2017-10

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Sky Tears SIDE:N

はやて×なのは。
Sky Tears SIDE:H』のなのは視点なので、先にそちらを読んでいただければと思います。
暗い話です。なのは視点なのでさらに。
ということで、はやてとなのはとフェイトの話ですが、純粋にフェイなのが好きな方は回避推薦でお願いします。歪んでしまっているので。

よろしければ続きよりどうぞ。



 Sky Tears  SIDE:N


 放課後の道を歩く。
 少しだけ遅らせた夢への道の代わりに、私はここを歩いている。それだけの価値があったのか、またこの選択が正しかったのか。未だ結論は出ていない。
 それでも私はこの道を歩いていくしかなかった。
 だから一人で、私は放課後の道を歩いている。学校と家と管理局を行き来するだけの、遊びなど一切ない生活に不満はない。不満はそういう処には生まれない。満たされないものは他にあった。
 長く伸びる黒い影が、灰色の地面を這っている。前方に描かれ、追う形で私は歩いている。放課後の帰り道、孤独、夕方。紅い日を背に受ける。寂寥が自身の周りに降り積もっていく。自分を埋めつくさずに、周りを壁のように取り囲み私を閉じ込める。
 はやてちゃん――。
 私は紅と黒と灰色の道を、ただ歩いている。


 抗えないことはどこにだって転がっていた。
 感情はいつだって現実に追いつかない。顔を上げれば遠くにあって、空を飛べば雲の裏側に隠れてしまうような。そんな気がしていた。
 私はその時までいつもたなびく金色の髪を追っていた。黒の外套を翻し、空を切り裂いていく彼女の事を、少しでも視界にとめておこうとした。
 胸に絡みつく金の糸。手繰り寄せる勇気もないまま、中学までの日々を過ごす。
 フェイトちゃんの、きつく無表情だった紅い瞳が緩む瞬間が好きだった。名前を呼ばれるのが好きだった。一緒に空を飛ぶのが楽しくて仕方がなかった。
 でも一方で凄く怖かった。あの人を自分に向ける自信なんてどこにもなかったのだ。幼い頃、家族が大変だった時に誰の助けにもなれなかった、一人で大人しくしていても生きているだけで家族は私の事を心配してくれる。みんな優しいから。でも本当はみんなぎりぎりの精神状態で、私が迷惑をかけていただろうことは当時でも容易に想像がついた。そんな自分がどうして自信を持てるのか。
 “あの子と友達になりたい。”
 恐る恐る願って、叶ったこと。それ以上を望むなんて怖すぎる。
 差し出した手を取ってもらえたのだって、あの子が他に縋るものがなかったからだ。私でなくてもよかった。フェイトちゃんが私を呼んでくれるのは、そこにたまたま居たのが私だったから。嬉しいけれど、でもそれは――やめよう。気分が暗くなる。
 そう、だから私が例え彼女の事を好いていても、とても自分からそれ以上を求めるようなことはできなかった、と。そういうこと。情けない。レイジングハートに気付かれたら窘められてしまうかもしれない。
 だけどそんな言い訳をする私でも、受け入れてくれる人がいた。

 はじめ、私は本当に戸惑った。今まで特別なやり取りをした覚えもないし、好かれるようなこともしていない。ただ一度涙を流すその人を抱きとめた、それだけなのだ。他には何もしていない。
 だから面と向かって言われた時、ずいぶんと呆けた顔をしていたのではないだろうか。あの真っ直ぐな瞳を構えもなしにそのまま受けてしまったから。
 蒼い目に紅い陽が射して、冗談は微塵も感じさせない強い視線や声。そういうものが全部私に向けられた。
「好きや、なのはちゃん」
 屋上では春の陽気な日差しが屋上に降り注いでいた。昼間温められたコンクリートは冷えることなく、日暮れ間近でも十二分に暖かな午後。はやてちゃんは確かにそう言った。
 私は間違いじゃないかと訊き返してしまった。なんて無粋な行動なんだろうと後から恥じてしまったくらいだ。はやてちゃんの方に羞恥があるのかないのかその様子からは想像できないが、二度目もはっきりと口にした。
「なのはちゃんのことが好きなんよ、誰よりも好きや」
 彼女は私に向けて手を差し伸べてくる。まっすぐで揺らぐところのない手は白く、こちらに伸ばされている。私は自然とその手を取ってしまった。そこには思考が入る隙間が全くなかったのだ。
 嬉しい。……嬉しい。
 単純な感情が神経を操り、体を動かす。彼女の手を取ると腕が引かれ、彼女に抱き締められた。久しぶりの温かみを感じる。制服越しに触れ合った胸が温かい。
「好きだよ、はやてちゃん」
 彼女の言葉を飲み込んで吐き出すように、同じ言葉を呟いた。髪を焼く陽の下で目を閉じた私とはやてちゃん。閉じた瞼のその裏側に映されたのは、こちらに真っ直ぐ伸びる白い五本の指。
 私は抱き合いながら、そうやって手を伸ばせる彼女の事をひそかに羨ましいと思った。

