その境界線は。
高町なのはを全力全開で愛していく。そんな小説を書いてます。
違えた道の端 後編 2008/04/29
なのアリで、浮気なのはさん。
『違えた道の端』前編の続きです。
なのはさんがいろいろおかしい。。ですが、、
もしよろしければ、続きよりどうぞです。
違えた道の端 後編
アリサ・バニングスは、自分が唯一心を許せる人だと思った。
他の人が嫌うような愚痴や弱音を吐き出しても、受け止めてくれるような気がしていた。
実際にその通りで、なのはが彼女の長い髪をいじりながら呟いたことを、アリサは黙って聞き、たまに頷いて返した。仕事の苦労、教え子のこと、ヴィヴィオのこと……。他に何を言ったのか、既になのはは記憶していない。
だけどアリサは記憶してくれている。
たまになのはが覚えていないようなことでも、アリサはふと口に出し、なのはの中に沈んだ記憶を引き出す。なのははその度、軽い驚きとともにアリサが自分の言葉を受け止めてくれているのだと嬉しくなる。
なのはにはアリサと離れることはできなかった。たとえフェイトという伴侶がいたとしても、二股だと後ろ指をさされようが、離れようという気にはなれなかった。アリサもまたそう考えてくれていると訳もなく思っていた。だからなのはははじめ、アリサの言葉が信じられなかった。
「あたし、結婚するから」
なのははその時、バニングスの屋敷の一室にて髪を乾かしていた。
肌寒い今日、タオルで軽く拭いただけでは風邪を引くとアリサが進めてくれたのだ。
アリサは風呂に入れさせようとしたが、なのははシャワーだけで十分だと断った。浴室から出たのはつい先ほどの事だ。
今晩の寝床として実家は使えない。アリサの提案を素直に受けて、なのははアリサの部屋を訪れることにしたのだった。それに何も、初めてのことではない。今まで会うのだって一度か二度ここを使ったことがある。
多分、ぼんやりとしていた。なのはは何も考えず、タオルで髪をがしがしと水気をとばしている。普段ならしっかりと乾かさないなのはの代わりにアリサが髪を拭こうとするのだが、今回は何も言われなかった。しかしなのはは特に気にするでもなくベッドに腰掛け、手を無心に動かしている。家族の事も今は考える気になれなかった。
アリサがなんの前触れもなく言ったのは、そんな時だ。
なのはは手を止めて振り返る。問い直さなくても聞き違いでないことは、アリサの目が雄弁に語っていた。
「だからもう、海鳴に帰るときでも今日みたいに連絡しなくていいし、無理に会わなくてもいいから」
なのははほんの数舜、言葉に詰まる。しかしすぐに冷静さを取り戻して返した。
「どうしたの、いきなり。やっぱりずっと連絡してなかったから怒ってるの?」
なのはは尋ねてみるが、アリサは首を振る。
「それはいいの。仕事大変だろうしあたしも同じよ。加えてフェイトもいるし、何よりもあたしとは住む世界が違う。物理的にも。そうなれば連絡するのが困難になるってことくらい前々から分かってたことだから、それはもういいの」
「じゃあなんで」
「何で?」
アリサは首を傾げる。
「大企業の娘に見合い話の一つや二つ、あるでしょう」
「そうだけど、アリサちゃんはそれだけじゃないよね。だってそれなら、もっと早くに決まってたって不思議じゃない。だから違う。慢心じゃなければ、私に対して何か思うところがあって結婚を決めたんだよ」
そう言ってなのははアリサを睨んだ。咎めるような眼でアリサをのぞき込む。そうしていると次第に自分の心が安定してくるのがわかる。髪に指を絡めようかと手を延ばしたが、アリサにそれとなく避けられる。なのはは一つ息を吐く。
「言って欲しいな、アリサちゃんが突然そんなことを言い出した理由」
落ち着こうとして、なのはは少し表情を緩めてアリサに微笑みかける。
「しらばく連絡しなかったから? それしか思いつかない。でも忘れてたわけじゃないし、怒らせたなら謝るよ。だから」
「違うわよ」
アリサが叫ぶ。鋭い声がなのはを貫き、動けなくさせる。そんななのはを見るとアリサは諦めたように視線を外した。
「そりゃ、一時期はどうしてあんな遠くに行っちゃったのかって恨み事を呟いたこともあるけど、行かなくてもフェイトがいるしね、同じことだったかもしれないって納得したもの」
――納得?
