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2019-11

『秋、はらむ空』 四章 君以外に大切なものなんて……6

『秋、はらむ空』 各タイトル⇒目次

四章 六話「得た空はすべて君に」
もう限界なんだ、いろんなことが。ティアナもなのはも限界だった。

――死以外でも、世界は容易に幕を閉じることができる。



 秋、はらむ空
 四章 ―君以外に大切なものなんて―


 6.得た空はすべて君に

 いったいガジェットはどこから沸いて出てきているのだろう。
 一型と違い、二型ガジェットの出現は人の意志が絡んでいるはずだとはやては言った。
「今フェイトちゃんに調べてもらっとるんやけど」と出動の前にはやてが簡単に説明してくれた。
 しかしとりあえず今回はまだ原因は不明で、空の掃除を私は任されることとなった。出ていくのは私とシグナム、それにティアナである。シグナムと二人だけでも十分だったが、ティアナの空戦実践にもなるだろうとの判断だ。待機にはフェイトとヴィータが回ることとなり、スターズ分隊の隊長とスターズ4、ライトニング分隊の副隊長という珍しい組み合わせとなった。
 空を飛び回るガジェットを撃ち落としながら私は今朝のことを思い出していた。
 ヴィヴィオの顔を見れない。
 ティアナを傷つけてしまった後でのうのうとヴィヴィオと笑い合っていられるほど、自分は無神経ではないようだった。
 顔を逸らしてしまった後で慌てて振り返ったヴィヴィオの顔が忘れられない。どうして。少女はそう私を見返す。私は笑顔を取り繕うこともできずにいた。一度笑みを抑え込む練習をしてしまうと、本来出来ていたはずの笑顔まで出来なくなってしまうのだ。思ったことの半分しか言葉に出さないようにしているそのうちに、思ったことの半分しか言えなくなっているように。気付いたときには既に手遅れとなっている。もう私の笑顔は完璧な偽りを纏えなくなっていた。ヴィヴィオも騙せない。
 翠と紅の瞳が金髪の隙間から、疑問をこちらに投げかけている。少女には私の一瞬の揺らぎを見抜かれていた。
 ごめん、と私は言った。言葉が吐き出されたのはすでにその場から駆けだしてしまった後だった。最低なことにヴィヴィオと相対している時にはティアナのことを私は全く考えていなかった。ヴィヴィオは私の思考力のすべてを奪う。
 償いというわけでもないが、初の空戦を切り抜けたティアナを私は褒めた。彼女は十分に合格点を出せる戦いぶりをしてみせた。しかしティアナは嬉しそうに口元を緩めてはくれたもののすぐに改め、元の険しい表情に戻ってしまった。普段なら見惚れるティアナの精悍な顔つきも、今は私に心苦しさを与えるだけだった。
 シグナムが私の肩を叩き「報告は終わった。戻ろう」と言った。私も頷く。

