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2019-11

『秋、はらむ空』 一章 もう誰も護れない……9

『秋、はらむ空』 各タイトル⇒目次

一章 九話「統一されていく意識」
ゆりかごでの出来事の、スバル視点。
なのはさんはスバルやティアナが叫んだいくつかの言葉なんて聞いてなかったらしい。

――「いいの、あんたはそれでもいいの?」



 秋、はらむ空
 一章 ―もう誰も護れない―


 9.統一されていく意識――ANOTHER SIDE

 それはなのはが一人の少女を失った日のこと。
 スバルは目の前の光景にギンガを思い出していた。今しがた戦ってきた姉はぐったりとしていたが生きていた。助けることができたのだ。だからこうしてなのはら隊長の救出に乗り込んでいる。ゆりかご内で通信が途絶え魔力結合もできなくなったとなれば、いくら優秀な魔導師でもなすすべがない。空を駆けることで道を切り開いていく航空魔導師ならなおさらだった。だからこその陸戦魔導師が必要だ。そうしてスバルは呼ばれ、ティアナの操縦するバイクと共に乗り込んでいく。
 まさか自分が隊長達を助けにいく日が来るなんて思ってもいなかった。見守られて助けられてばかりいた自分があの人を、そんな恐れにも似た気持ちをスバルは抱いていた。しかし気分は昂っていた。なのはの僅かな魔力を感じるとスバルはバイクを降りて自分の足で地面を走った。戦闘機人モードに切り替えれば魔力がなくとも可能だった。そういう意味でこの救出作戦にスバルは最適だった。
 亀裂ができ素材の岩のような骨がむき出しになった道もあれば、傷つかずのつるつるとした道もあった。スバルとマッハキャリバーはしかしそんな道はものともせずに進んだ。目標が明確で大きすぎて、道端の小石などは障害にならなかった。
 ただ、スバルが辿り着いた先に救うべきものは少なかった。なのははいたが、なのはの腕に抱かれた小さな命は消えてしまっていた。だというのになのはは「死んでいない」という。間に合うとさえ口にした。おおよそ普段の彼女の口から出る言葉とは思えない、非現実的な言葉だった。なのはの精神はどう見ても正常ではなかった。相棒には人の心の機微に鈍いと言われるスバルにも分かった。ただ近くにいたはやてが眉をしかめたとき、駄目だと口にしなかったのは嬉しかった。大切な人の生を信じている彼女を絶望の海に突き落とす権利など誰にもないのだ。
 スバルは姉のギンガを思った。敵の戦闘機人に半壊にされ、箱詰めにして連れて行かれた姉のことがヴィヴィオに重なる。このなのははまさにあの目の前で大切な姉を奪われた自分ではないのか。彼女は怒り狂うかわりに心を虚無に置いている。信じることでようやく立っていられるのだ。純白だった防護服の破れた部分からのぞく傷からは、赤い血が流れている。滲むなんて生ぬるいものではない。はやく手当てをしなければならない。それだけ傷がついているというのに彼女は痛がる様子がない。我慢しているだけならまだいいが、もし痛みがないとするならば危険だった。戦いにおける傷が誇りになるなど、スバルは考えなかった。
 脱出に急ぐ途中で重みが一つ消える。ヴィヴィオが穴に落ちたとき、そしてなのはがヴィヴィオを追おうとしたとき、スバルは身を崩しながら走るなのはの背中を眺めていた。はやてとティアナが何故なのはを止めようとしたのか理由が分からないほど、その後ろ姿は自然だった。大切な家族を追って何が悪いのだろう。自分が犠牲になっても追いかけたいと思う気持ちを他人が殺してもいいのか。
「なんで」
 スバルは考えた。
「あたしはいいと思います。なのはさんがヴィヴィオを追っても。ヴィヴィオは死んでいない。生きている子供を追うことってそんなにいけないんですか部隊長。ティアも」
 なのはの前に立ち塞がるティアナの傍に寄り、スバルが言う。
「陳述会の護衛任務に向かうヘリの中で、なのはさんがヴィヴィオを自分の子供にするって言って嬉しそうにしてたよね。あたし見てたよ。あたしたちがなのはさんのことを止められる理由なんてない」
「あるわよ馬鹿!」
 考えた結果の言葉だったのだ。頬を打たれるまでこの考えが正しいと思っていた。
