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2019-11

君がくれた傷を僕の優しさに変える時間

二代目拍手SS
はやて×なのはです。
よろしければ続きよりどうぞ。



 君がくれた傷を僕の優しさに変える時間 . . . はやて×なのは


 多分私は、傷を優しさに変えることができなくて。
 それどころか優しささえ傷に変えてしまったんだと思う。
 だが傷は瘡蓋となり、黒い羽根になって剥がれ落ちる。忘却というものの名に変えて。それは自分にとっての癒しだった。


 彼女の気持ちを分かってあげられるのは自分だけだという、そんな思い上がりを信じ切っていたのかもしれない。同時に、傷がいくら付いたっていずれは消えると思っていたからか。とにかく私は、彼女の特別な存在になれるのだと考えていた。
 彼女に好きだと言われた時から、彼女を受け止めてあげられるのは自分だけなのだ、と。
 はやてちゃん、と呼ぶその甘い声で。彼女は、脳内にぽたりとシロップみたいな液体を溢していった。そのせいでどこかが狂ってしまった。
 見つめられると逃げられなくなる。だめだ、と思った瞬間には絡め取られてしまっている。
 私が眉間にしわを寄せると、彼女は決まって「もしかして、嫌だった」なんて聞いてくる。そんなはずはないと何度言っても、彼女は不安げに見上げてはそう問い詰める。
 愛しすぎて、抱き寄せた腕に力が込められない。そのせいで彼女をいつも不安にさせた。自分以上に彼女を想っている人なんていないというのに、どうして自分はそうなのだろう。抱き合う時くらい、彼女を安心させてあげたいのに、私はいつだって不器用だ。