 そうやって始まった、私と彼女の付き合い。流されるようだったけど、私なりにその期間は幸せだった。
 はやてちゃんは私に安心と、笑いと、温かさを与えてくれた。秋に手を握られると冷えやすい指は温められたし、夏は私の冷たい手を気持ち良さがってくれた。
 彼女によれば私の手は冷たいらしい。夏日が射す午後、帰路の途中で彼女は自身の頬に手をもっていき、冷たいなあ、と顔をほころばせていた。私が暑くてやめてよと言っても、彼女は「やや」と真剣すぎる表情で返してきた。
「こんな気持ちええもん、離せへんよ」
 そう言ってもう片方の手も押しつける。私も暑いとは思っていたけど、不快だとは感じていなかった。
 付き合う以前よりもずっと、彼女といるのが心地よかった。学校でのクラスも同じで、仕事以外では暑い日も寒い日も一緒だった。
 だけど一年だけしか続かなかった。厳密には一年もなかった。
 はやてちゃんが嫌になったというのは、もちろんない。好きだった。でもそれが恋かどうかは判断がつかなかったのだ。唇は幾度も交わしたし、抱擁もたくさんした。身体を重ねたわけではなかったけれど、それはまだお互いが幼かったからだ。たぶん。私はそう思っている。だけどはやてちゃんはもしかしたら、私の曖昧な気持ちを見抜いていたのかもしれない。
 そんな折、金色の髪のあの人に想いを告げられた。赤い赤い瞳が真摯に私を貫いた。
 前の日にはやてちゃんと修学旅行について話し合ったばかりだった。もちろん仕事があるし行くことは出来ないが、その間何か二人で特別な事をしようと考えていた。どちらかの家に泊まるのもいいし、一日を使ってデートをするだけでもいいからと。
「楽しみやね、なのはちゃん」
 そう言ったはやてちゃんの笑顔をぎゅっと抱き締めて、永遠に離したくないとまで思ったのに。
 大切な人だ。それは揺るぎのないこと。
 なのにどうして私は、以前好きだった人に心を揺らがせているのだろう。
「なのは」
 まだ好きだったのか。忘れてなかったのか。
 フェイトちゃんの視線を受けて、過去の気持ちが蘇るようだった。
「なのは」とフェイトちゃんが言う。
「助けてもらった時から、手を伸ばしてくれた時から、私はなのはの事が好きだった。ずっと言いたかった、言えなかった……怖かったんだ。でもなのははここ半年くらいでどんどんはやてと仲良くなったでしょ。だから、その」
 我慢が出来なくなったんだ、と。フェイトちゃんが頭を振って言った。自嘲に近い笑みを私に向けまいと、必死に外に逸らしているようだった。
「好き……、いや、愛してる。なのはの事を愛してるんだ」
 学校の屋上だった。はやてちゃんに告白された場所と同じだ。どうして皆、この場所を選ぶんだろう? こんな赤い世界の中で、二人はどうして私にそんな言葉を向けてくれるのか。
「はやてよりも誰よりも、なのはの事を愛してる」
「……うん」
 私は擦れた声で、答えた。自分がどんな表情をしているのか、もうわからない。
 抱き締められて、私は抵抗できなかった。意志が弱い――以前に、感情が追い付いていかない。
 もちろん嫌じゃなかった。だって、ずっと想っていた人だったのだ。フェイトちゃんは私がずっと好きで、焦がれていた人。はやてちゃんよりも確実に強い想いだったはずだ。
 だから私は現実にとりあえず追いついたあとで、受け入れた。フェイトちゃんは怖いと言っていた。私と同じ、怖いと思っていたから伝えられなかったのだと。
 ……言うべきことは分かっているのに、言葉が出なかった。
「愛してるよ、なのは」
 言葉を受けてフェイトちゃんの背中に腕を回す。綺麗な髪が指に触れ心地よくあった。幸せだ。きっと幸せなんだ。抱きしめられても寒さを感じるのは、もう秋も終りだからに違いない。愛の言葉が胸に沁みていかないのも、突然のことだったからだ。涙が出るのも、きっと嬉しいからなんだ。
 雨が降っている。そう言えば今日天気予報を見忘れていたな。思う間にどんどんと雨はその力を増していく。あれほど紅かった空が、今は灰に塗り潰されている。そうすると辺りは一気に暗くなった。
 まるで空の涙。
 大好きな空が泣いているみたいだ。
 ねえ、何をそんなに悲しんでいるんだろう。それとも嬉し涙かな。フェイトちゃんとのことを、祝福してくれているの?
 だけどとてもそうとは思えない、暗い涙のように、私は見えた。
 雨が制服を水浸しにしていく。フェイトちゃんが急いで傘を取り出し、私に差し出してくれる。帰ろう、とフェイトちゃんは言った。
「私の家が近いから、寄っていくといいよ」
「そういえば久し振りになるんだね、フェイトちゃんの家」
 彼女は嬉しそうに頷いた。雫が毛先から滴り、顎を伝う様子は凄く絵になった。
「母さんもクロノもいないから、遠慮しなくていいよ」
「え?」
「今事件が立て込んでいて忙しいみたいで、三日ほど家を空けるらしいんだ」
「そうなんだ」
「うん、だから今日はずっと一緒にいたいな」
 絵画の中の美しい人が微笑を浮かべる。私のためだけの笑みに、どうしてここまで悲しくなるのか。嬉しいはずだ。嬉しい、きっと。大丈夫。
 私は彼女の言葉に頷き、家に向かって走った。家に着いた時には結局ずぶ濡れになってしまっていたけれど、その時の自分はどうでもよいものにしか感じられなかった。いつの間にか感情がまた、現実に追い抜かれてしまっている。
 私はその日、最後までフェイトちゃんに好きだと言うことができなかった。
 
