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2020-01

『秋、はらむ空』 一章 もう誰も護れない……4

『秋、はらむ空』 各タイトル⇒目次

一章 四話「鮮やかなほどに特別」
なのはの中の、ヴィヴィオとの思い出。

――自分を完全に理解し死んで行く人間はどれくらいいるのだろう?



 秋、はらむ空
 一章 ―もう誰も護れない―


 4.鮮やかなほどに特別

 私は少女の手を取ることができるが、少女は私の手を取ることが出来ない。
 そういった片想いともつかない種類の関係がヴィヴィオとの間に敷かれていた。片想いをしているのは自分の方で、私が少女の手を取らなかったために関係が断ち切られたなら、それは当然のことだった。

 よく、朝の訓練を終えて隊舎に戻る道のりで、知らずのうちにヴィヴィオを探していることがある。気を抜いた瞬間に、なのはママ、と呼ぶ声がかからないかといらぬ気をまわして、あらぬ方向から「なのはさん」とか「なのは」と声をかけられた。そういうとき、私は返事をするのが遅れる。
 ヴィヴィオと過ごした短い時間がこれほど自身に影響を与えるなんて予想もつかなかった。そもそも深く関わることでお互いにかかる負担をわずかでもなくそうと最小限の関わりで済ませていたはずだ。母を騙ったのも便宜上のもので幼子により分かりやすい言葉に置き換えただけだし、自分からは注意してヴィヴィオに近づいていかなかった、なのに。
 ひとつの季節さえ超えることのなかった私とヴィヴィオとの間に、本当はどれくらいの繋がりがあったのだろう。最後の最後で手を伸ばさなければ救われたのかもしれない。誰の言葉も振り切って深い地の底に、無へと飛び込むことで一人白い空間に取り残されたとしても構わず追いかけていけばよかったのか。
 後悔をするほど愚かではなかったが、あの時自分の判断を誇れるほど自信家でもなかった。だが再び同じ状況が目の前に立ち塞がれば間違いなく自分は同じことをする。それは自信をもって言えた。
 起こらなかった仮定を考えるのは、枯渇した川にバケツを持って行き水がないことに気付かず空掬いしているようなものである、そう知りながらもたまに私は考えてみる。ヴィヴィオのことだ。短い時間ながらも胸に仄かな温かさが湧き上がってきたときの、あの何ともいえぬ幸せ。心の綻びを自分の中に見つけても歓迎したほど、ヴィヴィオという存在はいつしか私の中で高く昇りつめていた。
 ヴィヴィオは私の作る簡単な手料理を喜んでくれた。訓練や任務という仕事で少ない時間だったが、合間を見つけてヴィヴィオに作ってやった。とりわけキャラメルミルクが喜ばれた。こちらにきてからはあまり料理というものに触れなかったが、小さい頃によく家の手伝いをしていたことで、失敗はせずにすんだ。両手でカップを掴みそろそろと口元に運ぶ様子は、かかった手間など彼方に追いやり、自分のしたことを誇らしく思ったものだ。ヴィヴィオのために、そして喜ぶヴィヴィオの顔を見るために。
 フェイトの帰省が遅くなる日には、ヴィヴィオが眠くなるまでベッドの中で話をした。小さい頃の話が聞きたいとせがまれれば、フェイトとの出会いやアリサとの日常的に起こった喧嘩など、ちょっとした冗談を混ぜて面白く話した。
 私とフェイトが求め合ったジュエルシードは宝石のように青白く輝き、魔法に詳しくない自分でも願いを叶えてくれそうだったこと。彼女とは譲れぬ想いがありぶつかり合いもしたが、それは実は同じくらいの強さで惹かれ合っていたからで、手を伸ばしてからはかけがえのない友達になったということ。アリサとは誰よりも気が合う一方で喧嘩もよくした。しかし言いたいことが言えるというのはとても難しく大変なことで、そういう意味で彼女は誰よりも気を許せる親友の一人であった。かといって無遠慮に扱っていたとかではなく、むしろ最大限の礼儀と尊敬、感謝を持ち、誕生日など行事があれば自分のできる精一杯で相手を祝ったのだと。ここでヴィヴィオは首を傾げたので、私はできるかぎりわかりやすく説明した。
「いくら何でも言い合えるからって関係まで粗雑にしたり、言葉を選ばなくてもいいというわけじゃないの。大切に思う心があればこそ信頼というものは生まれるし、信頼がなければやっぱり何でも言い合えることにはならない。わたしとアリサちゃんの間にはそういうものがあったと自信を持って言えるよ」
「つまり、なのはママとアリサさんはすごくいい友達だってことだよね!」
「そうだよ」
「あれ、でもフェイトママとはそうじゃないの?」
「フェイトちゃんともすごくいい友達だよ。ただアリサちゃんとは少し違う友達。喧嘩はそんなにしなかったし激しく言い合ったこともないけど、一緒にいて楽しくて心がわくわくできたんだ」
「ううん。いろいろあるんだね」
「誰一人同じ関係っていうのはないんだ。アリサちゃんとフェイトちゃんの他にも、すずかちゃんとはやてちゃんっていう大切なお友達がいるんだけど、その二人ともまた別の関係、だけどいい友達だよ」
「同じ関係だといけないの?」
「いけないことはないけど、その人それぞれの代わりはいないから。同じだったら代わりをすることもできるってことでしょ。たしかに言葉で括るなら『友達』になっちゃうかもしれないけど、アリサちゃんもすずかちゃんもフェイトちゃんもはやてちゃんもそれぞれが特別で、わたしにとってはすごく大切で、代えようがないんだ」
 ヴィヴィオは納得したような納得してないような曖昧な表情で私を見上げていた。頭を撫でるとヴィヴィオは服の胸の部分を握り、顔を埋める。
「あのね」
 ぎゅっと胸にしがみついてくる。どうしたのと背中を摩ると不安そうにヴィヴィオが訊ねた。
「なのはママにとって、ヴィヴィオはとくべつ?」
 私は少女の胸にそっと響くよう、できる限り優しい笑顔で頷いてみせる。
 ヴィヴィオはすぐに寝息をたて始めた。胸にしっかりと掴まれた手を離すことなどできるはずもなく、私は腕を回したまま眼を閉じる。しばらく少女の寝息を聞いていると、やがて穏やかな眠りがやってくる。私はその泥のような眠りを抵抗することなく受け入れた。

