2017-10

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『秋、はらむ空』 二章 烙印は指に残される……5

『秋、はらむ空』 各タイトル⇒目次

二章 五話「消えていく特別」
特別なんてない方がいいと、そうは思わない?

――「今度もし部屋に来ることがあれば、はやてちゃんの心をもらう」



 秋、はらむ空
 二章 ―烙印は指に残される―


 5.消えていく特別

 今晩私の部屋にははやてが訪れていた。
 彼女から来るのはあまりない。あれから昼休みに憩いとして二人でお茶を飲む時間が消え、もしかしたら避けられているのかもしれないとも思った。顔を合わせる機会さえめったにない彼女の訪問に、珍しいなと首を傾げながらも表面では歓迎を装った。
 おじゃまします、と彼女は言う。どうぞ、と彼女の手を引いて扉を閉める。私は彼女を何年かぶりに会えた恋人のように強く抱き締めた。
 寂しかったよ。私が言うと、ふざけたつもりはなかったのに呆れた顔をされた。
「本当だよ。会えなくてすごく寂しかったし、今は会えて嬉しいよ」
「それ、笑って言ってくれたら信じるわ」
「ちょっと厳しいね」
「やっぱりフェイトちゃんの言葉を守っとるんや?」
「はやてちゃんがもし心からわたしに笑ってほしいと思ってくれるなら、笑うよ」
「……ええよ、笑わんで」
 はやてに語ったヴィータとの嘘の情事が本当になってしまった今、後ろめたくなることは何もなくなった。しかしそれが逆に後ろめたいことにもなった。ヴィータははやてにとって大切な家族だ。だけれども私は考える、それに何の問題があるだろう。はやてとヴィータはまったく別の個人なのだ。
 とりあえず気持ちを探るのはやめにしよう。私は台所に立ってお茶を入れることにした。寝る前にはコーヒーよりもお茶の方がいい。そう考えて湯を沸かすためにヤカンに水を注ぎ火にかけていると、背後で彼女が忍び寄る気配がした。
「どうしたの、はやてちゃん」
 私はそのままで尋ねた。彼女は答えない。振り返ると彼女は浮かない顔で私を見上げていた。どこか強張っているような、いや、強張っているのではなく覇気がないというのか。
 体調でも壊しているのかと心配になり、私は顔を近づけた。その瞬間頬に温かなものが触れる。はやての唇だった。頬に落とされたキスを自身の掌で包み、驚いて彼女を見返す。彼女は俯き加減に両手をこすり合わせている。そんな彼女が私には乙女のように見える。私は彼女をしばらく呆けたように眺めていたが、やがてぽつりと呟いた。
「なんや、これが私のしていい精一杯な気がしてな」
 彼女の唇は寒さに白く変色していた。もしかしたら彼女は扉をたたくずっと前から、部屋の外に立っていたのかもしれない。まさかとは思うがそれくらいに凍えていた。思えば彼女を迎えた時に引いた手も、私と同じくらい冷たかった。
 彼女はきっと私のことが好きではない。私を見上げる視線には同情や憐憫が大いに混ざっている。それくらいはわかるのだ。
 それにいったい誰に、何に対しての精一杯だというのか。
 ――頬へのキスが精一杯?
 なら私はその精一杯の行動を抱き潰してあげよう。
 どうして自分がそんなことを思ったのかはわからなかった。静かな時間の上を落ち葉が揺れながら流れていた。私は落ち葉に習い、その緩やかな時間の放浪に身を浮かべることにした。動くまま体を任せると、私は彼女の白い唇に重ねていた。触れてみると彼女の唇よりも自身の唇の方が冷たかった。私は舌でゆっくりとなぞる。一通り舐め終えるとまた重ねる。けれど自分の唇が温かくならない限りは、彼女の体温を奪うだけだった。
