2017-07

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『秋、はらむ空』 一章 もう誰も護れない……3

『秋、はらむ空』 各タイトル⇒目次

一章 三話「それは不可避であった」
フェイトの話。いつだってフェイトはなのはのことを気にしてる。

――どうして自分を見失うことが出来ないんだろう。



 秋、はらむ空
 一章 ―もう誰も護れない―


 3.それは不可避であった

 まだ日中は暑さが目立つとはいえ九月の終わりに差し掛かると、ちらほらと樹木に色がつき始める。そんな中で、当然のように私の所属する機動六課は滞りなく活動していた。
 設立目的だった事件は終えたが、表向きとはいえ古代遺物管理部という名がつけられているからには仕事がちゃんとある。その日、それぞれに忙しい。
 私はといえば自分の役割をこなしていた。フォワード四名の戦技教導は特別な任務がないかぎり絶対である。緊急の任務が入っても大丈夫な程度には体力を残すが、あとはすべて強くなるための訓練にあてる。六課を出てから役立てられるように鍛えるつもりだった。
 四人の訓練につくのは自分一人ではない。ヴィータとシグナム、時間の空いたときにはフェイトが手伝いをしてくれる。最近は隊長戦も多くメニューに組み込んでいる。隊長戦とは隊長陣四人とフォワードメンバーとでする模擬戦だ。しかし魔力値の減少を機に模擬戦への参加は五回のうち三回だけと決められた。最低限これだけは守るようにとシャマル先生からの強い要望だった。
「きいてくれないと、もうなのはちゃんなんて知らないんだから」
 そう頬を膨れさせて言われれば自分は頷いてしまう。彼女は自分という人間を抑える方法を熟知しているんだろうか。彼女の様子に私は苦笑を洩らしかけ、はっと口元を引き締めた。そういえばこの間フェイトに言われたばかりだった。私は溜息を飲み込んでから、シャマル先生を宥めるように「わかりました」と言った。彼女の顔は一気に明るいものになった。何となく騙されたような気分になった。
 訓練中はしばし顔をしかめなければならないことがあった。息を吐き出さなければ痛みに耐えられなくなった時はわざと爆風を起こし、煙に紛れて深呼吸を繰り返し、痛みが引いて行くのを待った。誰かに見られていたとしても無表情が崩れることはなかっただろう。表情筋を操るのは幸い、昔から得意だった。

