その境界線は。
高町なのはを全力全開で愛していく。そんな小説を書いてます。
君は空しか知らない、僕は大地しか知らない 2008/04/22
今日は自分の誕生日かもしれない。
でもそんなの関係なくSS更新です。そこそこの長さがあります、初スバル。
タイトルはLumiere様よりお題「大空に舞う、」からお借りしました。
スバなのに需要あるかなんて別にいいんだ。
いや、きっとあると信じてる!アンケートにも書いてくれてたし。
何より、なのはさん愛され小説サイトを自称するなら、スバルも書かねばという思いがありまして。
時系列的にはゆりかご突撃前の話です。
スバなのは上司と部下の関係を越えるのは難しいので、恋愛要素は薄め。
スバルから見たなのはさんって、結構ドライだから。
そんなでもよければ続きよりどうぞ。
君は空しか知らない、僕は大地しか知らない
憧れたあの人には青い空が似合う。
だからこんな曇り空は、一刻もはやく晴れてほしかった。
あの人はこのあと空に上がる。私と同じよう、大切な人を取り戻すための白い翼を背に負い、薄紅色の羽根を散らして飛び上がる。もちろん私に見守る権利はなく、その能力もない。私は地面を駆けるしか知らなかった。
でもそれでいい。私はあの人に似せた白い防護服を纏い、全力で走るだけだった。
◇
暗く閉ざされた場所で、私は初めてあの人と出会った。
赤々と燃え盛る炎に囲まれ、倒れくる銅像に身を屈めた私を救ってくれたその時。まだ幼かった私を抱え夜空に上がったあの人の胸は、命からがらという状況だったにもかかわらず落ち付いたのを覚えている。視線をずらせると、その人の背には夜空が広がっていた。夜天に散らばる星の群はあまりに多く、今にも降ってきそうで怖かった。だけれどもその直後に見たあの人の微笑みは、そんな不安をかき消し、怖がりの自分に安堵をもたらせるには十分なものであった。
救助隊の人だと思っていた。
教導官だと知ったのは既に救助隊を目指した後のことだ。何気なくとった雑誌になのはさんの特集が組まれており、写真付きで掲載されていた。管理局を目指す私がちょっとした情報収集のために手にとったのだ。『管理局通信』の見出しには“不屈のエースオブエース”と大きな文字で書かれていた。
弱冠十七歳にして管理局のエースである戦技教導隊所属の高町なのは。
そんな説明が写真の側にはあった。私は雑誌を歪むくらいに握って震撼し、一方で改めて見る素敵な人に心を躍らせていた。その後も度々そんな機会があった。あの人はどうやら局で有名らしい。
雑誌の写真は切り抜きお守りにすることにした。出来る限り持ち、一日一度はあの人の写真を見る。笑みを口元に浮かべるなのはさんの瞳の奥に流れる光に焙られるようにして、憧れは段々と強いものになっていった。
――なのはさん。
空を駆けるあの人の名前を口にするのは、どんなまじないよりも頼もしい。
憧れから、私は初めはなのはさんのように航空魔導師を目指そうとしていた。後に自分に適正がないことが分かり、地面を駆けることしか選べなかったが、『なのはさんみたいな魔導師に』という希望は崩れることなかった。ならば、と逆に自分を奮起させる。
自分は地上を行く。地を踏み締め、駆け抜けていくだけだ。誰よりも速く、誰よりも強く。それが私に出来ることであると。何より自分には母や姉が教えてくれたシューティングアーツ、人とは違う身体があったから。
遠くの空を見上げながら走り続けた日々。いつしか三年が経っていた。
出会いは突然とよく言うけれど、まさか自分が体感することになるとは思わなかった。
晴天から舞い降りた天使は緩やかに微笑み、頭を撫でてくれた。四年も前の、それも混乱の最中で一度きり会っただけの自分を覚えてくれていた。その時の私の中には、嬉しいという単純な感情しかなかった。
まさに夢見心地だった。遠い空に見ていたあの人が目の前にいる、覚えてくれている。まるで夢のようではないか、と思う。実際に夢に見たこともあったが、その時は名前を呼んでくれなかった。だから分かった。呼んでくれた名前の暖かさに現実だと知り、私は泣いた。
そして私とティアは機動六課に誘われた。
多くの事の、始まりだった。
なのはさんと同じ部隊に所属することになって、それは色々な事が起こった。
模擬戦で一緒に訓練してきたパートナーが無残に撃墜され(その時はそうとしか見えなかった。実際にはティアナの体が傷つかぬようフォローされていたのに)、自分たちの努力を否定されたような気分になったこともあった。それまでの並々ならぬ憧れが揺らいだ。そして睨みをぶつけてしまったことも……。だけどそれは自分があの人をいかに見ておらず、また考えてもいなかっただけであった。あの人はあんなにも、私たちの事をずっと見てくれていたというのに。
――まだ私が機動六課に入って最初の頃、憧れたあの人はそのまま強く優しく見えていた。訓練をつけてもらう度に自分の力の無さを悔み、少しでも追いつけるよう努力した。自分なりにティアというパートナーと、同じフォワードのエリオとキャロと一緒に頑張っていったつもりだった。
星の名前を冠したあの人の分隊で働けることに嬉しさを感じていた。とはいえ、やはり隊長との距離は決して近いものではなかったのだが。
一ヶ月という時間を過ごしてきたが、高町なのは教導官の素を一度でも目にすることはなかった。
「今日もなのはさん格好よかったなあ、訓練はきつかったけど」
「凄いとは思うし、強さも認めるっていうか強すぎるんだけど、それでもあたしにはあんたがそこまで憧れる理由がいまいちわ分からないわ」
ティアの言葉に私は首をひねる。
「なんで?」
「気に入らないのよ、ただ。別に理由なんてないけど……あの人には、あんなに強い人にはきっとあたしたちの苦労とか絶対に分からない」
これは当時ティアが愚痴のように呟いた言葉だった。その時私はなのはという人を盲信していたから気付かなかったが、今はそうかもしれないと考える。
「そうかなあ、なのはさんは優しいよ」
「……どうだかね」
ティアはそう言っていたが、私にとってなのはさんはやはり憧れの存在だった。
