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2019-11

『秋、はらむ空』 三章 白紙の親子……1

『秋、はらむ空』 各タイトル⇒目次

三章 一話「焼かれた記憶」
ヴィヴィオと再びの邂逅。原因も理由もなにもかもわからないけど、そこになのはがいて、ヴィヴィオがいるということこそが重要だ。

――私の心はどこまでも正常に、正確な音を刻んで動いている。



 秋、はらむ空
 三章 ―白紙の親子―


 1.焼かれた記憶

 よく泣くようになった。
 夜になると私は毎晩のように泣いた。涙は横からこぼれ落ちて、枕どころか布団カバーもシーツも濡らしてしまった。起きてから跡になったそれらをみて、私はまた泣きたくなった。アイナに毎回洗濯の手間をとらせてしまうのは悪いとバスタオルを敷いて寝るようになったくらい、自分でも驚く量の涙を流した。
 ヴィヴィオがかえってきてくれたことを素直に喜べない。 
 理由をつけて誰も部屋に入れず、誰の部屋にも行かなかった。とてもそんな気分にはなれなかったのだ。いざ少女を前にすると身が竦んだ。少女が前のままでないことも付け加えて。

 クロノを通してはやてに連絡があったのは朝食をとっているときだった。アラームが鳴り私とフェイトがはやてに呼ばれ、状況を説明された。
 クロノが担当していた古代遺物・ロストロギアを追っていたところ、直接捜査に当たっていた管理局が少女を発見したのだ。人気のない雪原で少女が歩いているのに驚いた局員は素早く艦長に連絡をした。クロノが映像を見て驚く。それは先日の管理局をも揺るがすジェイル・スカリエッティ事件の中心人物である少女だった。それがヴィヴィオだ。
 その世界はすでに廃棄された区画で、ロストロギアの存在が露見しなければ踏み入れることもなかった。どうして少女がいたのかはまだ分かっていない。だが、少女が確かにヴィヴィオであるというのは事実のようだった。
 なのはは送られてきた映像を見て息を飲んだ。報告通り、少女はヴィヴィオであった。が最も驚いたのは少女が十歳ほど成長した姿だということだ。長く伸びた髪は結われることなく下ろされて、降りしきる雪に塗れている。よくも発見できたと思う。クロノもモニター越しに驚いていた。のちの検査の結果で、少女は完全に元いたヴィヴィオと合致した。なんらかの作用で成長しているが、まぎれもなくヴィヴィオだった。
 ただ、少女は記憶を欠落させていた。
 しかしそれは当然かもしれない。レリックを破壊した後、一度は幼子に戻ったヴィヴィオが見積もりで十年は歳をとっている。メンテナンススタッフによれば、むしろ何も異常が無いほうが心配だということだった。
 そのあたりの事情や相互関係は私にはわからない。私にとって重要なのは、ヴィヴィオが私を忘れているということだった。一緒にいた二ヶ月が少女の中から消えているのだ、すっぽりと。ゆりかごでのことも、母になると決めたことも少女は忘れてしまっていた。
 ヴィヴィオは私を見ても知らない人間を見る警戒した眼しか向けてくれない。それどころか敵意さえ感じられることがあった。
 ヴィヴィオには魔法素質が十分にあるというのはすぐに分かった。誰にでもないが、フォワードに混じって訓練させてみてはどうかと言われたこともある。けれど少女は、あなたに教わるくらいなら自分で勉強する、と言いきった。少女はしかし魔法を学びたいという意欲はあるようで、ならヴィータちゃんが教官資格をとっているよ、と言ってみた。ヴィヴィオは、じゃあその人に教えてもらう、と言った。私の後ろにはちょうどヴィータもいて、ヴィヴィオは彼女に向かってぺこりと頭を下げた。
 苦い顔をするヴィータだったが、基本的に彼女は事に荒波を立てない。彼女は頷いて、弱音吐いたらぶっ叩くぞ、と睨みを利かせて了承の意を示した。ヴィータは大人なのだ。それにしてもどうしてここまで私は嫌われているのか。考えてみるが、そもそも再会してからの短い間では嫌われようもなかった。
 やはりゆりかごで少女を諦めたことが、記憶になくても刷り込まれているんだろうか。
 ないとは言い切れなかった。人が想像しうるもので有りえないことなど何もない。
 訓練を終えて朝食のために隊舎に向かう道中ではよくヴィヴィオに出会った。気付くと少女はお辞儀をしたが、たぶん私にではなく、私の横にいるヴィータや後ろを歩くフォワードメンバーにしたんだろう。私に向けられていたとしても、それは恐ろしく儀礼的なものだった。
 ヴィヴィオはどんな気持ちで私を見ているのだろう。話しかけても、ふいっと横を向かれる。挨拶はかろうじて返してくれるが、会話はそこで終わった。
 初めて会った時のように、無関心な親しみで接することはもうできなかった。あの時は人に嫌われないための処世術でそうしていただけで、ヴィヴィオという存在を意識しての行動ではない。けれど今は違う。あれほど求めたヴィヴィオがそこにいる。狂いそうだった。いっそ狂えれば楽になれた。けれど私の心はどこまでも正常に、正確な音を刻んで動いている。
 がむしゃらに誰かを求めた。
 フェイトに抱き締めてもらい、ヴィータに包んでもらい、ティアナに愛してもらった。行為は体だけの、心を求めた以前とはまったくの別の交わりしか呼ばなかったが、私はかろうじて日常を生きていられた。

