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2019-11

『秋、はらむ空』 一章 もう誰も護れない……1

『秋、はらむ空』 各タイトル⇒目次

一章 一話「遺されたもの」
なのはさんの苦悩の日々の始まりと言おうか。

――この人は『私を』心配している。それは嬉しくて有り難くて、辛いものだった。



 秋、はらむ空
 一章 ―もう誰も護れない―


 唇を塞がれた故の息苦しさで目が覚めた。いつの間にか朝がきていた。
 金色の髪が首元にかかり、むず痒い。目を開け、私の上に覆い被さっている人を観察した。顔は近すぎて見えないが、胸に押し当てられた豊満な肉の感触と指の間からこぼれ落ちるさらさらとした金髪から相手が誰であるかを思い出す。昨夜は、そういえば彼女の部屋に来たんだったか。だとすると今彼女はキスで起こしてくれているのか?
 部屋を分けられてから何度目かの訪問に彼女は全身で喜びを表現してくれた。飛びついてきて、力強い腕にからめとられる。私はなされるがまま彼女のことを受け入れた。元々は同じ部屋だったのを無理やり分けてもらったことの罪悪感も多少はあったし、こうして抱かれるのはなにも彼女にだけではなかった。
 カーテンが閉じられているというのに既に明るく、部屋には薄日が差し込んでいる。朝が来ている。そして私の口には彼女の熱い舌が。
 気を抜きすぎていたのか、仰向けになったまま執拗なキスを受けていたからか、咽喉の奥にまで唾液が流れ込んできてたまらずむせた。起き上がって息を整える。大丈夫かと心配げな彼女に答えるべく、髪を数度撫でてから唇を重ね直した。
「なのは、今晩はどうする?」
 来てくれるのかと彼女の眼が訴えている。極力私はその眼を見ないように首を振った。
 自分を彼女は責めない。取り乱すこともなく縋りつくこともなく、まして怒りを表すこともない。ほんの少しの落胆を滲ませて「そう」と瞼を落とす。その仕草が一番自分の心を突き刺すなど知りもしないで、彼女は優しく笑ったのだった。
 優しさがいつもその人の心に正しく降り注ぐなんてことはない。考えてみれば当然のことを彼女――フェイトはそれを知らない。出会ってから十年という時間は彼女の身体を成長させはしたが、心の一部にはまだ幼さを残している。純真無垢なまま汚さずに残された心は白く、触れるのを躊躇わせる。しかしそんな彼女だからこそ私は抱きしめたくなる。
「お昼はフェイトちゃんのために時間をとるからそれで許してくれないかな」
 機嫌取りの一言で再び明るさを取り戻した彼女にそれ以上差し向ける言葉はなく、着替えを済ませて早朝訓練の準備に向かった。それが一日の始まり。
 十月も半ばを過ぎるともう随分と外気が冷たくなっていた。だが生まれたての空気は清涼で、取り込めば肺が清浄されて何ともいえぬ心地がする。早朝訓練の前に私は必ず深呼吸をした。一人訓練施設の前に立ち、大きく息を吸い込んで吐き出す。作業に移るのはそれからだ。モニターを操作しているとやがてヴィータがやって来た。離れた場所からはシグナム副隊長の視線も感じる。準備が整うと、見計らったように四人がやってくる。いや、時間通りに終わるように自分が行動している。

 ジェイル・スカリエッティ事件の終結よりひと月以上が経過していた。
 人が一人いなくとも、一日は同じように始まり終わる。そうやって世界が回っていくと知ったのは、ほんの最近のことだったように思う。
 つまり、私はヴィヴィオを失った。