あの人はいつも私たちの前ではは凛とし、格好良くあった。普段は優しく微笑んだ。でもティアは相変わらずなのはさんのことをあまりよくは思っていなかった。そしてあの事件が起こった。
ティアの、あの人を見る目や態度が変わったのは、模擬戦で打ちのめされた翌日のことだった。ティアはそれからなのはさんのことを、今までよりもずっと真剣に見詰めるようになった。
出会う前も出会ってからも、あの人は強くあった。出会った後では強いだけじゃなく、厳しくて優しい人だということも知った。はるか上空にいながら、確かなものを投げかけてくれた。私もそれを受け取った。そのうち自身の中にある憧憬は時間が経つにつれて、静かな熱を持つようになる。
そうにして今に至る。機動六課が壊滅して、ちょうど六日後の今に。
◇
六課壊滅から一週間が経つ日の午後。私たちに出動命令が下った。フォワードメンバーが一列に並べられた、スターズ隊長・副隊長が声を上げる。私たちを渇する言葉をかけてくれる。
話の最中、隊長達は私たちに目を瞑るよう言った。
閉じた瞼の裏側に浮かぶのはきつい訓練と、必死で伝えようとしてくれている人達の姿。鮮明すぎる光景が映しだされ、眉が歪められる。だがそれは、自分たちが今まで頑張ってきたことの記録だ。跳ね除けるようなものではない。隊長は辛い訓練を思い出させることで「十分に強くなった」と教えてくれているのだ。一度信じ切れなかった自分たちのために――というわけではないかもしれないけれど。
行ってこい、とヴィータ副隊長が言う。フォワードメンバーが応答し、配置に向かう。しかし私は留まった。今この場にいるのは、私となのはさんだけだった。副隊長は気を利かせてくれたのか、先に行くと残して去った。
俯いた視線の私に、留まってくれたなのはさんが近づいてくる。
「スバル……ギンガのこともあるし、きっと」
「あっ。ち、違うんです」
私がかぶりを振ると、僅かになのはさんは息を詰まらせたかのように「え、」と小声を漏らした。
ギン姉のことは確かに心配だけど、でもそうじゃない。そうじゃないんです。私が考えているのは、頭にあるのはなのはさんのことだった。ヴィヴィオを想うなのはさんのことが、私は心配で仕方がなかった。それが残った理由だった。
憧れ、尊敬する人が暗い顔を隠していて心配にならないわけがない。
なのはさんは自分に関してだけいえば、表情を曇らせることはなかった。どんなに懐かれ、気にしていた子が連れ去られようと、その心の落ち込みを僅かでも漏らすことはない。決して、だ。一見すれば冷たくも見えるなのはさんの心を、ではなぜ私が心配できるのか。普段のなのはさんなら、心配すらさせないのに。
複雑な思考の苦手な自分が、それでもなのはさんを心配する理由は簡単だ。その場面を見たからだ。偶然ではない場所で、私は見てしまった。焼けたうさぎを虚ろに眺めていたなのはさんの姿を。
もし私がその場面を見ていなければ、本当に何も感じていないと考えたかもしれない。常に冷静で、熱くなることもなく悲しみも最小限抑え、娘同然の子が攫われても仕事のことだけを考えている上司、と。私は誤解をしたかもしれない。そんなことあるはずもないのに、なのはさんならと邪推して。
まだ完全な治癒がすんでおらず、腕を動かせば僅かに痛みが走った数日前……たしか襲撃事件の二日後くらいだっただろうか。ヴィヴィオが攫われたということを聞いてから少し経った日だ。
ヴィヴィオのことを聞くまで、思考の大部分占めていたのはギン姉だった。
ガラクタのように頭を掴まれ、箱に押し込まれるギン姉。暴走して戦闘機人モードになっても取り戻せなかったギン姉。大好きな姉を助けるには、私はあまりにも弱かった。
安静にと言われたもののいてもたってもいられず、どうにか歩き回れるほどに回復したのを見計らって夜中に病室を抜け出し、なのはさんを探した。といっても当てもなく放浪するわけにもいかない。エリオやキャロに通信を入れ、なのはさんの居そうな場所を教えてもらった。
ティアには言えない。ティアに言えば大人しくしてなさいと言われるに違いなかった。
しかしエリオやキャロも位置を把握しているわけはないから、忙しくしているなのはさんを見つけるのは簡単ではなかった。神経ケーブルも完全に修復がされていたわけではなく動きづらかったし、辿り着くまでにかなりの時間を要してしまった。
私がなのはさんを見つけたのは暗い部屋でだった。
なのはさんがこんな暗い場所にいることが信じられなかったが、真っ直ぐな背筋と長いサイドテールをしたこの女性はまぎれもないなのはさんであった。私が憧れた背中が扉を少し開けた向こうにある。私が部屋に足を踏み入れようとして、しかし思いとどまった。
なのはさんは何かぼろくずのようなものを手にしている。よく見れば焼けたぬいぐるみのようで、それには見覚えがあった。――うさぎ。ヴィヴィオが大切そうに抱えていたうさぎ。
ヴィヴィオ、となのはさんが呟いた。
表情は見えない。まとっている雰囲気だけで、なのはさんの気持ちを悟る。闇に溶けた呟きが、哀しいといっている。私の錯覚かもしれなかった、子を攫われた母は悲しむものだという常識を取りこんでしまったのかもしれない。でも、なのはさんがあからさまに表情を歪める想像を、今になるまでできなかったのだ。想像ではない。
なのはさんが持っている“かつてうさぎのぬいぐるみであったもの”は、今は攫われたヴィヴィオがいつも抱えていたものだった。両腕に大事そうにし、片時も離さなかったぬいぐるみの残骸だった。なのはさんがプレゼントしたものだと聞いている。それを眺め彼女は何を想っているのか、なのはさんはぼうっと見つめている。
こうしたことを目の当たりにして、ようやく私は事実を飲み込んだ。
彼女は誰にぶちまけるでもない、一人で悲しみを飲み込んでいたのだ。親友には――特に親しいフェイト隊長あたりには見せたかもしれない弱い部分を、私たちに見せることは決してない。
何よりなのはさんは助けを呼ばない。誰にも求めない。許可がだされたなら、きっと単身ででも乗り込んでいく不思議な確信があった。