 任務を解かれると私はティアナを散歩に誘った。教導官から、上司から誘われれば断れない。そういった狡い思惑もあったが、私はなんとか話をしなければという気持ちに駆られていた。相変わらず答えも何も用意できていなかったけれど、とにかく私はティアナと話がしたかった。
 しかしティアナは首を横に振る。
「何もないんですよ。あたしとなのはさんとの間には」とティアナが言った。
「あんなに触れて抱き合ったのに心はいつも重ならなかった」
 独り言のようだったが確実にティアナは私に向けて言っている。ティアナは私を見て、私のことを考えてくれているのだ。そう言ってくれたし、なら私もティアナを見ていなればならなかった。
「それでもよかったんです。一緒にいることを認めてくれれば、きっとなのはさんの色んなことを許せました。だけど、精一杯傍にいようとしたけど、なのはさんはあたしから離れた場所にずっといた。そこには何もないんです、少なくともあたしにとって」
 ティアナはそれから隊舎の方に戻っていった。背中を眺めやがて彼女の姿が消えると、私は冷たい芝生の上に座る。ヴィヴィオがいつも本を読んでいる場所だ。私は木の幹に背を凭せ掛けて目を伏せた。
 白く丸い月が雲に隠され、冷たい風が生き残りの葉を揺らしている間、私はじっと考えていた。やがて私は一つのことを決める。
「三日間のうちに必ず答えを出し、ティアナに告げよう」
 でも次の日、ティアナは訓練に出てこなかった。
 あの練習熱心なティアナが休んだということで早朝訓練の場では軽い騒ぎになった。それで私がまずしなければならないのは皆を静かにさせることだった。
 落ち着かせると私はヴィータの方を見、それからスバルを見た。彼女は首を振り、俯いた。どうやらスバルにも分からないらしい。落ち込んでいるようだったがスバルが落ち込む理由など全くなかった。私はスバルに説明しようとした。全部私のせいなんだ、だからスバルは気にしなくていいんだよと。しかしもちろんそんなことは言えなかった。
 ティアナがいなくとも訓練は行われたが、皆の士気はどうしても低かった。私もティアナのことが気になったが態度には表すまいと決め、懸命にいつもどおり仕事をこなした。ようやく一日の仕事を終えるとティアナを探しに出かけた。機動六課の敷地を出てはいないだろう。部屋にはまだ荷物が残っていて、彼女だけが消えていた。彼女はきっとまだどこかにいるに違いない。だけど早く探し出さなければ取り返しのつかないことになるという予感があった。その予感はひたすら足を動かし探している間も脳にこびり付いて消えなかった。
 日が沈んでから時間が経つ。頭上の月はかなりの距離を移動していた。