 晴れた翌日。朝からずっと陰鬱な気持ちだった。登校の際、フェイトちゃんが邪気無く手を絡めてくるのも憂鬱さに追い打ちをかけた。
 その行為そのものは嬉しかった、だけど。
 午前の授業が終わり昼休みになると、はやてちゃんが教室に飛び込んできて、昨日の放課後のことを心配した。仕事の日以外は一緒に帰ることが日課になっていたのに、そういえば何も言わなかった。いきなりの事だったとはいえ、かなり待たせてしまっただろう。
 私はその時に気付くべきだったのだ。私を待ってくれていたはやてちゃんが、フェイトちゃんと肩を寄せ合って門をくぐるところを見ていないはずがないということに、気付かなければいけなかった。謝るには遅かった。
 だというのにはやてちゃんは笑っているから。私はつ言ってしまった。どの道先送りできないことだったけど、何も今、言わなくてもよかったのに。
 別れようか――。
 瞬間、彼女の顔から表情が消えた。青ざめるでも悲しむでも怒るでもない、まったくの喪失だった。彼女の顔は何ものも浮かべてはいない。
 彼女は淡々と、確認のように私に尋ねる。
「私のこと、嫌いになったん」
 そんなことはない。首を振ると、彼女は何もかも納得したように私を抱き締めた。しかしそれは愛しいというより、諦めに似た抱擁だった。私がそうさせているのに、酷く苦しくて、呼吸が困難になる。はやてちゃん、と心の中で喘ぐ。
「奪いたかったよ、なのはちゃんのこと。奪えんかったんやな」
「知ってたんだ」
 私がフェイトちゃんを想っていたこと。
「当たり前やろ。私がなのはちゃんのことを、一番……」
 私は続きを待った。だけどいくら待とうともその先が紡がれることはなく、私を包んでいた温度が消える。腕がとかれ、二つの体は離れる。
 ありがとう、と私が言った。
 それは中学二年の、秋の日の事。本当なら何でもないはずの日だったのだ。


 それから四年が経つ。
 四年という時間は簡単に過ぎて行った。中学を卒業して仕事に専念する道もあったけど、あと少しと遅らせてもらった。どうしてかわからなかったけど、高校を卒業するまでは海鳴にとどまっていたかった。可笑しいかな、ミッドチルダにこそ自分の求めるものがあるのに、もう何も残っていない海鳴から離れ難いなんて。
 いや、何も残っていないなんて嘘だろう。フェイトちゃんがいる。傍にいてくれる。アリサちゃんもすずかちゃんもいる。何も残っていないなんて言ったら、怒られる。
 ふっと口元が緩んだ。アリサちゃんとすずかちゃん、それにフェイトちゃんの長閑な微笑を見た気がして嬉しくなった。
 だけどその中にはやてちゃんの姿だけがない。はやてちゃんは以前よりずっと仕事に打ち込むようになって、ほとんど海鳴にはいない。
 呼吸が苦しいと思うようになったのは、いつからのことだろう。
 いつから私は一人でこの道を歩くようになったんだろう。
 今日もフェイトちゃんを振り切って、一人帰路に立っていた。誘われたら断れない、だから誘われないうちに教室を出ようと手早く荷物を整え、帰宅する。最近の日課になってしまった。上手くいくことはあまりないが、今日は彼女が先生に呼ばれどのみち一緒には帰れなかった。ああでも、普通の恋人同士なら待っているものかもしれない。
 想像してみた。彼女の用事が終わるのを待って、一緒に帰る場面を。おまたせと言って駆けてくる彼女の姿を。可愛いと思うだろう。誰もが惹かれ、憧れるフェイトちゃんの笑顔を受ける私は、羨望の的かもしれない。でも自分からそれを避けている。
 どうして。
「どうしてよ?」
 今日、アリサちゃんに訊かれたことが耳朶に蘇る。彼女とはフェイトちゃんと同様、一緒のクラスだった。
「あんたたち、あんなに仲良かったじゃない。なのになんでここのとこ逃げてるの」
「逃げてるわけじゃないし、仲は良いよ」
 そう言うと彼女はふんと鼻を鳴らす。納得したようではなかったが、引き下がってくれた。アリサちゃんらしくないなと思いながら、しかしフェイトちゃんから逃げ続ける私も私らしくなく映っているかもしれないと思うと何も言えなかった。
「じゃあ今日はどうするの、一人で帰る?」
「ううん、どうしようかな」
 アリサちゃんが溜息をつく。私はそんな彼女と自分に苦笑する。
「まったく」
 彼女は私の頭を乱暴に撫で、鞄を持って教室の扉に手をかけた。アリサちゃんは去り際に一言残していく。
「そういえばすずかが言ってたんだけど、はやて、明日登校できるらしいわね」
 家に着くと、私は急いで着替えて翠屋に向う。ミッドチルダに行くまでの間は少しでも手伝いをしたいと思っている。後片付けを終えて家族みんなで夕食を済ませると、外で結界を張ってもらい修行をする。一日が簡単に終わっていく。
 翌日。午前の授業が全て終了し、私はフェイトちゃんと一緒にお昼御飯を食べるべく校内を散策する。といってもいつも同じ場所で食べているから、向かうだけだ。
 この頃は秋も深まり、肌寒くなってきた。衣替えは済んでいるが、今日みたいに雨が降っていると制服とシャツの間にもう一枚着たい。寒がりなのだ。今朝は早々にマフラーを巻いてきてしまった。校舎を跨ぐ渡り廊下を歩きながら、私は少し体を震わせる。
「なのは? ああ、今日は冷えるね」
 隣を歩くフェイトちゃんが言った。言いながら何気ない仕草で私の弁当を持っていない方の手を握る。右手が彼女の暖かな手に包まれ、何とも言えない気分になる。
 ――今日ははやてちゃんが来ている。
 二人じゃなく五人で食べるいい機会だったかもしれないのに、私は何も口に出さなかった。フェイトちゃんも。アリサちゃんは早々にすずかちゃんとはやてちゃんがいるクラスに向った。いつものように。彼女なりに気を使ってくれている、らしい。ありがたい、のかな。どうせはやてちゃんと一緒にいても気の利いたことは喋れないし、緊張してしまう。
 ならこれでいいのだろう。
 そう決めて足を進める。雨が中庭を打ちつけ、緑の床を水浸しにしている。流石に誰もいないかと思ったけれど、何人かは屋根のある自動販売機のそばの椅子に座って食事をしていた。仲の良さそうな女の子が三人いる。上からでよく見えないけど、雰囲気でそうと分かる。
 私は歩きながら彼女たちの様子を見下ろしていた。しかしなんとはなしに前に視線を戻せば、心の底で切望していた人の姿があった。まさに自身の横を通り過ぎようとしている人、はやてちゃんだ。私は足を止めた。
 はやてちゃんの隣にはすずかちゃん、その横にアリサちゃんがいる。三人は並んで向こうから渡り廊下を歩いてきていた。
「アリサ、すずか、それにはやて」
 真っ先に声を上げたのはフェイトちゃんだった。それにアリサちゃんが応じる。目の前にいるから分かるのに、アリサちゃんはリアクション大きく腕を振った。
「フェイト。ああ、あんたたちはまたいつもの場所か」
「あそこが一番、静かでいられるからね」
「そうよねえ。なのはと二人の時間を邪魔されたら、フェイトって途端に不機嫌になるものね」
「……、そんなことないよ」
「その間がすべてを物語っている気がするわ」
「まあアリサちゃんその辺で。フェイトちゃんはいつも通りだよ」
「あんたもまた、ぼけえっとしたように言ってるんじゃないわよ。さっき会った時だって、一番気付くの遅かったわよ?」
「ごめん。ちょっと余所見してた」
「まったく」
 久しぶりの五人での会話――とはいかない。五人でいると、大抵話すのは、フェイトちゃんとアリサちゃんと私だけだ。はやてちゃんは割と笑っているだけで、積極的に話に入ってはこない。傍観者側のすずかちゃんに近い位置だが、それでもはやてちゃんはお互いの距離を見て、会話に参加する。途切れそうだったり私とアリサちゃんが喧嘩しそうになったら和らげてくれる。緩和剤のような人。
 今回もすずかちゃんとはやてちゃんは黙っていた。すずかちゃんはいつもと同じ、私たちを見守るように見ていたけど、はやてちゃんの視線はどこにもなかった。
 すずかちゃんが話に入っていないはやてちゃんの様子に気付き、会話を振る。そうするとはやてちゃんは自然に笑った。先ほどの所在ない視線も気にならないほどの笑顔。
 私も思わず笑ってしまう。何もおかしくないのに、笑わないことがこの場に相応しくない気がした。
「あははっ」
 久し振りに会った人が笑っている。綺麗だった。
「なのは?」
 笑顔を浮かべた彼女を、私は綺麗だと思った。可愛いとずっと思っていたのに、綺麗なんだ、この人は。久し振りだからそんな気がするのだろうか。錯覚か。
 食堂で食べるらしい三人と私たちは軽い笑みと少しの会話を交わしてから、お互いに通り過ぎる。フェイトちゃんと二人、歩きだす。しかし、つい振り返ってしまった。意識したわけではないのに勝手に足が止まり、後ろを振り向いていた。
 私は、はやてちゃんの姿をもう少しとどめておきたい――。
 そう思って振り返ったのだけど、見えたのは背中ではなく顔。先ほど綺麗だと思った顔が見えた。彼女は目を細めて、唇を瞑っていた。私が見ていることに気付くと、彼女はふいっと半身をひるがえす。そして、前を行く二人に交じって歩き出す。私もフェイトちゃんに声をかけられ、小走りに駆け寄った。
「あっ……」
「なのは、どうしたの?」
「……何でもないよフェイトちゃん。行こう」
 私は彼女の腕を取ると、再び歩き出した。僅かな時間交わした視線が胸を深く抉りとっていたことは、その時すでに気付いていた。抉られた部分が発熱している。これは雨などではおさまらない、それどころか雨脚が強まる度に熱くなっている。全身は震えるように寒いのに、胸と脳だけが熱を持っていた。
 私たちは校舎を渡り切る。それでもなお、耳の横では雨が止むことなく降り続いていた。