 昼休みになり、一旦訓練を終わらせて自室に戻った。軽くシャワーを浴びてまっすぐ食堂に向かおうとしたのに、視線だけは寄り道させてしまった。
 テーブルに覚えのないキャラメルミルクが置かれている。
 他に誰かが来た様子もないし、フェイトは今日は本局の方に出向している。どう考えても自分が作ったのだが、さっぱりと覚えがない。だが自身の手からは甘い香りが漂っていた。私は引かれるようにカップの取っ手に指をかけて口元に運びかけるが、直前で躊躇う。つい作ってしまったキャラメルミルクの意味を考える。脳裏に一人の少女が浮かびかけ、慌てて首を振って追い出した。しばしの間考えてからマグカップは置いたままにして部屋を出る。仕事を終えたらゆっくり飲もうと決めた。しかし午後そして夜の訓練を終えて部屋に戻ったとき、ソファーに体を投げるとそのまま持ち上げることができなくなった。数段の階段を上りベッドに上がる気力も残っていない。指一本さえ動かすのが億劫になっていたのである。
 数分、数十分も経っただろうか、うつ伏せの状態からなんとか反転して体を上に向けた自分の視界に入ったのはすっかり冷えきったキャラメルミルクだった。私はそれに手を伸ばすが届くはずもなかった。届いたとしても、寝たままでは飲めないに違いない。私は諦めてじっと身を縮こめるようにしていた。そうしなければ痛みに耐えられなかった。視界が揺らぐ。時間の経過も何もわからなかった。ただ部屋のドアが作動し、誰かが入ってきたのだということはわかった。その人がフェイトだとわかったのは、前髪を手で払い、額に冷たいタオルが乗せられてからだった。
 意識が朦朧としていたのだろう、視界を横切った金色があの少女の髪の色に見えてきた。私は瞼を閉じて手を伸ばし、彼女の横髪を撫でた。そうやって撫でていると安心できた。何度か目で力尽きると、私はとすんと腕をソファの上に落とす。なのは、という短い叫びが降り注がれて、私はもう一度目を開けねばならなかった。
「大丈夫、なのは。私だよ、フェイトだよ」
「フェイトちゃん?」
「ああ、そうだよ」
 彼女はほっと息をついて私の手を握った。そんな彼女を見返しつつ、お帰りと言った。
「今日はもう仕事終わったんだね」
「それよりも体、痛むの?」
「少し疲れて横になってただけだから平気」
「なのは」、フェイトが泣きそうに言った。これ以上言葉が続けられても辛かったので、私は付け足した。
「ありがとう、心配してくれて」
 涙ぐんだ瞳の色が、ふとあの少女の片目と同じ色だということに気付いたのはついぞさっきのことだった。鈍い金髪の隙間からのぞく深紅の瞳を輝かせて私をママと呼んでくれた少女が、目の前の彼女と重なった。クローン。そうだ、二人は生い立ちも似ている。私はだんだんとフェイトがあの子に見えてきた。大きさも顔だって違うのに、僅かな共通点を見つけだして重ね、抱き寄せた。
 今までぐったりしていた私が突然動いたものだから当然フェイトは驚いたが、構わなかった。既に自分の中で、腕に抱いた人は彼女じゃなかった。なのは、という声も聞こえずにきつく抱いて、そこにある温度を確かめた。生きていると思いたくて、たぶん必死になっていた。
「なのは、そんなに強いと少し苦しいから」
「ヴィヴィオ」
 言葉にすればなんて儚く、虚ろなんだろう。
 閉じた瞼の裏にヴィヴィオが刻印のように焼き付けられている。そして腕の中にいる“ヴィヴィオ”は抵抗をやめて、私の首の後ろに手をまわした。彼女の胸に顔が押し付けられて、その豊かな肉に鼻先といわず顔面が埋まる。ヴィヴィオはいつの間にこんなに成長したのか。考えていると、そういえばレリックで大人にさせられて今や自分よりも大きくなったことに思い当った。
「ヴィヴィオお願い、しばらくそのままでいてくれるかな。ねえ、ヴィヴィオ」
 彼女の胸が心地よく、微睡みかけていた。
「いいよ、私がこのまま抱き締めるよ。だからなのは、ママは安心して」
「ありがとうヴィヴィオ」
 そしてごめんね、フェイトちゃん。
 どうして自分を見失うことが出来ないんだろう。彼女の胸は濡れることがなくて、私の肩はびしょびしょになった。彼女は泣くことが出来る、私は泣くことが出来ない。最低だ。
 いよいよ眠気が襲ってきて、私は眠りに任せた。彼女の優しい抱擁を受けながら、夢の中で私の両足ははぬかるみに埋まっていた。足を取られて空に上がれないどころか、泥が次第に熱をもちはじめている。やがてぼこぼこと泥水は沸騰し、足を煮つめていった。苦痛がなく溶けていく感覚が無性に気持ち悪かった。しかも体がなくなっても意識は残っている。あとは蒸発を待つばかりとなった時、不思議なことが起こった。一閃の雷が空を割り、泥沼をも分断したのだ。私の体は私の元に還ってきて、感覚も戻った。雷が落ちてきた方向を見上げると、そこには白い外套をまとった魔導師が温和な笑みを浮かべ、私を見つめていた。魔導師の視線は温かく私の元に降り注がれる。白い外套の魔導師は手を伸ばしてきた。考えもせずに彼女の手を取る。私は引き上げられるようにして夢から覚めた。
 起き上がるとそこはベッドの上だった。窓からは薄っすらと光が差し込んでいて、朝を伝えていた。陽の明かりで時計の針を確かめたところ、ちょうどいつも起きる時刻だった。
 机の上に冷めたキャラメルミルクを見つける。誰にも飲まれることなく置き去りにされたそれは、捨ててしまわなければいけない。流し台に持っていき、丁寧にすすいでからカップを元あった場所に戻した。
 私はベッドに戻ると眠っていたフェイトに布団をかけてやり、服を脱いでシャワールームに飛び込む。何かを考えようとしても頭は鈍く働かない。ただ全身を蝕んでいた痛みはどうにか引いていた。訓練を休むことにはならなさそうだ。
 夜が去って、朝が訪れた。だけど自分にはいつもよりは幾分穏やかな朝のような気もする。それは夢に見た白い外套を負った魔導師のおかげだろうかとぼんやりと思ったが、起きだしてきた彼女と朝の挨拶を交わし体調について聞かれ、そうだ昨夜のことはやはりシャマル先生に報告したほうがいいのかと悩んでいると、もうどうでもよくなっていた。