 探している間、ずっとティアナのことを考えていた。
「寒いねー、レイジングハート」
 風が吹き荒ぶ中をコートも羽織らずに歩いていたせいか酷く寒い。体が小刻みに震えている。もう十二月も半分以上が過ぎ、雪も何度か降っているのだ。当然か、と思う。
《フィールドバリアを張りましょうか?》
 戦場が極寒の僻地になることも業火が覆い尽くすビルの中になることもままある。そういう場所に飛び込んでいくときにフィールド系バリアを形成していなければいくら防護服を纏っていても堪らない。
「ありがとう、平気だよ」と私は言った。確かにレイジングハートに頷けば寒さなど気にせず探せるのだろうが、ティアナがこの空の下で一人膝を抱えているかもしれないと想像するととてもそんな気分にはなれなかった。
《了解しました》とレイジングハートが点滅を消した。彼女はいつも私の言うとおりにしてくれる、優しいパートナーだ。彼女がいたからこそ乗り越えられてきた孤独は幾つもある。
 曇った夜空は暗く、月の周りだけが微かに淡い輝きを醸し出している。私はしばらく立ち止まって見上げてみると一層の寒さを感じた。遠くで波の音が聞こえてくる。
 私はティアナのことを考えた。そもそもティアナとのことが寒さの隙間から潜り込んできて、考えないわけにはいかなかった。
 初めて彼女と会ったのは魔導師Bランク昇格試験の終わりだ。ティアナは足を怪我していてコンクリートにうずくまっていた。昔よりも可愛らしく勇敢になったスバルに対し初めて会うティアナは、書類や映像で見たときの印象と一寸の違いもなかった。強引なくらい前向きな目をし、十分な向上心を頬に湛えている。今は未熟でもこれからいくらでも伸びる優秀なガンナー。それが私から見たティアナの印象だった。実際に訓練をつけてみて間違った認識ではなかったと私はあとからはやてと頷き合ったこともある。
 ティアナが無茶をしたときは酷く悲しくなり、自分に対して耐えがたい憤怒が湧き上がった。自分だけではない、ティアナに対してもだ。無茶な戦法は自分やパートナーの命を容易に奪うことになる、ティアナが分かっていないとは思わなかったのに少なからず裏切られたような気がした。
 無茶をしていることには気付いていたがティアナなら平気だと思っていたのかもしれない。信じるという言葉は時に無責任とも置き換えられる。
 私は色んなことを上手くやれず、ティアナの熱くなった頭を冷やすために手本を見せるという分かりにくく些か強引なことをしてしまった。他の人なら――例えばフェイトなら言葉で優しく諭すこともできただろうし、ヴィータならこうなる前にティアナに対し何らかの対策をとっていたはずだ。しかし私は教導隊で教わった通り徹底的にきっちりと打ちのめした。私にはその方法しか浮かばなかったし出来なかった。今でも。
 ウイングロード上から地面に横たわらせるとティアナを抱き上げた。憔悴し、疲れきった表情を見ていると、彼女の無茶を教導官である自分が止められなかったことの不甲斐無さに膝をつきたくなった。でももちろん二本の足でちゃんと立ち、医務室まで運んだ。
「シャマル先生」
「大丈夫よ」とシャマル先生は言った。「ヴィータちゃんから連絡はもらってるから。だから大丈夫よなのはちゃん」それから彼女は腕の中のティアナを診た。
「とても疲れているようね。でも身体にダメージはないわ。むしろぐっすりと眠れていいくらいね」
「ええ」と私は頷く。シャマル先生はにこりと笑った。
「訓練着の下はなのはちゃんの血がついちゃってるみたいだから軽く手洗いしておくわ。それでなのはちゃんの手の怪我だけど」
 私はティアナをベッドに寝かせた後でシャマル先生と向き合って座る。私は右手を差し出すと彼女がその手をそっと取る。大した傷ではない。治療しながらシャマル先生が溜息をつく。彼女の溜息はとても艶やかに吐き出された。私はその様子を目でじっと追いながらティアナのことを考える。間違っているとは思わないが最善の方法だとも思わなかった。どうしたらよかったんだろう?
 結果的にティアナは私のしたかったこと、伝えたかったこと、想いを分かってくれた。
 海と陸を隔てるコンクリートの石垣に座り、ティアナを抱きとめた時の感触を覚えている。私とティアナは数多く交わったにもかかわらずだ。それは想いが通じるということの喜びを私は改めて知った日でもあった。
 今ティアナは空を往き、夢に向かっている。私は彼女の邪魔をしていると思う。ティアナはまっすぐ過ぎた。脇目も振らず私を求めてくれる、それは嬉しい。でも私にはとても答える力がない。何故なら今の私にはヴィヴィオがいる。
 以前ティアナに名前の呼び方をそれとなく指摘されたことがあった。直接は言われなかったが彼女が『ティア』と呼ばれたがっていることは何となく分かった。親しいものなら誰でもティアと呼ぶ、彼女はそういった。『ティア』というのは彼女にとって特別な呼び名だったのだ。でも私は呼ばなかった。特別の意味なんて一人一人に、またそれぞれに違うものなのである。
 初めの時ティアナはそれ以上のことは言わなかったが、それからほどなくして二度目を聞かれた。ずっと気になっていたのかもしれない。
「ティアナはわたしに皆と同じように呼んでほしいの?」と私は訊いてみた。もしも頷くならそれ以上ティアナに入り込まないようにしようと考えていたが、ティアナは頷かなかった。いいえ、と彼女は言った。私はほっとする。
 私は『ティアナ』と呼ぶことが好きだった。だからよくティアナの名前を呼んだ。彼女は知らないかもしれないけど、それが私にとって特別を表す意味だったのだ。どんな意味であれティアナのことが好きだし大切に思っている。だが足枷になったのが今回のことだった。もし今より少しでも好きの度合いが低ければ迷わず「傍にいてほしい」と言っていたはずで、お互いはもっと薄く関係していられただろうと思う。
 しかし現実には違う。ティアナのことを想っているからこそ私はティアナを求めきれず拒絶もしきれなくて、酷く傷付けてしまった。それでも今こうして探しているのはやはりティアナを失いたくないからだった。それだけが私の凍りつきそうな足を動かしている。