    ◇

 台風が来ている、と午後一番の授業で知らされた。
 昼食を済ませて教室に戻ると、いつになく騒がしかった。どうやら警報が出ているらしい。そういえば窓を叩く雨風が一層強くなっている気もする。教師が素早く指示をし、全校生徒が放課となり清掃後の帰宅を促された。
 私は騒がしくなった教室の窓際の席から立ち上がらず、頬杖をついて外を眺めていた。強風が雨をガラスに散らしている。がたがたと揺すられる木の枝と葉。山からは何本もの煙が立ち上っていた。雷でも落ちたのだろうか、それとも。
 遠くから聞こえてくる救急車のサイレン。
 私は窓際の前の席に座っていて、まだ黒板を掃除している女の子を特に意味もなく見詰めていた。クラスの中でも小さな背丈の子で、黒板の上の方に腕が届かず精一杯伸びをしていた。何だか微笑ましく感じ、私はなんとなく眺めてしまう。その子は何度かジャンプを試みているうちに、黒板消しを取りこぼしてしまった。紺色の制服が白く汚れ、掃き終えた床にもチョークの粉が散乱した。
 ああ、と世界の終わりのような声を漏らす子に、私は少し苦笑する。見たことのある光景に一瞬の目眩が起こる。
 私は立ち上がって黒板消しを元に戻し、雑巾を水で濡らして床を拭いた。それから慌てるその子の服をはたいてやる。嫌そうでないことを確認し、私は二つある黒板消しの中のもう一つを持った。
「手伝うよ」
 その子は首を十分な時間傾げたあとで大きく頷いた。赤面症なのか、それとも寒さのせいか。その子は頬を染めてありがとうと微笑みを浮かべる。私はその子のそうした様子に、中学の頃のはやてちゃんを重ねないわけにはいかなかった。
 それは日常の中ではありふれた場面であり、埋もれてしまいそうなほど普遍的な出来事なのに、私の脳は間違うことなく該当の記憶を掘り起こす。鮮明すぎるほど鮮明に洗われた姿での突出。一年か三年かの付き合いでは三年のほうが印象強くて当たり前なのに、私は一年のなかにこそ記憶を多く見た。
 ふとした時に現れるはやてちゃんとの記憶。さっきみたいな何でもない一場面で唐突に出てくるから、たちが悪い。
「手伝うよ、なのはちゃん」
 まだ私の身長が今よりも低かった頃、黒板など高いところの清掃ではやてちゃんはよくそう言った。でもどちらかというと彼女より私の方が高くて、手伝ってくれる彼女の方が大変そうにしていた。
「ごめんなあ、かえって邪魔しとるね」
 ぐっと手を伸ばすのだけど、それが懸命すぎて黒板消しを落とし、チョークの粉を床に撒いた彼女が項垂れて言う。頭を撫でたくなるほど可愛いはやてちゃん。でも粉だらけの手で頭は撫でられず、言葉でのみ撫でる。
 邪魔なんて、と私は言った。
「はやてちゃんがいて、そうやって手伝おうとしてくれることが嬉しいの。やる気もでるし、十分なお手伝いになってる。だから絶対に邪魔なんてことはないんだよ?」
 少しの沈黙の後、彼女は私の頬に唇を当てる。思わず教室を見回してしまったが、幸い誰も見ていないようだった。それでも人がいることには変わりなく羞恥でいっぱいになり、頬どころか耳まで赤くなっていくのが自分で分かった。だというのに、手が使えないからその赤さを隠せない。
「おおきにな、なのはちゃん」
 彼女はそう言って、穏やかな笑顔を見せてくれたのだ。
 はやてちゃんは今日の昼休みに見た、あんな不安定な笑い方をするような人じゃなかった。きっと私が――。
 ずきずきと胸が痛む。
 鮮明なのは昔の記憶だけではない、つい先ほどの彼女の自然すぎる笑顔と、難しい表情と、背中。渡り廊下ですれ違ったはやてちゃんの姿も当然瞼の裏側に焼きつけられている。まるで刻印。私にとっては消えない痣みたいなものだった。
 校門を出てから、教室の椅子にかけておいたマフラーを忘れてしまったことに気付いた。取りに戻ろうかとも思ったけど、こんな雨じゃどうせ巻けないからと諦める。それに――。
「帰ろう、なのは」
 傘を持ったまま目の前でじっと佇むフェイトちゃんを、さらに待たせることになるだろうから。
 今日は交わせなかった。そのことすら忘れてしまっていたのだ、私は。こんなにも自分は迂闊だっただろうか。
 なんにしてもフェイトちゃんは私の彼女なのだ。それに傘を忘れてきた自分を待ってくれた彼女に感謝こそすれ、断る理由なんてどこにもなかった。
 耳に入り込んでくる雨音を塞ぐように彼女に笑いかけて、私は彼女の傘の下に入った。

