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2019-11

『秋、はらむ空』 三章 白紙の親子……3

『秋、はらむ空』 各タイトル⇒目次

三章 三話「灰のような想い」
ヴィヴィオ視点。べ、べつになのはさんのことなんて気にしてないんだからね。
それにしてもヴィヴィオの本好き設定は個人的にはかなり嬉しい。

――「重要なのは、その人を真っ直ぐに見て名前を言えるかどうかってことだからな」



 秋、はらむ空
 三章 ―白紙の親子―


 3.灰のような想い――ANOTHER SIDE

 視界の中に頻繁になのはが入り込むのは、なにも向こうが自分を追いかけているだけではない。
 ヴィヴィオは部屋でぽつねんと呟いた。彼女は何を考えて自分に近づくのか、そしてどうして自分は彼女にだけ敵愾心を持ってしまうのか理解に苦しんだ。
 ヴィヴィオは素直になれなかった。それもなのはに対してだけだ。
 なのはには心を掻き乱される。彼女を前にすると鬱屈した気持ちと物静かな安らぎが半々で襲ってきて、ヴィヴィオはどちらに心を置けばいいのか迷ってしまう。相反した感情はヴィヴィオに更なる苛立ちを運んできた。
 彼女がなんだというのか、とヴィヴィオは思う。走る焦燥感を抑え込めず、彼女に対してきつく当たってしまう自分はきっと理不尽で、理由もなくそんな態度をとられればたまったものではないだろう。しかしヴィヴィオにはどうすることもできなかった。ヴィヴィオを悩ませるのは、そういった不可解な自分からなのはが早々に逃げずに向かってきたことだった。もし向こうから関わってこなければ疎遠でいられたはずだった。そう、彼女から離れることを望んでいたはずだったのだ。これだけの抵抗があるのはおそらくなのはのことが嫌いだからだろう。ヴィヴィオはなのはへのやりきれない気持ちをそうやって納得させる。
 しかしなのはは関わってきた。話しかけられる度に揺れるヴィヴィオの心など知らない顔で、無視をしても怯まずこちらに向かってきた。よほど暇なのかとも考えるが、見ている限りでは多忙なのは間違いない。無視をしても厳しい言葉をぶつけてもなのはは引き下がってはくれず、胸の中で新たな苛立ちが生まれる。決してしつこかったというわけではない。なのはの態度は時に恐れに似たものが混じっていた。ヴィヴィオはそれを目にすると苛立ちが膨らんだ。悪いのは、かといってなのはがいなければ焦りを感じてしまうことだった。
 自らの気持ちをもて余していた。そんなとき、訓練風景を見学していてヴィヴィオはふと思いついた。
 ――あの人と戦ってみたい。
 中途半端に接するからもどかしいのではないだろうか。拳をぶつけ合うなのはと教え子達は真剣な表情で、終わった後は悔しそうに反省しつつもやりきった顔で爽快に笑っていた。楽しんでいるとまではいかないだろうが、そこには満たされた何かがある。直接戦えばなのはに対する自分の苛立ちの正体というものを掴める気がした。
 だから模擬戦を申し込んだ。親しい者なら誰でも気付く彼女の身体のことなど、知りもせず――。
