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2019-07

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『秋、はらむ空』 四章 君以外に大切なものなんて……1

『秋、はらむ空』 各タイトル⇒目次

四章 一話「一欠片だけの気遣い」
雪の日、なのはは拘置所を訪問する。
そこで悟ったいろんなことになのははさて、どうする。

――「聖王陛下はお元気ですかあ?」



 秋、はらむ空
 四章 ―君以外に大切なものなんて―


 1.一欠片だけの気遣い

 朝起きると雪が降っていた。
 薄暗い六課の広場を通り過ぎて並木道に出る。陽や雨に曝された木造のベンチは白く埋もれている。私は教導隊制服の上にコートを着こみ、マフラーで鼻の下まで覆い隠す。しかし歩いている間に露出した鼻先に重たい雪が落ちてきて冷たかった。じっとしてれば睫毛の上にも積もる。
 海鳴は暖冬で、滅多に雪が積もらず子供の頃はつまらなく思っていたものだ。たまに積れば大騒ぎで、アリサやすずかたちと雪だるまや雪合戦をして遊んだ。だから闇の書事件が起こった冬、数年ぶりに積もるほどの雪が降ったのはひどい偶然、あるいは運命的としかいえない。白い絨毯の上に風花がちりばめられていく様子は、今思えばリインフォースの旅立ちに向けて、空のはなむけのようだった。
 息を吐いた。白い靄が空中を長い時間漂い、消えていく。そうした様子をみていると儚い冬空が眼前に迫っているのだと改めて認識することとなった。肺の中から凍えそうなほどに寒い。冬なんだと思う。けれど温めるべき人を持つ私には大したことのない冬だ。分かっていたつもりで、私は芝生を埋め尽くす雪を足で掻きならしていた。理解というものが付近に転がる誤解の総称であることを、私はまだ知らなかった。
 理解するということは誤解を積み重ねていくということだ。理解すればするほど実はほとんど知らなかったりする。そこで考えるのをやめてしまうからだ。私はただ理解したつもりでいたにすぎない。
 思った以上に早い降雪に身を震わせると、はやて部隊長から通信が入る。素早く隊舎に戻った私に与えられた新たな任務はナンバーズのいる軌道拘置所への訪問だった。それもクアットロ個人にだ。拘置所を警備する局員が直接持ってきた要望で正規のものではないらいしい。なんでも態度が悪いとのこと。私には逆に局員に素直に従うクアットロの方が想像できなかった。
「断わってもええんやで、正式な任務ってわけでもあらへんし」とはやては言葉を濁すが、行かなければ別の人間に変わるだけのことだろう。私は彼女とあまり関わりたくなかったが放っておくわけにはいかない。事件の時に直接やりあったのは私だけだと聞いていた、ならばそこには果たすべき責任が存在する。
 それに訊きたいこともあった。例えばヴィヴィオが成長している理由について。
「仕事だからね」と私は言った。
「行ってくるよ、みんなには言っておいてくれるかな」
「それはもちろん、任せてな」
「これから向かっても?」
 はやては頷いた。