 傘布を打つ雨が少しうるさい。フェイトちゃんは濡れるからと家まで送ってくれた。家の前に着くまで、彼女はずっと話しかけてくれた。私もそれにぽつぽつと返した。楽しい時間が過ぎ、いつの間にか門の前に到着していて、私は立ち止まる。
 じゃあ、と門をくぐるのも気が引けて、私はフェイトちゃんを見送ることにした。別れのキスを額に受け、彼女に手を振る。踵を返す彼女の後姿を私はぼんやりと眺めた。昔は同じくらいだったのに、今は自分より随分と高くなった背に、金色の髪がかかっている。尾を黒いリボンで束ねていて、雨が跳ねる度に金色のそこだけが輝くようだった。彼女が差している明るい色の傘も、彼女自身の色を消すことはなかった。
 隣にいては分からない、こうして後ろを眺めていて初めて分かるフェイトちゃんの美しさ。容姿だけではないことを私は知っている。ずっと求めていたフェイトちゃんの隣の席。自分のために空けてくれたのに、私は今だってはやてちゃんのことを想っている。
 フェイトちゃんと話している時も肩が触れ合った時も、唇を交わしている時だって、私の頭の中にはあの渡り廊下で見たはやてちゃんの姿があった。振り返ってくれた。私を見たのではないかもしれないのに、もしかしたらと密やかな期待が胸に湧く。ふつふつと煮立ち、雨など思考の邪魔にならない。
 私はふらりと歩き出した。傘も差さずにはやてちゃんの家へ向かう。制服も髪も濡れて重くなったけれど構わなかった。そんなに遠くじゃない。考え事をしながら歩いていればすぐの距離だ。鈍色の空の下、夜とそれほど変わらぬ暗さを歩き続け、ついにははやてちゃんの家に辿り着いた。八神家の門の前に立ち、しばらく家を見上げてみる。カーテンの閉められた窓がはやてちゃんの部屋……。
「なのは? 何してんだこんなとこで」
 玄関から出てきたヴィータちゃんが怪訝な顔をしてこちらを睨んでいた。相変わらずの不機嫌そうな様子にほんの僅か、力が抜ける。
「はやてに用か。ならさっさと入れよ、部屋にいるからさ……ってなのは、お前ずぶ濡れだぞ! 早く入れよ」
 ヴィータちゃんが叫ぶ。
「ん、別に用ってわけじゃないんだけど」
「煮え切らないな。風邪引くからとにかく入って……」
 ヴィータちゃんが言いかけて、言葉を中途半端に切った。もともと不機嫌そうだった顔がさらに歪められた。何事かと後ろを向けば、そこには先ほど別れたばかりのフェイトちゃんがいた。微かに息が切れている。
 フェイトちゃんの登場にヴィータちゃんは尚更首を捻った。
「んだよ、お前まで来て。ほんと何かあるのか?」
「ちょっとね。それよりヴィータ、時間じゃないの」
 ああ、と思いだしたようにヴィータちゃんが頬をかく。任務らしい。彼女は相当苛立っているみたいだった。まあ自分の家に意味もなく人が集まっていた苛立ちもするだろう。なんて冷静に判断してみてる自分が一番彼女の怒りを買っているのかもしれなかった。
「悪い、行ってくる。はやては中にいるから、さっさとインターホン押して呼べよな。特になのは。ずぶ濡れで家睨んでたら、不審者だぞ」
「にゃはは……じゃあお仕事頑張ってきてね」
「おう」
 ヴィータちゃんが去ると、その場には二人だけになった。
 頬を雫が次々と流れ、顎を伝って落ちる。もはや雫と呼べないかもしれない。ヴィータちゃんが表現した通り、家からここに来るまでに全身濡れ鼠で、髪も頬や額などあちこちに張り付いていた。空は相変わらず重たげで、隙間なく雲が敷き詰められている。
 私は、どうしてフェイトちゃんがここにいるのだろうと考えてみた。でも雨に打たれぼやけた頭ではろくに考えが纏まらない。ぐるぐると空っぽの思考が回転している。
 だから「どうしてここへ?」と、私に言えたのはそれくらいだったが、フェイトちゃんは律儀に答えてくれた。
「なのはと話し足りない気がしたから戻ったら、こっちへ来るのがわかったから。ぼうっと歩いてたし危ないと思って跡をつけてたんだ」
「話し足りない?」
 私は首を傾げる。帰り道でそれなりに話した気がする。
「あんなの話したうちに入らないよ。それに会いたかった」
「さっきまで会ってたのに」
「好きな人とは別れたすぐにでも会いたいと思うものだよ。なのはだってそうなんだよね。だからここに来たんだ。無意識のうちにでも」
「フェイトちゃん?」
「君ははやてのことが好きだ」
 胸を突き破られるかと思うほど強く、心臓がどくんと鳴った。
「誤魔化せないほど強く想っている。そうでしょ」
「よく……わからない、私の恋人はフェイトちゃんじゃないの?」
 彼女の言っていることを理解しきれずに問う。しかしそれには答えずに、彼女は続けた。
「全部知ってたよ。例えなのはが自分の気持ちに気付いてなくても、はやてを好きで居続けたことは知ってた。そしてはやてと付き合っていたことも。私はそのことを四年間、ずっと隠してたんだ。……知らなかったらよかった、って思うよ。気付いてなかったらって」
 吐き出すべき言葉を見つけられず、私は沈黙する。その間も雨は二人を打ち抜く。いつの間にかフェイトちゃんは傘を落としている。金の髪が濡れて、それでも鈍く光っていた。なのに表情は頭上の空よりもずっと暗い。
「もし知らなかったらもっと強くなのはのことを抱き締められた。引きとめて、向こうに行かないようにって強引にでもできたのに、私はどうして気付くんだろう。でも本当はそんなこと分かってる。一人の時に沢山考えたから分かってるよ。なのはだからだ」
 彼女の言葉が痛い。
「なのはの事だから、私は何でも気付いちゃうし知ってしまう。鈍感だったらどんなに楽か」
「私みたいに?」
 言うと、彼女は小さく笑った。
「なのはは鋭いよ。ただ自分のことに鈍いだけ。自分の価値を低く見過ぎているから、向けられる好意を有り得ないことだと思いこんでしまっている。でも周りの人には……アリサやすずか、はやて。それに私についてだって敏感に察してくれてる」
「そんな、そんなことない。帰りだってフェイトちゃんが待っててくれなかったら一人で帰ってた」
「だから待ってたんだ」
 フェイトちゃんはさらりと言う。まるで当然だと。
「なのははさっき言ったよね。なのはの恋人は私じゃないのかって。私の中ではそうだよ、なのはの恋人のつもりだった。でもなのはは違った。なのはの中では、その場所はずっとはやてのものだったんだ」
 しとどに降る雨が地面を灰色に染めていた。電信柱を伝う雫は水たまりに向かって真っ逆さまに落ちていく。八神家の庭に植えられた木の枝や屋根からも、ぽたぽたと流れる。道を埋めるくらい大量の雨、フェイトちゃんはじっと私を見ていた。母を見送って別れたあとのような哀しい目をしている。
