を撫でてくれる。
 そんな生暖かいなのはの一挙一動に振り回されて、くらくらして。
 もちろんそんなのはただの気紛れで、あいつは変わらずに金色の髪の少女と何度も交わりを繰り返していることも知っている。
 出来るものならとうに拒絶している。
「ヴィータちゃん」
 拒絶したいのに、自分の体は素直にそれを享受していしまう。
 ――だってその悪魔に似た瞳はどこまでも蒼く、自分を射抜いてくるから。結局自分は抗うことなんてできはしないんだ。
「好きだ……なのは。好きなんだよ」
 業火に焼き尽くされていく自分が自然と空に思い描かれていく。
 枯渇した叫びだけが吐き出されていて、だから吸い込むのは毒でもよかった。
「ヴィータちゃん。でも、私にはもうフェイトちゃんが……」
「自分でもどうしようもないんだ。どうにかなりそうなくらい、なのはが好きで仕方がないんだ」
 なのはは無言で、自分を見詰め返す。表情をそぎ落としたような顔は綺麗すぎて人形みたいだった。
 そんななのはでもあたしは欲しくて仕方がない。なのは以外いらない。
 要らないんだ。
「何でもする。だから傍にいてくれよ! あたしは……、あたしはもうなのはがいないと、生きていけないんだよ……っ」
 少し逡巡したように俯いて、なのはは呟いた。
「……じゃあ、これから砲撃の練習台として付き合ってくれたらいいよ」
「は……、え……?」
「ヴィータちゃんの綺麗な体や顔に傷がついたらいけないから、一応非殺傷設定にしておくけどね」
 そう、ちょっと背伸びしたぐらいのモノが、ましてやただのプログラムでしかない自分など、どうやったって悪魔に逆らうことなんてできない。否、逆らう気もない。自分はこの悪魔の全部を愛してしまっている。
 だから受け入れた。
 頬に添えられた手の心地良さに身を委ねると唇が重なり、舌が露出した鎖骨を這っていく。そのまま下りていくのを感じながら、もう操作できる思考は残り少ないのだと理解する。
 脳が余すところなく溶かされていく。もうそれだけでいい。痛みを伴おうと、それを与えてくれるのが彼女ならば、それで。

 そうして送られていく毎日は、自分が望んだものなのだ。
 例えば容赦なく振り上げられる彼女の愛機、レイジングハートだったり。そこから繰り出される、壁にも似た巨大砲撃だったり。
「辛い?でもきっと以前私を撃墜したヴィータちゃんなら耐えられるよね?」
「ああ、……あぁ」
「あはは、よかった」
 にっこりと微笑を向けてくれる彼女が見れるだけで、喜びでいっぱいになる自分は既に壊れているのだと自覚していても。それを正す気などなかった。
「さあ、休まないで。これからでっかいのいくよー」
 なのははあたしをなぶる。紅い宝石のついた杖で、自らの掌から放出した桜色の光でなぶる。たまにその手が首に絡みついて締め付けることもある。
「……」
 念話を送る気力もない。そんな気にすらならない。だって楽しそうだったから。なのはが楽しんでくれるならそれでもいいかって思った。
 あたしは最後になのはの心底嬉しそうな笑顔を眺めながら堕ちていった。


