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2019-11

『秋、はらむ空』 二章 烙印は指に残される……8

『秋、はらむ空』 各タイトル⇒目次

二章 八話「繰り返し、繰り返し」
愛しい人の存在はいろんなものをぐちゃぐちゃにする場合だってあるんだ。

――そこにある想いが偽りでなければいい。



 秋、はらむ空
 二章 ―烙印は指に残される―


 8.繰り返し、繰り返し

 秋の終わりが好きだった。
 毎年秋が訪れると私の心は騒がしくなる。冬の刺すような冷たい空気は私の心までを凍りつかせるが、秋は緩やかな哀愁と微睡みを運んできた。
 外に出て秋の風を受けると、私の心はまもなく寂寥で溢れた。訓練抜きで散歩をしたい気分に駆られる。誰も伴わないで一人歩く。紅葉を過ぎた樹木は葉を落とし、丸裸の枝を曝け出していた。彼らは寒がることなどない。風に揺すられるまま冬を乗り越えるために力を蓄えていて、眼前を通るものには興味を持たない。機動六課の隊舎を一歩出ると、道端の色褪せた落ち葉が風に巻き上げられ、無言で空中を漂っている。
 そこには何もない。が、だからこそ私はその道を歩くと穏やかな気持ちになれる。

 ティアナが元気になってくれて嬉しいとスバルが言った。肌を重ねた後の、ベッドの中でのことだった。
「ティア、最近ずっと元気がなかったんです。心配してて、気になってたから」
 スバルとこうして抱きあうのは二度目だ。一度目の時よりも幾分余裕の出てきた彼女は、落ちついた頃に言った。私は眠りに落ちかけていたから聞き逃してしまった。仕方なく二度目を促す。
「元気がでてよかったって話です。なのはさんのおかげですよね」
「何のこと?」
「ティアを元気づけてくれたことです。ティアはきっとなのはさんのことが好きなんですよね」
 スバルの言葉に「それはないよ」と言った。心から言った。
「でもわかるんです、あたし。ティアのことはよく見てるから」
「スバルはティアナが大切なんだね」
「だからですね」
「うん?」
「ティアのこと傷付けないでください。なのはさんが苦しいなら、あたしぐらいはいくらでも差し出せます。そのかわりティアのことは大事にしてやってください」
 私はスバルの話を聴き、その話は矛盾していると思った。ティアナを傷つけないでほしいと言いながら、ティアナが私を好きだと言いながら彼女はその体を差し出している。それこそティアナが傷つく行為なのではないだろうか。もしそのことに気付いていないのなら教えてあげるべきだった。けれど私は特に指摘しなかった。
「わたしは別に辛くはないけど、スバルと抱き合うのは嫌じゃないかな」
「あたしもです、だってあたしは」
 彼女は頬を染めて、布団で口元を覆いながら話を逸らすように尋ねた。
「ところで指、どうしたんですか? どこかに挟んだような痕がついてますけど」
 さっきから気になっていたらしい彼女に、私はちょっとねと誤魔化した。言ってもよかったけれど、ティアナは何となく秘密の方が良いだろうと考えたのだ。
 私の血を舌ですくい上げながら美味しいと言ったティアナの、見上げる視線に妖しいものが混じっていたの思い出す。スバルの健康的な肉体とティアナの妖美な肢体を重ね合わせてみるがうまくいかない。
 一度きりと約束したのに二度目の機会をもったのは、スバルが私のことを好きだと言ったからだ。その想いは恋なのだと付け加えて。
 私は私を好きになってくれた人を拒まない。ただ想いの種類について訊いてみたが、彼女は説明できないと言った。
 恋愛感情というものは説明できない、ただその人のことを考え、想い、会いたいと願う。それが恋愛だというありきたりの答えしかくれなかった。けれど私は考えるのだ。それは何も恋愛に限ったことではないと。大切な人に対してでも私は同様のことを思う。それにティアナにはそうではないのか、と尋ねた。
「少し違います。その人といると胸がどきどきするんです。あたしにとってそれはなのはさんで、ティアは会いたいとも思うしティアについて考えもするし心配もする。けれどそれだけなんです」
 そこまで説明してくれても私にはやはり分からなかった。
 結局スバルは私への恋愛的な想いよりも、ティアナへの友愛的な想いの方が強い。スバル自身が言っていた。好きだから自分を差し出せるのだとしても、ティアナのことがなければ抱かれに来ないだろう。いずれスバルはティアナを想うがゆえに、私のことを突き放すようになるはずだ。
 そう考えると想いの種類など全く当てにならない気もする。わざわざ分ける理由がわからない。きっと永久に理解できない。好きだと伝えるのは一緒に居たいがために生まれた言葉で、結婚は帰ってくる場所を定めるための約束だ。偏見だといわれようがそう思っている。
 想いの強さだけでいい。そこにある想いが偽りでなければそれでいい。
 私がフェイトやヴィータらを想う気持ちは恋愛ではないかもしれない。けれど大切に思う気持ちは偽りではなかった。もし危機に瀕したなら私は命を投げ出しても惜しくはない。彼女の内の誰が一番というわけでなく、彼女たち誰もが大事だった。身体を重ねるのに恋愛感情はいらなかった。ただ体がつながるだけなのだ。
 スバルは言った。
「なのはさんにはそういう人、いないんですか?」
「さあ」と私は彼女に背を向ける。
「よくわからないから」
 私は話をそこで切り上げ、寝ることにした。明日も早い。灯りを消して瞼を閉じる。
 その晩に見た夢は、ヴィヴィオが荒れ果てた大地の上をとぼとぼと歩く様子を雲の横で眺めているというものだった。
 私の存在はその世界では第三者ですらなく、空気とも違う。しいていうなら神の視点にあった。
 地面の裂け目から生えた僅かばかりの草は枯れ、動物の餌にもならない。そもそも動物はいない。遠い次元の果て、辺境世界ではヴィヴィオたった一人しかいなかった。水ならヴィヴィオが歩く八十キロ程先にあったが、少女がそこに着いた時には凍りついている。頭上に降り注ぐ陽は熱をもたず、遠くには雪を降らす雲が浮かんでいた。きっとこれから少女は雪の中を歩くことになる。
 しかし少女に絶望という感情はないように思えた。少女の瞳には力強い想いが込められていたのだ。いかなる雪も雨も雷も彼女の意志を断ち切ることはできないだろう。ぼろ切れの布を纏い、少女はひたすらに歩いている。まるで誰かの元に辿り着こうとするように――。
 印象的な光景でありながら、目が覚めたとき私は夢の内容を覚えていられないと思った。忘れるべき夢というのがたまに存在するのだ。なにより夢の中に私の存在はなかった。ヴィヴィオだけの世界を私の記憶にどうしてとどめておけるだろう。

 目が覚めると、鼓動が妙な鳴り方をしていた。胸を押さえ呼吸を落ち着ける。
 異世界にてヴィヴィオが発見されたという報告があったのは、それから数時間後のことだった。

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