「まさかフェイトと付き合いながらあたしと会うわけにはいかないでしょ」
「そんな、そんなことないよ。近くにいたら、絶対にアリサちゃんに会おうって時間を捻出してる。きっと努力してるよ」
嘘だろうと自分で分かっていながら、なのはは続ける。
「それにね、フェイトちゃんと続いたままアリサちゃんとも、っていうのに罪悪感がないわけじゃないよ。だけど分かってくれてるんじゃなかったの、そういうこと。勝手な言い草だけど、囚われないでいてくれたんだって思ってた。アリサちゃん、私のこと受け入れてくれたんだって……」
そしてすがっていた。
まったく、勝手な言い草である。なのははもちろんそのことも理解している。
対するアリサの反応は意外なものだった。もっと激昂してくるかと予想していたが、アリサは静かに首を振り、言葉を紡ぐ。
「受け入れているわよ。なのはがあたしのことを想ってくれてるのなら、なかなか会えなくても、フェイトと結婚していてもいい。なのはのこと全部受け入れるつもりだった。だけどそれはあくまで、なのはの気持ちがあればのこと」
なのはは、アリサの言葉の意味を理解できなかった。
そこまで受け入れてくれていて、どうしていきなり結婚するだなんて言い出したのかわからない。自分だって結婚している身だけど、それを踏まえた上で自分のそばに居てくれたのではないのか。辛い気持ちをさせてしまったと思うけど、それでも今まで受け入れてくれたではないか。
アリサが何を言いたがっているのかわからなかった。とにかく混乱していたのだ。
――私の気持ち?
「あんた、もうあたしのこと好きじゃないでしょ」
即答するにはアリサの言葉は唐突で、なのはの胸を深く貫くものだった。
フェイトと出会った時、なのはは大きな運命を感じていた。
強い力がなのはをフェイトの方へと引き寄せていき、ジュエルシードの封印・保護といった目的の合間にも、フェイトの事が気になるほどだった。
黒衣を纏う金髪の少女は初めての出逢いのきわで、フェイト・テスタロッサと名乗る。
彼女はなのはが人生を共にすると誓った人だった。アリサよりも淡い色の髪と白い肌が、いかにも薄倖に見せた。手を取ったとき、ずっと離れなければいいのにと願った。それはかなわなかったが、後にフェイトに抱き締められた。戦いが終わった後で、なのははフェイトと抱き合った。海岸で、リボンを交わし合って。フェイトはまさに、危険が迫れば助けにきてくれるような王子様だった。
フェイトといると、なのははお姫様になれた。独りで何でもこなさなければならなかったなのはは、フェイトの存在は頼もしかった。絶対なのだ。フェイトはその時のなのはにとって唯一無二の存在となっていた。
再会を果たし、ひとつの事件を乗り越えたあとでは、明確な未来さえ描けた。幸せな家庭の中で二人、笑っている。そんな絵がなのはの中に飾られていた。フェイトも同じで、二人はまもなく恋人関係へと発展した。想いを伝え合い、口づけを交わし、体を重ねる。フェイトとはこれ以上にないほど順序よく段階を踏んでいった。穏やかな恋だった。
鮮やかな色に目を奪われていたなのはは、だから気付かなかった。なのはの傍には常に一人の少女がいたことを。
フェイトと愛を深めていた頃、アリサの心は比例するように痛んでいた。もういつかも忘れてしまったが、なのはそういった構図に気付いてしまう。気付いてからでは、もうフェイトを絶対とは言えなくなってしまった。好きな事には変わりないし、誓いを改める気もない。だがアリサはごく自然になのはの心に居た。そしてなのははおそらく、フェイトよりも先にアリサに惹かれていた。――その全てが塗り替えられてしまったわけじゃない。
フェイトとの出会いが運命ならば、アリサとは自身が掴みとった必然だった。
振り返るとアリサはいつでもなのはの傍にいて、心を安らげてくれた。乱暴な口調でそっけなくいう言葉に、沢山の気遣いが見てとれた。
フェイトには言えないような愚痴も言えた。フェイトはなのはの王子様。そんなフェイトはなのはのことを、無垢で純真な人物と思いこんでいた。だからなのはは嫌われなくない一心で、汚い感情は胸の底の底に沈めていた。アリサと二人の時にだけ、そういう感情を解放してやることができた。アリサはそのままに受け止めてくれた。なのはがなのはのままいられるのは、アリサのおかげに他ならない。
アリサの、春の陽気の下で微睡むような心地よさを、フェイトに求めるのとは別に離しがたいものとして感じていた。
だからアリサに好きだと言われた時、なのはは躊躇わなかった。アリサが自分に必要だというのは分かり切っていたことだった、迷うはずがない。あとはほんの少し罪悪を押し隠すだけ、それだけで心の平穏を保つことができると信じていた。もしアリサを失ってしまえば、胸の底に沈めすぎていっぱいになった嫌な感情が溢れて、フェイトに露見してしまう。安定を失った心は崩れおちてしまうかもしれない。
――嫌だ。
フェイトと離れるのも、アリサと離れるのも。ならばなのはが選ぶことのできる選択肢は初めから一つだけであった。
アリサに好きだと言われたのは、教室に二人きりになったときだ。日は傾き、朱と紫の混ざった陽光が、一窓分だけ空いたカーテンの隙間から差し込むような。どこにでもありそうな場面だった。でも自分にとっては、たった一瞬、一度きりのこと。
