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2019-11

『秋、はらむ空』 一章 もう誰も護れない……8

『秋、はらむ空』 各タイトル⇒目次

一章 八話「言葉溜まり」
なのはの部屋にスバルが訪問してくる。

――スバルは白い鉢巻でその頭を縛りつけるよう罪も一緒に縛りつけているのかもしれない。



 秋、はらむ空
 一章 ―もう誰も護れない―


 8.言葉溜まり

「仕事ができたんだ。ロストロギア関連でね、詳しくはこれから聞きに行くんだけど二日ほど出ていかなきゃならないみたいで」
 フェイトがいつものようにキスをして言った。
 フェイトが私より早起きなのは珍しい。まだ夜も明けきらぬ朝だった。覚醒のしない頭で話を聞いていたのだが、ロストロギアと聞いてはっきりと目が覚めた。いろんなものを壊したあの紅い結晶がよぎる。
 私は上体を起こし、大丈夫なの、と聞いた。彼女は頷く。
「危なかったらもっと緊急に呼ばれたと思うから。でもごめんね。フォワードメンバーの訓練にようやく付き合えると思ったんだけど」
「訓練はヴィータちゃんもシグナムさんもいるし、心配ないよ」
「そうだよね。でも本当は私、なのはに会えないのが」
 彼女は仕事着の黒いスーツを身につけていた。とても有能な執務官に見えたし実際にそうなのだろう。仕事ができるからこそロストロギアのような重要な用件で呼ばれるのだ。
 そんな彼女はふっと唇を歪めた後、私の寝ぐせを手で整えつつ微笑みなおした。私の前では幼い心を隠さずに持つ一人の女の子だった。ただ私はその可愛い女の子の頭を撫でてはやれなかった。
「いや。とにかく行ってきます」
 手を振ってドアの外まで見送ると私は布団を被り、広いベッドで朝が来るのを待つが、結局眠りは訪れなかった。夜は私の目の前で沈んで行き、朝が顔を出した。
 私はカーテンを開けて窓の外の風景を眺める。この部屋からでは海は見えないが、朝陽に焼けていく山の稜線を見ていると夜の間に霜を被った心が真新しい光に洗われるようだった。暗闇が朝の光に奪い去られていくのを眺めることで私の一日はようやく始まる。すべての予定を終えて部屋に戻る頃には疲れ果てていて、私は服を脱いでだらしなくソファーに横になった。その直後に部屋の扉がノックされ、心底ぐったりとした。今日はひとりで誰に気兼ねなくのんびりとした夜が送れると思っていたのだ。しかし出ないわけにはいかず、力を振り絞って立ち上がり適当な服をとると、どうぞと言った。部屋の角に置いたうさぎのぬいぐるみには布が常時被せてある、問題はない。
 遠慮がちに顔をのぞかせたのはスバルだった。部屋に入り扉を閉めると、スバルは物言わず服を脱いだ。今し方の自分の行動を逆回しに彼女に映したように流れるような作業だった。天井から指す明るい光がスバルの白い肌に万遍なくまぶされる。
 スバルはそれから私の顔を見上げ、抱きついた。胸の中でごめんなさいとくぐもった声で呟かれるが、もしかしたら別の言葉だったのかもしれない。いずれにしても小さな声が胸に水溜まりを作った。

 その晩は十月上旬とは思えないくらい冷える夜で、私はミルクを温めてテーブルの上に置きスバルに差し出した。ストックがあったのがコーヒーとお茶とミルクだったため、彼女にどれがいいかと聞いたところ迷わずミルクを選んだ。テーブルに乗せたカップが一つだったのでスバルが「なのはさんは」と聞いてくるが、私は喉が渇いていなかった。
 服を着せて落ち着けた頃にはスバルの体はすっかりと冷え切っていた。シャワーを浴びたばかりで湯ざめをしていたし、何より寒いのに裸だった。まずお互いソファーに隣り合って座り、話を聞かなければならなかった。促すとスバルはつまりながらも時間をかけて話してくれた。
 長い話だったが、つまりは私が落ち込んでいるのを見て何とかしたかったらしかった。ゆりかごの中で部隊長の命に従いティアを止められなかった、なのはさんの味方になりきれなかった、家族と離れて辛いことはあたしがよく分かっていたのに。
 聞きながらふとヴィヴィオのことを考える。この部屋でヴィヴィオと昼食をとるときにスバルも一緒にいたことがあった。サンドイッチを頬張るヴィヴィオを眺めつつ私も口に運ぶ。スバルも多分笑顔だった。私が一切れ食べるうちにスバルは三切れ食べていたのだ。食後には目についたレモンティーを入れてしまったものだからちょっとおかしな組み合わせになり、それも笑いの種であった。そしてレモンティーはおいしかった。
 思い出してみれば何か遠い世界の出来事のようでもある。同じ顔の同じ名前の、しかしまったくの別人の記憶を私の頭の中に書きこんでいったような。だとしたらいつか。寝ている間に? それとも目を閉じたほんの一瞬? いや、私には分かっている。ヴィヴィオのことを思い出すときだ。
 スバルから話を聞いているうちに私は彼女に応えてもいいような気になっていた。スバルはスバルなりに私とヴィヴィオの身と心を案じてくれていた。行動に移すことはできず結果にも結びつかなかったが何の問題があるのか。結果に結び付かなかったのは私自身のせいなのだ。
「それにしてもわたしってそんなに落ち込んで見えるかな」
「いえ、あの。落ち込んでは見えません。ただそれが逆に落ち込んでいるんだと分かってしまうというか、なのはさんって完璧なんです。でも完璧なものって、人間もですが物でも世界でもそんなのってありえないじゃないですか。だから」
「かまをかけてみた?」
「そういうんじゃないですけど」
 スバルは冷めかけたミルクを口にもっていき、少し笑った。
「あたしはヴィヴィオといたなのはさんの、とても幸せそうな笑顔を見ていますから」
 そういえば出動前にヴィヴィオについて心配してくれたのがスバルだった。彼女はカップをテーブルの上に置き、姿勢を正す。
「だからなのはさんになら良いんです。って違うか。あたしはただなのはさんの心が少しでも楽になったらそれでよくて。なのはさんを慰めるには未熟だからこの方法しか知らなくて、本当はもっと正しい言葉があるんじゃないかって思うんですけど、浮かばなくてそれであたし」
 ごめんなさい。そう言って立ち上がり再び服に手をかけたスバルを私は止めることができなかった。
 スバルはただ償いと慰めという言葉に置き換えて自分が癒されたいのだろう。彼女は辛いのだ。目の前で母子が別れる場面を見せられて、自分もその要因に加わっていると思い込んでいる。そんなことはないのに、スバルは白いハチマキでその頭を縛りつけるよう罪も一緒に縛りつけているのかもしれない。
 解放してやる必要があった。
 このまま部屋から追い出すのは簡単だ。心配ないよ、と頭を撫でてやればいいのだ。しかしそれには奥底にしまいこんだ笑顔を引き出さなければならない。笑わないことにはスバルを納得させることはできず、部屋も出ていかないだろう。
 床に落とされていく水色のシャツと黒色のホットパンツを眺めていると私の頭はスバルの影に覆われた。座ったまま肩の上から抱き締められる。やわらかな乳房が頬に当たり、瞼を閉じた。脈打つ鼓動の早さに溜息をついてから腰に腕を回す。視覚を塞ぐとよりあたたかみを感じる。スバルの細い腰と耳に触れる吐息を感じながら私は強く思っていた。
 自分はゆりかごと一緒に沈むべきだったのだと。

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