 昔のフェイトちゃん。私が惹かれて、好きになった彼女がそこにいる。
 だというのに、私ははやてちゃんの部屋をつい見上げた。カーテンの向こうにいるはやてちゃんを想像した。部屋にこもって何をしているのか、私のことを少しは考えてくれてはいないだろうか。そんなことを。
 慌ててフェイトちゃんに視線を戻した時には彼女は瞼を落としてしまっていた。俯いた彼女の前髪が目を隠し、表情すら覆っている。
「……ほら。私が目の前にいても、もう君ははやてしか見えていない」
 どんなになのはへの想いを語っても、抱き締めてもキスをしても、なのはは私を見ないんだろうね――フェイトちゃんのくぐもった声が聞こえる。
 これのどこが恋人だって?
 そんな言葉まで聞こえてきそうだ。いや、私の心が言ってるのかもしれない。
 好きな人にこんなことを言わせて、私はなんて人間だろう。今更好きなんていえないし抱きしめても安心させることは到底できそうもない。それに多分出来ない。肩を抱いたところで親愛のようになってしまうに違いなかった。それはフェイトちゃんが求めているのとはかけ離れた形だ。
 出口のない思考を続けていると、彼女はいつの間にか顔を上げていた。頬を伝うのが雨か涙か、判別するには濡れ過ぎている。
「フェイトちゃん」
 私は恐る恐る名前を呼んだ。弾んだ気持ちなど一切ない、ただの言葉。昔はあんなに胸を熱くして呼んでいたのに。なのはと呼ばれたことが嬉しくて、泣いて。フェイトちゃんは抱きとめてくれて。それが嬉しくてまた泣いた。
 何年前だろう。まだはやてちゃんと出会ってない頃だった。
「またはやてのことを考えてる」
 フェイトちゃんが笑った。
「ね、なのは。いつのまにそんな感情を隠すのが下手になったの? 昔はもっと上手く私を誤魔化してくれていたのに。ひどいな」
「フェイトちゃん、それはっ」
「でも。だからといって渡せないんだ」
 ――言い訳を口にする前に、私は息をとめた。
 身動きが取れなかった。フェイトちゃんの声が悲痛過ぎて、ゆっくり近づいてきたのに避けることができなかった。彼女は腕を伸ばし、私を抱き寄せる。力任せじゃない、濡れた制服が肌に張り付いた不快感さえ消えてしまうくらいの優しい抱擁だった。
「渡せるわけがない。こうなるのが嫌で告白したのに、誰のものにもなってほしくないから。だから!」
 感情を昂らせながら、どうしたらこんな怖がるような抱き方ができるのか。彼女の腕の中でいくつものくだらない考えを馳せる。繰り返し繰り返しフェイトちゃんのことを考えるけど、最後にはまたはやてちゃんに辿り着いた。
「嘘でもいい。上手に騙してくれるならいいから、離れていかないで。今日のことなんてなしにして、なのはの気持ちも知らないままでいる。なのはといられるならそれでいいんだ」
「フェイトちゃん」
 私はフェイトちゃんの腕を解く。全く力の込められていない腕はするりと抜けた。彼女の体温であたたまった胸が急速に冷やされていく。
「なのは」
「ごめん、もう」
 私は静かに首を振った。これ以上彼女を自分などが傷つけていい道理はなかった。
「はやてなんていなければよかったんだ」
 始めて聞いた彼女の冷たい声。出会ったころのような無感情な声ではなく、ひたすらに低く 険のある声だった。冷笑さえ浮かんでいる。
「なのは、離れるなんて無理だよ」
 笑って、そのあとで優しい表情をして、愛おしげに私の名前を呼ぶ。
「フェイトちゃん……」
「愛してる。愛してる愛してる愛してる、愛してるよなのは――」
 私はたまらずに彼女を抱きしめた。
 受け入れたわけではなく、言葉を閉ざしたかったわけでもない。見たくないだけ。焦がれたフェイトちゃんが壊れていく姿を見ているのがつらいだけだ。彼女は十分に傷ついていた。もっと早くに気付けば、告白を受けなければフェイトちゃんにこんな顔をさせないですんだのに。自分の心を知るのが遅すぎて、傷つけなくていい人を傷つけた。
 今更はやてちゃんの所に行っても動揺させるだけかもしれないのに。それよりもフェイトちゃんを受けれていれば誰も不幸になんてならないのに。
「なのは……なのは、なのは。……なのは」
 勝手な幸せを選ぼうとしている自分が、嫌いになりそうで。
 いつからこんな我が侭になってしまったんだろう。いつから自分の心を抑えることもできなくなったのか。
 私は彼女からゆっくりと離れた。肌に張り付いたシャツがこれ以上になく気持ち悪かった。雨は好きだけど、でもこの雨は嫌いだと思った。
「酷い事をいうよ」
 ――できれば嫌いになって。
「私ね、フェイトちゃんのことが好きだよ。だけどそれは恋愛じゃなかった。ううん、最初は恋だったかもしれないけど、憧れに近かったんだ。友達としても魔導師としても素敵なフェイトちゃんに、憧れてた」
 私の事なんて見たくもないくらい嫌いに。そして。
「勘違いだったの、全部。フェイトちゃんの言う通り、私が本当に好きだったのははやてちゃんなんだ」
「嘘」
 フェイトちゃん。
「嘘じゃ、ない」
「嘘だよ」
「嘘じゃない」
 フェイトちゃん。
「嘘だ……っ」
 彼女が金の髪を振り乱す。雫が飛び散って、踏みだした足がぱしゃりと音をたてた。
「なのはは私のことが好きなんだ。恋人なんだ。誰にも壊せないくらい強いきずなで結ばれた、二人なんだよ! 手を繋いだ、キスをした。……抱き合ったんだ。なのはは忘れちゃったの」
「忘れてなんかいないよ。でも私がいつも考えていたのはなんだったか、知ってる?」
 彼女は何も言わない。私を見ない。どこも見ない。
 ――嫌って欲しい、と思った。こんな人を好きになったことが無駄な時間だったと思ってほしい。
「手を繋いだ時やキスをしてる時、抱き合っている時でさえ私の頭にあるのはフェイトちゃんのことじゃなかった。ずっとはやてちゃんのことを考えていたの。私は」
 そういう酷い人間なんだ、と納得してくれたら。きっと苦しいのは今だけだ。彼女にはやてちゃんを、友達を恨ませたくない。
 あるいは逃げるいいわけだったのかもしれない。でも偽りでもない。
「ばいばい、フェイトちゃん」
 ぱしゃり、とひと際大きな水音を立てて彼女は走り去っていく。ずぶ濡れのまま一人私は残される。ずっとずっとフェイトちゃんの後姿を見送る。
 ――嫌いになってほしいと思ったんだ。
「でもやっぱり、……きついな」
 大切な人だった。大切に順列は付けられなかったのに、それでもはやてちゃんを想ってしまったこと。フェイトちゃんといるときに感じていた確かな幸せを、嘘だと言ってしまったこと。
『好きだよ、なのは』
 そんな、もったいないくらいの温かい言葉と向けられる愛情を、自ら手放した。
 涙は流さない。権利がない。私は……泣いてはいけなかった。