それまでアリサについて意識したことがなかったといえば偽りになる。なのはは稀に、アリサを見ると無性に鼓動が早くなる時があった。友人としてではありえない胸の高鳴りは、確かな鼓動の連続だった。しかしそれは、そっとアリサから視線をそらし深呼吸をすれば抑えきれるものだったのである。
誰にも悟らせることのない想いは、ひっそりとなのはの胸に秘められていた。
「なのは……あたしはなのはのことが好きなの。もう自分の知らないところでぼろぼろになっているなんてのは嫌。なのはがあたしから離れていくのが耐えられない。だからあたしは……フェイトが居てもいい! なのはがあたしのことを少しでも想ってくれるなら、いいの……」
白い制服が陽に染められていた。声を震わせて、大切な人が目の前に立っている。
なのはにはフェイトがいた。フェイトのこともやはりなのはは好きだった。だけど――だから。
「ごめんねアリサちゃん。悲しませちゃったね」
涙が幾筋も伝うアリサの頬に手を添える。親指で目の畔をなぞり、涙を拭う。
「いいよ……私は」
嘘などどこにもなかった。真実だけが二人残された教室にあった。
自分のどこからこんな声がでてくるのだろう、というくらいに甘い声で、しかし真摯に囁きかける。フェイトに対する罪悪は、不思議なほど希薄だった。
「アリサちゃんの事が好きだから」
抱き合いながらなのははふと思う。そう言えばアリサと手を繋いだことはあっただろうか、と。
年を重ねるごとにますます彼女を手放せなくなるとは、その時のなのはに予想できるものでは到底なかった。あの時は朧だった感情も、今では疑いようのないなものになっている。たとえ伝わらなくても、相手が求めるものでなくても、なのはは確かにアリサを愛していた。
まだ髪に含んでいた水分が毛先から滴り落ちる。音もなく吸い込まれていく。
本当はすぐに否定すればよかったのだろう。秒を刻むごとにアリサの表情が深刻になっていく。だが突然の事態にもつれた意識を立て直すには、多くの時間が必要だった。どうにか意識を整理し、なのはは言葉を見つける。
「私はアリサちゃんを愛してるよ」
「……嘘」
アリサの心に積もった疑惑を取り除こうと、なのはは柔らかい口調で言った。
「嘘じゃない。アリサちゃんこそ、私のことがどうでもよくなったんじゃないの」
アリサが答える前になのはは続ける。
「ずっと連絡もしない私に呆れて疲れて、気持ちが離れていっちゃったんだ」
「馬鹿なこと言わないで!」
アリサは鋭く叫ぶ。尖った声が広い部屋に響く。窓が震えたような心地がする。
目を見開くなのはを、アリサはきつく睨んだ。なのはは向けられる視線を逃がす。「あたしはなのはが」、彼女は言いかけて俯く。
「なのははきっと、あたしがあんたのことをどれだけ好きか知らないのよ。だからそんなことが言える。今まで一度だって言ったことはなかったけれど、これまでだって結婚の話はあった。だけどなのはがあたしのことを見てくれてるって信じられたからずっと断わってこれた。パパがその度に悲しそうな顔をしたけれど結婚なんてしたくなかった。触れてくれる指に、なのはの気持ちが感じられたから。だから気まぐれに言ってくれる薄い言葉よりもそちらを信じてた。あたしは本当に……」
そこまで言うと、アリサは言葉を詰めた。
――見合いの話はなのはにとっても初耳だった。
アリサならしてもおかしくないし、求婚者が競って好意を上げようとするぐらいのことは当然あっただろう。通った鼻筋に淡いグリーンの瞳が寄り添うように二つ、色素の薄過ぎない金色の髪は長く腰辺りにまで伸ばされていて、痩せているわりにはスタイルだって悪くない。容姿は整い過ぎる程だ。そこで皆一度は惚れる。少し付き合えば彼女が、口調は厳しくとも気の付く優しい子だとだれもが気付かされるはずだった。そして彼らは二度、恋に落ちる。
そんなアリサに色めいた話がなかったのが不思議で仕方がなかった。ただそういう想像はできたのに、それ以上は考えなかった。なのはの前でアリサはずっと小学校から変わらない、ぶっきらぼうで優しくて、自分をそのままに受け入れてくれる人だった。それだけの人だった。でもなのはには、それだけあればよかった。なのは自身をねじまげず受け入れてくれることこそが、なのはにとって大切だったのだ。どうしてアリサは気付いてくれないのだろう。
「だけどもういい。雨の中なのはを待って、久し振りになのはの顔を見たときに分かったの。なのはが求めているのは自分を受け入れてくれる楽な人だって。会った瞬間の驚いた顔、予想しない時に現われて少し引いた顎、狼狽する目。最後になのはは顔をしかめて視線を逸らした。それらはどう見たって好意的になんてとれなかった。あたしじゃなくてもいいんだってそう言ってた。あたしはもしかしたらずっと見ないようにしてきただけかもしれない。それでもなのはを受け入れているうちは、なのはが自分の事を見てくれている気がしたから……でも違うってわかったの。そうしたらもう駄目」
――受け入れてくれる、大切な人。
それを都合がよすぎると言われれば、沈黙するしかなかった。
なのはにはアリサが必要だった。でもアリサに必要だったのは“アリサを好きな高町なのは”でしかない。なのはにもそれは分かっていた。分かっていながら受け入れてくれる心地良さに浸っていた。仕事も愛しい人も頭の外に放り出して安らげる時間が、なのはにはどうしても手放せなかったのである。
