FC2ブログ

2019-11

『秋、はらむ空』 二章 烙印は指に残される……1

『秋、はらむ空』 各タイトル⇒目次

二章 一話「名誉の傷」
ちょっとしたやりとり、ささやかな会話がなのはには楽しくて安らぐ。
だからずっと、触れることに戸惑っていた。

――いっそ私の世界を訓練で埋めることができたら、おそらく全てが上手くいくはずだった。



 秋、はらむ空
 二章 ―烙印は指に残される―


 1.名誉の傷

 ベッドに仰向けになって寝転んでいた。
 部屋を用意してくれたリインに一人用の空き部屋と聞いていたが、狭いとは感じない。再建された機動六課隊舎は幾つか空き部屋があった。それは日々緊張して仕事につく隊員たちの仮眠所であったりティータイムに使われたりと様々な用途がある。
 その一室を私専用の部屋にしてもらった。ひとつにはフェイトと同じ部屋だと体がもたないというのがある。それはまたフェイトも同じだった。性行為を覚えたての少年少女が没頭するように、フェイトは疲れているときにでもしたがった。疲労の積み重ねは任務における危険を増幅させる。彼女が戦場にでることなど今は滅多にないが、まったくないとも言えない。私もそうだ。だから一人になれる場所が必要だった――というようなことを説明し、用意してもらったのがこの部屋。
 春先に芽生える草のような淡い緑の壁に、絨毯は同じ系統の濃い緑。家具には木製の机と椅子、それにクローゼットがあった。キッチンでは簡単な夜食や朝食くらいなら作れるようになっている。今寝転んでいるベッドは少々寝像が悪くても落ちそうにはない、ちょうど両手足をいっぱいに広げたくらいの幅があった。しかも以前のように段差を登らなければ寝られないということはなく、扉から這ってでもいけるくらいの距離にある。つまり突然の痛みに襲われても横になれるということだ。そんな事態にならないことは祈りたいものだけど、あって困るものでもない。
 天井に埋め込まれた白い灯火を眺めながらヴィータのことを考えた。
 ヴィータはあれから医務室で治療を済ませると一晩休むことになった。傷自体は消えたのだが、血がそれなりに流れていたので大事をとって休んでいるという。ゆりかごで体に深いダメージを負ったのは何も自分だけではないのだ。
 私は心配になって医務室を訪れた。シャマル先生はいなかった。会えば一言言われるに違いなかったためそういう時間にした。善意からだと分かってはいるが、自分だけならともかくヴィータの前で注意されると後々面倒なことになりそうで、できれば避けたかったのだ。
 私が医務室に入ったとき、ヴィータは眠っていた。出動が日暮れ前だったこともあり、外は当然暗くなっていた。三脚椅子に腰掛けて名前を呼ぶ。ヴィータちゃん、と心の中で呟いた。呼応するように彼女は白いベッドの中で目を覚ます。前髪の隙間から、開かれた瞳が闇の中に現れる。ゆっくりと静かな動作だった。
 彼女は私を確認すると、再び目を閉じた。私は首をかしげる。
「ヴィータちゃん?」
「いや、夢かと思ってさ」
「どうして?」
「夢にもお前がでてきた」
「嬉しいよ」と私が言うと、彼女は吐き出すように笑った。「あたしはうんざりしてるけどな」彼女はとても可愛い人だった。
「でも何でまた目を閉じたの?」
 うんざりしているなら早々に目を覚まそうとするはずで、夢の中に戻ろうとは思わないのだ。小さな矛盾をみつけて私はつい尋ねてしまった。でもヴィータは頭から布団をかぶり背を向けて、答えてはくれなかった。
「で何しに来たんだ」
「もちろんヴィータちゃんのお見舞いだよ」
「傷は消えたといったはずだよな」
「そうだけど、でもわたしのせいだし」
 彼女は寝たまま私の方に向き直り、小さく息をついた。白い空気に彼女の優しい吐息が混ざる。
「後衛を護るのは前衛の仕事だし、あたしは個人的にもなのはを護ると言った。なのにお前は何を気にしてるんだよ」
「……そうだけど」
「じゃあもう帰って休め」
「ヴィータちゃんも休んでね」
「休んでいたのを起こされた気がする」
「うん、ごめんね」
 私は誰の邪魔もしない。けれどもし心の中で呟いた名前が彼女の夢の世界にまで届いたのだとしたら、それはまぎれもなく私のせいなんだろう。
 おやすみ、と私はヴィータの前髪を撫でる。彼女は意外なほど大人しく目を閉じた。本当は眠かったのにわざわざ起きてくれていたのだろうか。だとしたら申し訳ないと思った。
 やがてヴィータの寝息が聞こえてくると、私は灰色の机に置かれた時計を見る。辛うじて見えた時刻から残りの睡眠時間を計算し、立ち上がった。彼女の夢に私がでてきたように私の夢に彼女はでてくるのだろうか。
 帰り際、眠る彼女に唇を落とす。味気のないキスだった。