 1.遺されたもの

 ミッドチルダの暦で七十五年の九月。一つの事件が終わった。管理局システムをゆるがす大規模事件を起こしたジェイル・スカリエッティ。彼が作り出した人体兵器――戦闘機人(ナンバーズ)――と共に起動させた戦船、聖王のゆりかごの撃墜と、彼らの逮捕によって事件は終わりを迎えた。しかしこの事件は多くの死傷者を出し地上を混乱させただけでなく、自分の心にも深い傷を残した。
 戦船の中で、私はあの少女を失くした。すべて自分の力不足だった。
 ゆりかごから帰ってきても私の体には多くの傷が残っていた。戦中の傷だけではない、ブラスターモードを限界まで使った代償という形でそれは現れる。はじめは全体魔力の八パーセントが減少、体を動かすとぴりりと痛みが走るぐらいだった。それでもシャマル先生によればひどい状態だったという。だが今はさらにひどい。彼女が自分の体を診て、冗談や軽口をはさまずに深刻な顔をしたことで理解した。
 事件後からひと月も経つ頃には、全体魔力の十二パーセントが減少し、全身を苛む苦痛はずっと大きいものとなっていた。そうなれば長時間の戦闘も難しい。体を縛る何もかもが鬱陶しく邪魔なものに感じられた。実際に体を縛るものはなかったが、見えない何かで縛り付けられているのではないかと疑うほど。他人どころか自分さえ護れないというのが現状だった。
 それは度重なる過度の訓練と、精神をさらに追い込んだことによる。
 自分が許せなかった。護ると決めた一人さえ護れなかった私自身を顧みる必要をまったく感じなかった。
 ティアナに言って聞かせたのと同じ間違いをした。冬の日の、異世界での出来事がよぎる。焦りによる過度の訓練で疲労が積み重なったときに起こったこと。今回墜落したわけではないが、私は二度も家族や友人を心配させてしまったのである。自分に憤りを感じ、殴りつけてやりたかった。いや、私はもしかしたら自分を殴る代わりに訓練をしているのかもしれない。
 私は代償だと受け止めることにした。あの子を今腕に抱いてやれないことの代償であると。
 そうやって救いを見つけて生きるしかなかった。自分から死を選ぶなんてことはできない。自分には未練が多すぎる。自分が死ねば悲しんでしまう人が多いことを、私はこのことで改めて知ることになったのだ、哀しいことに。
 誰も私を責めない。局は自分をエースオブエースと称え、英雄と持ち上げた。機動六課の全員がいなければ解決しなかったと私は主張した。だが私の周りの人は一様に頷いて、こう言い返したのだ。「しかし高町なのはがいなくても解決できなかっただろう」と。
 私は最大魔力値の減少を、せめてあの子が持ち帰ったものと思おうとした。でも少女が持ち帰ったのは魔力だけではなかった。少女は自らの心も同時に持ち帰っていた。そのことに気付いたとき、虚無にも似た絶望が私の拳の代わりに私を殴った。

 三日に一度、夜になると私は医務室を訪れる。
 すべての訓練を終えてシャワーを浴びる前に医務室へと足を向けた。遅くなってしまっても、医務室という名の城の主は机の上に肘をついて待ってくれていた。彼女の城内には誰もいない。そういう時間帯を選んだ。昼間は訓練中の怪我やその他隊員たちの健康管理に勤しんでいるため、なるべくなら邪魔したくなかった。だが自身の体には定期検診が必要ということで、本当は毎日だったところを三日に一度としていもらったのだ。
 シャマル先生は機動六課の医師となっているが、今ではほとんど私の専医のようになっている。主治医である彼女は私に最大魔力値が事件後よりも減少したことで、私を言っても聞かない駄々っ子のように感じただろう。
 減少値がまだ八パーセントだった時は一・二年の休暇を勧められたが、今教えている子たちを中途半端にしたくないとはねのけた、その時にシャマル先生がした苦い表情は厳しいものだった。私は自身の体の不調より、彼女の表情に事態の重さを感じ取った。彼女にとって自分は、玩具屋の前で母親の裾をひっぱり、泣いて駄々をこねる子どもと何らの変わりはない。
 十二パーセントになるともう彼女は何も言わなかった。黙って私の肩を抱いて、背中を数度さすった。
「ごめんなさい、シャマル先生」
 言いつけを守らない患者は、医者にとって厄介者でしかないはずだった。匙を投げて、主治医をやめられても仕方がなかった。だというのに彼女はそうしなかった。
「なのはちゃんの主治医はやめないわ。だって私が言っても無茶するんだもの、言わないととことん無理しちゃうでしょう?」
「でもわたしは」
「もう無茶はしないで。空に上がるとき、私の言葉を少しでいいから思い出して。でないとシャマル先生泣いちゃう」
 可愛らしい言葉遣いで、しかし真摯に訴えかけられれば頷かないわけにはいかなかった。
「わかりました。必要がないかぎり大人しくしています」
「お願いよ」
 少なくとも今は、必要もなくなったから。
 ありがとうと彼女が言った。彼女が想っているのは自分ではなく主なのかもしれない。自分の具合が悪いと主が悲しむから、だからついでに私を心配してくれているのかも。そう考えた方が気は楽だったが、目淵に涙が浮かんでいるのを見てしまえば逃げ道はなくなった。
 この人は『私を』心配している。
 それは嬉しくて有り難くて、辛いものだった。

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