 戦闘の後、隊舎に向かうなのはの背中を眺めているとフェイトに睨むような目を向けられた気がした。感じたのはほんの一刹那で、おそらくは錯覚だろうとヴィヴィオは見目つける。フェイトは優しい人だった。他の隊員以上に忙しくしていてなかなか会う機会もないが、偶然出会ったときなど特に優しく接してくれた。フェイトは誰にでも優しいようだった、そんなフェイトが自分に僅かでも敵意のこもった視線をぶつけてくるはずがない。
 しかし一方でヴィヴィオが目を向けた後、取り繕うような表情をしたことも確かだった。
 ヴィヴィオはそれからなのはの様子を見るために医務室に向かうが、城の主は来ていないという。そこでヴィヴィオはシャマルになのはの自室の場所を教わり、訪問することを決める。
 行けば予想通りになのはは眠っていて、ヴィヴィオは若干の肩透かしを食らいながらもなのはが自然に起きるまでついていることにした。知らなかったとはいえ、彼女が無茶をしなければいけなくなった理由は自分だ。知らないというのはそれだけで罪になることがあるのだ。
「あとから私も行くわ」とシャマルが言う。「あまり気に病まないでね、なのはちゃんが無茶したのはヴィヴィオのためであっても、ヴィヴィオのせいじゃないんだから」ヴィヴィオは頷いた。“ため”と“せい”。漢字に直すと“為”と“所為”で似ていても、そこに含まれる意味には明らかな違いがあるとシャマルは言いたいのだ。
 髪も解かず教導隊制服を着たままで眠るなのはの様子に、ヴィヴィオは彼女について僅かだが知らされるようだった。戦闘の前に何故フェイトが半ば必死で止めていたのか、ヴィータが苦い顔をしていたのか。手加減を知らないなのはに自分が撃墜されてしまうことを危惧していると思っていた。思慮が浅かったのだ。そもそも、なのはは加減を知っている。
 嫌う人物が体を痛めたくらいのことで、自分は何故落ち込んでいるのかと思う。自分のせいではありえず、身体を悪くしているのに模擬戦を受けた本人が悪いことはシャマルも言っていた。彼女のことを迷惑に感じていたのではなかったか。胸にわだかまる苛立ちに我慢がきかなくなったから模擬戦を挑んだはずである。
 暗がりの中で瞼を落とした彼女の寝顔を眺めながら、ヴィヴィオは尽きない疑問に悩まされていた。
 乱雑に散らばる髪が痛そうで、ヴィヴィオはそっと髪の毛をほどいた。起こさないように髪留めを抜き取るのは至難の業だったが、彼女が深く寝入っていたこともありどうにか外せた。柔らかな髪が指の谷間に落ちてくる。普段彼女を前にして、絶えず内側にくすぶっていた靄はすっかりと晴れていた。
 なのはのことを嫌っていたのではなく、気になっていたから苦しかったのだ。
 無愛想にしていた自分に向けてくれた表情ひとつひとつを思い出す。笑った顔、俯いた顔、痛みをふりきるような顔、苦しげな顔。まだ少ない時間だったけれどいろんな表情を思い出せた。
 なのはは様々な方法で自分を振り向かせようとしていた。ヴィヴィオは無視しようとしてもできなかった。自分はまんまと引っ掛かってしまったのだ。けれど悪くないかな、とヴィヴィオは思っていた。
 そうして眠るなのはの頬を撫でているうちに、ヴィヴィオはいつの間にか眠り込んでいた。


