2017-10

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空さえ貴方の前を覆わない―後編

『空さえ貴方の前を覆わない』 後編です。ラスト。
アリサを責めるべきではない、ティアナを笑うのも違う。なのはに素直になれというのはもっと違う。
必要最低限の幸福さえ手に入らないことも、ときにはあるんだから。

よろしければ続きよりどうぞ。



 空さえ貴方の前を覆わない  後編


 たこ焼き売りの中年にお代を渡すと、なのはさんの座るベンチに腰かけた。ビニール袋から透明なパックをとりだす。そのなかに笹舟の形をした木造の容器があり、乗客のように乗せられたそれぞれがとてもおいしそうに見えた。
 私が二つのうち一つを彼女に差し出すと、遠慮がちに受け取られる。渡してからもうすぐ夕食だということに思い当り、しまったと思うが遅かった。なのはさんには帰るべき家とつくべき食卓がある。しかし、だというのに付き合ってくれることに僅かながら安心する。とりあえず迷惑ではないことだけを確認してから、ようやくたこ焼きを一つ含んだ。口の中に熱が広がる。
「あつっ……」
 口腔が焼けるような思わぬ熱さに、私ははふはふ言いながらようやくのことでそれを飲み込んだ。
「だめだよ、冷ましてから食べないと火傷しちゃうから」
「あ……、はい」
 わたしが冷ましてあげるよ、と以前のなのはさんなら言ってくれたかもしれない。でも今は違う。苦笑しながら注意しただけで終わりだ。別に悲しくはなかった。そう言われたら困るのはおそらく自分だった。
「ティアナは相変わらずおっちょこちょいだね」
「そうですか?」
「うん、変わらない。でもきっとわたしの見えない部分は変わっているんだよね。もう何年経つだろう」
「……七年かと」
「元気?」
「どうでしょうか」
 当たり障りのない会話。
 上辺を掠るだけの、実りのないやりとり。
「スバルはどうしてる、ちゃんと仲良くしてる?」
「相変わらずです。ずっと一緒ってことはないんですが、休みの日にはこっちの都合もかまわず連絡入れて来ますよ」
「はは、スバルらしいね。でもティアナは断らないんだ」
「仕方ないですから」
「うん」
「だから、仕方なく」
「うん、そっか」
「なのはさんは」
「元気だよ、変わりない」
 私が求めたのはこんなものだったのだろうか。
 だけど他に話すことが見つからなかった。ここに来た理由や会ったら言おうと思っていたことは、なのはさんを探しているときに見失ってしまった。一体どこに落としてきたんだろう。
 会いたかった。
 貴方がいないとだめなんです。
 もういちど、あたしと。
 ミッドに帰ってきてください。ううん、帰れなければあたしがこっちに来ますから。
 どうして、どうしてあたしたちは出会ったんでしょう――。
 どれもこれも言葉にならない。目標がみえているのにわざと避けて探っているようだった。そうこうしているうちに膝の上のたこ焼きはすっかり冷めてしまって、風がでてきた。あたりは薄暗くなっている。帰る時間だ、と思った。
 なのはさんは私がここにいることについて何も触れてこなかった。優しさのつもりなんだろうか。それとも、……分からない。
「ティアナ、あのね」
 なのはさんが何かを言いかけて、言葉を止めた。彼女に迎えが来ていたのだ。
 背まで伸びた金髪を揺らしてなのはさんの方へと歩み寄る。「アリサちゃん」となのはさんが言った。呼ばれたのが暗がりでも綺麗な女性だということはわかった。私は知る。この人がなのはさんの、だということを。
 隣に座っていた人が立ち上がる。アリサちゃんと呼ばれた人が手を伸ばしていて、それをなのはさんが取った。慣れた動作に、自分の知らない時間を突きつけられているようだ。それは顔を見たときに感じた懐かしささえ消してしまえるほど。
「話はもう済んだの?」
 女性の問いになのはさんは答えない。
 ふと女性の視線が自分の方に向けられた。知らない人間を見る瞳ではないとしても、もはや不思議でも何でもなかった。今日この町を歩いていてわかったが、なのはさんの身近にいる人は皆自分のことを知っていた。話を聞きどれだけなのはさんが自分とのことを大切に思ってくれていたか、好意をもってくれていたかがわかってしまった。