一日ずつ、精神と命を削っているなのはがそんな場所や時間を護りたいとおもうことを、アリサ以外に否定出来る人はいなかった。フェイトさえ。
フェイトはあるいはなのはの行動に気付いていたのかもしれない。しかしフェイトは追及しなかった。詮索をしたかどうかは、なのはには判断がつかなかったけれど。
アリサの口調は普段よりもずっと緊迫し、思いつめるものになっていた。なのははただ聞くしかなかった。
「今だってなのはのことが凄く好きなのよ。これ以上いたらもっと好きになる。なのはがいればいいなんて思ってしまう。そしたらもう、フェイトのところに返してやれなくなるかもしれない。好きになったことさえ後悔するかもしれない。そうなったらなのはは、あたしのことを鬱陶しく思うでしょう。あたしはそんなの嫌、嫌われたくない。好きになったことも後悔したくない、だから取り返しのつく今、別れたいの」
窓を雨風が打ちつけている。どこか遠くで起こっていることのように、その音を聞いていた。
アリサが喋り終えるまでなのはは押し黙っていた。閉口し、じっとアリサを見詰めていた。生乾きの髪が額や頬に張り付いている。微かにまつげが震え、喉は渇ききっていた。唇も酷くかさついているようだ。なのはは舌で舐めることも忘れて、アリサの言葉を最後まで聞いていた。
「言いたいことはそれだけだよね」
そう吐き出すと、なのはは目の前の縮こまった体を抱き締める。ささやかにしてくるアリサの抵抗を胸に受けた。全力で引き剥がそうとしないのはアリサ自身が本気で嫌がってないわけではなく、なのはを傷つけたくないだけだ――真偽がどうあれ、なのははそう解釈する。なのははアリサを離さない。抵抗は次第に薄れていった。
アリサを抱きしめながら、酷い人間だ、となのはは自分を笑う。誰にも救えない。でも、アリサだけが……。
胸の中でアリサが呼吸を荒くしている。先ほどまでの気丈な姿はどこにもない。
なのははふと悲しくなった。自分がそんなふうに追い詰めてしまったことを、なのに改めることのできない歯痒さに唇を噛んだ。渇いた唇から、つうと血が滴る。
なのはは、自分のために伸ばしてくれたという髪を撫でて落ち着かせる。相手と自分の両方を。なのははそうしてじっくりと時間を置いた後、肩を掴み離れた。
「結婚なんてさせない。離れてもあげない。アリサちゃんはずっと、私のそばにいてよ。勝手だと罵ってもいいから離れるなんて言わないで、私を受け入れて。そうしてくれるなら、私はアリサちゃんに囚われたっていい」
なのはが再びアリサをかき寄せる。胸の中でもう、アリサは身じろがない。
「あんた、馬鹿じゃないの」
なのはの背中に腕が回される。胸の中にアリサが顔を埋めてくる。
「でも一番馬鹿なのは、きっとあたしよね」
何もかも諦めたようにと呟いたきり、もう言葉は口にしなかった。
力を抜いてアリサはベッドに押し倒される。深緑の瞳に映るのはなのはだけだった。アリサにとっては他に見るべきものなどかったのだろう。なのははアリサの虚ろな瞳から、そんなことを思った。恐らくそれほど外れてはいない。
嬉しくて、苦しい。
これはきっと今までアリサが感じてきたことだ。なのはは今更のように耐えさせてしまったことを悔み、嘆いた。なのはは行為の間中そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。手放す方法を識っていないわけではなかったが、それをするにはなのははあまりにもアリサを追い詰め過ぎていた。
アリサが完全な眠りについてから、頬をそっと撫でる。ごめんね、とそこに謝る。家に置いてきた人を今は思考から削ぎ落とす。
「好きだよ」
大丈夫、自分はこの人から逃げたりなんてしない――なのははそんな自らに課した戒めとともに、アリサの唇に触れた。
× あとがき ×
なのはさんがいろいろとアレな話でした。というかぐだぐだでしたね。すみません。
もういっそ軽いきもちでアリサと浮気していたらよかったんだよ、なのはさん。
よく、這い上がるより、堕ちる方が簡単というけど、自分はそうは思わない。
もし堕ちるのが簡単なら、なのはやアリサはとっくにその道を選んでいたと思うさ。
もともと、選べる道なんてすくなかったけど。
うん、どこでどんな風に間違えたかは、視点によるかと。
アリサを応援するならもっと早くになのはがアリサだけを見つめるべきだったし、フェイトを応援するなら勇気をだして全部見せるべきだった。……まあそういうのを引き出せたのがアリサで、フェイトは引きだせなかったということで、やっぱり選択肢は少なかったのかもしれません。
だからなのはに罪悪感があまりないのも、ある意味当然になってくるわけであり。。むしろこれがなのはにとって自然になってしまってるから。
と呟いたところでおわります。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
『違えた道の端』前編の続きです。
なのはさんがいろいろおかしい。。ですが、、
もしよろしければ、続きよりどうぞです。
違えた道の端 後編
アリサ・バニングスは、自分が唯一心を許せる人だと思った。
他の人が嫌うような愚痴や弱音を吐き出しても、受け止めてくれるような気がしていた。