 翌日は事務仕事があり、夕方からの訓練は早めに切り上げることにした。ヴィータが複雑な顔で自分の方を見ていたが流すことにして、四人を解散させる。早めと言っても当然日が暮れきった後で、戻った部屋は暗かった。
 私は汗を流し夕食をとると、明日以降しばらくの訓練メニューを立てることにした。
 ソファーに浅く腰かけテーブルに紙を広げる。今日はモニターではなく手書きにした。ごちゃごちゃと考えるにはこちらの方が都合がいい。
 スバルの攻撃はだいぶん破壊力を増してきたし、自分が防御側に回ろうか。エリオはシグナム副隊長に任せてあるとはいえ、直接やり合うだけでは訓練とは言わない。相手の防御の隙を突く攻撃、相手の攻撃のさばき方をマスターしたら今度は自分が相手になって防御をさせてみようか。キャロは体力をつけ、回避率を更に上げるか、いや補助魔法ばかりではなく攻撃系の射撃魔法も覚えてはどうかと助言したほうがいいのか。ヴィータが直接訓練についているティアナはそろそろ次の段階へと進む頃か。足りない魔力を気にする彼女には、それを補える集束系の練習をもう少ししたら始めようか。
 機動六課の運用機関は残り半年と少し。その間にできるだけのことは教えておきたい。
 頭をひねっていると、唐突にドアが開かれた。フェイトにしては早すぎると考えつつ振り返るが、息を切らせて入ってきたのはフェイトだった。
 ある程度理由を予想付けつつどうしたのと問えば、心配だったからと咳き込みながら彼女が告げた。
「そんなに急がなくてもいいのに」
「また倒れていたらと思うとじっとしてられなかったんだ」
「もう大丈夫だよ、たぶんあれが最後だと思うし」
「どういうこと?」
 根拠も何もなかった為、私は答えずに隣の席に促してみた。彼女は訝しみつつも座るとこちらを見つめた。睨まれているんだろうかと疑うくらい凝視されて居心地が悪くなってしまい、再び机に向かうことで意識を逸らそうとした。しかし彼女の視線は外れない。
 黙っているのも極まりが悪かったので、机上の紙の上にペンを走らせながら、ご飯は食べたのと訊いた。いや、と彼女は言う。
「ごめんねフェイトちゃん、こんなに早く帰ってくるとは思わなかったから先に食べちゃったんだ。でも誰かはいるとだろうし、今から行ってきたらどうかな」
 いや、ともう一度彼女が言った。
「あれ、誰もいなかった?」
「そうじゃなくて、ご飯が問題なんじゃなくて。なのはが気になるんだ」
「ごめん、昨日あんなところ見せちゃったから」
「……もうどう言ったらいいのか分からないよ」
「フェイトちゃん、きっと疲れてるんだよ。ご飯食べないなら横になったらいいんじゃない」
「ちがう!」とフェイトは叫ぶ。「疲れているのは……なのはだ」
 普段大人しい彼女の、突然の大声に驚いて、襲い来る衝撃に反応できなかった。部屋に大きな音が響いたのを聞いて、自分の腕が押さえ付けられていることをやっと知った。背中が草色のソファーに沈み、唇が荒々しく重ねられる。ぶつかった拍子に切れたのか痛みが走った。だが確かめることはできない。唇はなかなか離れずに、かぶりつくようにキスをされていた。たぶん長い時間だった。
 顔がようやく見えるくらい距離が離れると、私は状況判断に務めるがどうにも上手くいかない。
 疲れているのはなのはだ――彼女の叫びを反芻する。突然とはいえ咄嗟に反応できなかったのは、たしかに疲れているのかもしれないと思った。だけどこれはどういうことなのか。フェイトが自分をソファーに押し倒し、今度こそ睨んでいる。この状況を私は全く理解出来ていなかった。
「昨日は本当に悲しかったんだ」
 なのははわからないだろう、それともわざと見ないようにしているの?