 廊下を歩いているとヴァイスに会った。彼はコーヒーカップを片手に、壁沿いにつけられた手すりに寄りかかって休んでいた。パイロットの制服を着た彼はどこか締まらない表情でいたが、それが彼なのだろう。それに私は彼が狙撃手からヘリパイロットに転向したきっかけを書類上ではあるが知っていた。今彼は事件後より妹との仲を取り戻し始めているという。この前の休暇では彼の元に妹が訪れた。片目を黒いマスクで覆った少女に、彼はもう戸惑うことはなかった。彼の中で何かが変わったのだろう。ただ私には関係のないことだった。
 ヴァイスは私が通るのを待っていたらしい。どうやらティアナが夜によく訓練をしているということだった。私もこのところ夜はたまにしか訓練をしない。それはヴィータのことやスバルのこと、ティアナのことなんかがあったためだが、ちょうど今夜から訓練を再開しようと考える。
「以前みたいに無茶してるわけでもないから見に行くまでもないとは思うんだが、少し気にかけてやってくれませんかね」
 彼は言ってから頭を掻いた。頷くと、彼は今自分が来た道に向かって歩いて行った。私は彼の後ろ姿を見送ってから朝の訓練に向かう。もうじき機動六課運用期間が半分を過ぎる。今日から新たな訓練メニューに入ることになっている。
 四人の元気な声を思い出して私は一日の気力を蓄える。ほんとうに自分は魔法を教え導くことが好きなのだろう。彼女たちの魔法技術をもっと向上させ、自分の力を伝えていけたらと思う。この点において、一年もの間、戦技教導官という役割を与えてくれたはやてに感謝しなければならない。

 昼までの訓練にヴィータはいなかった。
 今日彼女は事務室で書類仕事をしていて、モニターを厳しい顔つきで睨んでいた。彼女は几帳面な性格もありこういったデスクワークは得意だった。私も明日は書類整理をしなければならないが、彼女ほど効率よく丁寧にこなすことはできない。私は机上であれこれ考えを巡らすよりは戦場に出て思いきり体を動かした方が精神衛生上良いのだ。同じ考えるなら政治的なことや事件性についてではなく、戦術や攻撃の対処法を練ることの方がいい。ただ当然どちらかを選べないこともあった。
 事務室に寄る用事があったことで、せっかくならとヴィータを昼食に誘った。
 彼女の仕事の終わりを待ってから、私たちは食堂に向かった。そこでパンとコーンスープを頼んだがヴィータがパスタを追加注文する。パスタは味のいい栄養食品みたいなものだった。私はヴィータの顔を窺うと、彼女はもっと食べろと言って笑った。しかし皿に乗った麺は大盛りで、とても一人で食べられる量ではなかった。パンとコーンスープがなくても食べられそうにない。思わず眉を寄せた私に「食える分だけでいいから」と彼女が言った。「残りはあたしが食べてやるよ」
 それからヴィータの部屋に行った。彼女はパンを小鳥がつつくように齧り、スープは皿のまま飲み干した。その間、私はパスタを租借しながら視線だけで部屋を見渡す。不意にベッドの枕横に見覚えのあるものを見つけた。私が彼女にプレゼントしたぬいぐるみで、それは自分が生まれた月日からするとかなり昔のものだった。墜落したときのことだからもう十年近く前になる。それをヴィータは八神家の自宅ではなくこの部屋に持ってきていたのだ。
 白かったうさぎはいつまでも白いまま、穢れもせずに座っている。
 私はぬいぐるみについて何も尋ねなかった。入院したとき彼女にもらったぬいぐるみを、私は今手元に持っていなかったからだ。実家の部屋に帰れば埃は被っているかもしれないがおそらく見つかるだろう。乱暴にした記憶もないし押入れに入れてもいない。けれど今持っているかどうか、重要なのはその事実のみのような気がした。だから私は嬉しくても口にしない。
 部屋を出ると私はまた訓練に出る。冷え始めた風の間を通り抜けながら、午後の模擬戦に備えて防護服にを身につける。そして遠くに見える四人の姿に心を躍らせる。いっそ私の世界を訓練で埋めることができたら、おそらく全てが上手くいくはずだった。