実際にその通りで、なのはが彼女の長い髪をいじりながら呟いたことを、アリサは黙って聞き、たまに頷いて返した。仕事の苦労、教え子のこと、ヴィヴィオのこと……。他に何を言ったのか、既になのはは記憶していない。
だけどアリサは記憶してくれている。
たまになのはが覚えていないようなことでも、アリサはふと口に出し、なのはの中に沈んだ記憶を引き出す。なのははその度、軽い驚きとともにアリサが自分の言葉を受け止めてくれているのだと嬉しくなる。
なのはにはアリサと離れることはできなかった。たとえフェイトという伴侶がいたとしても、二股だと後ろ指をさされようが、離れようという気にはなれなかった。アリサもまたそう考えてくれていると訳もなく思っていた。だからなのはははじめ、アリサの言葉が信じられなかった。
「あたし、結婚するから」
なのははその時、バニングスの屋敷の一室にて髪を乾かしていた。
肌寒い今日、タオルで軽く拭いただけでは風邪を引くとアリサが進めてくれたのだ。
アリサは風呂に入れさせようとしたが、なのははシャワーだけで十分だと断った。浴室から出たのはつい先ほどの事だ。
今晩の寝床として実家は使えない。アリサの提案を素直に受けて、なのははアリサの部屋を訪れることにしたのだった。それに何も、初めてのことではない。今まで会うのだって一度か二度ここを使ったことがある。
多分、ぼんやりとしていた。なのはは何も考えず、タオルで髪をがしがしと水気をとばしている。普段ならしっかりと乾かさないなのはの代わりにアリサが髪を拭こうとするのだが、今回は何も言われなかった。しかしなのはは特に気にするでもなくベッドに腰掛け、手を無心に動かしている。家族の事も今は考える気になれなかった。
アリサがなんの前触れもなく言ったのは、そんな時だ。
なのはは手を止めて振り返る。問い直さなくても聞き違いでないことは、アリサの目が雄弁に語っていた。
「だからもう、海鳴に帰るときでも今日みたいに連絡しなくていいし、無理に会わなくてもいいから」
なのははほんの数舜、言葉に詰まる。しかしすぐに冷静さを取り戻して返した。
「どうしたの、いきなり。やっぱりずっと連絡してなかったから怒ってるの?」
なのはは尋ねてみるが、アリサは首を振る。
「それはいいの。仕事大変だろうしあたしも同じよ。加えてフェイトもいるし、何よりもあたしとは住む世界が違う。物理的にも。そうなれば連絡するのが困難になるってことくらい前々から分かってたことだから、それはもういいの」
「じゃあなんで」
「何で?」
アリサは首を傾げる。
「大企業の娘に見合い話の一つや二つ、あるでしょう」
「そうだけど、アリサちゃんはそれだけじゃないよね。だってそれなら、もっと早くに決まってたって不思議じゃない。だから違う。慢心じゃなければ、私に対して何か思うところがあって結婚を決めたんだよ」
そう言ってなのははアリサを睨んだ。咎めるような眼でアリサをのぞき込む。そうしていると次第に自分の心が安定してくるのがわかる。髪に指を絡めようかと手を延ばしたが、アリサにそれとなく避けられる。なのはは一つ息を吐く。
「言って欲しいな、アリサちゃんが突然そんなことを言い出した理由」
落ち着こうとして、なのはは少し表情を緩めてアリサに微笑みかける。
「しらばく連絡しなかったから? それしか思いつかない。でも忘れてたわけじゃないし、怒らせたなら謝るよ。だから」
「違うわよ」
アリサが叫ぶ。鋭い声がなのはを貫き、動けなくさせる。そんななのはを見るとアリサは諦めたように視線を外した。
「そりゃ、一時期はどうしてあんな遠くに行っちゃったのかって恨み事を呟いたこともあるけど、行かなくてもフェイトがいるしね、同じことだったかもしれないって納得したもの」
――納得?
「まさかフェイトと付き合いながらあたしと会うわけにはいかないでしょ」
「そんな、そんなことないよ。近くにいたら、絶対にアリサちゃんに会おうって時間を捻出してる。きっと努力してるよ」
嘘だろうと自分で分かっていながら、なのはは続ける。
「それにね、フェイトちゃんと続いたままアリサちゃんとも、っていうのに罪悪感がないわけじゃないよ。だけど分かってくれてるんじゃなかったの、そういうこと。勝手な言い草だけど、囚われないでいてくれたんだって思ってた。アリサちゃん、私のこと受け入れてくれたんだって……」
そしてすがっていた。
まったく、勝手な言い草である。なのははもちろんそのことも理解している。
対するアリサの反応は意外なものだった。もっと激昂してくるかと予想していたが、アリサは静かに首を振り、言葉を紡ぐ。
「受け入れているわよ。なのはがあたしのことを想ってくれてるのなら、なかなか会えなくても、フェイトと結婚していてもいい。なのはのこと全部受け入れるつもりだった。だけどそれはあくまで、なのはの気持ちがあればのこと」
なのはは、アリサの言葉の意味を理解できなかった。
そこまで受け入れてくれていて、どうしていきなり結婚するだなんて言い出したのかわからない。自分だって結婚している身だけど、それを踏まえた上で自分のそばに居てくれたのではないのか。辛い気持ちをさせてしまったと思うけど、それでも今まで受け入れてくれたではないか。
アリサが何を言いたがっているのかわからなかった。とにかく混乱していたのだ。
――私の気持ち?