 はやての気持ちを踏みにじるような行為だとは自覚していた。酷いことをしている自覚もあった。だが本当に気付いたのは顔を離してからしばらくして、彼女の瞳に涙が浮かび上がってからだった。
 どうして。
 問いかけた言葉を私は懸命の想いで飲み込む。かわりにごめんと心の中で呟き、泣いている彼女の姿を視界から外した。
 自分には人を傷付ける覚悟がまだなかった。だから彼女を中途半端に悲しませることになっている。体だけでは足りない。本気で心まで奪い尽くさなければ相手を無駄に傷付けてしまうことになるのだ。私はここにきてようやく分かった。自分も相手も傷つける覚悟がなければ触れてもいけないし、温もりを求めてもいけない。そんなのはただ自分にのみ都合が良過ぎるのだ。以前フェイトに対し心はいらないと言った。そしてフェイトを傷付けた。
 私の中のちっぽけな何かを、私が求めるものの代わりに差し出すことは考えてみれば当然のことだったのに、なんて勝手なことを言っていたのだろう。
「今日はお休みをしよう。次にまたわたしのところに来てくれるとしたら、今度は躊躇わないよ」
 可能性の少ない『次』を考えることは少し虚しくて、一人相撲で寂しくて。けれど私は、泣いている彼女を抱き締めて曖昧にする前に、きちんと言わなければならなかった。
「誰かに気兼ねがあるなら体なんていらない、来なくてもいい。けれど今度もし部屋に来ることがあれば、はやてちゃんの心をもらう」
 私なりの、随分と身勝手な彼女への忠告。彼女は無言で部屋を出て行く。
 完全に扉が閉まったのを見届けると、もう来ないかもしれないと思う。今すぐにでもあとを追いたい衝動に駆られた。頭の中では駆けだし、抱き締めていた。しかし現実に私は台所で沸かしかけの湯を流しに捨て、ベッドに倒れこんだ。
 たぶん酷いことをした。もう話もしてくれないかもしれない。音沙汰のない翌日は恐怖に頭痛がしたくらいだった。しかしはやては翌々日、再び私の部屋を訪れる。これは間違ったことだと思っていた。思いつつ私は彼女を受け止め、抱き締めた。彼女ははじめて私のことを抱き締め返してくれた。醒めた歓喜が胸の隙間を通り過ぎていく。嬉しいはずなのに彼女の動作はやけに哀しみに彩られていた。
 どうしてと問う。どうして来たの?
「なのはちゃんは、私の大切な友達やから」
 彼女は何よりの言葉をくれた。
 私にとって八神はやては大切な人で、だからこそこれ以上関わらないほうが彼女のためだった。彼女の優しさに報いる言葉や想いを何一つ持っていない。もし自分に恋愛感情というものがあって、それがはやてに向けられていたなら少しは救われるけれど、所詮は仮定にすぎなかった。
 自分から手を出しておいて、本当に呆れるほど勝手だった。心をもらうと言いつつも実際は頭を撫でたりそっと包んんだりがせいぜいのところで、強引に奪うことなどできはしない。ましてや傷付けることも到底できる気がしない。大切じゃなければあるいは可能だろう。だけどどうでもいい人間ならそもそも嫌われない努力はしても深く関わったりしない。
 だからこれから先彼女が自分を拒絶することがあったなら、今度こそ二度と触れないでおこうと誓い、私は彼女の頬に唇で触れる。その間も、私は近い将来訪れる別れをすぐそばに感じていた。