 ある日の夕方、なのはが一日隊舎を空けると聞くといてもたってもいられなくなった。正体不明の焦燥に胸が焦がされ、ヴィヴィオは出発する正確な時刻を訊いてまわる。何人目かで十七時出発という情報を訊き出すと、ヴィヴィオは急いで駐機場に向かった。現在時刻と照らし合わせても今なら間に合いそうだ。
「心配してくれたのかな」となのはが言った。
 心配?
 咄嗟に否定してしまってから、やはり違うと感じた。
「出かける前に少しでもヴィヴィオと会えて嬉しいよ」
 ……ただ寂しかったのだ。
 もしも自分が純粋無垢な子供であったら、泣いて抱きつくくらいのことはできたのかもしれない。行かないでとは言えないまでも、一度強く抱き締めてもらっただろう。あれほど彼女に対して抵抗心があったのに今はひたすら甘えたかった。甘やかしてほしかった。
 年齢のさほど変わらない彼女にどうしてそんな気持ちを持ってしまったのか、ヴィヴィオはあとになっても分からずじまいでいる。
 ヴィータが問いかけてきたことがあった。模擬戦を終えて一週間程経った日のことだ。
「ヴィヴィオの前で、あいつは笑ったか」
 ヴィヴィオはベッドの側面に背を凭せかけ、部屋にあったぬいぐるみを指先でもてあそんでいたところだった。怖い顔つきのうさぎだったがどこか愛らしさがあった。ベッドの上にもうさぎのぬいぐるみがあったことから、ヴィータはうさぎが好きなのかもしれないなと思う。
 ヴィヴィオは訓練をつけてもらったあとヴィータの部屋に行き、お茶を入れてもらった。甘い匂いをさせるハーブが紅茶に仄かな香りを添え、ヴィヴィオの気分を安らげる。ヴィータは慣れた手でカップをテーブルの上にのせた。
 今一度ヴィヴィオはヴィータの台詞を反芻してみる。なのはの話をしていたこれまでの流れからいえばあいつというのはなのはのことだろうと見当をつけるが、とても脈絡のない話題だとヴィヴィオには感じられた。
「笑ったかって、なのはさんはいつも笑ってるよ?」
 笑うことがあるどころか、自分の前でなのははいつも笑っている。多種多様の表情を持っているはずだが、ヴィヴィオが最近目にするといえば笑顔ばかりだった。含みのない笑顔だと思った。幼い子供ではなく自分よりも年上の彼女がそんな風に無邪気に笑うものだから、ヴィヴィオは意識せずに気を抜いていられた。以前は当たり前のようにあった苛立ちも薄れ、なのはといる時間が楽しくなっていたのだ。
 しかしヴィータは片目を顰めて「そうか」と息を吐いた。白いカップの中で揺れる紅茶に口をつけながら、ヴィータの仕草には無理があるように思う。
「私、何かおかしいことを言ってる?」
「そんなことはないけど、そうか、笑っているのか」
「そうだよ、ヴィータお姉ちゃん。あの人を見ていると世界が幸福で満ちているような気分になってくるくらいだよ」
「はっ。そりゃまた大きくでたな」、ここでヴィータが言葉を区切り首を捻った。
「ヴィータお姉ちゃん、だって?」
 ヴィヴィオは頷く。「身体はちっちゃくても強いし、年上だし。それに優しくしてくれるからお姉ちゃん」
「優しくしてくれるならフェイトだって同じだ。それになのははどうなんだよ、保護責任者の話は出てるんだろう? 親子になるんなら今からでも呼ぶ練習しておいた方がいいんじゃないのか」
「フェイトさんは、お姉ちゃんって呼べるほど仲がいいわけじゃないから。なのはさんは」
 なのはが身元の定かでないヴィヴィオの引き取り主になるという話は聞いていた。唐突だとヴィヴィオは思ったが、なのははヴィヴィオなら良いという。
「難しく考える必要はないよ。ヴィヴィオを拘束するものじゃなくて、守るためのものだから。病気になったり、これからもしヴィヴィオが魔導師になろうとしたときには、親という存在が戸籍上ででもあったほうがいいんだ。もちろんわたしは戸籍だけでなく、ヴィヴィオにとっての本当のママになりたいと思っているんだけどね」
 どうかな、と照れくさそうに頬をかきながら言ったなのはの提案に、ヴィヴィオはまだ返事ができてない。
 不思議と嫌な気はしなかった。自分を大切に思ってくれていることは彼女の言動の端々に見られ、ヴィヴィオはこの人ならと思ったのだ。でありながら、応えるまでに僅かな躊躇いが生まれた。その逡巡の間がなのはに「返事はいつでもいいよ」と言わせてしまい、ヴィヴィオは居たたまれなくその場から逃げてきた。
「なのはさんは、なんていうか」
「なんだよ」
 口ごもる自分に、ヴィータは先を促す。
「今更なのはさんをそう呼ぶのは、恥ずかしい」
 詰まりながら言うと、ヴィータはそれ以上は追及してくることもなくやはり「そうか」と言い、ヴィヴィオの頭に手を乗せた。期待する返事ではなかったはずだが、ヴィータの妙に満足げな表情が印象に残った。
「呼び方なんてどうでもいいんだ。重要なのはその人を真っ直ぐに見て名前を言えるかどうかってことだからな。もう言えるようになったんだろ?」
 うさぎの耳を指でつまみながら、ヴィヴィオはこくりと頷いた。
 素っ気ない態度ばかりとっていたこともあり極まりが悪く、なのはと正面から向き合って話すことができなかった。しかし日が過ぎるごとに名前くらいは言えるようになった。たまにきつい言い方をしてしまうこともあるけどこれは直りそうもない。その時の落ち込んだなのはの顔が可愛いとヴィヴィオは思ってしまったのだから。
「でもヴィータお姉ちゃんはどうしてなのはさんのことを気にするの。同じ分隊の副隊長さんだから?」
「そうだな」
 頷くヴィータに、はたしてそれだけだろうかとヴィヴィオは考える。義務的な想いだけではない、もっと他の何かがあるように思えてならない。そう、ヴィヴィオは浮かんだ言葉を口にした。
「好き、なの?」
「……そうだな」
 実直なヴィータにしては曖昧な返答だった。
 ヴィータはちらとベッドの上に視線をやる。辿った先にあったのは白いうさぎのぬいぐるみである。
 その時ヴィヴィオの胸に生まれたのは、覚えのない鈍い痛みだった。

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