 頭が十分に冷えるまで門の壁に凭れて、しばらく空を見上げた。鈍色の空、重たげな雲が空を覆い、青などどこにもない。一条の光さえ差し込まない世界で一人佇んでいるような錯覚が湧きあがる。
 でもすぐ近くにははやてちゃんがいるし、フェイトちゃんが立ち去った残骸もそこに散らばっていた。荒れた地面についた足跡。胸に落とされた涙といっぱいの叫び。
 しかし私はやがて背を離し、玄関横の呼び鈴を鳴らす。何気ない顔をしてはやてちゃんに会うのだ。
「えへへ……。こんばんは、はやてちゃん」
 うまく笑えていると彼女にだけは見えるように、私は必死に笑顔をつくった。




[ WEB CLAP ]
そしてはやてサイドのあの場面に続く。
やっぱりなのはさんは魔導師として生きているほうが正常な精神を保てるような気がします。魔法とは無印一話でいってたような「やりたいこと、自分にしかできないこと」だから。魔法がなのはさんも幸せにしたんだったらいいな。

● COMMENT FORM ●

投稿します。

なのはのゲーム出ないかな、と思っている今日この頃です。

だって、なのはシリーズって、ゲーム、特に格闘ゲームに合いそうな気がするんですよ。皆強いし、皆カッコイイ、熱いセリフも沢山ある、とくれば、ゲームにならない方がおかしいと思うんですよ!