 妖美な瞳が自分を射抜いているのだと認識すれは、瞬く間にそれは確かな快楽へと変貌を遂げていく。
 純白の衣装をひるがえして歩み寄ってくる彼女に、震えつつもどうにか口元を歪め笑みの形にして見せる。情けないところは見られたくない。
 そう。苦痛も恐怖も、彼女が与えてくれるものならば喜んで受け止めたいのだった。
「ヴィータちゃん」
「……なんだ」
「今日もお疲れさま。よく頑張ったね。おかげでちょっと改良できたよ」
「……そうか。それは、よかったな」
「うん。だからご褒美、あげるね?」
 彼女はグローブの装着されたその細い指で、騎士甲冑の取り払われた首筋をなぞった。弱いと知っていて彼女はそこを攻める。
 繊細な手つきからどうやってあの巨大威力の魔砲が繰り出されているのか想像もつかないだろうところではあるが、もはや何度もその身に受けて、威力や実力は嫌というほど知っている。幾度と知れず精神はイカレかけ、意識が飛ばされた回数など到底数え切れるものではない。
 ともすれば、いい加減恐怖が神経を侵してまともな思考回路は出口のない迷路のごとくなりかわってしまっていてもおかしくはない。
 そして実際、全身に鈍痛や疼痛やもう痛みだかなんだかわからない感覚まで起こってきている。
 その中でたった一つ確かなのは、なのはに触れられているということ。
 それだけ理解できていれば十分だった。
「ヴィータちゃんの肌は綺麗だね。思わず傷つけたくなるくらいの白皙な肌だよ。真っ白な手触りのいい肌。大好きだよ」
 言いつつその指先は首筋からすでに下降を始めていて、真紅の衣装をとり払っていく。
 はやてにデザインされた騎士甲冑は自らの誇りでもある。それをこの身から剥がすことを許されているのは高町なのは以外に存在し得ない。
 その間にも身を包む衣装ははらはらと舞い降りていく。
 守護主を失ったそれは地に付し、白に許しを乞う。
「はっ、あ、なにょ……なにょは、ぁ……っ」
 舌足らずに喘ぐ。
 蒼い瞳で見つめられれば、否、初めから拒絶などという選択肢があるはずもなかった。
 彼女の柔らかな舌は胸を這いずり周り、蕾を唇に挟む。強弱をつけながらついばみ、同時に舌で転がされる。
 なすすべはない。あとは堕落の一途を辿るのみだった。
「さて質問だよ」
 差し込まれたままの指が中で停止する。一度上りつめらされた自らの体に制御など利かず、腰が勝手になのはの指を求める。
「ヴィータちゃんは、誰のものかな」
 奥までもっと、もっとと咥えこもうとして、彼女に制止される。
「駄目。答えないとあげられないよ。ねえ、誰? はやてちゃん? それとも他の人?」
「なの、は……」
「大丈夫。答えたら指を、そしてもっといいものもあげるから――欲しくないのかな、これ」
 なのはは指の腹で内壁を僅かに抉る。その感覚に、無理やり押さえ込まれていた感覚が内側から破り抜けようとする。
 どうしてだよ、なのは。こんなことしなくても、知ってるだろ?
 どれだけ痛めつければ気が済むんだ。
 どれだけ虐めて楽しめばお前は満たされるんだ。
 ――どうしたらあたしは、お前に心から笑ってもらえるんだ?
「あたしは……」
 言われるまでもない。
 あたしは……最初からずっと、なのはのものなんだ。

    ◇

 なあなのは。なんでだろうな。
 あたしは今、すごく幸せなんだ。
 お前は白で、あたしは赤。赤は混ざれば簡単に白を染めることができるはずなのに、どうやっても白――なのはを染められない。
 だけど、ほら。目の前のなのはは、あたしと同じ真紅の衣装。お揃いだ。
 純白が染められていく感覚は、とてつもない快感を呼び込んだ。なのはの天使のような寝顔を眺めていると、笑いがこみ上げてくる。

 ――それは偶然ではなかった。
 ――だからといって必然でも運命とも違っていた。
 ――事実だけがそこにあっただけにすぎない。

 その日は朝から小さな箱庭に閉じ込められているかのような灰色の空が天井を覆い尽くしていた。不機嫌極まりない天気に朝から陰鬱な気分に襲われたが、雲は一瞬で晴れてしまう。それは今日これからのことを思えばこそであった。
 なのはに会いに行く。
 それだけが自分の気分を晴れさせていた。
 どれだけ虐げられようともなのはがいればよかったからか、それともすでにそれが快楽へと変貌していたからか。苦しくて痛くて、でもそれがなのはならば耐えられる。望んですらいる。
 なのはの指が咽喉に食い込む度、なのはに殺されるのかと想像する。
 騎士の絆なるものはほつれを見せていて、いつかは消えることになるんだということは分かっていた。それならばなのはに殺されるのはきっと幸せなのだろう。
 きっとそうなれば、私は永遠になのはに覚えてもらえる。
 もっともそれは、なのはに会えなくなるということも意味するので当分は遠慮したいのだけど。

