その境界線は。
高町なのはを全力全開で愛していく。そんな小説を書いてます。
あやふやな星 2008/04/02
某スレに投下したものを加筆修正しました。
この話はささやかな四期への希望なんだ。
少し短めですが、ヴィータ→なのは。
よろしければ、続きよりどうぞ。
あやふやな星
窓の外に流れ星を見た。
どうしてそれが流れ星だと思ったのか、後から考えてみても分からなかった。
それは鮮やかな薄紅色をしていたのだ。青白く、そして一瞬で消えてしまう流れ星なんかであるはずがなかったのに、あたしはどうしてかそう錯覚してしまった。
ガラス窓に自らの五指をぴたりと張り付ける。それは冷たく皮膚を突き放し、あたしを拒絶する。一枚の薄っぺらいガラスのくせに、……でも構わない。どうせすべては錯覚なのだ。
一度は壊滅した機動六課宿舎も、今ではすっかりと元通りになっていた。
その日、あたしは自室で一日の疲れを癒し、眠ろうとしているところだった。しかし、一瞬だけカーテンを突き抜けるほどの眩しい光を感じ、ふと見れば、夜中にもかかわらず訓練する魔導師の姿があった。誰かを考えるのは、そう難しくない。こんな時間に好んで空を駆けるやつなんて、一人くらいだった。
あたしは軽く舌打つと、主はやてにもらったジャケットを片手に部屋を飛び出す。
無茶はだめだと知っているのに、そしてそれを教え子に言って聞かせているというのに。肝心の自分の身体は痛めることしかしない無謀なあいつの元へ、あたしは走った。そいつはヴィヴィオが眠った頃を見計らって、きっと部屋を出て行ったのだ。
怒りを含んだため息が押し殺せない。奥歯を緩く噛み、廊下を蹴る。
止めても聞かないだろうから、せめて近くで睨んでいてやろう、と。そうすれば加減をしてくれるかもしれないと無駄な期待を抱きながら、あたしは先を急いた。
雲に霞む月明かり。星のない夜空の中、何条もの光が行き交っていた。
しかし光は唐突に消える。若干息を荒げながら辿り着く前に、なのははその光を消した。見ればスバルも一緒にいるようで、訓練を中断したのはその所為のようだ。
安堵と共に微かな苛立ちが生まれるが、まああいつが無茶をするよりはいいかと自身を納得させる。
あたしがそいつに声をかけたのは、スバルが自室に戻ってからだった。
えらく驚いた表情のなのはは、先ほどスバルに見せていたような教官の表情を消し、口元を緩めて微笑んだ。彼女につられて笑い返しそうになった自身を軽く諫め、誤魔化されないぞと睨みをきかす。
「それにしてもヴィータちゃん来てたんだ。もしかしてさっきからいたのかな。あ、隣どうぞ」
なのはは肩をすくめて空き場所を差し出したが、かぶりを振って断る。
「残念。コーヒーもあるんだけどな」
ああ、なのはの入れるコーヒーはおいしいんだろう。そう、危うく揺らぎかける自分を恨めしく思う。
「こんなところで体を冷やしてる場合か。さっさと部屋に戻ってヴィヴィオ抱いて寝てろ」
あたしの当然ともいえる言葉に、「冷たいなあ」となのはが言った。そんな彼女の方に、持ってきていたジャケットを羽織らせてから、彼女の両頬を手で包んでやる。
「冷たいのはお前のほっぺただ、馬鹿」
それから掴んだ頬を引っ張る。海鳴にいた時、なのはの親友がそうしていたように。
無理をして、周りなど見もしないなのはをこちち側に引き寄せるために有効な行為だ、と昔その人に教えてもらったことがあった。
――こうすれば必ずなのはは分かってくれる。じっと瞳を見詰め、覗き込んでやればきっと。
アリサさんの言葉は、今でも時折思い出すことがある。なのはと一番近かったのは、彼女のような気もした。だけど一番近かった、故に一番離れてしまったような。
アリサさんはいつか、なのはに内緒でそうあたしに話してくれた。今でこそ会うことは滅多にないが、海鳴にいる時にはよく遊んだりしていた。素直になれないところが自分と似ていた。そしてなのはのことを一番に気にかけ、心配しているということは同じだったのだ。お互い言い合ったことはないけれど、会話の端々で伝わってきていた。
フェイトとは違う想いで、彼女なりになのはを想っていた。そしてあたしも。
「ごめんね、ヴィータちゃん」
手を離すと、なのはが静かに瞼を伏せて言った。外灯にあぶられた長いまつげが、綺麗に目の淵を飾っていた。ただそれでも、滲んだ疲れは隠し切れていなかった。そのことにあたしは胸を撫でおろす。こいつが完全に隠蔽しようとしたら、誰も気付くことができないのだ。
一番怖いのは、それだった。
だから見せてくれるうちはいい。自分たちに頼ってくれているうちは。
「帰ろう、ヴィータちゃん。大丈夫、そんな顔をしないで。もう無理はしないよ」
「ああ」
カタコトの返事。頷きながら、なのはの手を引いてやる。
「ヴィータちゃんの悲しい顔を、私は見たくないよ」
「同じだな」
「うん、おんなじ」
空に星はなく、月だけがぼんやりと浮かび上がる。頼り無げな月明かりは、光を証明するには弱かった。すべてを吸い込んでしまいそうな夜は寒く、なのはの体を蝕んでいく。あたしはそれが怖い。
もしかしてなのはを護ろうという気持ちは、恐怖からくるものではないかと思うこともある。だって空に光がないと、誰だって不安になるだろう?