 隊舎の明かりがぽつりぽつりと消えていき、今では数えるくらいしか明かりは灯されていなかった。みんな寝ている。まったくの夜が私の周囲を包みこんでいた。木々の間では夜の鳥が不穏な声で鳴いているし、月はいつのまにか消えてしまっていた。雲が流れる。
 しかしふと意識すれば波の音が鼓膜に囁きかけていることに思い当った。どうして今まで忘れていたのか。いや、どうして今頃気づいたのか。私は引かれるように海際へと足を向ける。
 少し歩くと広い海が見渡せた。冷たい冬の風が水面を浚い、小波を立てて揺れている。昼間の綺麗な紺碧も深く暗い色をしている。空ばかりを見ていて、私はしばらくまともに海を見ていなかった。そういえば今日はヴィヴィオと一言も話をしていない。しかしここにはティアナがいる。
 すぐ下を見ればよかった。そこにはティアナがいるんだ。たぶん、絶対に。
 私は波が打ちつけるコンクリート沿いの階段を降りる。石造りの階段を踏むたびに足音がこつこつと鳴り、静寂の中の波音を切り裂く。だけれども私はもう音のことなんてどうでもよかった。私はようやくうずくまるティアナを見つけた。そこでのティアナは膝を抱えて座っていた。傍らに置かれたクロスミラージュはひとり愚鈍な輝きを守っている。今は雲の背に隠れた月の涙を受けたような輝きである。
 彼女に近づいていくと体が小刻みに震えていることが分かった。唇も震えている。私は名前を呼ぶことも忘れて彼女の前で膝をつく。抱き締めたかったけれど私が抱き締めていいのか分からない。ティアナは今にも泣き出しそうに見えた。
「見つからないと思ってました」
 ティアナが青白い顔を上げてこちらを向く。
 ぎこちなく悲しげな笑みを浮かべたティアナに私は首を振った。無理して笑う必要はないんだよ。そう言いたかったのに声がうまく出せなかった。
「本当に探そうと思わなければ見つからない、そういう場所にいたんです」とティアナが言った。
「なのはさんがあたしのこと、そんなに真剣に探してくれるなんて、思って」
 夜の海ように深い瞳に涙が溜まったのをきっかけにして、ティアナはぼろぼろと涙をこぼした。言葉はそれ以上続けられることなく、ただか細い嗚咽が漏れるのみ。押し殺すようにしか泣けなけないティアナを私は迷わず抱き締めた。ティアナの体は私と同じくらい冷えていた。
「ごめんね」
 私のことで泣いてくれているのだと思うと悲しくなる。
 自分の価値を自分で評価することに何の意味があるのかと思う。私の価値はティアナが決めればいい。私を必要としてくれるティアナが。私はそのことにようやく思いが及んだ。
 体をいったん離して立ち上がると、私はティアナに向けて左手を差し出した。ティアナは頬に幾筋もの涙を伝わせながら私とその手を見上げる。
 ――ティアナ。
「こんなわたしでもよければ傍にいてほしい。傷つけるだけかもしれないけど、私はティアナと一緒にいたいよ」
 ティアナは力なく首を振った。
「あたしは……」
 波の音、風の声。それから自身の喉が掠れている。互いに沈黙の中から言葉を探している。
 私の答えははっきりとしていた。
 ティアナを失いたくないという気持ちだけが胸にあった。残ったと言った方がいいかもしれない。ティアナを探している間に考え続けたことの中で自分が最もで大切だというものだけが胸の中に残り、今の私がある。
 何より私は疲れていた。同時にティアナとすごく抱き合いたいとも。
「……おいで」
 ティアナはそれから静かに手をとった。強く握り締める。
 誰もいないところに行こう、と私は言った。ティアナも頷き私の手を引く。

