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2019-07

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届かなくなった水の底

二代目拍手SS
アリサ×なのはです。
前のティアなのとつながっていたり。
よろしければ続きよりどうぞ。



 届かなくなった水の底 . . . アリサ×なのは


 そういえば昔、父に尋ねたことがあった。どうしてこの庭の南天は赤ではなく白いのか、と。
 それはもうずっと前のことだから、父が何と答えてくれたかは忘れてしまったけれど。
 南天の木は今でも毎年、この時期になると白い実をつける。

 晩秋を過ぎ、めっきりと肌寒くなってきたこの頃。
 なのははまた、ぼんやりと庭のベンチに腰掛け、とある木を見ていた。
 白い実をつけた南天の木は、池から数メートル離れた場所に連なって植えられている。南天の実は白く、陽を浴びては真珠のように輝いている。彼女は目を細め、それを眺めている。傍らの池で鯉が跳ねた。
「鮫島。そろそろ食事の時間だから、なのはを呼んできて」
「は、アリサお嬢様」
 それから聞こえる、鮫島の声。奥様、と呼ぶ声。
 私はずるい。なのはの虚無な視線を受けたくなくて、鮫島に頼るなんて。
 鮫島に促されたなのはは抗うことなく戻ってくる。力のこもらない笑顔を浮かべて、おまたせと椅子に座る。
「食べようか。今日も美味しそうだね」
「当然よ」
 あんたのために最高の食材を用意しているんだから、とは決して口に出さないけれど。
「うん、美味しい」
「そうね」
「アリサちゃんと食べているから、余計にそう感じるのかもしれないね」
 今日のなのははやけに口数が多い。昔とは比べものにならないほど無口になってしまったけど、それでも今日はよく喋る方だ。普段の彼女はもっと言葉少なく食事をする。
 そんな人でも、私はなのはと向かい合って食べるとどんな簡素な食事でも美味しいものに感じられた。食材ではなく。目の前に座っている相手がほかならぬなのはであったから幸せなのだ。なのはがこちらを見てくれていないと知っていて、それでも幸せだと思える自分はどこかおかしいのだろうか。はたして自分は、以前はこんなに献身的な気持ちでいたかな。
 視線を向ければ、柔らかな微笑みを返してくれる。それに頬を赤くし、彼女は笑いながら手元に視線を戻す。毎回食事の時には決まって繰り返されるそのやり取りさえ、自分にとっては大切である。
 なのはは自分がずっと恋い焦がれてきた相手だった。それこそ、誰よりも長く。すずかやフェイトよりも先になのはを好きになった。だからといって彼女と結ばれることができると駄々をこねるつもりはないけれど、彼女がミッドチルダに行き、そこで作った課の部下と付き合い始めたと聞いた時の、胸を焼くような気持ちを、私は忘れることはない。自分の傍から離れていく時に、そういう危惧はしていたけれど、実際に誰とも知らぬ人になのはをとられたとあれば、筋が通っていなくとも憤慨するものだ。少なくとも自分は。
 なのはがその人と別れたと聞いて、こちらに戻ってこないかと話を持ち掛けたのはそれからすぐのことだった。確かその翌日ではなかったか、フェイトから話を聞くと、私は時を移さずなのはと連絡を取った。この機を逃してしまえば、永久になのはを手に入れることはできないと確信していた。
 「ごちそうさま」となのはが立ち上がる。そしてまた池の傍のベンチに座り、ぼんやりと空を眺めている。この変哲もない空にどんな想いを馳せているのか、おそらく自分には理解できない。私に魔法は使えないから、彼女のように自由に空を飛ぶことはできない。
 一度だけ、彼女に抱えられて空に上がったことがある。
 僅かな恐怖と、しかしそれを上回る喜悦が胸中を満たした飛行。新婚旅行なんてものはなかったから、あれが最初で最後のなのはとの旅行になるだろう。
「すごい、すごいよ、なのは!」
 空の旅とはまさにこのことをいうんだ、と。子供のように――当時実際に私は子供だったけど――はしゃぎながらなのはの腕に抱きついた。
「怖くない?」
 これはだから、不可抗力よね、なんて言い訳をしていた。
「ちょっと。だけどそんなの掻き消しちゃうくらい気持ちいいし、それに風がすごく心地良い」
「アリサちゃんに喜んでもらえてよかったよ」
 その時のなのはの笑顔を、今はもう見ることはできない。
 なのはの心はここにはない。遠く離れた、別の次元世界にいる人へと置き去りにされたまま、体だけがここにある。私はそれでもいいと受け入れた。なのはがいてくれるなら、それでいいから――そう言ったときのなのはの顔も、私は生涯忘れられない。正確にどんなことを言ったのかは忘れてしまったが、好きだという意味の言葉を告げた時、なのはは嫌な顔も嬉しそうな顔もせず、ただ頷いた。受け入れてくれた、だけど、なのはからこちらに愛を届けられることはないのだと教えられているようだった。私の愛惜の念は受け入れられたが、彼女の優しさと寂しさがそうさせただけだということも分かっていた。
 でも、それでもいい。それでもいいから、私はなのはと居たい。
 なのはがここに居る。なのはがここに居てくれるのなら、それだけで十分だった。