何度も考えた。そんな愚かしい問いを脳で巡らせては、はやてに要らぬ心配もかけた。でも今は違う。今は、迷わずにちゃんと言える。なのはの笑顔を失いたくないからだ、と。もうこの手の暖かさがなくなってしまうなんて考えられないのだ。
ゆりかごから脱出した後の、ヘリの中。ヴィヴィオを抱えながら、ぼろぼろのなのはを見て、それでも生きて笑っていることにどれだけ安堵したか。
「あのヴィータちゃん。ちょっと手、痛いかも」
「うっせー、これくらい我慢しろ」
「……はあい」
こいつは何も知らないのか。知っていてこんなことをしているのか。あたしにはやっぱり分からないけど。とりあえずはこの先も、目の届く場所でこいつを見ていたいとこっそり願った。
× あとがき ×
ヴィータとアリサは海鳴にいた頃、仲良かったんではないかなと想像しています。
初めは喧嘩をよくしたり、言い合いをしただろうけど、気があう二人だと思う。
ヴィータがミッドチルダに移住してからは会うことはなさそうだけど、たまに海鳴に戻った時には、一番に会いにいったりして。そんなヴィータを、お姉さんみたいにアリサがからかって。とか。
さてこの話は、コミック二巻のエピローグで、ヴィータとなのはがお揃いの教導隊制服を着ていたことから書きました。話を受けた時のヴィータの想いを想像しながら。
ヴィータは同じ職場でも、きっと一途な想いを貫きとおしてくれる、と思ってる。
この話はささやかな四期への希望なんだ。
少し短めですが、ヴィータ→なのは。
よろしければ、続きよりどうぞ。
あやふやな星
窓の外に流れ星を見た。
どうしてそれが流れ星だと思ったのか、後から考えてみても分からなかった。
それは鮮やかな薄紅色をしていたのだ。青白く、そして一瞬で消えてしまう流れ星なんかであるはずがなかったのに、あたしはどうしてかそう錯覚してしまった。
ガラス窓に自らの五指をぴたりと張り付ける。それは冷たく皮膚を突き放し、あたしを拒絶する。一枚の薄っぺらいガラスのくせに、……でも構わない。どうせすべては錯覚なのだ。
一度は壊滅した機動六課宿舎も、今ではすっかりと元通りになっていた。
その日、あたしは自室で一日の疲れを癒し、眠ろうとしているところだった。しかし、一瞬だけカーテンを突き抜けるほどの眩しい光を感じ、ふと見れば、夜中にもかかわらず訓練する魔導師の姿があった。誰かを考えるのは、そう難しくない。こんな時間に好んで空を駆けるやつなんて、一人くらいだった。
あたしは軽く舌打つと、主はやてにもらったジャケットを片手に部屋を飛び出す。
無茶はだめだと知っているのに、そしてそれを教え子に言って聞かせているというのに。肝心の自分の身体は痛めることしかしない無謀なあいつの元へ、あたしは走った。そいつはヴィヴィオが眠った頃を見計らって、きっと部屋を出て行ったのだ。
怒りを含んだため息が押し殺せない。奥歯を緩く噛み、廊下を蹴る。
止めても聞かないだろうから、せめて近くで睨んでいてやろう、と。そうすれば加減をしてくれるかもしれないと無駄な期待を抱きながら、あたしは先を急いた。
雲に霞む月明かり。星のない夜空の中、何条もの光が行き交っていた。
しかし光は唐突に消える。若干息を荒げながら辿り着く前に、なのははその光を消した。見ればスバルも一緒にいるようで、訓練を中断したのはその所為のようだ。
安堵と共に微かな苛立ちが生まれるが、まああいつが無茶をするよりはいいかと自身を納得させる。
あたしがそいつに声をかけたのは、スバルが自室に戻ってからだった。
えらく驚いた表情のなのはは、先ほどスバルに見せていたような教官の表情を消し、口元を緩めて微笑んだ。彼女につられて笑い返しそうになった自身を軽く諫め、誤魔化されないぞと睨みをきかす。
「それにしてもヴィータちゃん来てたんだ。もしかしてさっきからいたのかな。あ、隣どうぞ」
なのはは肩をすくめて空き場所を差し出したが、かぶりを振って断る。
「残念。コーヒーもあるんだけどな」