 自分の部屋に戻るとレイジングハートが私を待ってくれている。彼女は小さな女の子となって、私を迎えてくれた。レイジングハートの今の姿は、薄く通るこんじきの髪にルビーを埋め込んだような綺麗な瞳、背は私の胸くらいの高さで、その気になれば容易に抱きあげることもできるくらい軽い。
「おいで」と私が言えば、少女はこちらに歩み寄る。小さな歩幅でとことこと。
 彼女のこの姿を知るのは私のみだった。私が一人のときだけ、そして落ち込んでいるときだけ彼女は人間の姿をとる。その時彼女は少女に変わる。
 小さな腕が、意識せずに項垂れた自身の頭に乗せられた。
「マスター」
 少女の震える声と無表情が何よりの慰めとなった夜を、初めて出会ってからもう数えきれないほど重ねてきた。


 機動六課、夜の廊下は明るい。
 天井から叩きつけるような光が通路全体を照らし出している。昼よりも眩しいくらいの光に、私は扉を開けると目の奥がつんと痛んだ。対して今までいた部屋の中は薄暗く、足元にのみ明かりが灯されていた。夜はこれくらいの明かりがちょうどいい。必要以上に明るいと体内にある何かが狂ってしまう。
 私は部屋を振り返り、彼女の乱れた金色の髪を整えてやりながら「じゃあまた」と言った。今日私はフェイトの部屋に来ていた。
「ねえ、やっぱり泊まっていったら?」とフェイトが言う。私は首を振った。
「どうして」
「泊まったら部屋を分けた意味がないよ」
「毎日じゃないからいいじゃない。むしろなんでなのはは毎日きてくれないのか、私には分からない」
「さすがに毎日は無理だよ」
「だからどうして」
「こうしているのがフェイトちゃんだけじゃないってことに、フェイトちゃんは気付いてるよね」
 彼女は首を振る。私の手を掴んだまま「嫌だよ」と細く呟いた。
「そう、それじゃあここには来れなくなるね」
「なのははおかしいよ」
 たぶんそうなんだろう。けれど私はその言葉に頷くわけにはいかなかった。肯定してしまえば、いろんなものが崩れていく予感があった。
「嫌ならわたしのことを思いきり軽蔑して、二度と見なければいい。たったそれだけのことだよ、フェイトちゃん」
 そうすれば傷つくのは彼女ではなく私一人で済んだ。機動六課が終わるまで我慢すれば、離れた後は時間が思い出を薄めていく。忘れないための努力をしなければ、人はどれだけ想っていてもいつか忘れる。それは希望だった。もしも忘れたくないと努力をすればたちまち絶望へと変わる儚い希望が、まだフェイトには残されている。
 私にはない。私はヴィヴィオを忘れないための努力をしてしまっている。意識的にヴィヴィオのことを考えたり夢を見たりすることで、少しでも長くヴィヴィオを想おうとしていた。時間は日が経つにつれヴィヴィオへの気持ちを削いでいくだろう。それでも、私が死ぬまでの間くらいは残っているはずだった。
「嫌だ」とフェイトは言った。
「そんなことはできない。そして今晩なのはを離したくない」
 彼女の言葉に、私は大切な人を傷つける覚悟ができていたことを知る。自身の内側で湧き上がるどろどろとした感情が、自分でも感じられるほど暗い色をしている。白でも黒でもない、暗い灰の色。
 きっとフェイトは私のことを好きでいてくれる。愚かしいことだとも気付かずに、優しい彼女はこんな自分に想いを向けてくれている。
 いつからだろう、と思った。いつから彼女は私のことを想ってくれているんだろう。機会はいくらでもあったのに、私は今まで考えたこともなかった。気にも留めなかった。フェイトはいつだって心地良い存在として私の傍にいた。
 ――彼女に逃げ道は残さない。
 肺の中で暴れ狂う、私は自らの感情に噎せている。
「許してくれる?」と私は言った。
「これからもフェイトちゃん以外のところに行くかもしれない、でもそれはフェイトちゃん以上という意味じゃないんだよ」
「一番?」
「一番はいないよ。誰もいない」
「じゃあ最後に聞くけど」そう言ってフェイトは改めて私を見つめる。私は焼き切れるほどの熱い視線から逃れることなく、同じく彼女を見つめ返した。
「なのはは私のことが好き?」
「離したくないといわれて、今すぐ抱いてほしいと思うくらいね」
 彼女の問いに私は封印した笑みを持ち出して言った。その真意に気付いてくれれば、それが最後の逃げ道となるはずだった。けれど彼女は私の腕を掴み、部屋に引きずり戻す。彼女は忘れてしまったんだろうか、私がフェイトに言われ、笑顔を消してしまったことを。笑わないでほしいと言ったのは彼女なのに、何故今私が笑っているのか考えないはずはないのに。
 明るすぎる廊下への道が閉ざされると、かわりに穏やかな薄闇がやってきた。腕を力の限り引かれて、私は彼女ごとベッドに倒れこむ。そこは歓迎すべき闇だった。私は観念する。
 先ほど身につけたばかりの衣類が荒々しく剥がされていく。彼女が私の体の上に覆い被さると、胸には金髪がはらりとこぼれた。私は細く綺麗な金糸のような髪の毛を指で掬い上げ、唇で咥える。彼女はそうされることを何より喜んだ。性器を舐められるよりもいやらしく感じる、とフェイトは言う。私も彼女の髪に触れるのは嫌いじゃなかった。闇の中では落ち込むその金色も、なぜか美しく見えた。
 顔の前にある豊満な乳房に唇をつけ、匂いをかぐ。つい先ほどまで弄んでいた乳房だった。仰向けになったまま私は片方を手で揉んだり舌で転がしたりした。そのたびに彼女の私に触れる指が止まるけれど、すぐに思い出したように動きを再開した。彼女は自身の体に訪れる快楽を噛み潰してまで私をいかせようとしている。私はわざと舌の動きを緩め、彼女に反撃の機会を与える。彼女は自分自身が気持ち良くなるよりも私を達せさせることに喜びを感じるようだった。そんなフェイトが可愛いと思った。
 キスをするときに長い髪が頬にかかるこそばゆさが、彼女の口から漏れる小さな喘ぎが、私をヴィヴィオを失くしたという現実から引きはがしてくれる。
 私を好きになってくれた彼女を、私は傷つけなければいけなかった。それが私なりの最大限の誠意だと信じていた。傷付けるのは体ではなく心。後戻りできないくらいに深く心を繋げながら、胸にわだかまる想いはどこにもいきつかない。
 いずれ彼女は後悔するのだろう。高町なのはを好きになったことそのものを。そしていつか私を憎む日が来る。だから気付いたら教えてほしい。私の言葉も行動も想いも、すべてが嘘にまみれていたと。

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