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2019-11

『秋、はらむ空』 二章 烙印は指に残される……2

『秋、はらむ空』 各タイトル⇒目次

二章 二話「透明な痕」
ヴィータ視点。純粋に歪んだ心。
八年の間に病んでしまっていたことに誰も気づいてなかったことが、いちばん悲しい。

そのうさぎの名前は――。



 秋、はらむ空
 二章 ―烙印は指に残される―


 2.透明な痕――ANOTHER SIDE

 夜にヴィータが窓を開けて吐いた息は、腕に抱いたうさぎのように白かった。白い靄はすぐに消えてなくなったが、うさぎは消えてなどいない。ぬいぐるみは物言わず少女を見上げる。長年連れ添った紅い髪の少女を。
 白いそれは汚れることもあったが、そんなときヴィータは手で丹念に洗った。例えば食べていたアイスをこぼしてしまったとき、一緒に寝て知らず涎を塗れさせてしまったとき、ヴィータは酷く申し訳なかった。どうにかして再び綺麗な白に戻してやりたいと考えたが、方法が思いつかなかった。水洗いをしてもいいものか。しばらくうろうろと家の中を落ち着きなく徘徊すればシグナムが助言する。洗濯機に放りこんでも破れはしない、と。
 少女にはとてもできなかった。しかし汚れさせたままでいるのもうさぎに悪い気がした。すると学校から帰ってきた主はやてが、ほんなら手洗いで綺麗にしてやったらどうかな、と教えてくれた。
 はやてに見てもらいながらヴィータはうさぎを洗う。洗いつつ、そういえばその子の名前はあるん、と聞かれた。ヴィータはそれまで名前を考えるという発想が思いつかずしばし目を見開いたままでいたが、やがて心に浮かんだものを言葉にする。
 ――なのウサ。
 ヴィータの答えにはやては顔をほころばせた。はやてにはヴィータの気持ちがどこにあるかなど、とうに気付かれていたのだろう。それでも名前に彼女を含めてしまったのはぬいぐるみをくれたのがあいつだったからだ、とヴィータは言い訳をする。わかっとるよ、とはやてが言う。丁寧な手つきでうさぎを洗うヴィータの頭をはやてが撫でる。
 よく晴れた昼下がり、染まった頬と素直になれない心が少女の顔を俯かせた。

 ヴィータはうさぎを抱くといつもなのはのことを考えた。なのはのことを考えるためにうさぎを抱くこともあった。
 寝転ぶと、結わった跡のついた紅い髪がベッドに波打つ。枕に顔を埋めれば自分のものではないシャンプーの香りが鼻腔に沁みる。忘れそうになるなのはの笑顔に手を伸ばすよう、ヴィータはそのままで匂いを嗅いだ。甘い香りに、息苦しさはあったが気分は僅かに柔らいだ。
 ひと月振りの出動任務でなのはが危機に瀕したとき、自らの咄嗟に体が動いたのは、心に巣食うものがあったからだろう。ヴィータはそう自覚している。襲ってきたガジェットが足つきでなかったからまだ冷静でいられたのだ。肩に傷がついたところで一体どれほどのものだ。なのはの表情が一瞬だけ悲しみに歪んだのを見て、ヴィータはどうしようもなく笑いが込み上げた。嬉しさゆえの笑みだった。自分が傷ついたことで少しでも悲しく思ってくれることを認識して嬉しくなったのだ。
 しかし喜びは長く続かない。任務を控えてくれといっても聞かない彼女に、ヴィータはなすすべがなかった。シャマルも無理に止めるのは逆効果だという。中途半端な抑止はあの高町なのはには通じない。ひたすらこちらが心配しているというのを伝えることで彼女の行動を制限させるのが最も効果的なのだ。なのはの体を気遣うというのは彼女に対してはまったく意味のないことである。自分の体のことよりも、大切な人の気持ちが何よりも大事ななのはだから。
 なのはが笑っていたのも笑顔を消したのも、周囲の人への配慮からだった。自分の気持ちなんて彼女にはどうでもよかったのだ。自分という存在を軽んじていた。ヴィータにはその理由がわからない。誰にもわかりはしない。
 ヴィータは力なくかぶりを振った。なのはについて考えれば考えるだけ、闇を刻んでできるおが屑が頭の中に詰め込まれていくような錯覚があった。

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