 機動六課にいたあの頃、不安がってばかりいた自分が情けなくなるほどに、私はなのはさんに愛されていたのだ。私が気付かなかっただけでなのはさんなりの精一杯で伝えてくれていた。たぶん、そういうこと。
 ただ今、あの頃に戻ったところで同じことになっていただろうというのは分かっていた。いくら想ってくれていても伝えてくれていても、なのはさんが誰かに優しくし誰かを守ろうとするたび不安に襲われることは変わらない。
 違うのは、ほんの少し我慢がうまくなったというだけ。しかし解決にならない。私ではどのみちあの人を幸せになんてできない。
 じゃあなんで自分は会いにきたのか。
「あなたはいつ帰るの?」
 女性は唐突だった。
 私は少々戸惑いつつも「今晩」と返答する。
「じゃあ話は済んだ?」
 さっきの質問はどうやら私にしていたらしい。私はどう答えるべきか悩んだ。
 話すべきことは何も話していない、だけど会うという目的は果たしたのだから、用事は済んだといってもよかった。
 私はなのはさんの顔を振り返る。しかし暗い所為か――いや、街灯はともされている、顔は見えるのだけど――そこから彼女の表情は読み取れなかった。
「はあ……、あたし、居ないほうがいいなら何処か行くわよ。先に帰っていてもいいし」
 その女性は、今度はなのはさんに言った。
「ううん」、なのはさんは首を横に振る。
「いいよ、居ても」
「そう。わかった」
 言って、女性は私たちが座っていたひとつ隣のベンチに座った。屋台はすでに引き揚げている。そして私となのはさんは話しかけられてから立ったままだ。
「ティアナは何か話したいことある?」
 そう言われるとなんとも話しにくい。けれどこのままでは帰れない。スバルにどうだったかと聞かれて黙る結果にだけはしたくなかった。
「さっきなのはさんが言いかけた言葉を聞きたいです」
 だから最後の望みをそこに賭けて。
「『ティアナ、あのね』のあとは何て言いたかったのか、教えてください」
 どうでもいいことだったならそれでいいと思った。仕方ないと。思っていたのだ。
「……ティアナ」
 でも、あの人が哀しそうな目をするから。
「どうしてここに来たの?」
 彼女は言ってくれた。だから私も答えた。
 だけどその時、自分は聞いたことを後悔していた。
「なのはさんに会いに来ました」
 そう言いはしたけど、言った瞬間になのはさんを泣かせてしまった気がした。
 彼女を見ていると、任務で負った腕の傷を思い出した。一日の無理がたたってかずきずきと痛み始めている。包帯に血が滲んでいるのかもしれない。だが腕にさっと視線をやると、服の上からは変化が見られなかった。よかった。
 私は続ける。
「離れてから今までずっと考えていた。機動六課に入って貴方の教導を受けて、貴方のことを知って、事件を終えて。強くて勇敢な貴方が本当は強いだけじゃないことに気付かされた。告白されたとき、なのはさんが本当はすごく可愛い女の子だってこともわかった。それからの幸せで満たされた日々と終わりを待つだけの辛い日々。なによりも出会う前の虚しい時間と、そして貴方と出会った意味について考えていたんです」
 答えはいまだに出てこない。考えれば考えるだけ苦しさが増すのに、考えずにはいられなかった。
「どうしてかわかりますか?」
 潮の引く音が耳朶を打つ。
 なのはさんの呼吸音は聞こえなかったが、瞬いた音は聞こえた。
「なのはさんとの思い出はどんなものにも代え難い、いいや、実際に代えようのないものだったからです。一年、長かったのか短かったのか。あたしにはなかった方がよかったかもしれない時間を、馬鹿みたいに何度も何度も何度も、何度も繰り返し頭の中で巡らすことで、貴方と一緒にいる気でいた。けれど貴方はあたしの傍にいないから」
 言葉を続ければ続けるほどあの人の瞳が潤み、悲哀を帯びていくものだから、最後には残り粕のような声しか出てこなかった。
「だから会いに来たんです。会いたかったから」
「……でもティアナは」
 そう、私はなのはさんを突き放した。