「あんた、もうあたしのこと好きじゃないでしょ」
即答するにはアリサの言葉は唐突で、なのはの胸を深く貫くものだった。
フェイトと出会った時、なのはは大きな運命を感じていた。
強い力がなのはをフェイトの方へと引き寄せていき、ジュエルシードの封印・保護といった目的の合間にも、フェイトの事が気になるほどだった。
黒衣を纏う金髪の少女は初めての出逢いのきわで、フェイト・テスタロッサと名乗る。
彼女はなのはが人生を共にすると誓った人だった。アリサよりも淡い色の髪と白い肌が、いかにも薄倖に見せた。手を取ったとき、ずっと離れなければいいのにと願った。それはかなわなかったが、後にフェイトに抱き締められた。戦いが終わった後で、なのははフェイトと抱き合った。海岸で、リボンを交わし合って。フェイトはまさに、危険が迫れば助けにきてくれるような王子様だった。
フェイトといると、なのははお姫様になれた。独りで何でもこなさなければならなかったなのはは、フェイトの存在は頼もしかった。絶対なのだ。フェイトはその時のなのはにとって唯一無二の存在となっていた。
再会を果たし、ひとつの事件を乗り越えたあとでは、明確な未来さえ描けた。幸せな家庭の中で二人、笑っている。そんな絵がなのはの中に飾られていた。フェイトも同じで、二人はまもなく恋人関係へと発展した。想いを伝え合い、口づけを交わし、体を重ねる。フェイトとはこれ以上にないほど順序よく段階を踏んでいった。穏やかな恋だった。
鮮やかな色に目を奪われていたなのはは、だから気付かなかった。なのはの傍には常に一人の少女がいたことを。
フェイトと愛を深めていた頃、アリサの心は比例するように痛んでいた。もういつかも忘れてしまったが、なのはそういった構図に気付いてしまう。気付いてからでは、もうフェイトを絶対とは言えなくなってしまった。好きな事には変わりないし、誓いを改める気もない。だがアリサはごく自然になのはの心に居た。そしてなのははおそらく、フェイトよりも先にアリサに惹かれていた。――その全てが塗り替えられてしまったわけじゃない。
フェイトとの出会いが運命ならば、アリサとは自身が掴みとった必然だった。
振り返るとアリサはいつでもなのはの傍にいて、心を安らげてくれた。乱暴な口調でそっけなくいう言葉に、沢山の気遣いが見てとれた。
フェイトには言えないような愚痴も言えた。フェイトはなのはの王子様。そんなフェイトはなのはのことを、無垢で純真な人物と思いこんでいた。だからなのはは嫌われなくない一心で、汚い感情は胸の底の底に沈めていた。アリサと二人の時にだけ、そういう感情を解放してやることができた。アリサはそのままに受け止めてくれた。なのはがなのはのままいられるのは、アリサのおかげに他ならない。
アリサの、春の陽気の下で微睡むような心地よさを、フェイトに求めるのとは別に離しがたいものとして感じていた。
だからアリサに好きだと言われた時、なのはは躊躇わなかった。アリサが自分に必要だというのは分かり切っていたことだった、迷うはずがない。あとはほんの少し罪悪を押し隠すだけ、それだけで心の平穏を保つことができると信じていた。もしアリサを失ってしまえば、胸の底に沈めすぎていっぱいになった嫌な感情が溢れて、フェイトに露見してしまう。安定を失った心は崩れおちてしまうかもしれない。
――嫌だ。
フェイトと離れるのも、アリサと離れるのも。ならばなのはが選ぶことのできる選択肢は初めから一つだけであった。
アリサに好きだと言われたのは、教室に二人きりになったときだ。日は傾き、朱と紫の混ざった陽光が、一窓分だけ空いたカーテンの隙間から差し込むような。どこにでもありそうな場面だった。でも自分にとっては、たった一瞬、一度きりのこと。
それまでアリサについて意識したことがなかったといえば偽りになる。なのはは稀に、アリサを見ると無性に鼓動が早くなる時があった。友人としてではありえない胸の高鳴りは、確かな鼓動の連続だった。しかしそれは、そっとアリサから視線をそらし深呼吸をすれば抑えきれるものだったのである。
誰にも悟らせることのない想いは、ひっそりとなのはの胸に秘められていた。
「なのは……あたしはなのはのことが好きなの。もう自分の知らないところでぼろぼろになっているなんてのは嫌。なのはがあたしから離れていくのが耐えられない。だからあたしは……フェイトが居てもいい! なのはがあたしのことを少しでも想ってくれるなら、いいの……」
白い制服が陽に染められていた。声を震わせて、大切な人が目の前に立っている。
なのはにはフェイトがいた。フェイトのこともやはりなのはは好きだった。だけど――だから。
「ごめんねアリサちゃん。悲しませちゃったね」
涙が幾筋も伝うアリサの頬に手を添える。親指で目の畔をなぞり、涙を拭う。
「いいよ……私は」
嘘などどこにもなかった。真実だけが二人残された教室にあった。
自分のどこからこんな声がでてくるのだろう、というくらいに甘い声で、しかし真摯に囁きかける。フェイトに対する罪悪は、不思議なほど希薄だった。
「アリサちゃんの事が好きだから」