まぁ、そのうち出るだろうな、だって人気があるシリーズだからね、とか考えてます(笑)いつになるか全くわからないですが、気長に待ちますよ。

話は変わりますが、なのはシリーズの中で、なのは、ティアナ以外で好きなキャラをランキングするとしたら、どんなランキングになりますか?ちなみに、自分は、


1位 はやて
2位 なのは、フェイト


3位 スバル、ティアナ


という感じです。結構ダブってますが、皆好きなんだって事で、気にしないで下さい(笑)

でも、最近、色々見たり聞いたりしているうちに、キャロやリインが気になり始めてたりします(汗)

それでは、また来ますね!

PS.なのはのアンソロ、自分も買いました!どれもなかなか面白かったです!ふと立ち寄った本屋で偶然見つけて、即買いでした(笑)

それにしても、自分の住んでる所、アニメ関連のグッズ売っている所少ない・・・。ストライカーズのDVDも4巻までしか持ってない・・・。レンタルって手もあるけど、出来れば自分で買って、保存版にしたいなぁ。
それに、無印もA’sもきになるし、サウンドステージも欲しい・・・。

TSUTAYAとかゲオとか、もう少し品揃え増やしてよ、って愚痴が出てしまいます。

まぁ、こっちも、気長に待つ事にします。
あとがきのつもりが、すごく長くなってしまいましたが、適当に流して下さい(笑)

>凛さん
返信おそくなりまして、すみません。。
ゲームはとらハ関係のこともあってでないのかな~と勝手に邪推したりしてますが、これだけ人気なんだから出てほしい気持ちはありますね。
格闘ゲーム、たのしそうです。
団体戦だとはやて最強とか。個人戦だとなのは・ヴィータ・シグナム・フェイトがならぶか。ティアナやスバル、エリオとキャロもつよくなってるし、いいかんじになりますよねw
ランキングは、なのははいうまでもなく、次点でティアナ・ヴィータという感じなので。
あとはアリサ、ヴィヴィオ、はやて、リインII、スバル、ヴァイス、ザフィあたりです。順番はその時々によってかわるのではっきりとこれ、とは言えませんが。
なのはキャラはどのキャラも好きなので、選ぶのはむずかしいですねw
アンソロは、一番最初にある「オレンジのダンシング」が大好きです。なのはとティアナの関係が凄くいい。他のも秀逸で買って損はないですよ~。
それと、DVDを近場の店でみつけられないときは、通販という手もありますよ~。アマゾンや楽天などさがせばきっとあります。だから無印とA’sも見るべき!サウンドステージもおなじく手に入るかと。
お金に余裕があるなら通販もかんがえてみては?
そしてグッズに手をだしなの破産まっしぐら♪なのですよw
ではでは、コメントありがとうございましたm(_ _)m

お返事です。

西野さん、お返事ありがとうございます。返信が遅かったことも、あまり気にしてませんよ。そちらの都合もありますからね!大丈夫ですよ!

西野さんは、なのはとヴィータ、ティアナがお気に入りみたいですね。書かれているお話にも、よく登場してますし。

やっぱり、自分の好きなキャラは、どこまでも好きになるんですね。自分もそうだったんですよ。

実は、なのはを見始めたのはつい最近で、まだ途中までしか見てないんです。それでも、このシリーズがとても好きです。

なのはシリーズを見始めた理由は、テレビで紹介されたのがきっかけでした。秋葉原の紹介で、アニメキャラのイラストがプリントされた車の紹介をしていたんですが、それがはやてのイラストだったんです。

その頃、自分はなのはシリーズの事は知っていましたらが、アニメ自体は見てなかったので、そのイラストがすごく気になったんです。

そして、本編を見てから、ますます彼女の事が好きになりました(笑)でも、最近スバルやリイン達が追い上げて来たので、少し心配です。

でも、誰が何と言っても、自分ははやての事が一番好きです。・・・こう書くと、何か恥ずかしいですね(笑)でも、彼女が来てくれたら、どんな状況でも耐えられる自信があります!あ、でも、なのはの砲撃を喰らうのは、正直勘弁ですね。(泣)

>凛さん
コメントありがとうございますm(_ _)m

そうですね、一度ハマるとかなり深くまで言ってしまいますから。
もう好きと言うか愛の領域です、なのはさんは!(自重
できるだけ好きなキャラは……なのはさんと絡ませたくなってしまいます。むしろなのはさんを好きなキャラを好きになりますw
出会いがなかなか劇的ですね。そのイラストを描かれた人に感謝、かな?
うん、はやては可愛い。スバルやリインも好きですよ~!
むしろ、嫌いになれるようなキャラがいません!
……それにしてもなのはさんの砲撃ですか。
なのはさんの砲撃……、え、それってご褒美じゃないんですか?w
というかご褒美です、自分にとっては!なのはさんへの愛で受け止める!

なんて感じに壊れつつ、このあたりでとめておきますねw

フェイトそん可哀想だなあ
切ない話が本当に上手いですね

>omさん
読んでいただきありがとうございました。
少し言い方が変かもしれませんが、かわいそうなフェイトさんはとても魅力的だとおもうのです。


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