 そして私は今、胡坐をくんでそっぽを向くクアットロの前に居る。
 惑星の衛星軌道上に存在する犯罪者を収容するこの拘置所は、世界で計三ヶ所存在する。脱走防止のために事情聴取やその他一次裁判などは通信で行われ、かつ厳重な警備が敷かれていた。
「お久しぶりね。あなたも捕まったの?」
「面会です」
「あら、悪魔的な所業がついに見咎められて収容されたのかと思ったわ」
 相変わらずの口ぶりを無視して私は簡潔に告げた。
「よくわがままを言っているそうですね。もし何か言いたいことがあればどうぞ」
「べっつに、文句はないわよ。快適な暮らしに驚いているくらいだもの」
「では局員にいちいち逆らうんじゃなくて、明確に罪の意識を自覚してください。そうすれば管理局は鬼じゃない、何かしらの便宜を図ってもらえると思いますよ」
「何度も言うけど協力するつもりはないし、悪いことをするというのに罪の意識を感じる必要はないじゃない」
「そうですか」
 クアットロがそう答えるのは予想がついていた。
 ジュエルシード事件の時とも闇の書事件の時とも違う。悪を悪だと思っていない。いや、まるで彼女の中では悪い事と良い事の価値が逆転して見えているみたいだった。私たちが良い事をした後に気分が良くなるのと同じように、彼女は悪い事とをした後に気分が良くなるのだ。私がヴィヴィオの頭を撫でて幸福を感じるのと同様、彼女は人間を嬲り痛めつけるときにこそ愉悦を感じるのだろう。
「ところで聖王陛下はお元気ですかあ?」
 ヴィヴィオについての質問をどうしようか迷っていた時にそんな言葉をかけられ、私は内心で動揺した。が、気持ちを改めて応えることにする。
「ヴィヴィオはいないよ」
 表向きヴィヴィオはゆりかごのなかに沈んでいったのだ。私の砲撃でレリックを破壊し、その衝撃でヴィヴィオが力尽きたということもクアットロは想像の範疇だっただろう。だからこそそう答えた。けれど彼女はまるでヴィヴィオが生きているのが当然のように言う。それはただの演技なんだろうか?
 予想に反してクアットロは即座に顔色を変えた。「有りえないわ」という。「一体どういうこと?」
 彼女に問いかけられて私はしばし間を置いた。考えるうちにこの流れが本来したかった質問に繋がることを思い出して答えた。
「レリック破壊の時に力尽きたの」
「それはないわ」
 世界一馬鹿げたものを目にしたときのような呆れを込めた溜息を、クアットロが吐いた。
「いくらあなたの砲撃が強力であっても、レリックの爆発の衝撃を受けたとしても、あの陛下がそのくらいでぺしゃるわけないじゃない。魔力はレリック破壊に向けられていたんでしょうし、防御では随一を誇る聖王の鎧もありましたから、そりゃまあなたの砲撃は規格外だろうけど、それにしても有りえないわね」
「有りえないことなんてないんじゃないですか?」
「ときにはね」とクアットロは言った。
「けれどこれは例外。あなたは聖王の鎧のすごさを知らないのね」
 彼女の口元に常時浮かべられている皮肉とやり過ごせない雰囲気が立ち込めている。私は息を呑みこむ。でも、それじゃあヴィヴィオは。
「生きていたのよ」
 そんな。
 それじゃあ私は生きたヴィヴィオを見捨てたことになる。尚悪い、そう考えようとして、どちらにしても私が追わなかったという事実に変わりはないのだと思い当たる。結局は同じことなのだ。私は首を振った。
 あのとき、私は確かにヴィヴィオが生きていると信じていた。だが事件後、時間が経つにつれ冷静に見詰めてみるとおかしいことだらけだった。息をせず鼓動もなかった状態を私は“生きている”といっていたのだから。
「でもどうやって脱出したというんだろう。ゆりかごはアルカンシェルで完全消滅されたんですよ」
「賢いあなた方はもう気付いてるんじゃないですかあ?」
 気付くのとは違う。あるのは予想、妄想と言うしかないほど朧げな推測だ。
「あなたの体に今もブラスターの後遺症が残るように、おそらく陛下にもその作用が残っていたと考えるのが一番無理はない」
 つまりヴィヴィオの体内にあるレリックを破壊するとき、または融合させたときになんらかの作用が働いており、それがヴィヴィオの生命力を維持させたのだ。表面上からでは決して気付かないほど奥底で。
 だがレリックを取り除いたことも確かだった。ヴィヴィオが立ち上がった傍に割れた紅いプラスチックのようなレリックが転がっていたのを見ている。私が言うと、クアットロはやはり呆れ気味に返した。
「そんなことを言われても予想つかないことはこの世界には幾らでもある。でも困るものでもないでしょう? どうせ聖王として覚醒した時の記憶は残るわけだし、肉体が大人になったのなら精神も適合するでしょうし丁度いいわよ」
 私はもう口を閉じることにする。身体の芯からくる怒りと震えを押し殺していた。拳を握るのをどうにか堪えているうちにレイジングハートが面会時間の終わりが近付いていることを教えてくれた。ここを出よう、と思った。任務の達成は叶わなかったがまた近いうちに来ればいい。今の自分にはとにかく、何よりも考える時間が必要なんだ。
 それでは、とクアットロに別れの挨拶を告げ背を向ける。最後に彼女は言葉を私に向けて投げた。誇らしげな表情と愉悦をたっぷりと含ませた声だった。彼女から遠ざかるとそれらは霧の中に消えたが、一度吐き出された言葉は私の記憶にしっかりと残された。
「ねえ、あなたの分身がいるのはどんな気分?」

