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2019-11

『秋、はらむ空』 二章 烙印は指に残される……4

『秋、はらむ空』 各タイトル⇒目次

二章 四話「自分だけの彼女」
フェイト視点。なのはの笑顔を一番求めていたのはフェイト。だから失われて一番苦しかったのもフェイトだった。そうしてフェイトはこっそりと、自分が奪ったのにね、と自嘲の笑みを浮かべる。

――なのははすべての慰めを拒絶していた。



 秋、はらむ空
 二章 ―烙印は指に残される―


 4.自分だけの彼女――ANOTHER SIDE

 フェイトがなのはと部屋を分かれてからしばらくなる。一人きりの部屋は広過ぎて、よほどエリオとキャロを呼ぼうかと彼女は思った。フェイトはなのはほど孤独に強くもなく、また強くなりたいと思ってはいなかった。寂しいということを我慢するのは間違ったことだ。フェイトはなのは達友人と時を過ごすうちにそう考えるようになった。けれどときには溜め込むこともある。言いだせないことも。
 なのはが部屋を分けようと言ったとき、フェイトは了承するしかなかった。なのはに無理をさせているというのは分かっていたし、なのはと一緒にいれば自分も無理をするだろうと思っていた。
 なのはの体はとても魅力的だった。いや、抱いている体がなのはだからそそられるのか。下に組み敷いたなのはは普段のエースオブエースたる毅然としたものでも、教導官らしい威厳のある顔つきでもない。一人の女性だった。
 フェイトはその人を抱き締める。自分のなのはだ。恋人ではない、けれど今のなのはは自分だけの彼女だ。フェイトはなのはを抱きながら心の中で叫んだ。腕の中で快楽からもがき、喘ぐこの子を自分だけが昇りつめらせることができる。甘えた声で名前を呼ぶのだ。赤い舌を出し、だらしなく涎をたらすなのはの姿などそうは見られない。一歩フェイトの部屋を出ればもうなのははフェイトのものではなくなってしまうと分かっていても、抱いている時だけはそう考えることができる。
 だから無理をした。疲れていても隕石のような重たい眠りが脳天に降ってこようとも、意識があればなのはを抱いた。それがどれほど任務に支障を及ぼすか理解していてもやめられない。
 そんなだからなのはは部屋を出て行ったのだろうとフェイトは思う。わかっている。そうするのが良いのだということも。けれどフェイトはそれでも一緒にいたかった。そしてなのはは違ったのだ。なのははフェイトよりも仕事や訓練のことを考えていた。その事実にフェイトは打ちのめされる。
 結局なのはの言葉に頷いた。必死で引きとめれば出ていかなかったかもしれないが、そこまでしてなのはをひっぱる度胸はフェイトにはなかった。それになのはは離れてもまた泊まりに来るといった。フェイトは信じて待つことにした。ただ、毎日来てくれるとは思わなかったが、なのはは本当にたまにしか来なかった。フェイトは信じた。信じるしか道はもうなかった。
 なのはがヴィヴィオと別れた経緯をフェイトは報告としてしか聞いていない。ゆりかごに乗り込んでいったなのは。ブラスターモードを使っても助けられなかったなのはを慰める間もなかった。なのははすべての慰めを拒絶していた。
 一度なのはに聞かれたことがある。ヴィヴィオをもし助けられていたら、と。フェイトはヴィヴィオのもう一人の母だった。なのはは聞いてみたいと思ったのだろう。なのはにしては珍しく仮定を呟いた。
「フェイトちゃんは、ヴィヴィオに帰ってきてほしい?」
 助けられなかったことを責めてほしかったのかもしれない。フェイトは考えてみる。それからなのはの顔を見た。
「そうだね」とフェイトは言う。
「できるなら帰ってきてほしいな」
 ヴィヴィオは可愛い子だった。なのはによく懐き、慕っていた。フェイトにも笑顔をよく見せた。第三者の目から見れば夫婦にも見えたことだろう。ヴィヴィオと同様になのはも少女のことを愛していた。本人はどう思っているか知らないが、間違いなく愛していたのだ。
 なのはが誰か一人を愛しているということをフェイトはこれまで一緒にいた十年間で感じたことがない。大切だと、好きだというのはわかる。しかし愛するというのはどうだろう。なのはは誰かに恋愛感情をもったことがあるのか。
 ない、とフェイトは思った。確信を持って言えた。
 なのははきっと、誰にも恋をしたことがない。そしてまた愛したこともない。愛の定義はフェイトが感じたものにすぎないが、フェイトの中の愛でいえばなのはは誰も愛したことがない気がする。しかし好きな人も大切な人もいた。微妙な違いだがフェイトにはそのように見えていた。
 だからフェイトはなのはに愛を伝えていない。
 フェイトにとってなのはがすべてだった。なのはに対する感情が恋だとは本能的に知っていた。
 長い時間を過ごし、フェイトの胸にはなのはへの愛が無尽蔵に溜まっていく。それは時折こぼれることもあるが、毎回どうにか宥めてやりすごした。なのはに自分の恋愛感情を伝えてもわからないだろう。例えば恋も知らない幼子に必死で性愛のことを語っても理解されないのと同じだった。わからないことを熱心に伝えられてもただ困り果てるしかない。フェイトはだから言わない。
 それに、なのはが分からなければ他の誰かとそういう関係になることもないと踏んでいた。それはまったく正しい推測だった。学校でも仕事場でも言い寄ってくる人間はいたが、なのははそういう人の気をうまく逸らしていた。告白させずに、傷付けず恨まれずを実行してきた。ヴィヴィオが現れるまで対人関係においてなのはの対応は優れていたのである。
 なのはからヴィヴィオへの気持ちの真のところはフェイトにはわかりようもない。だがなのはがこれまでの誰とも違う感情をヴィヴィオに向けていたのは確かだった。僅かな嫉妬がフェイトの心に滲む。
「なのはとヴィヴィオの三人で居る時間は楽しかったよ」
 まだ笑顔を失う前、フェイトが答えればなのははとても綺麗に笑った。心からの笑顔にフェイトの胸は痛む。本心から言えた気がしなかった。なんとなくこういえばなのはは喜ぶだろうかと考えて付け足した言葉だった。フェイトは罪悪感に打ちひしがれ、急用があると席を立ったのを覚えている。

