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2019-11

『秋、はらむ空』 三章 白紙の親子……4

『秋、はらむ空』 各タイトル⇒目次

三章 四話「焔の中の凍え」
会いたいよ、ヴィヴィオ。なのははずっと想ってる。
ヴィータの存在はなのはにとってどれだけの救いになったかしれない。

――ちゃんと帰ってくるよ、絶対に絶対。



 秋、はらむ空
 三章 ―白紙の親子―


 4.焔の中の凍え

 遠くで水の音が聞こえ、空には幾重にも積み重なった雲が見える。なのにこの世界は渇ききっていた。いかなる水脈も蓋をする雲も、ひとたび枯渇へと向かった地面を潤すことはできなかった。それはとても悲しいことのように思える。それに水の音が聞こえるだけで実際には水は流れておらず、空を覆う鈍色の蓋も限りなく雲に似た何かでしかないという可能性もあるのだ。
 任務の最中、私は乾いた地面の上を歩きながら行きのヘリの中でヴィータと交わした会話を思い出した。
 休憩だ、とヴィータの掛け声が聞こえて、私は無骨な岩に腰を下ろした。彼女は座らずに岩壁に寄りかかるようにしてたったままである。二人ともいつでも動けるような体勢での休憩だった。
 ――ちゃんと帰ってくるよ、絶対に絶対。
 今度こそ絶対に、と私は思う。ヴィヴィオの自分を見上げる顔に胸が締まった。できるなら抱き締めてあげたかったけれど出動前でそれは叶わない。他の人もいたしヴィヴィオもきっと恥ずかしがるだろうし、逃げられれば流石に悲しかった。だからそっと肩に手を添えるだけにとどめるとヘリに搭乗した。
 ヘリの中ではすでにヴィータが座っていた。彼女の視線はどこか別の場所にあり、私は邪魔をしないよう隣を避けて座って発進を待つ。動き始めると窓に視線を流した。正方形に切り取られた窓からは白い雲が勢いよく流れていく景色が眺められた。私は目を細め、自らの腕を抱く。その間も浮かぶのはヴィヴィオのことばかりだった。
 不意に顔を正面に戻すと、立ち上がったヴィータが目の前まで来ていた。支えもなしに危ないよと言おうとしたところで、私の頬は彼女の両手で左右に引っ張られた。
「痛い」
「考え事ばかりするやつにはほっぺたを力任せに引っ張ってやるのが一番いいって聞いてたからな」
 きっとアリサにだろう。海鳴に居た頃、幼馴染の中では特に仲の良かった二人を思い返しては苦笑が漏れそうになる。気の合う二人は私について一体何を話していたのか気になった。今度電話をかけたときに聞いてみようかとも考えるが、アリサが素直に教えてくれるとはとても思えなかった。
「ヴィータちゃんってばもう。酷いよ」
「けれど思考の流れは止まったよな? 一時的にだとしてもさ」
「うん」と私は言った。確かに淀みなく流れていたものはぴたりと止まった。
「ありがとう、ヴィータちゃん」
 もしかしたら彼女は私を元気づけようとしてくれたのかもしれない。
 アリサは私が落ち込んだ時や元気をなくしたときによく頬を引っ張って意識を自分に向けさせ、喧嘩をふっかけた。私もつい向かっていって、喧嘩が終わる頃には寝て起きて気持ちを整理した後のようにすっきりとした気分になっている。
「考えるってことは大事だけど、度が過ぎると毒にしかならない」
『考えるのもいいけどね、あんたは考え過ぎ。そんなの毒にしかならないわよ』、ヴィータの言葉にアリサの声が重なる。
 私は故郷、海鳴のことを想った。昨日、海鳴の実家から頼んでいたものが届いた。送ってもらったのはヴィータにもらった黒いうさぎのぬいぐるみである。手間をかけてしまうことを気に病みながらも、今必ず手元に寄せておきたかったのだ。私はそれをヴィータに言うべきなのかもしれない。
 しばしの逡巡の後に、私は未だ前に立つ彼女を見上げた。
「あのね、ヴィータちゃんに貰ったぬいぐるみがあるでしょ。黒いうさぎのやつ」
「ん、ああ。そうだったな」
 彼女は一瞬何を言われているのか分からないようだったが、すぐに理解してくれた。
「よく覚えてるな、そんな昔のこと」
「それどころかまだ持ってるよ」
「今、か?」
 私は頷いた。
「六課の部屋にある。この間までは実家にあったんだけどね、ヴィータちゃんの見てたら私も部屋に置いておきたくなったの」
 白い白いうさぎは白いまま、座っているところを脳裏に浮かべられる。それほど嬉しい事だった。
「今度部屋に持っていってもいい? 久しぶりにヴィータちゃんのうさぎにも会わてあげたいんだ」
 返事を聞く前に会話が終わった。ヘリが転送ポートのある建物の駐機場に到着したのだ。

 一日がかりの任務が終わり手早く報告を済ませると、私は急いでヴィヴィオの元に向かう。帰ってきてヴィヴィオがいることに当然のごとく胸を撫で下ろした。今度は約束を守ることができたんだ――。
 ただいま、と私は言った。おかえりとヴィヴィオが返してくれた。飛びかかってくる少女を受け止めながら、もうこの子を手放すことはできないと思い始めていた。ヴィヴィオは温かかった。撫でる指に髪を絡ませ、存分にヴィヴィオを堪能する。名前を呼ぶ声にどうしても熱がこもってしまう。
 十一月も終わり頃、私はあらためてヴィヴィオと正式な親子になる。それは本来よりふた月遅れで結んだ親子の絆だった。

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