 さてそうこう考えているうちに喫茶翠屋についてしまった。ケーキがおいしいと評判で、なのはの家族が経営している店でもある。
 今日は稀にあるオフである。たまにはとここでなのはと待ち合わせをしていた。しばしそわそわしながら、ウエイトレスさんに苺のショートケーキとチーズケーキをひとつずつ頼んでから待つことにした。
 笑顔とともにお皿が運ばれてくると、動きそうになる食指を押さえ込みながら壁にかかる時計を見やった。
 少し早く来てしまっただろうか、いまようやく約束の時間になったところだった。顔をほころばせながらお茶をすすり、ケーキをひとつ平らげる。それでもまだなのはは現れない。
 きになったあたしはせっせと働くなのはのお母さんである桃子さんに、もしかして知っているかもしれないという僅かな希望を込めて尋ねてみた。
 だが返ってきた言葉は、想像したどれとも違っていた。
「なのは今日は誰とも遊ぶ予定はなかったみたいだけど。あの子ったら忘れているのかしら。多分家にいると思うわよ。最近疲れているみたいだったとはいえ、帰ったらたっぷりお仕置きを――」
 途中から桃子さんが何を言っていたかは記憶していない。ただ“忘れている”という言葉だけが残っている。
 なのはと一緒に食べようととっておいたチーズケーキもそのままに、ふらりと立ち上がる。背中に何か声がかかったような気がしたが、どうでもよかった。
 ――なのは、どうしたんだ?
 なのはがあたしとの約束を忘れるはずがなかった。
 なのはの彼女はあたしのはずだったから。あたし以外いちゃいけねーから。そうだ、桃子さんも言っていたじゃないか、疲れているって。きっと管理局の仕事が辛くて睡眠時間もあまりないんだな体壊してないといいなそうだこれからお見舞いに行ってやろう驚くぞあいつなんたってあたしがお見舞いにいくんだからな特別だから守ってやるから安心しろよなのは――。
 足がなのはの家に向かう。インターホンを鳴らすと姉と思われる人物が出てきてにこやかに挨拶をされる。やはりなのはの家族はみんな笑顔が綺麗だ。なのはには敵わないけど。
 そうだ、なのはだ。
 階段を一段一段踏みしめながら上っていく。近づくなのはの部屋に、そういえばこれが始めてだったと思い当たるが、すぐにそんなことは放り出してしまう。
「なのは、入るぞー」
 可愛らしい文字で書かれたなのはという看板のかけられた扉を引くと、そこにはやはり当然のようになのはがいた。
 だがそこに広がる光景は、そう。どこかで感じた、既視感。
 違うことといえば、なのはの位置が病室でみたそれとは違っていたことぐらいか。
 なのはは半裸で、金色の少女の上に、覆いかぶさって、いた。
 金色の髪の少女は、誰に剥がれたのか――なのはである。なのは以外の誰がいるのだろうか――丸裸同然の状態でなのはを受け入れていた。
 なのはがフェイトテスタロッサと。なんで、どうして。どうして。どうしてどうして。
 どうして、なんだよ。
 焼け付くような痛みが胸をじわりじわりと炙っていくのを感じながら、一方ではやけに頭の中が冷えきっていた。
 急激に熱された狭い個室が同じく急速に冷凍されていく。愛しい人の名前が浮かんでは炙り文字のように消えていく。
 悟らされた現実。――彼女は絶対に自分だけのものにはなってくれないということ。
 気付いた事実。――自分だけのものにする方法。
 そう、簡単なことに今まで気付かなかった自分が笑える。
 大好きななのは。その笑顔で皆を魅了するなのは。皆が大好きななのは。そして皆を大好きななのはが、自分がなにをしたところで自分ひとりのものになってくれるはずがなかったんだ。ああ、馬鹿だなほんとうに。長く生きてきてるはずなのに、本当に馬鹿だった。
 それからあたしは家を飛び出し、はやての家に帰る。自室に戻ってから手にしたのは自分の愛機、グラーフアイゼン。表面をそっと撫でる。慣れた感触に心強さを覚えながら、そうして部屋を出て行く。八神家のインターホンが来客の知らせを教えてくれたのだ。
 確かめるまでもなくそれはなのはだった。
 はやてに心の中で謝罪をしながら、気付けば私は冷静に扉ごとぶち抜いていた。
 追い詰めるようになのはに駆け寄っていく。とっさに防護服を展開したのか、彼女はまだ息をしていた。ぼろきれと化しつつある衣装はそれでもあの炎を掻い潜った白いバリアジャケットと判別できる。なのはの防御は流石だった。だがもう虫の息だった。本来ならば許可のいる殺傷設定での攻撃は、魔力を削るだけに当然とどまらない。周囲は瓦礫の山で、抉れた地面になのはが乗っかっている。性能のいい防護服が守ってくれていただろうからめりこまずにすんだのだろう。
 あたしは手にしたアイゼンを大きく振りかぶって――その綺麗な顔におろした。