抱き合いながらなのははふと思う。そう言えばアリサと手を繋いだことはあっただろうか、と。
年を重ねるごとにますます彼女を手放せなくなるとは、その時のなのはに予想できるものでは到底なかった。あの時は朧だった感情も、今では疑いようのないなものになっている。たとえ伝わらなくても、相手が求めるものでなくても、なのはは確かにアリサを愛していた。
まだ髪に含んでいた水分が毛先から滴り落ちる。音もなく吸い込まれていく。
本当はすぐに否定すればよかったのだろう。秒を刻むごとにアリサの表情が深刻になっていく。だが突然の事態にもつれた意識を立て直すには、多くの時間が必要だった。どうにか意識を整理し、なのはは言葉を見つける。
「私はアリサちゃんを愛してるよ」
「……嘘」
アリサの心に積もった疑惑を取り除こうと、なのはは柔らかい口調で言った。
「嘘じゃない。アリサちゃんこそ、私のことがどうでもよくなったんじゃないの」
アリサが答える前になのはは続ける。
「ずっと連絡もしない私に呆れて疲れて、気持ちが離れていっちゃったんだ」
「馬鹿なこと言わないで!」
アリサは鋭く叫ぶ。尖った声が広い部屋に響く。窓が震えたような心地がする。
目を見開くなのはを、アリサはきつく睨んだ。なのはは向けられる視線を逃がす。「あたしはなのはが」、彼女は言いかけて俯く。
「なのははきっと、あたしがあんたのことをどれだけ好きか知らないのよ。だからそんなことが言える。今まで一度だって言ったことはなかったけれど、これまでだって結婚の話はあった。だけどなのはがあたしのことを見てくれてるって信じられたからずっと断わってこれた。パパがその度に悲しそうな顔をしたけれど結婚なんてしたくなかった。触れてくれる指に、なのはの気持ちが感じられたから。だから気まぐれに言ってくれる薄い言葉よりもそちらを信じてた。あたしは本当に……」
そこまで言うと、アリサは言葉を詰めた。
――見合いの話はなのはにとっても初耳だった。
アリサならしてもおかしくないし、求婚者が競って好意を上げようとするぐらいのことは当然あっただろう。通った鼻筋に淡いグリーンの瞳が寄り添うように二つ、色素の薄過ぎない金色の髪は長く腰辺りにまで伸ばされていて、痩せているわりにはスタイルだって悪くない。容姿は整い過ぎる程だ。そこで皆一度は惚れる。少し付き合えば彼女が、口調は厳しくとも気の付く優しい子だとだれもが気付かされるはずだった。そして彼らは二度、恋に落ちる。
そんなアリサに色めいた話がなかったのが不思議で仕方がなかった。ただそういう想像はできたのに、それ以上は考えなかった。なのはの前でアリサはずっと小学校から変わらない、ぶっきらぼうで優しくて、自分をそのままに受け入れてくれる人だった。それだけの人だった。でもなのはには、それだけあればよかった。なのは自身をねじまげず受け入れてくれることこそが、なのはにとって大切だったのだ。どうしてアリサは気付いてくれないのだろう。
「だけどもういい。雨の中なのはを待って、久し振りになのはの顔を見たときに分かったの。なのはが求めているのは自分を受け入れてくれる楽な人だって。会った瞬間の驚いた顔、予想しない時に現われて少し引いた顎、狼狽する目。最後になのはは顔をしかめて視線を逸らした。それらはどう見たって好意的になんてとれなかった。あたしじゃなくてもいいんだってそう言ってた。あたしはもしかしたらずっと見ないようにしてきただけかもしれない。それでもなのはを受け入れているうちは、なのはが自分の事を見てくれている気がしたから……でも違うってわかったの。そうしたらもう駄目」
――受け入れてくれる、大切な人。
それを都合がよすぎると言われれば、沈黙するしかなかった。
なのはにはアリサが必要だった。でもアリサに必要だったのは“アリサを好きな高町なのは”でしかない。なのはにもそれは分かっていた。分かっていながら受け入れてくれる心地良さに浸っていた。仕事も愛しい人も頭の外に放り出して安らげる時間が、なのはにはどうしても手放せなかったのである。
一日ずつ、精神と命を削っているなのはがそんな場所や時間を護りたいとおもうことを、アリサ以外に否定出来る人はいなかった。フェイトさえ。
フェイトはあるいはなのはの行動に気付いていたのかもしれない。しかしフェイトは追及しなかった。詮索をしたかどうかは、なのはには判断がつかなかったけれど。
アリサの口調は普段よりもずっと緊迫し、思いつめるものになっていた。なのははただ聞くしかなかった。
「今だってなのはのことが凄く好きなのよ。これ以上いたらもっと好きになる。なのはがいればいいなんて思ってしまう。そしたらもう、フェイトのところに返してやれなくなるかもしれない。好きになったことさえ後悔するかもしれない。そうなったらなのはは、あたしのことを鬱陶しく思うでしょう。あたしはそんなの嫌、嫌われたくない。好きになったことも後悔したくない、だから取り返しのつく今、別れたいの」
窓を雨風が打ちつけている。どこか遠くで起こっていることのように、その音を聞いていた。