 フェイトの一人きりの部屋に通信が入った。シャーリーからだ。
 彼女はまだ仕事中らしく、地上部隊の制服を身につけている。お疲れさまと挨拶をして用件を聞けば、どうやらスカリエッティ研究所に新たな人造魔導師の素体が発見されたということだった。しかしそれはすでに分かっていた。戦闘機人のみならず人造魔導師についてもスカリエッティは研究を続けていた。わざわざ夜に通信を入れるようなことでもないだろうとフェイトは不思議に思った。なのはのことを長い間考え過ぎていて、勘が鈍っていたのだ。
 シャーリーに素体についての説明がなされると、フェイトは顔色を変える。
「まだ眠ったままの状態ですがいずれは目を覚ますはずです。いかがしますか」
 フェイトは口を開けない。まさかと思った。だがあの男なら十分にあり得ると思っていた。スカリエッティという男は可能性があれば、そして特上の実験素材があれば迷わず手に入れ、活用しようとするだろう。
 あんなレリックもない極寒の辺境地帯にガジェットを飛ばした理由がようやく理解できた。
 フェイトはスカリエッティが憎かった。自分もあの男のそういう身勝手な思惑に踊らされて、欲望のほんの一部として生まれてきたに違いない。望み、生んでくれたのは母プレシアだったが、技術を組み立て、作り出したのはあの男なのだ。奥歯を噛み締め、フェイトは必死で怒りを宥める。
「待とう」とフェイトは言った。
「たぶん今は何もするべきじゃない」
 まだ目覚めていないのなら、急ぐことはない。
「だけどもし目覚めたらその時は私が引き取るよ。今はじっと見守っていたい。それまでは勝手かもしれないけど、他言は控えてほしいんだ」
「八神部隊長にも?」
「聞かれたら答えて。私に口止めされていたことも言って構わない、そこまでシャーリーの立場を悪くするわけにはいかないから。けれど聞かれない限りは黙っていてくれないかな」
「了解ですフェイトさん。それと、その子の写真データをそちらに送っておきますので」
「ありがとうシャーリー」
 通信が切れ、バルディッシュに送られたデータを確認する。瞼を落とした少女の姿がそこにあった。フェイトは懐かしさに目を細める。
 渡すものか、と思う。誰にも渡したりはしない。
 フェイトは机に向かうと、モニターに映像データを映し出した。なのはと戦った時の記録が残っていた。今は魔導師達の資料にもなっているデータから、なのはのなんでもない教導の映像もあったし、フェイトが個人的に撮影したものもあった。バルディッシュにこっそり撮らせていたものや、自分でも知らない間にシャーリーが撮影していたものもある。後で知ったフェイトが頼み込んで入手した記録だった。
 映像を拡大し、なのはの顔を画面に寄せる。なのははこちらを振り返り、太陽の季節に咲く花のような笑顔をした。フェイトは指先で操作しつつ、愛しい人を眺めている。繰り返し流される場面の全てで、なのはが笑っていた。

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