「あんた分かってるの。放っておいたらなのはさんは死んじゃうのよ。魔力が結合しないこの状況で、こんな深いところに落ちてどうやって脱出するのよ。できないからこうしてあたしたちが助けにきてるんでしょう。それにうまい具合に脱出口を見つけたところで、なのはさんの体はもうぼろぼろ。落ちた時の衝撃も考えると助かる確率なんて絶望的。なのにあの人は躊躇いなく飛び込もうとしてる。あたしたちがこうしてぐだぐだ喋ってるのだってきっと聞こえていない顔で、自分よりもヴィヴィオのことを考えてる。止めない理由の方が見つからないじゃない」
 スバルは頬の痛みよりもティアナの激昂に驚いた。
 なのはが死ぬということはもちろん考えていた。だが理解していなかったのではないかと思う。スバルはティアナから聞いて事実を再認識する。なのはのことを考えていたのはティアナの方だった。
「いいの、あんたはそれでもいいの?」
 なのはを失ってもいいのか。
「あたしは嫌。あんたの優しさにも聖王のゆりかごにも、なのはさん自身にだってなのはさんは殺させない。死なせないわ」
 ティアナのきつく釣り上げられた目の淵に浮かんだ涙が、言葉よりも明確に訴えかけていた。自分のためではない、なのはのための涙がこぼれずに溜まっていた。それは勝手な涙だったがスバルにはティアナの気持ちは十分に伝わってきた。ティアナの涙を見たことは数多くあったが、このような表情を見たのは初めてだった。
 視線をずらせばはやてに腕を掴まれても進もうとするなのはがいた。ヴィヴィオがその向こうの穴にいるのだ。もしギンガが穴に落ちたらたとえ壊れていても飛び込んでいくだろうとスバルはなのはを見て思った。やはり重なってしまう。だからこそなのはの行動を遮りたくはなかったのだ。
 スバルはヴィヴィオとなのはとの三人で昼食をとったことがあった。ティアナが他の仕事でライトニング隊は現場調査、副隊長はオフシフトということでスバルとなのはだけが前線メンバーの中で六課に残っていた。そんな中でなのははスバルを昼食に誘った。スバルにとっては僥倖そのものだった。少しの畏れはあるものの、やはり憧れのなのはと一緒に食事をするというのはスバルの中で大変幸せなことだった。
 誰にも見せないような笑顔をヴィヴィオに向けるなのはの姿にスバルも笑った。家族の風景がそこにあった。護りたい、とスバルは心から強く願い、思った。
 はやてに腕を掴まれたなのはの頭がゆっくりと俯いた。ヴィヴィオを追うことを彼女は諦めたのだ。
 喜びと僅かな落胆があった。自分勝手だと諌める暇もなくそれらの感情はスバルの心の中に侵入してきた。なのはの前ではどんな感情も全てが勝手なものだった。なのはを止められなのはを思えるのは、なのは自身とヴィヴィオだけだった。
 スバルはなのはの脱力した体を背負い、落ちないよう注意しながら走り出した。どうして未だ自分が泣いていないのか不思議なほど胸が痛かった。でも後で気付く。泣けないのはスバルの胸の痛みがなのはへの想いからではなく、自分の不甲斐無さゆえに生じたものだからだ。自分のために泣けるほど今のスバルは自分に優しくはなれなかった。しかし痛みは確かにスバルの胸に息づき、事件後もずっと残っていた。なのはの部屋の扉を叩きその体を差し出すまでずくずくとした疼きをスバルは抱えている。
 ごめんなさい、とスバルは言った。ティアナを止められなくて、生きてくれて嬉しいと思ってしまって。なのはの気持ちを顧みなかったことをスバルは謝罪した。なのははおそらく分かっていたにもかかわらず受け止めてくれた。スバルの胸についた傷一つと引きかえに、なのはは己の体に鋭利な刃で傷を彫ったのだろう。
 確かになのはのことを考えていたのはティアナの方だった。スバルは全ての感情を喪失させたなのはの頭を抱えてからようやく理解した。なのはにはいかなる謝罪も慰めもしてはいけなかった。ただ波のように緩やかな抱擁と、サンドイッチの後のレモンティーのような安らぎを与えられればそれでよかったのだ。そしてそれができるのは自分ではない、あの少女だけだった。
 そういうのを分かった上でティアナはなのはを引き止めていた、だからティアナは涙を溜めて溢さなかったのだ。
 なのはの無表情が悲しい微笑に見えたとき、スバルは静かに部屋を出た。太陽は地表に乗り出し、機動六課に一日の始まりが訪れていた。

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