「あのときのあたしは疑心暗鬼になっていて、何も信じられなかった。だから時間をおいて冷静に見つめ直すことが重要だと考えていた。それで何も変わらないかもしれないけど、もしかしたらまた以前みたいに戻れるかもしれないって、都合のいい期待をしてみたり。けどもちろん叶わなかった。貴方はミッドチルダを去ってしまったから、あたしは何も言えなくて会うこともできなくて」
 七年が過ぎた。
 長かったように思えたが、過ぎた後ではあっという間だった気がする。それよりも機動六課にいた期間のほうが長かった。同じ一秒が、七年と一年とでは流れる早さが違った。遠い世界にいる人のことを思うと、それだけで時間が流れていった。
「言い訳かもしれない。たとえなのはさんがミッドに残り魔導師を続けていたとしても、お互いの時間が交わることなんてなかったでしょう。あたしはあたしのまま、成長をやめて後ろ向きに生きていったはずです。でも偶然どこかで会えていたなら、何かが変わったかもしれないって思った。顔が見られればそれだけで一日、生きられたことを喜ぶかもしれない」
 ああ。
「勝手ですか? 仮定を考えるなんて馬鹿みたいですか? けれどあたしにはそう考えることしかできなかったんです。あたしは、なのはさんのことを考えて生きてきた。他には何もなかった。仕事だってなのはさんともう一度会ったとき、ちゃんと真正面から向きあうための口実にすぎなくて――」
 言葉が止まらない。
 みっとも無い言い訳を、それこそ湯水のように吐き出した。溜まっていたものを目の前のこの人にぶつけて、……いったい自分は何をしているのだろう。激情のなかの片隅で、冷たく凍えた部分が呟いた。
「ティアナは相変わらずまっすぐだね」
 そうベンチに腰を下ろし、海を眺めながらなのはさんが言った。
「ティアナのそういうまっすぐな所が、わたしは好きだったんだよ。だから、受け止められなくてごめん」
 訳のわからぬ謝罪に口を開きかけるが、彼女はそれを待たずに立ち上がった。まるで私を拒絶するように、自分に対し背を向ける。
 私はそこから猛烈に逃げ出したくなった。でも足が動いてくれなかった。
「もう随分日が暮れちゃったね」
 一瞬唐突すぎて、彼女が何を言っているか分からなかった。
「帰らなくていいの? 仕事があるんだよね」
 なにより、なのはさんの言葉は私の耳に極刑宣告のように響いた。心配の言葉がちっとも嬉しくない。
 帰るということ。それは別れを意味する。
「さっきティアナは口実だって言ってたけど、そういう気持ちだけでやっていけるほど執務官って楽な仕事じゃないと思うんだ。フェイトちゃんを見てて、もちろん内容については知らないけどその過酷さは感じられたし、試験の難しさだってそれだけ辛く責任のある証拠。だからティアナが一人前の執務官になれたんだったら、きっと一生懸命やってきたから」
 不意に潮風が鼻先を掠めていった。夜風が服の隙間から入り込んでくる。このままここに長い時間いれば体を壊してしまうかもれないほど強く、冷たい風が吹いていた。それは帰れと促されているようで、哀しくて、でも泣けない。
「だからティアナ。口実だなんて、そんなことを言わないで。逃げちゃだめだよ」
 わたしのように、となのはさんが言う。
 話を聴いていて気付いたのは、なのはさんの心に僅かでも動揺を呼び起こしたいが為に情けない言葉を喚き散らしていたということだった。私はまだ彼女が自分のことを気にしてくれているか確かめたくて、気を惹きたかった子供だった。
 解ったのは、そんな自分の言葉が彼女の何も揺り動かさないということ。
 会うことができたのに結局何も変わらない。彼女は冷静で、ずっと私のことを見つめている。いっそこの視線に焼かれてしまえばいいと願った。
 まっすぐなんじゃない、なのはさんが好きなだけだ。あちこち歪んでしまうほどひたすらに想い続けているだけだ。今となっては決して成就することのない想いを、言葉で吐き捨てるしかなかった。なのはさんは、それは付き合っていた頃は好きだったのだろう、大事に想ってくれていたのだろう。家族や友達に自分のことを言うくらいだ。それはもうわかった。ようやくわかった。けれど今は――?
 私ではない人が迎えに来る、それが現実ではないのか。
 私の言葉さえなのはさんを揺らがすことが出来ない、それが事実ではないのか。