 目を潤ませてそんなことを言われても、私にはどうとも答えられなかった。押さえつけられた腕が痛くて、口内に血の味が広がっていた。唇の破れた部分を舐めようとしたが、彼女の顔が近付いてきたので私は首を捻って避ける。彼女は傷ついた顔をしたが、そもそも行動の理由がわからないのに受け入れることはできなかった。
「悲しいからって、こんなことするの」
 呟くと、そんなこともわからないの、と呆れられた。
 腕は痛かったが解くのが面倒で、ちょっと考えてから「心配だから?」と答えた。やっぱり呆れるような目で見られたが、今度は責められなかった。それに、呆れだけでなく悲しみも含まれている気がした。おそらく然程外れてはいない。
 避けたといっても顔はまだ近くにあり、胸で息をした。呼吸が苦しかった。早く離れて訓練メニューの続きを考えたかったけれど、彼女はまだ私を解放してくれそうにない。それに今の彼女は明らかにおかしかった。自分は何か彼女に悪いことをしてしまったんだろうか。気付かないうちに? わからない。
「行動だけじゃ、話をしてくれなきゃ伝わらないよ」
 昔も目の前の彼女に似たようなことを言った気がする。
 大人になった彼女、フェイトはあの頃よりもしっかりとした目をしているが、そこから感情を読み取るのは難しい。人の心を読み取るなんてできるはずがなかった。だから分かってほしいならちゃんと言ってほしかった。突然抑えつけてキスをするなんて酷いと思う。友達だった、せめて何かしらの弁明がほしかった。
「フェイトちゃん……」
「明日、久しぶりに休みをとれたんだ」
「事件以来だね、いやあの時フェイトちゃんは仕事尽くしで休んでなかったっけ」
「処理に追われてて取れなかったんだけど、ようやく今日でひと段落ついたんだよ。早めに帰れたのは本当はそのせいでね」
「そうなんだ」
「どうでもいい話かな」
 思わぬ返し方をされたので、私は「まさか」と言っておいた。どうでもいいとは思わなかったが、話の意図が見えなかっただけだ。しかし今彼女に言っても仕方ないだろう。それよりも話を続けてほしいと促した。
「明日の訓練に私も付き合おうと思ってるんだ。ただそのあとに時間がとれないかなと思って。どうかな」
「とれなくはないよ。けど何か用」
 今の状況を見渡して、私は咎めるように顔をしかめた。依然として彼女に押し倒されたままだった。そのことに気づいてくれたのか、彼女はようやく私の腕を解放する。体を起こすと圧迫された息苦しさがなくなり、楽になった。
「駄目かな」
「駄目もなにも、理由を聞いてないよ」
「それは明日言うから……ねえ、なのは」
 弱々しい声を出されては自分に断れるはずがない。ずるい、と思った。私が彼女をいじめているみたいだ。
 追及は溜息で諦める。元は過度に心配するフェイトに弱ったところを見せてしまうという自分の不注意が招いたことだ。彼女は悪くない。
「いいよ、話は明日聞くことにする。聞かせてくれなきゃ無理やりにでも“お話”してもらうからね?」
「それは。でもちゃんと言う、絶対」
「絶対に絶対?」
「うん」
「ならオッケイだよ。キスについてもとりあえず保留にしとく」
「あ、そ、それはごめん、本当に、頭に血が上って」
「もういいけど、他の人には乱暴しちゃだめだよ。同意がないとさすがのフェイトちゃんでも嫌がられると」
 私がそう言いかけると、彼女は意外に力強い声で「他の人になんてしない」と言った。
「なのはだからしたんだ、キス。なのはだから抱き締めた」