よく自分は根拠もない確信を打ち立てることがある。親友にはしばしば馬鹿にされたが、正そうと思ってできるものではなかった。この時もそう、ただ自然に入り込んできたのだった。
あえて理由付けをするならば、ひとつだけ。“あの人は部下に完全には心を見せない”ということだ。
なのはさんの涙も全開の笑みも、私たちは……少なくとも私は見たことがない。幼い部分だって海鳴への出張任務があるまで見たことがなかった。それさえ直接的なものではなく、なのはさんの家族や親友に対して向けるものを覗き見たような形でしかなかった。
恐ろしく悲しい確信だった。
ヴィヴィオ、と私が呟いた。
こうしている間も、なのはさんの頭の中にあるのはヴィヴィオだけ。ヴィヴィオを助け出すのは自分一人だと考えこんでいる。誰にも見えない彼女の心の中の奥深くにまでヴィヴィオは入り込んだのだ。私は不謹慎ながらヴィヴィオを羨んだ。なのはさんにあんな笑顔をさせるヴィヴィオの存在というのは何なのだろうと。
一度、まだ六課宿舎が壊滅していない平和な頃に、なのはさんと二人きりになった日があった。二ヶ月近くも前の話だが、なのはさんのことをママと呼ぶようあった日であり、よく覚えている。
ティアは部隊長に連れられて本局に、副隊長達はオフシフトで、ライトニング部隊は現場調査に出かけていた。そのため六課主力メンバーはがらんとしていた。オフィスでにこやかに「前線メンバーは私とスバルだけだね」と笑ったなのはさんは可愛らしかったが、不安も僅かにあり、思わず顔を引き攣らせてしまった。
ともあれなのはさんと二人というのは貴重だ、と素直に喜ぶことにする。なのはさんがいれば無敵に近いし、危ないなら私が護ればいい。
こっそりと意気込みはするが、相変わらず六課には空平穏な気が流れていた。昼食をヴィヴィオと食べるためにと寮へ戻るなのはさんに同行し、外を歩く。その後に起こる襲撃事件が嘘のように、ゆったりとした青空が広がっていた。なのはさんの瞳をのぞきこんだら、こんな青をしているのだろうか。などとどうでもいい事を考えているうちに、寮へ着いていた。
なのはさんはそこで、ヴィヴィオのママになることを選んだ。『保護責任者』をあくまでもヴィヴィオに分かりやすい言葉に置き換えただけだろうが、実質的には変わらなかった。普通と違う体のヴィヴィオは、なかなか受け入れてもらえない。でもなのはさんはヴィヴィオを受け入れた。
私の中にふつふつと湧き立つ何かを感じた。
なのはさんとヴィヴィオが笑い合ってサンドイッチを食べているのを見ていると、胸が熱くなった。頬が弛緩する。この光景を護りたいと思う。
――でも護れなかったのだ。
目の前にある現実が、そう私に突きつけている。
親子のちいさな戯れ一つ、護ることができなかった。私は何をしていたのだろう。訓練して訓練して、心構えを教えてもらって。ギン姉を攫われてしまったのも、ヴィヴィオを連れていかれたのも、なのはさんの教導に落ち度があったからではもちろんない。単純に私に力が足りなかったせいだ。それだけだ。
出動前。次元航空艦アースラのフロアで、なのはさんと二人向かい合っている。
「スバル」
なのはさんが目の前で片眉を下げて私に視線を向けてくれている。ぐっと拳に力を入れた。
「ギン姉は大丈夫です、あたしが助けます。今はなのはさんとヴィヴィオのことが……」
今度は自分一人で突っ走らないように、マッハキャリバーと一緒に助けに行く。ギン姉は私が今度こそ絶対に助けるから、安心してほしいと思う。でもヴィヴィオは違う。ヴィヴィオの方は配置が違うことから直接の救出はできなかった。ヴィヴィオは空を飛ぶゆりかごの中、玉座の間にいる。だからこそなのはさんは空へ上がる。
心配だった。心配などできる身分ではないと分かっていても、せずにはいられない。憧れたこの人はエースオブエースで、だというのにいいようのない不安が胸をのしてくる。
一緒に行動出来たらこんな心配はないのだろうか。無理だということは分かっていた、だからせめて元気づけようとした。卑小な自分では完全に励ますには足りないかもしれないけど、少しだけでもよかった。
ほんの一瞬でいい。エースの顔を崩して、行ってくるよ、という言葉を期待した。
でももちろん叶わなかった。
「なのはさん。あたし、なのはさんとヴィイオが心配で、どうしようもなくて。でもそれは助けられないかもっていうんじゃなくて、わたしはただ……なのはさんが」
「……スバル」
私が言えたのは励ましの言葉などではなく、情けない泣き言だった。
「ありがとうスバル、でも大丈夫。ヴィヴィオは絶対に私が助ける。だから心配ないよ。スバルの憧れてくれたなのはさんは、無敵のエースだから」と言い、彼女は私の頬に手を当てがう。
短いやり取りの中に、ひとつの真実を見つけてしまった。
――私はきっと。この人のことが気になるだけなんだ。
頬に当てられる手は少しひんやりとしていた。あるいは私の頬が熱を持っていたのかもしれないが、高ぶった体には心地良い温度で、頭を冷やしてくれた。別の意味での沸騰を促進はしたが、ここでの問題ではない。
なのはさんの『無敵のエース』という言葉と、自身の頬を包む手が私の心を安らげてくれる。本当は私が励ましたかったのに、無理だった。それどころか逆ですらあった。
「エース……」
「そうだよ。それにスバルだってうちの自慢のフロントアタッカーなんだからね、心配しないで。自信を持って、そして」
なのはさんは何かの合図のように、私の前に拳を突き出した。自身の拳をぶつけると、なのはさんの気合いが拳に伝わってくる気がする。不屈のエースオブエースの気合いをもらったのだ、と私は思う。
「相棒と、マッハキャリバーと一緒に、負けないで頑張ってきて!」
そうなのはさんがエースらしく言った。私も彼女のように気丈に言うつもりだったが、吐き出されたのは「行ってきます」という小さく渇いた声だった。
青い空に点在する白い雲があった。
晴れた空。でもそこにはたくさんのガジェット達やゆりかごがある。完全な晴天ではない。