 暇を持て余しているのか、あるいは魔法戦に興味があるのかもしれない。最近ヴィヴィオは訓練を頻繁に見に来る。
「ヴィヴィオ」
 膝小僧を抱えた少女に声をかける。
 昼休みになると私は勇気を出し、ヴィヴィオを食堂に誘った。結果が分かっていたからその勇気は相当なものだった。
「これから一緒にどうかな?」
 ヴィヴィオは長い髪を草の上に垂らし、木の幹に寄りかかるようにして座っている。頭が私の影で覆われると、ようやくこちらを向いてくれた。
「私、今日はもうお昼を済ませたので。なのはさんは皆さんと食べてきてください」
 ヴィヴィオはもう自分を『なのはママ』とは呼ばない。言葉の端に混じる敬語が辛い。私は苦痛を表情の下に押し隠して「じゃあ行ってくるね」と笑った。少女は立ち上がって私の横を通り過ぎる。
 ヴィヴィオはヴィータが空いた時間に訓練をつけてくれる以外、ザフィーラやアイナに面倒を看てもらっていた。面倒を看るといっても少女はもう自立意識を持っている年で、遊ぶといった方が正しいかもしれない。ヴィヴィオは私以外の人とはうまくやっているようだった。アイナとも親しく接しているようだし、特にザフィーラとは仲良しで、私はなんとなく安心していた。たとえ自分の前で笑っていなくても、どこかに笑顔でいられる場所があるなら幸せなことだと思っていた。
 昼食では珍しく時間の空いたフェイトととることになった。フェイトは訓練にも参加していた。同じテーブルに座ると彼女は「私がとってくるから待ってて」とカウンターに向かう。
 彼女が戻ってくるのを待っている間、私は手持ち無沙汰になる。本当は何かして気を紛らわせたかったのだけど仕方ない。胸元に提げたレイジングハートを指先で意味もなく触れて時間をやり過ごす。
 近くではスバルとティアナ、キャロにエリオが同じテーブルに座しており、淡々と食を進めるティアナとキャロとは反対に、スバルとエリオは大量のパスタを胃に詰め込んでいた。あれだけの勢いだと服に零しそうなものなのに、二人とも口元こそ汚していたが器用に食べていた。味わうという行為を排除した二人にも一切気にすることなく、マイペースに手を動かすのがティアナとキャロだ。口元も細やかに動いていることから会話があるのだろう。大抵コンビといえばスバルとティアナ、エリオとキャロであるが、スバルとエリオ、ティアナとキャロも仲良しのようだった。こうして彼女たちは午後の訓練のために英気を養っている。
 周囲を見回せば、他にもいくつも見慣れ顔があった。当然だ、ここは身内ばかりが集められた機動六課。もし知らない顔があればそれは単に私が覚えていないだけだった。
「あのね、ヴィヴィオのことはしばらく放っておいた方がいいんじゃないかな」
 戻ってきたフェイトが、席に着くと同時に言った。ヴィヴィオの私に対する態度は彼女の目にも余るらしい。
「反抗期みたいなものでさ、今は周りの環境が変わったり記憶が欠落していたりで落ち着かなくてああなってるだけじゃないかな。そのうち大人しくなるよ。記憶がないといってもヴィヴィオはあれだけなのはに懐いていたんだから。変に刺激するのは逆効果のような気がするしね」
「うん、でも」
 別に激しい感情をぶつけられるわけじゃない、私は落ち着いて嫌われている。
「でも?」
「ううん、ありがとう」
 フェイトが運んできてくれたランチを食べてから、私たちは腹ごなしに隊舎の周りを散歩することになった。
 昼間だというのに外に出た途端服の中に冷たい風が潜り込んでき、体を震わせる。寒いね、とフェイトが言う。私が頷くと右手にふわりとした温かさが宿る。軽く握り返し、彼女を見ないまま枯草をかき分けて歩いた。
 この頃はめっきりと寒くなった。冬が間近に迫っているのだ。今年の初雪は何日だろう。もしかするとあとひと月もしないで降るかもしれない。ミッドチルダは冷えこみにくいとはいえ、機動六課は海も近い。厳しい冬になりそうだった。

