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2019-07

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『秋、はらむ空』 二章 烙印は指に残される……3

『秋、はらむ空』 各タイトル⇒目次

二章 三話「鮮血の落涙」
なのははフェイトのこともヴィータのことも、他の皆のことも大好きで大切で、自分自身となら簡単に秤にかけられるのになあといつも考えていたんだよ。

――落胆も絶望も、ヴィヴィオが笑いかけてくれることに比べたらなんでもない。



 秋、はらむ空
 二章 ―烙印は指に残される―


 3.鮮血の落涙

 一日の仕事を終えて自分の訓練も済ませると、私はヴィータの部屋に向かった。特に理由もなく彼女に会いたかった。部屋でうさぎのぬいぐるみを見つけてから、ヴィータにはどこか親近感のようなものが生まれていた。自分がプレゼントしたものを大切にしてくれているという事実は大きかった。私が焼け爛れたヴィヴィオのぬいぐるみを持っていると知っても、彼女なら受け入れてくれるかもしれない。
 その道中でフェイトに会った。部屋が別れてから仕事以外で顔を合わせることはほとんどなく、あるとすれば夜にフェイトの部屋――つまり元の自分の部屋――に行くくらいだった。もちろんそこでは体の交わりがある。終わった後彼女は私が眠るまで抱き締めているので、必然として朝までいることになった。彼女は部屋を出て行く自分によく質問した。「今日はどうする?」と。私はそのたびに笑顔を放り投げたことを後悔したのだった。
「なのは、どこへ行くの?」
「ん、ちょっと」
「私ね、今日はもう仕事が終わったんだ。これから部屋に戻るところなんだよ」
 そうなんだ、と私は言った。彼女がどんな答えを期待しているか分かっていたけれど、私がこれから会いにいくのはフェイトではなかった。
「それじゃあ。最近冷えてきたし、風邪ひかないようにゆっくり休んでね」
 私は言い残して去ろうとした。これ以上話をしてフェイトの瞳を見ていると、部屋にお邪魔してもいいかと聞いてしまいそうだった。ヴィータに会いに行くといっても特に確然とした目的というわけでもない。目の前のこの人が悲しい顔をするなら、私に来てほしいと願うなら、自分の気持ちなど排除しても構わなかった。私の行動一つで彼女が喜ぶならそれは幸せなことではないだろうか。どうせ同じような毎日が続くのだ。
 けれど結局私はフェイトの部屋には行かないことにした。別れ際に彼女に腕をつかまれるが、何も言葉にする様子がない。彼女の手は熱かった。あるいは私の手が冷たかっただけかもしれないが、私は空いている方の手で肩を叩き、おやすみと言った。フェイトはいつのまにか俯いている。彼女はしばらくしてようやくこちらを見上げ、おやすみと言って手を離した。失われた温度と寂しそうな表情が胸を突く。
 親友のそんな姿を見るのは嫌だったのだ。だけど見てしまった。私は努めて冷静に「おやすみ」と返すと、ヴィータの部屋に向かって歩き出した。伸びた廊下の先で、足の裏が踏み締めた床は冷たい音をたてて私の耳に響いた。