ヘリが唸りを上げている。ヘリは私を飲み込むと一層激しい音を響かせた。構わず私はそれに乗り込む。席に近づくと、滲んだままの視界にティアの姿が見えた。
気付けば音はそのうち静まっている。現実と非現実との間にカーテンが下ろされたみたいに。
あの人が包んでくれた頬に流れる涙を、静けさが拭う。ぶつけた拳におさまる相棒が心を落ち着ける。パートナーが馬鹿ね、といつもの調子で、彼女なりの言葉で励ましてくれる。私はいろんなものに守られている。
だからこれから護りに行く。そして取り戻しに行く。これ以上誰も悲しまないように、全部私が護るんだ。「この手の魔法は悲しみを撃ち抜く力」だと教えてくれたあの人が、安心して空を駆けていけるように。
私は壊すためではなく護るために拳を握り、地面を蹴る。
× あとがき ×
スバルは途中でなのはさんのこと憧れてるって描写なくなってたようなきがしました。
23話であったかな。20話では憧れというか、なんだろうあれは。
初めの方のスバルは、なのはさんのことあんまり分かっていない気がする。それがティアナとなのはさんが和解したあと、スバルのなかでなのはさんはどんなふうに変わっていったのだろう。そして14話でなのはとヴィヴィオと一緒にごはんを食べるとき、スバルはなぜあんなにもにこにこ顔で二人を見ていたのか。
いまいち自分にはスバルの心の中が読み取りにくい。なのはキャラの中でも、特に読めない思考の持ち主です。話によっては一歩間違えば雰囲気の違ったキャラになりかねない。
元気キャラかとおもえばおとなしかったり簡単にしょげたり、頼り無いかといえばそうではないらしく、ティアナとの関係も、支えているのはスバルで、フォワードで護ろうという意識が強いのもスバルのようで。
難しいです、本当。考えれば考えるほど首をひねってしまうような。シリアスでスバルを書くときは注意しないと、気付けばなんだこれという風になっていそうで怖い。
……ということがわかりました、今回。
次はもっと恋愛要素入れれるといいな。でもスバルはまっすぐだからティアナみたいに歪んだ愛がかけない。
でもそんなの関係なくSS更新です。そこそこの長さがあります、初スバル。
タイトルはLumiere様よりお題「大空に舞う、」からお借りしました。
スバなのに需要あるかなんて別にいいんだ。
いや、きっとあると信じてる!アンケートにも書いてくれてたし。
何より、なのはさん愛され小説サイトを自称するなら、スバルも書かねばという思いがありまして。
時系列的にはゆりかご突撃前の話です。
スバなのは上司と部下の関係を越えるのは難しいので、恋愛要素は薄め。
スバルから見たなのはさんって、結構ドライだから。
そんなでもよければ続きよりどうぞ。
君は空しか知らない、僕は大地しか知らない
憧れたあの人には青い空が似合う。
だからこんな曇り空は、一刻もはやく晴れてほしかった。
あの人はこのあと空に上がる。私と同じよう、大切な人を取り戻すための白い翼を背に負い、薄紅色の羽根を散らして飛び上がる。もちろん私に見守る権利はなく、その能力もない。私は地面を駆けるしか知らなかった。
でもそれでいい。私はあの人に似せた白い防護服を纏い、全力で走るだけだった。
◇
暗く閉ざされた場所で、私は初めてあの人と出会った。
赤々と燃え盛る炎に囲まれ、倒れくる銅像に身を屈めた私を救ってくれたその時。まだ幼かった私を抱え夜空に上がったあの人の胸は、命からがらという状況だったにもかかわらず落ち付いたのを覚えている。視線をずらせると、その人の背には夜空が広がっていた。夜天に散らばる星の群はあまりに多く、今にも降ってきそうで怖かった。だけれどもその直後に見たあの人の微笑みは、そんな不安をかき消し、怖がりの自分に安堵をもたらせるには十分なものであった。
救助隊の人だと思っていた。
教導官だと知ったのは既に救助隊を目指した後のことだ。何気なくとった雑誌になのはさんの特集が組まれており、写真付きで掲載されていた。管理局を目指す私がちょっとした情報収集のために手にとったのだ。『管理局通信』の見出しには“不屈のエースオブエース”と大きな文字で書かれていた。
弱冠十七歳にして管理局のエースである戦技教導隊所属の高町なのは。
そんな説明が写真の側にはあった。私は雑誌を歪むくらいに握って震撼し、一方で改めて見る素敵な人に心を躍らせていた。その後も度々そんな機会があった。あの人はどうやら局で有名らしい。
雑誌の写真は切り抜きお守りにすることにした。出来る限り持ち、一日一度はあの人の写真を見る。笑みを口元に浮かべるなのはさんの瞳の奥に流れる光に焙られるようにして、憧れは段々と強いものになっていった。
――なのはさん。
空を駆けるあの人の名前を口にするのは、どんなまじないよりも頼もしい。
憧れから、私は初めはなのはさんのように航空魔導師を目指そうとしていた。後に自分に適正がないことが分かり、地面を駆けることしか選べなかったが、『なのはさんみたいな魔導師に』という希望は崩れることなかった。ならば、と逆に自分を奮起させる。
自分は地上を行く。地を踏み締め、駆け抜けていくだけだ。誰よりも速く、誰よりも強く。それが私に出来ることであると。何より自分には母や姉が教えてくれたシューティングアーツ、人とは違う身体があったから。
遠くの空を見上げながら走り続けた日々。いつしか三年が経っていた。
出会いは突然とよく言うけれど、まさか自分が体感することになるとは思わなかった。
晴天から舞い降りた天使は緩やかに微笑み、頭を撫でてくれた。四年も前の、それも混乱の最中で一度きり会っただけの自分を覚えてくれていた。その時の私の中には、嬉しいという単純な感情しかなかった。
まさに夢見心地だった。遠い空に見ていたあの人が目の前にいる、覚えてくれている。まるで夢のようではないか、と思う。実際に夢に見たこともあったが、その時は名前を呼んでくれなかった。だから分かった。呼んでくれた名前の暖かさに現実だと知り、私は泣いた。
そして私とティアは機動六課に誘われた。