 六課に振り積もった雪は一層の厚みを増している。心なし足音も硬質なものになっている気がするし、だんだんと空が色濃くなってもいた。日暮れも間近、私は肺の中の濁った空気を吐き出すと、急いで隊舎に向かった。
 はやてへの報告を済ませると既にあたりは闇に包まれていた。窓から見える景色はおそらく幻想的なものなのだろうが私にはよくわからない。食堂に置かれているテレビの天気予報が明日は晴れだと伝えていることだけが現実だった。
 私は自室に戻り、ベッドに仰向けになって寝転ぶ。先ほど報告の時に聞いたことが頭の中を延々と巡っていた。私は何事も考えすぎる傾向がある。一所から思考の枝を伸ばしていき、それはいろんな方向へ向かっていった。現実に立ち返れば古くなった建物を這うツタのようになっている。絡み付かれる建物はその時々によって異なるが、今回は私自身だった。
 報告に行ったその場所にははやて、それからシャーリーとシグナムがいた。シャーリーがいたのは通信で簡単に大まかなことを伝えていたためだろう。けれどシグナムは?
「今シャーリーに確認したところ、その分身というのはスカリエッティ研究所に残されていた人造魔導師のうちのひとつ。もっともそれはひとつだけ特別な場所に保管されていて事件後すぐにはみつからず、何週間も経ってからのことで、そもそも研究所では戦闘機人が多くを占めていて人造魔導師はその一人のみ」
「それがわたしの遺伝子を元に造られた人造魔導師」
「そう」とはやてが言った。
 そこでシャーリーがモニターを開いて映像を映し出す。「こちらですね。今は眠っていますが近いうちに目を覚ますでしょう」
 私は声を失った。ベッドに寝かされた少女の白い顔に、有りすぎるくらい見覚えがあった。茶色い髪、どちらかといえば童顔気味の顔、点滴で繋がれた細い腕。目を閉じてはいるが、映像に映っているのは紛れもなく幼い頃の自分だった。
 不思議な感覚だった。自分でありながらまったくの別人だ。フェイトはアリシアのことをお姉さんと呼んでいたが、私には少女のことを妹だと認識することはできなかった。
 ではあの子は誰だろう。分身? まさか。
 私との関わりを外見以外に見出せない、精神的な繋がりなども感じられなかった。ただそこにいる、私によく似た少女でしかなかった。しかしそれはある意味で当然かもしれない。フェイトの時のように同じ親の子供として育てられたわけでも、記憶を埋め込まれた訳でもないのだ。
 フェイトは知っていたのだろうか。知っていたのだろう、直接の部下であるシャーリーが説明してくれたんだから。
 私はしばらく息を止めていたことに気付いて、短く息を吐きそれから深く吸い込んだ。どんな表情もうまく作れず、言うべき言葉すら思いつけない。そうして立ち尽くしているとシグナムに大丈夫か、と訊かれる。私は静かに頷く。大丈夫です。そうか、と端正な眉を顰めシグナムは頷いてくれる。何か言いたげにしていたが、私には彼女の言葉を拾ってやる余裕は持てなかった。
 自室に戻ると、私は明かりをつける前に窓を開けた。風は冷たかったが幾分の落ち着きは取り戻せたと思う。暗闇が立ち込める空間にいるとどっぷりと自分の世界にのめりこむことができた。ここでは気兼ねなしに色んなことを考えられるのだ。
 私は深い思考に沈んでいく。そのようにして私自身というものは無限に伸びていく枝にとらわれることとなった。

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