アリサが喋り終えるまでなのはは押し黙っていた。閉口し、じっとアリサを見詰めていた。生乾きの髪が額や頬に張り付いている。微かにまつげが震え、喉は渇ききっていた。唇も酷くかさついているようだ。なのはは舌で舐めることも忘れて、アリサの言葉を最後まで聞いていた。
「言いたいことはそれだけだよね」
そう吐き出すと、なのはは目の前の縮こまった体を抱き締める。ささやかにしてくるアリサの抵抗を胸に受けた。全力で引き剥がそうとしないのはアリサ自身が本気で嫌がってないわけではなく、なのはを傷つけたくないだけだ――真偽がどうあれ、なのははそう解釈する。なのははアリサを離さない。抵抗は次第に薄れていった。
アリサを抱きしめながら、酷い人間だ、となのはは自分を笑う。誰にも救えない。でも、アリサだけが……。
胸の中でアリサが呼吸を荒くしている。先ほどまでの気丈な姿はどこにもない。
なのははふと悲しくなった。自分がそんなふうに追い詰めてしまったことを、なのに改めることのできない歯痒さに唇を噛んだ。渇いた唇から、つうと血が滴る。
なのはは、自分のために伸ばしてくれたという髪を撫でて落ち着かせる。相手と自分の両方を。なのははそうしてじっくりと時間を置いた後、肩を掴み離れた。
「結婚なんてさせない。離れてもあげない。アリサちゃんはずっと、私のそばにいてよ。勝手だと罵ってもいいから離れるなんて言わないで、私を受け入れて。そうしてくれるなら、私はアリサちゃんに囚われたっていい」
なのはが再びアリサをかき寄せる。胸の中でもう、アリサは身じろがない。
「あんた、馬鹿じゃないの」
なのはの背中に腕が回される。胸の中にアリサが顔を埋めてくる。
「でも一番馬鹿なのは、きっとあたしよね」
何もかも諦めたようにと呟いたきり、もう言葉は口にしなかった。
力を抜いてアリサはベッドに押し倒される。深緑の瞳に映るのはなのはだけだった。アリサにとっては他に見るべきものなどかったのだろう。なのははアリサの虚ろな瞳から、そんなことを思った。恐らくそれほど外れてはいない。
嬉しくて、苦しい。
これはきっと今までアリサが感じてきたことだ。なのはは今更のように耐えさせてしまったことを悔み、嘆いた。なのはは行為の間中そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。手放す方法を識っていないわけではなかったが、それをするにはなのははあまりにもアリサを追い詰め過ぎていた。
アリサが完全な眠りについてから、頬をそっと撫でる。ごめんね、とそこに謝る。家に置いてきた人を今は思考から削ぎ落とす。
「好きだよ」
大丈夫、自分はこの人から逃げたりなんてしない――なのははそんな自らに課した戒めとともに、アリサの唇に触れた。
× あとがき ×
なのはさんがいろいろとアレな話でした。というかぐだぐだでしたね。すみません。
もういっそ軽いきもちでアリサと浮気していたらよかったんだよ、なのはさん。
よく、這い上がるより、堕ちる方が簡単というけど、自分はそうは思わない。
もし堕ちるのが簡単なら、なのはやアリサはとっくにその道を選んでいたと思うさ。
もともと、選べる道なんてすくなかったけど。
うん、どこでどんな風に間違えたかは、視点によるかと。
アリサを応援するならもっと早くになのはがアリサだけを見つめるべきだったし、フェイトを応援するなら勇気をだして全部見せるべきだった。……まあそういうのを引き出せたのがアリサで、フェイトは引きだせなかったということで、やっぱり選択肢は少なかったのかもしれません。
だからなのはに罪悪感があまりないのも、ある意味当然になってくるわけであり。。むしろこれがなのはにとって自然になってしまってるから。
と呟いたところでおわります。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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アリサ×なのは

comments
なのはさんは優しすぎるからアリサちゃんを悲しませないためにその好意を受け入れようと思った
博愛が服を着て歩いているようななのはさんだからこそ侵してしまった過ち…
面白かったです
こういうの好き
はじめまして!
なのはさんの優しさは、それこそ際限なく広がっているとおもいます。
博愛主義という言葉がこれほど合う人もいなかなかない。
ても腕で護れるのはすべてではなくて、アリサに関しては、自分も思っていたから、受け入れたとかんがえています。
なのはもアリサが好きだったから。伝わりにくいし、分かりにくい感情だけど、それは好きだし好意には違いなかったのです。
もっと楽な気持ちであれば、アリサもなのはも、ここまで追いつめられることなく、自然に分かれられたんでしょうが……、それが「高町なのは」であれば難しかったんですね。
どこまでも優しい人だから。
コメントありがとうございました!
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