 こうやって現実と事実を突きつけられて傷ついて、自分はそこから目を逸らそうとしているだけなのだ。
 黙り込んだ私を、なのはさんが苦笑で心配する。『大丈夫?』と言っている。でも私は答えられずに、離れた位置に座っていた女性がやってきた。女性がなのはさんの手を引いて、ぐだぐだと続く話の終わりを告げた。
「あたし、帰ります」
 なのはさんと女性の手が繋がる。手の繋がりがそのまま心の繋がりを表しているようで、胸の中が激しく焼け付く。心臓が痛いぐらいの悲鳴を上げ、早々の退散を促していた。
「明日は仕事があるから」
「ん、気をつけて」
「朝が早いので早く寝ないといけないし、これ以上ここにとどまっていても仕方ないですもんね」
 言いつつ動かない私より先に、なのはさんが動いた。
「じゃあわたしも帰るよ」
 一度背を向けて、半身だけ振り返る。なのはさんが最後にくれたのは柔らな笑顔だった。
「おやすみティアナ。身体、ちゃんと大事にね」
 この人はもしかすると、腕の負傷に気づいていたのかもしれない。
 なのはさんが去った後に残ったのは凍える自分と、自分を冷たく見据えてくる女性だった。整った造形をしているだけに気迫もある。
 空には白く細い弓型の月が出ている。星を受け止めるかのような形のひとつだけの月は、ゆえに美しく漆黒の空に存在していた。瞬いた間に消えてしまいそうな程薄弱な月を見上げ、ミッドとはやはり違うのだと感ずる。自分の心はこの月よりはしっかりと形を保っているのだろうか。
 一人ぼっちでいるわけではないのに、なのはさんが去ったあとのここはやけに寂しい場所だった。
 波が寄せたり引いたりする音と、僅かに残った葉と枝が擦れ合う音と。それから自分の呼吸音が混ざり合って小さな旋律となる。
 けれど演奏者がいない。この場には私と、もう一人しかいなかった。
「あなたはなのはさんと帰らないんですか?」
 佇む女性に喋る気配がないので話しかけてみる。
 まだ何か用があるのだろうか。こんな自分に?
「アリサよ。アリサ・バニングス」
 目の前でアリサは深く息をついた。吐き出された息が冷たい空気の中で白くくゆる。
 はやく帰り、なのはさんと同じ時間を過ごせばいいじゃないかと思うが、アリサ・バニングスはそうしない。私も一人になりたい。
 考えていると、アリサはまた口を開いた。
「あたしね、今すごくなのはにむかついているの」、と。
 やっぱりこの女性は突拍子のないことを言う。
「だって、きっとあたしたちよく似てるから」
 それはすずかがアリサの特徴を言ったときに感じていたことだった。
 そう――意地っ張りなところも、素直じゃないところも、なのはさんを想うところも似ている。機動六課の在った場所とこの町が似ているように、私とアリサ・バニングスは似ていたのだ。
「しかもあたしと同じくらい綺麗だし」、言った彼女を笑い飛ばすことは到底できなかった。それほど仲がいい間柄ではないし、実際にアリサは綺麗だ。
「なのはを責めることなんてできやしないけど、やっぱむかつくわね」
「それで、あなたはあたしに何を言いたいんですか?」
「やっぱり聡明、こんなところも――」
「何もないんだったら帰りますけど」
 だんだんと気分が悪くなってきた。先ほどから腕がひどく傷む。血の色がわからない夜でよかった、目立たない黒い服を着ていてよかった。この人に指摘されでもしたら、自分に苛立ちそうだった。
 この人と話す意味ははたしてあるのか。似ているところをあてられて、だからなんなのか。別に自分とこの人が似ているからといって、なのはさんがまだ自分のことを想っている理由にはならないし、今なのはさんと一緒にいるのはこの人だ。
 じゃあ言うけど、と前置きしてから改めて彼女は言った。
「もう二度となのはに近づかないで」
 今までとはうって変って冷徹な声に息を呑む。きつかった瞳はさらに釣りあげられ、おちゃらけたものから怒りの表情へと変わる。真剣そのものだった。いや、そういえばなのはさんを迎えにきた最初から、彼女は真剣だった。
 近づかないで。
 追い込まれた状況で“二人”の言葉を反芻しながら、今日はこれで二度目だな、と私は笑うしかなかった。