多くの事の、始まりだった。
なのはさんと同じ部隊に所属することになって、それは色々な事が起こった。
模擬戦で一緒に訓練してきたパートナーが無残に撃墜され(その時はそうとしか見えなかった。実際にはティアナの体が傷つかぬようフォローされていたのに)、自分たちの努力を否定されたような気分になったこともあった。それまでの並々ならぬ憧れが揺らいだ。そして睨みをぶつけてしまったことも……。だけどそれは自分があの人をいかに見ておらず、また考えてもいなかっただけであった。あの人はあんなにも、私たちの事をずっと見てくれていたというのに。
――まだ私が機動六課に入って最初の頃、憧れたあの人はそのまま強く優しく見えていた。訓練をつけてもらう度に自分の力の無さを悔み、少しでも追いつけるよう努力した。自分なりにティアというパートナーと、同じフォワードのエリオとキャロと一緒に頑張っていったつもりだった。
星の名前を冠したあの人の分隊で働けることに嬉しさを感じていた。とはいえ、やはり隊長との距離は決して近いものではなかったのだが。
一ヶ月という時間を過ごしてきたが、高町なのは教導官の素を一度でも目にすることはなかった。
「今日もなのはさん格好よかったなあ、訓練はきつかったけど」
「凄いとは思うし、強さも認めるっていうか強すぎるんだけど、それでもあたしにはあんたがそこまで憧れる理由がいまいちわ分からないわ」
ティアの言葉に私は首をひねる。
「なんで?」
「気に入らないのよ、ただ。別に理由なんてないけど……あの人には、あんなに強い人にはきっとあたしたちの苦労とか絶対に分からない」
これは当時ティアが愚痴のように呟いた言葉だった。その時私はなのはという人を盲信していたから気付かなかったが、今はそうかもしれないと考える。
「そうかなあ、なのはさんは優しいよ」
「……どうだかね」
ティアはそう言っていたが、私にとってなのはさんはやはり憧れの存在だった。
あの人はいつも私たちの前ではは凛とし、格好良くあった。普段は優しく微笑んだ。でもティアは相変わらずなのはさんのことをあまりよくは思っていなかった。そしてあの事件が起こった。
ティアの、あの人を見る目や態度が変わったのは、模擬戦で打ちのめされた翌日のことだった。ティアはそれからなのはさんのことを、今までよりもずっと真剣に見詰めるようになった。
出会う前も出会ってからも、あの人は強くあった。出会った後では強いだけじゃなく、厳しくて優しい人だということも知った。はるか上空にいながら、確かなものを投げかけてくれた。私もそれを受け取った。そのうち自身の中にある憧憬は時間が経つにつれて、静かな熱を持つようになる。
そうにして今に至る。機動六課が壊滅して、ちょうど六日後の今に。
◇
六課壊滅から一週間が経つ日の午後。私たちに出動命令が下った。フォワードメンバーが一列に並べられた、スターズ隊長・副隊長が声を上げる。私たちを渇する言葉をかけてくれる。
話の最中、隊長達は私たちに目を瞑るよう言った。
閉じた瞼の裏側に浮かぶのはきつい訓練と、必死で伝えようとしてくれている人達の姿。鮮明すぎる光景が映しだされ、眉が歪められる。だがそれは、自分たちが今まで頑張ってきたことの記録だ。跳ね除けるようなものではない。隊長は辛い訓練を思い出させることで「十分に強くなった」と教えてくれているのだ。一度信じ切れなかった自分たちのために――というわけではないかもしれないけれど。
行ってこい、とヴィータ副隊長が言う。フォワードメンバーが応答し、配置に向かう。しかし私は留まった。今この場にいるのは、私となのはさんだけだった。副隊長は気を利かせてくれたのか、先に行くと残して去った。
俯いた視線の私に、留まってくれたなのはさんが近づいてくる。
「スバル……ギンガのこともあるし、きっと」
「あっ。ち、違うんです」
私がかぶりを振ると、僅かになのはさんは息を詰まらせたかのように「え、」と小声を漏らした。
ギン姉のことは確かに心配だけど、でもそうじゃない。そうじゃないんです。私が考えているのは、頭にあるのはなのはさんのことだった。ヴィヴィオを想うなのはさんのことが、私は心配で仕方がなかった。それが残った理由だった。
憧れ、尊敬する人が暗い顔を隠していて心配にならないわけがない。
なのはさんは自分に関してだけいえば、表情を曇らせることはなかった。どんなに懐かれ、気にしていた子が連れ去られようと、その心の落ち込みを僅かでも漏らすことはない。決して、だ。一見すれば冷たくも見えるなのはさんの心を、ではなぜ私が心配できるのか。普段のなのはさんなら、心配すらさせないのに。
複雑な思考の苦手な自分が、それでもなのはさんを心配する理由は簡単だ。その場面を見たからだ。偶然ではない場所で、私は見てしまった。焼けたうさぎを虚ろに眺めていたなのはさんの姿を。
もし私がその場面を見ていなければ、本当に何も感じていないと考えたかもしれない。常に冷静で、熱くなることもなく悲しみも最小限抑え、娘同然の子が攫われても仕事のことだけを考えている上司、と。私は誤解をしたかもしれない。そんなことあるはずもないのに、なのはさんならと邪推して。
まだ完全な治癒がすんでおらず、腕を動かせば僅かに痛みが走った数日前……たしか襲撃事件の二日後くらいだっただろうか。ヴィヴィオが攫われたということを聞いてから少し経った日だ。
ヴィヴィオのことを聞くまで、思考の大部分占めていたのはギン姉だった。
ガラクタのように頭を掴まれ、箱に押し込まれるギン姉。暴走して戦闘機人モードになっても取り戻せなかったギン姉。大好きな姉を助けるには、私はあまりにも弱かった。
安静にと言われたもののいてもたってもいられず、どうにか歩き回れるほどに回復したのを見計らって夜中に病室を抜け出し、なのはさんを探した。といっても当てもなく放浪するわけにもいかない。エリオやキャロに通信を入れ、なのはさんの居そうな場所を教えてもらった。
ティアには言えない。ティアに言えば大人しくしてなさいと言われるに違いなかった。