 今日もなのはは庭のベンチに腰掛け、ぼんやりと日向ぼっこをしている。時折吹いた風に、池の傍らにある南天の木が枝を揺す。ひときわ強い風が吹いた時、南天の白い実は池の中にぽちゃんと落ちた。真珠みたいな白い実が水面に浮かぶ。なのははそれをじっと目で追っている。
 初め、ぷかと浮かいていた白い実は、そのうちに沈んでいく。池の底に引きずられていくようではなく、自らがその場所を最後の住居として求めていくみたいに。その白い実が再び光を受けることはないというのに、すうっと落ちていく。まるで、一度親の木から離れてしまったのならもう意味がない、それどころか木の眼が届かない所へ行ってしまいたい、とでも言っているように私には聞こえた。
 今日は寒い。なのに差す陽は強すぎて、なのはは避けるようゆっくりと目蓋を落した。睫毛が目の下に影を落とし、綺麗に彩る。彼女の整った顔立ちがなおさら際立った。だけどどこか寂しい、胸を突くような感覚に襲われる。
 かぶりを振ってベンチの後ろに回り、なのはの首に腕をまわした。
「どうしたの」
 その腕に、なのはが手を添える。少し痩せた指が触れる。
「何でもないわよ」
「そっか」
「……ええ」
「変なアリサちゃん」
「うるさい」
 ……なのは。ねえ、そんな乾いた笑みを浮かべないでよ。あたしが泣いたら、あんたは哀しい顔をするんでしょ?
 気付けば遠くで犬が吠えている。小型犬特有の甲高い声だ。犬はきゃんきゃんと鳴き喚いている。
 なのはに触れていると、どうしてか身が竦んだ。見ている時よりも、触れている今の方が遠い気がする。腕に更に力が入る。なのは。なのは、なのは、なのは。なのは――。
 何度呼ぼうとも決して彼女には届かない声は、まるで役立たずで。
「ねえ、なのは」
 ん、と彼女は瞼を落したまま。聞いてくるというよりは、ただぼんやりと反応しているだけの言葉。自分に向けられる興味など一切感じられない。朧な視線が宙を漂う。
 鯉が時折顔をのぞかせる水面の上では、落ちた広葉樹の葉が揺れている。それを鯉が口先でつついている。白い実は沈んだまま、浮かんでくる気配などない。
「なのははあたしのこと、好き?」
 犬の声は鳴き止んでいた。たぶん、泣くのに疲れ果ててしまったのかもしれない。
 なのはが肩にかかっていたあたしの腕を解き、振り向いてキスをした。頬を包まれ、乾燥した唇が押し当てられて。あたしは零れそうになる何かを必死でこらえて受け入れる。彼女の悲痛なほど虚無的な抱擁も、口付けも。背に回る細い腕も、差し込まれる舌も、あたしは全部受け入れる。
「好きだよ、アリサちゃん」
 私は小さく首を振った。
「ありがとう、なのは」
 ――嘘でも嬉しいよ。

 彼女の心はもう。
 池の底に沈んでしまった南天の白い木の実のように、浮上することはないんだろう。




× あとがき ×
2番目のティアなの話に続く話でした。
白い実をつける南天の花言葉は、「つのる愛」というらしい。
アリサとなのはの幸せな話が描けない自分がいっそ憎らしいです。

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