 強く言い切ると彼女は私を残して部屋を出た。返す間もなく茫然と扉の方を見ていたが、やがて訓練メニューの作成に戻った。だがそれが終わってしまうと何もすることがなくなり、さらにフェイトの言葉で頭が一杯になってしまっていたので、今日は大人しく寝ることにした。彼女が部屋に戻ってくるまでに眠ってしまおうと。しかしどうしてかフェイトに腕を押さえつけられた時よりも息苦しく、心臓が激しく肋骨を打ち付けていた。ひどく申し訳ないことをしたような、言ったような。曖昧な気持ちが胸の中に渦巻いては消えなかった。
 翌日になりその日の訓練がすべて終わるとフェイトが傍寄ってきた。隊舎の周辺を歩き始めて一時間も経った頃、彼女は初めて口を開いた。
 ――なのはが好きだよ。とやはりしっかりと力強い声で。
 私は彼女の言葉に何も答えられず、無言で抱擁を受ける。
「いいんだそれで。誰よりもなのはのことが好きだから私はなのはを慰めたいんだ。だけど答えがほしいわけじゃない。欲しいのは答えじゃなく、なのはをこうして抱き締めることができる権利だから」
 彼女が私の唇に触れる。昨日のような激しいものではなく撫でるように優しい触れ方が気になって、私は逃げられなかった。でもそれは言い訳かもしれない。逃げるつもりなど、彼女の言葉を聞いた瞬間におそらくなくなっていた。
「触れたいんだ、なのはに。許してくれるなら私の全部をなのはにあげる。身体はもちろん、心もね」
「……心は」
「え?」
「心は、いい」
「そう」
「フェイトちゃんのことが嫌いってわけじゃない。でも怖いの、すごく」
「そうなんだ」
「ごめん」
「なら身体は。大丈夫?」
 私は考えて頷く。フェイトは微笑みを見せた。
 身体は、キスを自然に受け入れていることで平気だと思った。けれど心まで受け入れるには抵抗があった。人の心は軽いものじゃない、私が簡単に受け入れてしまっていいものではないのだ。特に彼女は優しいから、今の自分ではきっと傷つけてしまうだろう。だから、身体だけでいいならと思ったのだ。
 自分は中途半端なことをしているのかもしれない。けれど唇は柔らかく、思考を溶かすには彼女の舌は十分に熱かった。
 近くに大きな木があった。春になるといっぱいの花をつける桜の木だ。私は桜の太い幹に押しつけられ、首筋を軽く吸われる。彼女に痕はつけないとあらかじめ断られていたので心配はしていないが、こそばゆい感覚にぎゅっと目を瞑る。
「なのは、目は閉じちゃだめ」
 まるで咎めるような彼女の声が耳を打ち、指が私の中をえぐる。息が上がっていて答えられない私に間髪入れず言った。
「代わりは嫌なんだ。私のことを見ていて。なのはを抱いている人の顔がフェイトだってことを一瞬でも忘れないで。そうしてくれるなら、私の中でなのはが欲しいだけのものを、私は与えることができる」
 執拗なキスを受けた。唇だけではない。首筋や鎖骨、いつのまにか大きく肌蹴させたられた胸元に、露出した太腿。ほとんど全部に彼女の唇が触れた。体内の熱を引き出すような熱い舌が体中を行き交っている。
 代わりは嫌だと言った彼女。自分はこの人を誰の代わりにしているんだろうか。そんなつもりはなかったと思う。抱かれているのはフェイトにだときちんと理解している。しかし伝えるすべがなかった。もう彼女は自分の体以外のどこにも余所見をしなかった。
 純粋な交わりだけが裸の桜の木で行われていて、私はその当事者であった。月もなく星もない夜に、彼女の金色の髪が純粋に、一切の混じり気のない金として輝いていた。光を生み出しているのは何だろう。月でもなく星でもない何かが、彼女の髪を金色にしている。あるいは彼女の内側に潜むものが外に漏れ出し、光のように見せているだけかもしれない。
 その晩起こったすべてを理解することは難しかった。その時にはもう私の意識は正常ではなく、闇の中に浮かぶ金色の光を眺めていた。

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