しかしエリオやキャロも位置を把握しているわけはないから、忙しくしているなのはさんを見つけるのは簡単ではなかった。神経ケーブルも完全に修復がされていたわけではなく動きづらかったし、辿り着くまでにかなりの時間を要してしまった。
私がなのはさんを見つけたのは暗い部屋でだった。
なのはさんがこんな暗い場所にいることが信じられなかったが、真っ直ぐな背筋と長いサイドテールをしたこの女性はまぎれもないなのはさんであった。私が憧れた背中が扉を少し開けた向こうにある。私が部屋に足を踏み入れようとして、しかし思いとどまった。
なのはさんは何かぼろくずのようなものを手にしている。よく見れば焼けたぬいぐるみのようで、それには見覚えがあった。――うさぎ。ヴィヴィオが大切そうに抱えていたうさぎ。
ヴィヴィオ、となのはさんが呟いた。
表情は見えない。まとっている雰囲気だけで、なのはさんの気持ちを悟る。闇に溶けた呟きが、哀しいといっている。私の錯覚かもしれなかった、子を攫われた母は悲しむものだという常識を取りこんでしまったのかもしれない。でも、なのはさんがあからさまに表情を歪める想像を、今になるまでできなかったのだ。想像ではない。
なのはさんが持っている“かつてうさぎのぬいぐるみであったもの”は、今は攫われたヴィヴィオがいつも抱えていたものだった。両腕に大事そうにし、片時も離さなかったぬいぐるみの残骸だった。なのはさんがプレゼントしたものだと聞いている。それを眺め彼女は何を想っているのか、なのはさんはぼうっと見つめている。
こうしたことを目の当たりにして、ようやく私は事実を飲み込んだ。
彼女は誰にぶちまけるでもない、一人で悲しみを飲み込んでいたのだ。親友には――特に親しいフェイト隊長あたりには見せたかもしれない弱い部分を、私たちに見せることは決してない。
何よりなのはさんは助けを呼ばない。誰にも求めない。許可がだされたなら、きっと単身ででも乗り込んでいく不思議な確信があった。
よく自分は根拠もない確信を打ち立てることがある。親友にはしばしば馬鹿にされたが、正そうと思ってできるものではなかった。この時もそう、ただ自然に入り込んできたのだった。
あえて理由付けをするならば、ひとつだけ。“あの人は部下に完全には心を見せない”ということだ。
なのはさんの涙も全開の笑みも、私たちは……少なくとも私は見たことがない。幼い部分だって海鳴への出張任務があるまで見たことがなかった。それさえ直接的なものではなく、なのはさんの家族や親友に対して向けるものを覗き見たような形でしかなかった。
恐ろしく悲しい確信だった。
ヴィヴィオ、と私が呟いた。
こうしている間も、なのはさんの頭の中にあるのはヴィヴィオだけ。ヴィヴィオを助け出すのは自分一人だと考えこんでいる。誰にも見えない彼女の心の中の奥深くにまでヴィヴィオは入り込んだのだ。私は不謹慎ながらヴィヴィオを羨んだ。なのはさんにあんな笑顔をさせるヴィヴィオの存在というのは何なのだろうと。
一度、まだ六課宿舎が壊滅していない平和な頃に、なのはさんと二人きりになった日があった。二ヶ月近くも前の話だが、なのはさんのことをママと呼ぶようあった日であり、よく覚えている。
ティアは部隊長に連れられて本局に、副隊長達はオフシフトで、ライトニング部隊は現場調査に出かけていた。そのため六課主力メンバーはがらんとしていた。オフィスでにこやかに「前線メンバーは私とスバルだけだね」と笑ったなのはさんは可愛らしかったが、不安も僅かにあり、思わず顔を引き攣らせてしまった。
ともあれなのはさんと二人というのは貴重だ、と素直に喜ぶことにする。なのはさんがいれば無敵に近いし、危ないなら私が護ればいい。
こっそりと意気込みはするが、相変わらず六課には空平穏な気が流れていた。昼食をヴィヴィオと食べるためにと寮へ戻るなのはさんに同行し、外を歩く。その後に起こる襲撃事件が嘘のように、ゆったりとした青空が広がっていた。なのはさんの瞳をのぞきこんだら、こんな青をしているのだろうか。などとどうでもいい事を考えているうちに、寮へ着いていた。
なのはさんはそこで、ヴィヴィオのママになることを選んだ。『保護責任者』をあくまでもヴィヴィオに分かりやすい言葉に置き換えただけだろうが、実質的には変わらなかった。普通と違う体のヴィヴィオは、なかなか受け入れてもらえない。でもなのはさんはヴィヴィオを受け入れた。
私の中にふつふつと湧き立つ何かを感じた。
なのはさんとヴィヴィオが笑い合ってサンドイッチを食べているのを見ていると、胸が熱くなった。頬が弛緩する。この光景を護りたいと思う。
――でも護れなかったのだ。
目の前にある現実が、そう私に突きつけている。
親子のちいさな戯れ一つ、護ることができなかった。私は何をしていたのだろう。訓練して訓練して、心構えを教えてもらって。ギン姉を攫われてしまったのも、ヴィヴィオを連れていかれたのも、なのはさんの教導に落ち度があったからではもちろんない。単純に私に力が足りなかったせいだ。それだけだ。
出動前。次元航空艦アースラのフロアで、なのはさんと二人向かい合っている。
「スバル」
なのはさんが目の前で片眉を下げて私に視線を向けてくれている。ぐっと拳に力を入れた。
「ギン姉は大丈夫です、あたしが助けます。今はなのはさんとヴィヴィオのことが……」
今度は自分一人で突っ走らないように、マッハキャリバーと一緒に助けに行く。ギン姉は私が今度こそ絶対に助けるから、安心してほしいと思う。でもヴィヴィオは違う。ヴィヴィオの方は配置が違うことから直接の救出はできなかった。ヴィヴィオは空を飛ぶゆりかごの中、玉座の間にいる。だからこそなのはさんは空へ上がる。
心配だった。心配などできる身分ではないと分かっていても、せずにはいられない。憧れたこの人はエースオブエースで、だというのにいいようのない不安が胸をのしてくる。
一緒に行動出来たらこんな心配はないのだろうか。無理だということは分かっていた、だからせめて元気づけようとした。卑小な自分では完全に励ますには足りないかもしれないけど、少しだけでもよかった。