ああ、なのはの入れるコーヒーはおいしいんだろう。そう、危うく揺らぎかける自分を恨めしく思う。
「こんなところで体を冷やしてる場合か。さっさと部屋に戻ってヴィヴィオ抱いて寝てろ」
あたしの当然ともいえる言葉に、「冷たいなあ」となのはが言った。そんな彼女の方に、持ってきていたジャケットを羽織らせてから、彼女の両頬を手で包んでやる。
「冷たいのはお前のほっぺただ、馬鹿」
それから掴んだ頬を引っ張る。海鳴にいた時、なのはの親友がそうしていたように。
無理をして、周りなど見もしないなのはをこちち側に引き寄せるために有効な行為だ、と昔その人に教えてもらったことがあった。
――こうすれば必ずなのはは分かってくれる。じっと瞳を見詰め、覗き込んでやればきっと。
アリサさんの言葉は、今でも時折思い出すことがある。なのはと一番近かったのは、彼女のような気もした。だけど一番近かった、故に一番離れてしまったような。
アリサさんはいつか、なのはに内緒でそうあたしに話してくれた。今でこそ会うことは滅多にないが、海鳴にいる時にはよく遊んだりしていた。素直になれないところが自分と似ていた。そしてなのはのことを一番に気にかけ、心配しているということは同じだったのだ。お互い言い合ったことはないけれど、会話の端々で伝わってきていた。
フェイトとは違う想いで、彼女なりになのはを想っていた。そしてあたしも。
「ごめんね、ヴィータちゃん」
手を離すと、なのはが静かに瞼を伏せて言った。外灯にあぶられた長いまつげが、綺麗に目の淵を飾っていた。ただそれでも、滲んだ疲れは隠し切れていなかった。そのことにあたしは胸を撫でおろす。こいつが完全に隠蔽しようとしたら、誰も気付くことができないのだ。
一番怖いのは、それだった。
だから見せてくれるうちはいい。自分たちに頼ってくれているうちは。
「帰ろう、ヴィータちゃん。大丈夫、そんな顔をしないで。もう無理はしないよ」
「ああ」
カタコトの返事。頷きながら、なのはの手を引いてやる。
「ヴィータちゃんの悲しい顔を、私は見たくないよ」
「同じだな」
「うん、おんなじ」
空に星はなく、月だけがぼんやりと浮かび上がる。頼り無げな月明かりは、光を証明するには弱かった。すべてを吸い込んでしまいそうな夜は寒く、なのはの体を蝕んでいく。あたしはそれが怖い。
もしかしてなのはを護ろうという気持ちは、恐怖からくるものではないかと思うこともある。だって空に光がないと、誰だって不安になるだろう?
何度も考えた。そんな愚かしい問いを脳で巡らせては、はやてに要らぬ心配もかけた。でも今は違う。今は、迷わずにちゃんと言える。なのはの笑顔を失いたくないからだ、と。もうこの手の暖かさがなくなってしまうなんて考えられないのだ。
ゆりかごから脱出した後の、ヘリの中。ヴィヴィオを抱えながら、ぼろぼろのなのはを見て、それでも生きて笑っていることにどれだけ安堵したか。
「あのヴィータちゃん。ちょっと手、痛いかも」
「うっせー、これくらい我慢しろ」
「……はあい」
こいつは何も知らないのか。知っていてこんなことをしているのか。あたしにはやっぱり分からないけど。とりあえずはこの先も、目の届く場所でこいつを見ていたいとこっそり願った。
× あとがき ×
ヴィータとアリサは海鳴にいた頃、仲良かったんではないかなと想像しています。
初めは喧嘩をよくしたり、言い合いをしただろうけど、気があう二人だと思う。
ヴィータがミッドチルダに移住してからは会うことはなさそうだけど、たまに海鳴に戻った時には、一番に会いにいったりして。そんなヴィータを、お姉さんみたいにアリサがからかって。とか。
さてこの話は、コミック二巻のエピローグで、ヴィータとなのはがお揃いの教導隊制服を着ていたことから書きました。話を受けた時のヴィータの想いを想像しながら。
ヴィータは同じ職場でも、きっと一途な想いを貫きとおしてくれる、と思ってる。
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