● COMMENT FORM ●


管理者にだけ表示を許可する

『秋、はらむ空』 二章 烙印は指に残される……2 «  | BLOG TOP |  » 拍手返信なの76

Web Clap

ご意見、ご感想などあればどうぞ。
  

Recent Entries

Categories

Novel List

― Short Story ―
アリサ×なのは
心が君の名前を呼んでいた
違えた道の端  前編 / 後編
すずか×なのは
無想と空想と、紋黄蝶
フェイト×なのは
No title...フェイトver
あなたを想って流した涙は
溶けた灰色の小石
白 -white-
穴の開いた箱
なのはへ。
ヴィータ×なのは
StarDust
21.5話妄想
No title...ヴィータver
大切な Trash Box
誰よりも君に笑ってほしくて
Reinforce
真紅のグラス
Limited Sky
強奪者
蒼い棘
薄氷の上で
摩擦熱
あやふやな星
語ろうとした震え
消えない夕立ち
青と白、それから赤
優しい境界線
はやて×なのは
Sky Tears  SIDE:H / SIDE:N
夜色の羽根
eyes on...
孤島の夢
なのは×リインフォースII
小さな涙
スバル×なのは
君は空しか知らない、僕は大地しか知らない
ティアナ×なのは
月明かりよりも頼りない
貴女の血の味すら
失われた部分と残された部分
命を吹き込まれた落葉
台所で。
求めるままの逃亡
涸れた土
ティアナの適当に幸せな一日
迷子へと示す道標  1 /  /
Don't shake off.
空さえ貴方の前を覆わない  前 /  /
窓を打つ雨みたいな恋
月が堕ちてきた
もっとも不誠実な恋人
世界の終わり
銀朱の残照
僕に重ねて、君は夢をみて
ヴィヴィオ×なのは
掌で心をころがして
擬似家族
小さな声で求めて
蜂蜜
硝子内のひめごと
レイジングハート×なのは
午睡
虚空の紅玉
その他
ヴィヴィなのフェイもどき
SHOUT!  前編 / 後編
猫と主と変質者。
なのはにチョコをプレゼントされたときの台詞
なの!!
雷の憂い

― Long Piece Novel ―
幸福の在処
目次
星たちの休日
 /  /  /
別の世界を願うなら
設定 / 目次 / あとがき
追憶の色に埋もれて
目次 / あとがき
秋、はらむ空
前書き / 目次 / 後書き

― Project Story ―
聖夜 ……目次
拍手SS
一代目 手を伸ばして
二代目 時間
二代目 光の章/夜の幻
描写する100のお題 ……目次
陽の中に塗りこめて。 ……目次
振り返る ……目次

About

魔法少女リリカルなのは二次創作物、主に小説を扱っています。
このブログ内で使用している文及び画像の転載は、例外なくご遠慮下さい。

◇小説の傾向
なのはが絡んでいる百合、修羅場が多め。
なのはさんをめためたに愛し、いじめていきます。

◇リンクについて
リンクフリーですが、貼っていただく場合には下の本館にお願いします。
本館:

何かありましたら下まで。
kone6.nanoなのgmail.com(なの⇒@)



Profile

Author:こねろく
リリカルなのはが大好き。
なのはさん溺愛。そしてゆかりさんにめろめろ。
詳しいプロフィールは本館のMYSELFに。

Pixivtwitter

Monthly Archive

11  09  05  04  03  02  01  08  07  04  07  02  06  03  08  07  06  02  01  11  08  07  06  06  05  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09 

Link

その境界線は。(本館)

Search Area