 ヴィヴィオは私にこれまでにない穏やかな気持ちを運んできてくれたのだ。けれど私はそういうものから極力逃げて生きていた。人が与えてくれるものに一度浸ってしまうと、あとになって襲ってくる寂しさが比較にならないほど凶暴だと知っていた。だから今回も私は笑顔で壁を挟みつつ距離をとり、自分を未来の寂しさから遠ざけようとしていた。ママでいいよと言いつつ母親探しをしていたのもそのためだ。だというのに、ヴィヴィオは私が作り上げた壁にできたほんの僅かな歪みを狙って入り込み、ついには心にまで触れてしまった。
 どうして今回は逃げられなかったんだろう。レリックケースを引きずりボロボロの布切れを纏った少女の姿を目に留めたとき、直観じみたものが警報となって脳を揺さぶっていたのに。聖王協会の医療塔を訪れた時にヴィヴィオの枕元に置いたのは、あれは本当に気まぐれだったのか今となっては自信がない。
 ぬいぐるみ。可愛らしい小さなうさぎのぬいぐるみ。それは今や残骸と成り果てた。
 六課襲撃ののち、焼け跡から運び出した黒焦げのぬいぐるみが透明な袋に入って部屋の隅に置かれている。はじめは目につかないところにしまってあったのだけどすぐに引っ張りだしてしまうから、それならばと出したままにしておくことにしたのだ。一枚の布を被せて。
 ヴィヴィオを特別だと言ったけれど、こういう意味で言ったつもりじゃなかった。いや、つもりはなくとも始めからそうだったのかもしれない。“そういう”意味で特別だった。
 だがそう考えるとますますわからない。今まで逃げ続けてきたものを受け入れるほど特別ならばなぜ追わなかったのか。命令だった、私はそれに従わなければならない立場だった、従わなければ困る人と悲しむ人がいた。でも少女はたしかに特別な存在で、だというのに自分は極限でそういったしがらみを振りきれなかったのだ。悲しいとか困るとか今の状況とかを振り返ってしまう『高町なのは』という存在が自分ながら解せなかった。しかしそれが自分だという気もした。
 考えてもわからない。自分という人間を他人よりは理解できるのかもしれないが、簡単でもないらしい。人は一生のうち、自分の名前が書かれた項目にどれだけ多くの説明文を書き加えることができるのか。一日、一日と重ねていくうちに、自分を知るどころか見失っていく場合だってあるのではないかという気がする。その上で、自分を完全に理解し死んで行く人間はどれくらいいるのだろう?

 高町なのは……航空戦技教導隊、管理局のエースオブエース、機動六課の戦技教導官、フェイトとはやての幼馴染、ヴィータの戦友、スバルやティアナの上司、ヴィヴィオの**


 友達だと言ったフェイト。しかし私と彼女は、友達とするにはかけ離れたことをしている。ヴィヴィオに話を聞かせてあげたベッドの上で、キャラメルミルクをおいしそうに飲んでくれたソファーの上で、時には三人一緒に入った浴室でさえ身体を重ねた。濡れながら貪られる。
 どんなに疲れて帰ってきても彼女は必ず夜に私を抱いた。朝帰りになれば眠る自分の背中から抱き締められ、服の中に手を差し込まれる。おはようの代わりにキスをされた。おやすみの代わりに体を抱かれた。
 心など一切考慮しない純粋な交わりが繰り返される中、頭に浮かべるのは出会ってから初めて想いを通じ合わせたときのこと。海鳴の公園で手を取り合った遠い昔。陽に焼けて、茶けた本の表紙のような日々が、心の緩んだ隙をついて潜りん込んでくる。
「友達になりたいんだ」とフェイトの声。「名前を呼んで」と私の声。
 一人きりになって、ようやく口元に力ない笑みが浮かんでくる。自分は何か大切なものを壊したような気がしてならない。
 これからもおそらく純真だった思い出を黒く塗り潰していくのだろう。そしてゆっくりと今までの自分を忘れていく。完全な影が差したとき私は元の、ヴィヴィオがママと呼んでくれた頃の自分を覚えているか自信がなかった。

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