 ――鉄槌の騎士。
 いつからかあたしは自分のことをそう呼ぶようになっていた。
 彼女との出会いは一方的なもので、はやてのためと始めた夜天の書の蒐集がきっかけだった。
 彼女は強く、可憐で綺麗な人だった。当時九歳とは思えぬ風貌に驚かされてもいた。外見は九歳のそれであるのに、中身は自分よりもよほど大人だった。もっともそれを認めることが出来たのは、初代リイン=フォースが空に還ってからだろう。
 本当に彼女のすごさを知ったのはもう少し後だった。管理局で働くようになってから、よくコンビを組むようになった頃。
 突撃する自分と、その間に後方からディバインシューターを操作し撃墜し、更にその間にもスターライトブレイカーをチャージし放つ。もちろんスターライトブレイカーを撃つのは最終手段で、たいていはディバインシューターに留められる。それでも威力は強大で、だれもがあたしの攻撃こそが本命だと疑わなかったところに撃ち込まれれば、それは高い効果を発揮する。
『紅の騎士』に『白い悪魔』。
 そのうちにあたしとなのはは、外見からは想像も付かないような呼び名がつけられた。

 どうして自分はこんなことを思い出しているのか、わからない。
 だから勝手に、これはきっとあの時感じた感触を今また感じてしまっているからなのだ、と結論付ける。
 風雪にまみれる彼女の純白が赤く染まっていく。光景としては同じ。手に纏わり付くような血とぐったりと力のこもっていない体の重さも同じだった。
 違うのは、今は夏で雪なんて降っていないということ。彼女の服を赤く染めたのは自分の手によるものだということ。
「ほらみろよ。お前の服、真っ赤だぞ。あたしとおなじ赤だ」
 自分と変わらぬ小さな体を抱きしめる。日を追うごとに、自分と違って成長していくこいつの体に嫉妬したこともある。
 背のびたでしょ?って、笑顔で頭を撫でられては跳ね除けた。
「なんだよ、もっと喜べよ。なかなかないぞ、あたしと同じ服ってのは。紅はあたし専用の名前だったからな。なのははいつも白でさ、ほら、お前も知ってるだろ、管理局の皆に『白い悪魔』って呼ばれてること。白の代名詞っていったらお前だったもんな。赤になっちゃみんな驚くぞ」
 本当は嬉しかったのに。もっと撫でてくれって言いたかった。だけど言葉なんていつだってまっすぐに咽を通ったことなんてなかった。
 捻くれていて、遠回りしながら舌の上を転がり落ちるようにして出てきた。
 言いたいことの何分の一かに薄められた想いは何度届けても伝わらない。
「どっちにしろ悪魔ってのは変わらないけどな。お前が悪魔なのは変わりようがないし、変えられねーよな」
 やっとのことでひねり出したなのはへの想いは、二度も彼女によって捻り潰された。
 崩れた笑いが口元に浮かんできて、何故か焦点はぶれてなのはが見えにくい。
 綺麗な顔。悪魔とは似ても似つかぬ寝顔が眺められない。ぬぐおうとして自らの手にはなのはの血がべっとりと付いていることを思い出し、乾笑した。
 おかしい。他人の血がこの手に付いているのに、不快感など皆無だ。
 この手は主はやてを守る手。
 そんなことはもう大分以前にやめてしまっている。なのはを守ると決めたあの日に――。
「お前は悪魔だ。だから悪魔らしく、あたしを虐めて楽しんでればよかったんだ。あたしだけを、苦しめていればよかったんだ」
 それなのに、なぜ――?
 自分には向けてくれない笑顔をあいつには向けた?どうしてあんなにも優しく扱っていた?
 優しく名前を呼んでくれたのに、優しく頭を撫でてくれたのに。全部嘘だったんだ。
 ああ、でもなんでだろう。腕に抱えたこの人が、やっぱり大好きで仕方なかった。いつまでもずっと、こうしていたくて。
 不意に意識が飛ぶ。降りしきる雷が敵の来訪を知らしめる。誰かは振り向かなくても分かりきっていた。否、きっとあいつは振り向く間も与えさせないだろう。首筋にあてがわれた死神の鎌は、きっとそのまま首を刈っていくだろうから。
 それでもよかった。
 なのはの体温は自分からずっと離れることはないのだ。ずっと、なのははもうあいつのものにはならない。
 腕の中の大切な人を一度抱きしめて、世界は幕を下ろした。




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