ほんの一瞬でいい。エースの顔を崩して、行ってくるよ、という言葉を期待した。
でももちろん叶わなかった。
「なのはさん。あたし、なのはさんとヴィイオが心配で、どうしようもなくて。でもそれは助けられないかもっていうんじゃなくて、わたしはただ……なのはさんが」
「……スバル」
私が言えたのは励ましの言葉などではなく、情けない泣き言だった。
「ありがとうスバル、でも大丈夫。ヴィヴィオは絶対に私が助ける。だから心配ないよ。スバルの憧れてくれたなのはさんは、無敵のエースだから」と言い、彼女は私の頬に手を当てがう。
短いやり取りの中に、ひとつの真実を見つけてしまった。
――私はきっと。この人のことが気になるだけなんだ。
頬に当てられる手は少しひんやりとしていた。あるいは私の頬が熱を持っていたのかもしれないが、高ぶった体には心地良い温度で、頭を冷やしてくれた。別の意味での沸騰を促進はしたが、ここでの問題ではない。
なのはさんの『無敵のエース』という言葉と、自身の頬を包む手が私の心を安らげてくれる。本当は私が励ましたかったのに、無理だった。それどころか逆ですらあった。
「エース……」
「そうだよ。それにスバルだってうちの自慢のフロントアタッカーなんだからね、心配しないで。自信を持って、そして」
なのはさんは何かの合図のように、私の前に拳を突き出した。自身の拳をぶつけると、なのはさんの気合いが拳に伝わってくる気がする。不屈のエースオブエースの気合いをもらったのだ、と私は思う。
「相棒と、マッハキャリバーと一緒に、負けないで頑張ってきて!」
そうなのはさんがエースらしく言った。私も彼女のように気丈に言うつもりだったが、吐き出されたのは「行ってきます」という小さく渇いた声だった。
青い空に点在する白い雲があった。
晴れた空。でもそこにはたくさんのガジェット達やゆりかごがある。完全な晴天ではない。
ヘリが唸りを上げている。ヘリは私を飲み込むと一層激しい音を響かせた。構わず私はそれに乗り込む。席に近づくと、滲んだままの視界にティアの姿が見えた。
気付けば音はそのうち静まっている。現実と非現実との間にカーテンが下ろされたみたいに。
あの人が包んでくれた頬に流れる涙を、静けさが拭う。ぶつけた拳におさまる相棒が心を落ち着ける。パートナーが馬鹿ね、といつもの調子で、彼女なりの言葉で励ましてくれる。私はいろんなものに守られている。
だからこれから護りに行く。そして取り戻しに行く。これ以上誰も悲しまないように、全部私が護るんだ。「この手の魔法は悲しみを撃ち抜く力」だと教えてくれたあの人が、安心して空を駆けていけるように。
私は壊すためではなく護るために拳を握り、地面を蹴る。
× あとがき ×
スバルは途中でなのはさんのこと憧れてるって描写なくなってたようなきがしました。
23話であったかな。20話では憧れというか、なんだろうあれは。
初めの方のスバルは、なのはさんのことあんまり分かっていない気がする。それがティアナとなのはさんが和解したあと、スバルのなかでなのはさんはどんなふうに変わっていったのだろう。そして14話でなのはとヴィヴィオと一緒にごはんを食べるとき、スバルはなぜあんなにもにこにこ顔で二人を見ていたのか。
いまいち自分にはスバルの心の中が読み取りにくい。なのはキャラの中でも、特に読めない思考の持ち主です。話によっては一歩間違えば雰囲気の違ったキャラになりかねない。
元気キャラかとおもえばおとなしかったり簡単にしょげたり、頼り無いかといえばそうではないらしく、ティアナとの関係も、支えているのはスバルで、フォワードで護ろうという意識が強いのもスバルのようで。
難しいです、本当。考えれば考えるほど首をひねってしまうような。シリアスでスバルを書くときは注意しないと、気付けばなんだこれという風になっていそうで怖い。
……ということがわかりました、今回。
次はもっと恋愛要素入れれるといいな。でもスバルはまっすぐだからティアナみたいに歪んだ愛がかけない。
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アリサ×なのは

comments
本編当初から終盤までのスバルの心情が結構上手く表現されてていいな〜と思いました。スバルの心が読めないとありますが、扱ったことのないキャラの心情は詠みにくいものです。自分もライトニング組の二人の心情をいまいち理解できないでいます。バカップルだからかな?w
スバルは、新キャラのなかでは一番好きなキャラ(あれだけ自分の萌え要素が入ったキャラに萌えないわけがない!)ということだけあってかなくてかわかりませんが、今回のSSを読んでかな〜り考えさせられました。
自分のなかのスバルは当初(大体二、三話ぐらいかな)から犬キャラ、元気っ子、友達思い、喜怒哀楽がはっきり、真っ直ぐ、けど馬鹿じゃないというイメージがありました。作中、ティアティアと懐き、いっつも笑ってて、色々いじられながらも、ティアナの六課行きを後押ししたりというエピソードがあったからです。
さらに本編を見ていくうちに、スバルには自己というのがないんじゃないのかな〜という考えも追加されました。こう、作中でスバルが自分のために動いている部分がほとんどなく、大抵が他人のために動いてるんですよ。この辺がどことな〜くなのはさんと通じてると思うんです。
そのなのはさんへの憧れの欠如ですが、自分なりにこんな解釈をしました。
おそらく当初のスバルにとっては、まあ、妙な例えになるんですが、なのはさんは神だったんですよ。死にそうになったときに助けに来てくれて、自分を安全な場所まですぐ連れてきてた。これだけでも印象強かったのですが、さらに調べていくうちに自分より小さな頃から前線で活躍するエースオブエースだった。そういった情報からスバルは「優しくて何でも出来る完璧超人。というか神」というイメージをなのはさんに持ったんじゃないかと。なんというか、アイドルに憧れる高校生というのがしっくりくるかも?