 傷は一つ付く度に何かが上手になり、何かが下手になる。ヴィヴィオを損なう前の自分だったらたぶん誰も傷つけることはなかった。
 私は部屋に戻るとまず服を着替える。教導隊制服のままバイクに跨ることはできないだろう。
 着替えが終わると大切にしまっておいた鍵を引き出しの中から取り出し、それからフード付きのコートをひっかけると一度部屋を見渡してそこに忘れ物がないことを確認する。うん、何もない。私は意識的に瞬きをし頷くと外に出た。これから私とティアナは一晩限りの逃亡を始める。夢も希望も未来さえも無い逃亡だった。しかし代わりに絶望や落胆もない。
 車庫の前で待ってくれていたティアナに鍵を渡すと、彼女はグローブをはめた手でそっと私の頬を撫でた。お互いに温度は伝わらず、ただ存在することを確かめるだけの行為だった。彼女は間もなく私から離れると手早く準備を始める。作業をしているティアナをぼんやりと眺めている間、私はゴーグルを渡された。つけろということなのだろう。髪留めを解いてからゴーグルを装着するとなんだか違和感を感じて落ち着かなかった。
「なのはさん」
 ティアナが私を見る。準備が整ったのだ。
 私は彼女の後ろに乗り込み、腹部に手をまわした。ティアナは私がちゃんと乗ったことを確認するとハンドルを捻った。長い道路を走りゆるやかな坂を下る。バイクは六課からすごい勢いで離れていく。どこに向かっているのか聞いてなかったけれど、彼女がホテルに向かってバイクを飛ばしていることが私には分かっていた。私たちは寒いし疲れている。
「いつもこんなにスピードを出しているの?」と私は聞いてみた。大声で叫ぶ。
「まさか。いつもはもう少し安全運転ですよ。でも今日は飛ばしたい気分なんです」
「事故をしたら死んじゃうかな」
「プロテクトがあるしお互いにデバイスも持ってる。平気じゃないですか?」
 もちろん死にたいと思えばきっと死ねるだろうけど、とティアナは言った。それまでの会話と違い叫んでいたわけではなかったのに、ティアナの声は風の隙間を縫って私の元に届いた。
「もしなのはさんが死にたいと思ったらあたしは躊躇いなくハンドルを切りますよ」
「でも、わたしは死ねない」
 ティアナは少し間をおいて「分かってます」と言った。「なのはさんには待っている人がいる」ティアナは言った。
「けれどその人がいなかったら、あたしと死んでくれたのかな」
 私は返事をしなかった。それは独白に近く、ティアナは私の返事などおそらく期待していない。欲しかったらもっと風を切る音では消し切れないほどの大声で言っていたはずだろう。
 もの凄い速さでいろんなものが通り過ぎていく。途中で海に少し寄り、しばし時間を過ごしてから、再び走り出す。やがて到着すると流れる景色も止まった。そこは木々に囲まれ、取り残されたみたいに孤立した場所にあった。私たちはバイクを降りてキスをする。冷たく甘いアイスのような口付けを交わすと無人の扉をくぐり抜けた。
 ここは一晩だけの、私たちしかいない世界だ。ティアナはそれを望んだし、私も望んでいた。
 ティアナは時折唇で触れながら丁寧に一枚ずつ私の衣服を剥ぎ取っていき、脱がし終えると今度は私の番となった。私はまずティアナのジャケットを脱がせて絨毯の上に置く。首のあるセーターを脱がし、シャツを肌蹴させた。下着に覆われた形のいい乳房と白いお腹が見える。
 見慣れたティアナの体を手を止めて眺めている途中、ティアナが私の腰を抱き寄せる。へその下の方に彼女は口付けてくる。腹部を撫でる舌にくすぐったさを覚え、私は身をよじった。
「わたしから脱いだのは失敗だったね」
「理性はあるつもりだったんですが、今日に限ってはそうかもしれません」