   * * *


 光の泡に自分の体が溶けていくのを見届けると、すでに転送が完了している。そうして中継ポートを通りミッドチルダに戻ってくる。一人でだった。
 帰りの電車の中で私はうつらうつらしていた。今日一日の疲労蓄積は思った以上に大きい。
 窓の外を見ると当たり前のように暗く、明かりが線のように流れていった。少しだけ窓を開けてみるとひゅうと風が突き抜けていった。僅かな隙間を縫うように温い風が入り込んでくる。あの町のように冷たくもなく熱くもない。ただ頬を温いものが流れていった。
 私は窓を閉め、アリサという女性と交わしたいくつかのことに想いを馳せた。「なのはに近づかないで」といった彼女は厳しく私を睨んでいた。
「もうあの子を苦しめたくないの。なのははまだあんたを好きかもしれない。だけどあんたとじゃ、なのはは幸せにはなれない」
「じゃああなたはなのはさんのことを幸せにできるんですか?」
 あなたからあんたへと自分を指す名称が変わっていたが、私は構わずに続けた。
「安寧は与えられる。少なくとも、あの子を苦しめるものは何もないわ。あたしが排除するんだから」
 それからこうも言った。
「別に多くを望んでいるわけじゃない。これ以上なのはが痛むことがなければいい。あたしはなのはが少しでも元気になってくれればそれでいい」
「自分勝手な我が侭なんじゃないですか、それ」
「どちらが? 相手を傷つけてまで気を惹こうとするあんたと、なのはの隣にいるためだけにあの子の好きな人を攻撃するあたし」
「そんなの、言うまでもありませんね」
 もちろん自分だった。
 私とどこか似ている女性は必要最低限の幸福だけを掴み、それから絶対に離さないという気概を持っていた。なのはが彼女の手を取った理由がおぼろげにわかった。
 その後彼女は再び口を開くことなく背中を向け、一度として振り返らなかった。
 芯の強い真っすぐな背中と自分を睨んだ瞳が窓越しの夜空に浮かぶ。自分にはもうあんな目はできないだろう。それどころか、なのはさんの瞳を正面から見る勇気さえ持てなかった。
 だからもう、いい。高町なのはという人は最初から、永遠に届かぬ想い人のままだったのだと納得させる。私ができることは二度とあの人の世界に入らないことだけだから。


 電車がガタガタと体を揺する。より深く、より心地良い眠りへといざなわれ、私は抵抗することもなく意識を切り離す。どうか腕の痛みが神経を侵してしまう前に。
 昏い海の底で、人一人いない街中で、あるいは森の中で静かな夢を見た。
 草むらの上で膝をかかえ座る私と、横にスバルがいた。二人がそろって追っているのはエースオブエース。一人きりで厳しい戦況も打破し、仲間の信頼を勝ち取った戦士だ。長い栗色の髪と白いリボンが、淡い月の光を浴びて輝いている。空を切り抜けるたび、薄紅色の光が彼女を追ってゆく。
 昏かった夜空には星の光が無数に行き交っていた。私たちはそれを目で追っている。嘆息をついて、いつかあの人のように、あの人の背中を護れるように強くなりたいと願った。強くなろうという誓いを心に刻み込む。
 どんなことをするよりも幸せで満ち足りた時間がゆったりと流れていた。心が澄み、穏やかな気持ちで胸にいっぱいの空気を取り込んだ。
 あたたかな時間の中で、私はそっと語りかける。
 優しい優しい星の光のすべてが味方し、空さえ貴方の前を覆わない――と。





[ WEB CLAP ]
問題なのは時間ではなく心。お互いを想う心が、お互いを苦しめ、不幸にする。
なのはは自分よりも大切な人たちを守ろうとするし、そのことで自分の好きな人と別れることになっても、それは自分のことと考えてやはり変わらない。ティアナもまたそんな相手をみて不安は消えないし、自分のことを好きではないのかと疑うだろう。それは仕方のないことだし、せめることでもない。
もしなのはが世界より自分の気持ちを選ぶならもはやそれは「なのは」ではなくなる。そしてそんななのはに、ティアナは惚れるだろうか? なのはがなのはであるから、ティアナは好きになったのだ。

● COMMENT FORM ●

お久しぶりです!