「なのはちゃんは天使やと思うんよ」
 久しぶりに部屋に遊びにきたヴィータの為、冷凍庫からアイスを取り出し渡してやる。最近は多忙を極め、中々顔を合わせる機会さえ持てずにいた。食事は一日のうちの一食はなるべく共にしようと話したが、それさえままならない日も少なくない。ごめんな、と心の中でこっそり謝っても行動が伴わなければ意味がなく、口には出せずにいる。
 ヴィータの、顔中笑みでいっぱいにしていた表情が、私の言葉に反応した途端に険しいものになった。それからやけに心配するように「はやては仕事のしすぎだよ。頭が疲れているんじゃないか」と言った。私は思わず苦笑をこぼす。確かに唐突だったとは思うけど、それはない。
「ヴィータも失礼なことを言うなあ」
「あはは、まあそれは冗談なんだけどさ。お、このアイス、ギガうま」
 でも、突然どうしたの?
 そうヴィータに問われ、私は返答に困る。
「なんとなく、ちょっと思ったことを口にしただけや。ああ、アイスは一本だけな。お腹壊したらあかんし」
 項垂れたヴィータに再び苦笑いをして、思考はまたなのはちゃんへと飛ぶ。最近会えていない彼女。なのはちゃんの声が聞けないなんて、顔が見れないなんて。
 私はずっと、なのはちゃんを好きだという他の人は、彼女と離れていてよく耐えられると思っていた。今自分は二言目には彼女の名前を口にしている。それもごく日常的に。であるから、最近は親しくない人以外との雑談は避けている。ある程度はしかたないが、私が口を開くとみな可笑しな顔をするのだ。だからこの頃はせいぜい家族の皆や、元機動六課のメンバーと会った時くらいしか雑談をしない。元機動六課のメンバー、例えばフェイトちゃんやティアナは、私と対話をしていても普通に応じてくれる。自分がなのはちゃんが好きで好きで仕方のないことを熟知していたから、少しくらいなのはちゃんの話題を出したからといって気にしないのかもしれない。
 だから大丈夫。
 いや、あれ。何が……、大丈夫なんだったか。
 まさかこの年で記憶の混濁? 勘弁してほしい。少し気分も悪い。
「はやて、大丈夫? 顔色悪いよ」
 ヴィータが何かを言っているような気がする。
 私は先ほどなのはちゃんと会えないと言った。今までは最低でも一週間以上会わずにいるということはなかった。大概どちらかが耐えられなくなって会いに行く。もちろん仕事はちっきりと済ませてだけれど。だがしかし、確実に会う時間は減ってきている。一日おきが三日に、三日が一週間に。それより次は……、もう覚えていない。減った時間の分だけ、精神を蝕んでいったから。
 いつからこんな風に、なのはちゃんに会うことを待ち焦がれるようになったんだろう。答えはすぐに出る。彼女が事故に遭ってからだ。正体不明の機体に墜とされた時、おそらく私の中で何かが崩れた。
 毎日病院に行って、何かしらの世話をした。果物を食べやすいサイズに切って――それすら食べられない時はすり潰したりなどして――口に運んだ。口の中に入れると、彼女はしばし顔をしかめた。一瞬だけで、すぐ笑顔に戻ったけれど、痛みをこらえなければ一時は流動食すら口にできないほどの状態だった。そんな彼女は、いつだって痛みを飲み込んで笑った。
『大丈夫だよ、はやてちゃん』
 痛々しく巻かれた包帯が邪魔をして、私は彼女の頭を撫でることさえできない。
『大丈夫だから、ね』
 彼女の声がいつもよりも遠かった。その時、多分私は泣いていた。
「はやて、大丈夫? ねえ、はやて」
 いつまた彼女が墜ちるか……。
 冷汗は拭っても拭っても流れてくる。不安は彼女本人に会っていなければ、決して払拭されない。そして会ったところで、完全に拭えるわけではなく。私はいつまででも、幻想の中の彼女を抱いて眠る。現実の彼女が抱けないのなら仕方ないのだ。そう。仕方ない。
 私は脳内で彼女を犯す。しかし、彼女は決して拒んだりはしない。性的に乱暴に扱った。痣になるほどきつく手首を握り締めた。痛いよ、となのはちゃんは言うけれど、私は決してやめない。どうせシャマルに治してもらいに行くのだろうから、構わない、と少々乱暴なことを考えて。彼女の腰を抱え、自身を彼女のとろりと零れる場所にこすりつける。シロップみたいに、それは甘いのだ。実際には甘くはないけれど、自分にとってそれはシロップに他ならない。指で掬い取って舐め、再び指を彼女のそこに突き差し、掻き交ぜる。しばらくすると、彼女の腰が動き始める。私をまるで誘い込むように、いやらしく動く。彼女が私を求めている。肩に両手が添えられて、もっとと喘ぐなのはちゃんを見下ろしていると、唇が自然と三日月型に歪んでくる――そんな妄想。
 まぼろしだ。
『はやてちゃん』
 ――まぼろしなのに、どうしてか耳元にはっきりと聞こえてくる。
 はやてちゃん、と。彼女特有の甘い声が、ずっと頭の中に響いている。
 そういえば……、でもないか、ずっと考えていたし。私はなのはちゃんに、名前を呼び捨てにされたことがない。一度くらいは呼び捨てにされたいと思ったけれど、なんとなく言い辛くて今までずるずると引き延ばしてしまった。
 だがふと考える。はやて、と呼ばれてみたい。そんなことを。
 もちろん毎日でなくてもいい。たまにでいいから。不意打ちのように、はやて、と囁いてほしい。それから私がすかさず反撃する。なのは、と。
 でも駄目だ。なのはと呼ぶと、別の人に重なってしまうから。それにやっぱり自分にとって、あの子は『なのはちゃん』以外の何者でもない。
 つと部屋を見回すとヴィータが部屋から消えていた。自分の部屋に戻ったのだろうか。私は首をかしげながらも特に気にせずに、なのはちゃんへ想いを馳せながら眠ることにした。

 でも、ああ。思い出した。
 ずっと彼女と会えなかった理由。それは確か――。
 どうして、今まで忘れていたんだろう。だってなのはちゃんはもう。


 多分私は、傷を優しさに変えることができなくて。それどころか優しささえ傷に変えてしまったのだと思う。
 それらの傷に耐えきれず妄想を生み出してしまったのだ。ようやく思い出した。なのはちゃんはあの墜落事故のあと、目を覚まして数週間ほど経ってから、驚くほど唐突にこの世から姿を消していたということを。
 彼女は天使になった。
 私の心に深い傷を残したまま、そして私はその傷を、未だ優しさに変えられずにいる。

 『妄想』が『現実』に、『現実』が『妄想』に。
 そして真実は忘却の彼方へと沈んでいく、何度でも。




× あとがき ×
死を扱うのは難しい。
それにしても、愛することが幸せだと誰が言ったんだったか。
はやては彼女を“愛さなければ”幸せになったのに。

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