そのイメージが壊れたのが、ご存知八、九話。八話じゃ優しいってイメージ、九話じゃ完璧超人って部分が崩れたかと。九話でなのはさんが撃墜された場面でスバルが落ち込んだのにはそんな意味が含まれていたんだと勝手に結論付けてます(落ち込んだ、というのは幻滅したというのではなく、なのはさんのそういった裏の部分に目を向けられなかった自分の幼さを自覚したからじゃないかな?)。
そこからスバルの中で修正が入り「優しいけど厳しいすごい人」ぐらいになったんじゃないかな〜と。憧れが欠如した、というよりなのはさんが身近な存在になっただけではないのかな〜と?
その後ヴィヴィオが現れ、なのはさんが親代わりを務めることとなった頃から、泣くヴィヴィオへの対応に困ったり、ヴィヴィオと本当に楽しそうに過ごしてたりと、今まで見られなかった「人間的な部分なのはさん」を垣間見るようになりました。好きな人のそういった部分って、知ったら結構嬉しいもんですよ? サンドイッチ食べてる場面のあの笑顔を、自分はそう受け取りました。そこから「この人護りたい」と思うようになったのでは?
……はぅわ! なげえ!
いやほんと、色々とすんません。これ以上いるとまた余計なことを書きそうなのでこの辺で失礼させてもらいます。ではでは!
遅くなってすみません!ちょっと精神的に旅立ってました。。(ぇ
もちろん忘れてなどいませんよ。コメントいただいてうきょうきょしてます。嬉しいです。
しかしウサギというとあれですか、寂しいというry
今までスバルに関しては、単独ではそれこそ書いてませんが、長編や他のカプにちょくちょく出してきていたんですよね。今回スバなのをかいたのも、それでスバルの事が好きになったというのもあり……、で、大丈夫かなとおもっていたんですが。
なのは視点とスバル視点で考えるとこうまで違ってくるのかと驚きました。いや、侮っていたのかもしれませんが。
私はヴィヴィなのが大好きなんですが、書くのは苦手です。しかしそれとは違う難しさが、このスバルにはありました。「スバなの」ではなく「スバル」を書くのが難しい。
それが楽しいといえば楽しいので、また書こう思うわけですがw
スバルの「馬鹿」は凄く単純な「馬鹿」というように思います。もちろんけなしているわけでは決してありません。自分に対して、というか。まっすぐというか。だいたい本当に馬鹿にしているひとに「馬鹿」っていうことあまりないじゃないですか。いや、自分の認識でしかないかもしれませんが、そんな感じで。愛称のようなもので。……すみません、苦しいですか?
いや、スバルをそのまま言葉で表すには難しいというか、だらだらと文章で説明しても、それでも足りないというか。ううむ。
いずれにせよ、ある種の単純さは、なのはみたいな考えすぎる人にとっては救いにも感じるのではないかなと。
フェイトであれば一緒に考えこむでしょうし、ヴィータならぐだぐだいってんじゃねーと渇するでしょう。
でもスバルだと、悩んでいるなのはの腕を引っ張って、大丈夫、行きましょう!という風になると思うのです。
自己がないという意見ですが、私も少しそうおもいます。スバルなりに思うところはあるとおもいますが……どうしても流されやすさとか、他人に影響されやすいとか、一方で一直線だったりを考えるとむずかしいので。
あえて自己にあてはめるなら、「人のために」というのが自己なんでしょうね。
そして憧れについて。
スバルは以前まで「完璧超人、むしろ神!女神!なのはさんさいこうっ」とか考えていたのに対し(ぇ、事件後は大分落ち着いたでしょう。
ただあの映像を見た時は、強さに対しておちこむとかそれを見抜けなかった自分への落胆というより、落とされても立ち上がるくらいに強い人、というイメージが新たに根付いたんじゃないかと。もともと落とされるというイメージなどなく、ただ完璧で、神にも等しい存在で。逆にいえば自分から一番遠いところにある人だった。
もちろんそれらを見抜けなかった自分にたいする少しの怒りまたは落胆もあるでしょう。でもそれいじょうに、そんな存在に見立てていた自分への身勝手さ、またはなのはの気持ちを分かってあげられなかったという後悔。
……いや、結局はそれは、見抜けなかったことへの落胆、につながるのかな。
しかしヴィヴィオと接するなのはさんは、スバルの前で楽しそうにしてたかなあ……w
なのはとヴィヴィオ二人きりのときは結構たのしそうにしてたけど、すごく受身だった気もするんですが。微笑むくらい?
昼食のときのスバルの笑顔は、垂れ坊さんのいっているように「好きな人の今までみなかった部分をみて嬉しい」といった意味なのだろうと思ってます。なのはさん、あまり度を超えてにこやかにって部下の前ではしないんですよね。
と、ながくなってしまいましたので、こんなかんじで。
やっぱりスバルは難しいです。これからもっと書いていって、自分なりにスバルを理解していきたいと思います。
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