「空でさえ貴方の前を覆わない」読ませて頂きました。お久しぶりです。凛です。

最近何だか来る回数が減ってしまい、どうもすいませんでした。でも、久しぶりに西野さんの作品を見ると、何だか前よりも上手くなっているな、と思い、何だかとても嬉しくなりました。

今回は、なのはとティアナとアリサの三角関係(かな?)という感じの話でしたね。一読して感じたのですが、アリサやすずか達がやけにティアナに冷たく当たっている、と感じたのは自分だけでしょうか?サウンドステージを聞いている自分の中では、彼女達はもう少し親しい間柄だったような気がします。

まあ、なのは絡みのゴタゴタに巻き込まれると、そんな事はもう関係無い、って感じになってしまって、単純に相手(ティアナ)の事を許せなくなっているだけなのかも知れないですが・・・。すいません、何だか勝手に変な妄想してました(汗)

あ、そういえば、今日、ついに!「サウンドステージX(イクス)」買いましたよー!近所にアニメイトがある、という事を最近知って、少し前からちょくちょく行っていましたが、今日は仕事が終わってから、急いで買いに行きました(笑)今から聴くのが楽しみです!!

サウンドステージと言えば、自分はストライカーズの時のサウンドステージ03がいいなと思ってます。特にクライマックスのあたりで、リインフォースIIが初代リインフォースの記憶に触れるシーンでの、初代リインのささやかな願いー八神家一家が全員揃って、穏やかに過ごす日々ーが語られた時、そして、彼女が果たせ無かった願いをリインIIが受け継ぐと決意するシーン、あそこはやばいです。最初に聴いた時、本当に泣きそうになりましたから。今でも聴いていると、結構泣きそうになります。そこからリインIIのキャラソンに移ると、もう完全に彼女に感情移入しちゃいますね。あの展開は、もう何か、「ずるい」ですね(笑)

長くなりましたが、「リリカルなのは」の世界はまだまだ続きそうですし、どんどん楽しくなりそうなので、これからも、「なのは」の世界にどっぷりと浸っていきたいと思います。

長々と、大変失礼しました。

こんばんは、凛さん、西野加奈です。コメントありがとうございます。
文章に関してはまだまだ修行中で試行錯誤しているので、そう言っていただけるならうれしいです。

今回の「空さえ貴方の前を覆わない」というのは、アリサとなのはとティアナの三角関係ですね。シリーズ全体に言えることなんですが。
StrikerSサウンドステージ01では確かに親密な感じで接しあってはいましたが、アリサの方はともかくティアナに関しては「上司または厳しい教導官の御友人」ということで、あまり親密かんはなかったのではないでしょうか。むしろあったらすごいです。しかもこのときティアナがいってたように、なのはというのは「普通の女の子」してることに驚くほどの人だった。
というわけでこのとき仲良くなっていても、あまり考えないでいいかと思いました。
アリサがティアナに冷たいのは……、いや冷たくしているわけじゃないんですよ。
アリサってもともとだれにたいしてもつっけんどんな態度をとるので、中のいい人でないと見分けがつかないというか、ただでさえ空気がわるいのにそういう態度をとられると、ティアナは誤解してしまうんです。しかも嫉妬の心も多少あっただろうから。
なのはのことも考えていたし……ってことで、なのは関係でというのは合ってます。妄想はずれてませんよ!

サウンドステージXに関しては、今日ききました。以前からNanoWikiめくってたんでネタバレは当然くらっちゃってたんですが。まあそれは分かっていたことなのでよしとして、それでもよかったですね。
サウンドステージだとStrikerSは03と04が、とくに私は04がよかったですなのはSSの中でも特に好きですよ。
SS03はリインフォースが大好きになったし、ヴィータの魅力が増したし、ということでやはり素敵な話でした。
まさに凛さんのおっしゃっている通りのことを自分も感じましたので。

リリカルなのは、続いて行くといいですね。
これからのなのはにTake Off、なノリで!

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