 それにしても、ヴィヴィオのことを考えると気が重くなる。体積の小さい重さばかりの石が背中に詰め込まれているかのような気分だ。一人になるとその傾向は一層大きくなった。
 本当にどうしようか。自身の精神的な安寧を考えるとフェイトの言うように放っておくべきかとも考えるが、ヴィヴィオを無視するというのは私には実現不可能なことだった。それに放っておいたところで事態が良くなるわけでもない。
 無視はできない。となるとこれまでと変わらずに接していくしかないが、もしヴィヴィオに迷惑としか思ってもらえなかったらどうすればいいのだろう。流石にそれは自分勝手すぎるのではないか。ヴィヴィオの方も私とは関わりたくないと心から思っていたら?
 意外な助け舟を出してくれたのはティアナだった。
「簡単なことですよ。迷わず行けばいいんです」とティアナが私に言った。
「なのはさんは考え過ぎです。そういう部分ではあの子を見習うのもいいかもしれませんね。あくまでその部分だけ、ですが。しかも行き過ぎると迷惑どころじゃなくなりますけど、なのはさんにはその要領がわかると思います」
「でももし鬱陶しい人だと思われていたらそんなのは勝手すぎない? 嫌われてるかもしれないのに突貫していくなんて相手には迷惑でしかないよ」
「嫌いかどうかはヴィヴィオじゃないのでわかりません。ただ今の状況を何とかしたいなら、少しくらい嫌われる覚悟がないとできないと思いますよ。人と付き合うっていうのは、きっと人を傷つける覚悟が必要だから」
 私は以前、その人の何かを求めるなら自分も相手も傷つける覚悟がないと余計に傷つけてしまう、と考えたことを思い出した。それは間違っていなかったのかもしれないと、自分の考えに僅かではあるが自信が持てた。
 ティアナは続けた。
「たまには鬱陶しいと思うこともあるでしょう。けどそれだけじゃない。自分のことを想ってそうしてくれるなら嬉しくないはずがないんです。方向と加減さえ間違えてなければ、初めは少しずつでも降り積もればたくさんの嬉しさになる」
「ねえ」と私は訊いた。
「それはスバルのこと?」
 ティアナは口を瞑り、それから大きく息を吐いた。私は短い沈黙の中に確信を得る。
「好きなんだね」
「信頼はしてますよ」
 二人の関係をその言葉が表しているんだろう。ティアナにその特別を大切にしてほしいと思った。私は自分から捨ててしまった特別を、彼女はきちんと胸におさめていた。
 散歩の終わりにティアナが尋ねてくる。
「あたしのこと、少しくらいは好きになってくれましたか?」
 首を横に振れば、彼女は顔を諦念の表情に染める。構わずに私は情感を込めて耳元で囁いた。
「これ以上ないくらいに、好きだよ」
 私はティアナに触れるだけの口づけをし、それから「ヴィヴィオのこと頑張ってみるね」と言った。

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