 彼女は自分でジーパンとスカートを下ろし、もどかしげに下着を足から抜き取った。
「我慢しなくてもいいよ。そんなものはここでは必要ないし、ティアナは私に何をしてもいいの。わたしはちゃんと応えるから」
「乱暴になってしまうかも」
「手足を縛るくらいならいいよ」
「――いいんですか?」
 私は頷いた。以前にも求められたことがあったが、私は断ったのだ。ティアナはしばし考えるふりをし、私の方を向いた。
「じゃあまず壁際に立ってください。背を凭れて、そう。それから自分で触ってください」
「どこを?」
「どこでも。ただなのはさんは分かっていますよね」
 私がそろそろと手を下ろしそこに指をあてると、ティアナは頷いた。
「擦って、濡れてきたら指を入れて……ああ、でも必要ないくらい濡れてましたね。あたしがお腹を触った時から」
 私は赤くなった。でも首を振ることはできない、それは本当のことだった。
「なのはさんはお腹を触られるのがいいんですよね。もちろんあたしもなのはさんのお腹は好きですよ。白くてすべすべしてて」
「たとえ脇の方に傷があっても?」
「傷というものは愛しさに幾らでも変わる」とティアナが言った。「その傷がなのはさんの誇りであるならなおさらね」
 ティアナは興奮すると敬語が崩れることがある。私はその一瞬が好きで、意図せずに微笑んでいたのかもしれない。ティアナが眉をしかめ、自らの額を指の関節でこつんとノックした。
「ああもう。愛しすぎて自分の方が我慢ができなくなりそう。バインドかけちゃいますね」
 彼女は私を座らせると四肢を円形のバンドで固定した。両手を耳の横にまで持ち上げられ、両足は左右に大きく広げられる。ティアナは私のをそっと指で開く。濡れた茂みもその入口もティアナからは全てが見えてるはずだった。恥ずかしかったが顔をそらすことは許されていなかった。
「へんたい……」
「見ているだけで濡れてきてますよ。あたしにはそっちの方が変態だと思うんだけど。それに許可をしてくれたのはなのはさんじゃ?」
 ああ、そうだ。ここは二人だけの世界で、恥ずかしがる必要などなかったのだ。私は体内に熱く溜まった息を吐きだす。それからティアナを見上げ、懇願するようにティアナ、と呼んだ。
「ねえ、知ってます? 今のなのはさんの声も顔も、すごくいやらしいですよ」
 キスの後ティアナの目の淵には涙が浮かんでいた。どうしてと聞くのは野暮だろう。こんな状況なのに私の胸は痛いほど軋んでいたし、自由を奪い責めているはずのティアナは私よりもずっと強く胸を押さえ、痛いと言っているように見えた。私には彼女の痛みをどうすることもできず、彼女のしたいことをしたいままに受け入れた。むしろ傷付け合うことで痛みを紛らわしているのか、ティアナは私の隅々まで犯そうとした。
 床で浴室でベッドで、私たちは必要最低限の食事と睡眠を挟みながら何時間でも交わった。ティアナの舌や指はどこまでも真剣に私を求めてきた。夜が明ける頃になると、私の体中でティアナの触れない部分はなくなった。私もティアナの体で知らない部分はない。あるのは心の中だけだ。きっとどこまで突き詰めていってもお互いの心の中を知ることはできない。
 この時間は永遠ではなく、やがては終わってしまう。時間がくれば私は帰るべきところに帰らなければならなかった。外は完全に明るく健康的な日差しが部屋に差し込んできている。普通なら早朝訓練を始めている時間、目に痛いほどの太陽の光の中で私たちは汗だくになっている。
 だってもうすぐ世界は終わってしまう。
 死以外でも世界は容易に幕を閉じることができるのだと、私はこの日初めて知った。

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