 今まで何人かの子と体を交えたことはあった。私が襲ったことも、誘われたこともあった。だけどヴィータとは今日まで初めてで、唇にも一切触れてこなかった。医務室で眠るヴィータへのキスは額に落した。どうしてというのはない。理由を考えても明確なものは浮かんでは来なかった。誓いがあった日を逃してからはなんとなく避けていたのかもしれない。だから初めての口づけというものはこの日、親友の寂しげな表情を置いてきたあとでのことだった。
 ヴィータとのままごとめいた付き合いを私は心地よく感じていたけれど、そろそろ触れるべきだろう。
 ヴィータの小さな体躯が私を抱きすくめる。胴に絡みついた腕は小さくても力強く、しっかりとした締め付けだった。
 互いの舌を出し合い、血を交わす。口元から滴る血はそのまま白いシーツにこぼれ、染みが処女膜を突き破った後のように付着した。
 きっかけはなんだっただろう。いつも護る側だった自分を彼女は護ってくれていて、その彼女に会いたくなって、思いついて部屋に行こうとして、フェイトに会って背を向けた。おそらくはその時、自分の中の何かが吹っ切れた。
 ヴィータに服を脱がされ二度目のキスをすると涙が出た。まだ自分が泣けることを知った。私は泣いた理由よりも、自分が涙を流してしまったことが哀しくて仕方がなかった。ヴィータは舌で拭ってくれたけれど哀しみはやまない。それどころか加速する。彼女の優しさを受け取れる自信がなかった。ここに来るまで私は一人大切な人を傷つけていた。自分は踵を返してフェイトの手を握り、一緒に部屋に行くべきだったのだ。
 救いは、私が誰かの前で泣くのはこれが最後だと分かっていることだった。全身にヴィータが触れてくるのを感じながら私は考える。
「なのはが好きなんだ。大丈夫、あたしが護ってやる。心も体も、全部だ」
 見透かしたようにヴィータが言う。けれど私の考えは変わらない。彼女の指がいくら自分の体を解きほぐそうとも、一度固まったものは崩れない。ヴィータの気持ちは自分に向けられるにはもったいないほど温かく大きかった。その気持ちを撥ね退けることなど当然できなかった。
 だからただ彼女を抱き締め返す。唇が重なれば、首の後ろに腕を回す。乳房を咥えられれば私も彼女の背筋をさする。護ってやると言われれば、好きだよと返す。誠意には誠意を示すために。
「大好きだよ、ヴィータちゃん」
 言葉と入れ替わりに、血混じりの涙が自身の喉を流れていく。
 

 私は瞳を閉じるときにいつも念じることがある。今日はあの子と話せるだろうか。笑顔を見ることはできるだろうか。……見たいな。
 事件が終わりたての頃は眠るのが怖かった。ヴィヴィオの出てこない夢など見なかったからだ。
 夢の中で少女はいつもどこかにでていた。主役じゃないこともあった。話の主人公で面と向き合って会話をしていることもあったが、脇の方で存在だけがぼんやりと浮かんでいたこともあった。現実にいれば気付かないかもしれないくらい小さく遠い場所、けれどヴィヴィオという存在はそんな離れた場所からでも訴えてきた。それが私の夢の中で、私がヴィヴィオを求めているからだというのはすぐに理解した。毎日毎日私の脳は飽きもせず見せてくるのだ。解らないほうがおかしい。
 ヴィヴィオは決して私を責めない。責めているのは夢の中の自分。意識だけが自分で、器に私は入っている。ちょうど精神と肉体が別者のように、本体と影のように独立して生きていた。
 私は本体からも影からも責められた。傍にヴィヴィオがいて私が駆け寄り、話しかけようとしたときだった。私は言った。よくものうのうとヴィヴィオを見ているなと。話をしようと傍に近寄れるなんてとても正気とは思えないよ――。私が私に言い、体はもっともだと引き下がる。しかし精神はそうはいかない。ヴィヴィオと一緒にいたいと手を伸ばしそうになる。けれど既に納得した肉体はヴィヴィオに背を向けていた。
 夢の中では、ヴィヴィオとまともに会話をできる方が珍しい。まれに楽しく話をし遊ぼうものなら、現実に立ち返ったときに強大な絶望と落胆が待っている。所詮夢だとはねのける力はない。夢が私に与える影響力は無視できないものがあった。
 だからこそ眠るのが怖かったのだが、最近は違ってきた。ヴィヴィオに会える、それだけでいいような気がした。落胆も絶望も、ヴィヴィオが笑いかけてくれることに比べたらなんでもない。
 私は瞳を閉じる。今日もヴィヴィオに会いに夢の中に没入していく。瞼を落としたあとの世界は、現実よりちょっとはましだった。

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