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2019-11

『秋、はらむ空』 五章 蒼き星粒……5

『秋、はらむ空』 各タイトル⇒目次

五章 五話「白紙に蘇る文字」
三章の副題でさんざん燃やしたものが、復活した。
読み終えたとき、あなたはこの言葉を理解していただけることだろう。

――記憶なんかで想っていたわけじゃない。



 秋、はらむ空
 五章 ―蒼き星粒―


 5.白紙に蘇る文字――ANOTHER SIDE

 連絡が入ったのは日暮れ過ぎである。
 データをまとめ、そろそろ騎士たちと夕食を取ろうかという頃だった。今日あたりに戻るあの子のことを思い、密かに心配していたヴィータも喜ぶんだろうなと考えていた。そのヴィータは今日は夜まで教導をつけていて少し遅くなるらしい。
 少し前のような全くの無茶は止めて、自分のできる範囲の仕事をこなすヴィータに、頑張り屋さんやなあ、とはやては口元を緩ませる。はやて自身も内心ではなのはのことが心配だったが、前日になのは本人から明日には終わりそうだと連絡を貰っており安心していたところがあった。
「なのはちゃんが墜ちた?」
 はやての言葉が響く。
 突然過ぎる報告だった。荒野で一人きりだった彼女から通信が途絶えたという連絡を、はやては信じられない気分で、しかし一言も洩らさないようにしっかりと聴く。なのはの周りに誰もいなかったという事実におかしいとはやては感じた。どうして依頼主は一人でなんて行かせたんだろう。仮にも大規模事件のエースを指名できるくらいだ、他にいくらでも護衛や付添いはつけられるはずだった。
 映像が送られてくるのを見るにどうやら向こうはまだ昼間らしく、晴れた空の青とやけに明るい血の赤が目に染みた。鮮やかな血が空気に触れ、やがて黒く変化するだろうことをはやては思う。孤独に埋もれながら血を流し、冷えていく彼女の心情を想像すると、はやては拳を握る。
「それで、ええ。高町一等空尉――彼女はどんな状態ですか」
 はやてが尋ねる。まだなのはは荒野に取り残されているらしく、生命反応はあるようだったが微弱過ぎて、直接見ないことにはなんとも、という曖昧な返答がくる。はやては側面の壁を殴り付け、どうして誰も行かないんだと叫びたいのを堪え、すぐに救助に向かわせますからと断った。自分たちが行かなければ、もし助かる可能性があったとしても、助からないだろうという予感があった。
「誰が空いとるんや、誰がおる」
 最適なのは同じ隊のヴィータだったが、彼女が教導から戻るのには時間のロスだし、フェイトはなのはのいる世界と六課を挟んだま逆方向に出張中だった。シグナムは緊急のために六課にいてもらわないといけないし、じゃあ自分が出るしかないだろう。
 そこまで考えて、はやてはふとヴィヴィオの存在を思い出した。ガジェットは全機撃墜されているようだった。ならばヴィータから教えを受け、なのはらの戦技を見ているヴィヴィオでも迎えに行ける。なにより、なのはの一番の支えになるはずだった。
「お願いしてええか?」
 ヴィヴィオは無論頷いた。
「もしだめって言っても行きますから」
「どうやって?」とはやては一応聞いてみた。「どうやってでも」とヴィヴィオは言い切る。なるほど、なのはの子供に違いないとはやては思う。
 態度にこそ出さなかったがはやては必死だったのだ。だからヴィヴィオの、なのはを見詰める瞳に潜んでいたあまりに真剣過ぎるものの正体に気付けなかった。
 ヴィヴィオを転送ポートまで見送るとはやては医療院に手配をし、隊長陣・フォワードメンバーに連絡を済ませると、あとは待つだけとなった。はやては椅子に浅く腰掛け、組んだ手を額に押し当てる。
 大丈夫や、なのはちゃんは死んだりせえへん。だって彼女は誰にも負けないエースオブエースやもんね。過ぎる時間の中で、はやてはそう自分に言い聞かせていた。

    *

 霧がかかったように視界はよくなかった。
 ヴィヴィオは辺りを見渡し、あの人はこんなにも寂寞した世界に独りきりでいたのかと思う。こうして朱に染まる白い防護服を纏った彼女を見て、そのことに酷く絶望する。
 強く求めた人の姿があった。ヴィヴィオは永い間なのはを求めていたが、ヴィヴィオ自身がそれに気付けなかった。思い出す前でもヴィヴィオは彼女のことが大好きだった。話を聞くと昔の自分は今よりもずっと彼女に懐いていたらしいけど、それよりも今のほうがずっとずっと好きだという自信があったのだ。けれどいざ思い出してみれば馬鹿らしいほどに、昨日よりも、ほんの数時間前よりも彼女のことを愛している自分に気付く。彼女の顔を見ただけで涙が零れていく。頬を伝い顎から滴り落ちる。落ちた雫は、足元の彼女の白い防護服に。
 晴れた日に霧はかからない、視界が悪いのはヴィヴィオが泣いているせいだ。
「恋人はいつか離れるかもしれないけど、家族はそう簡単に離れたりしない」と以前ヴィヴィオは言ったが、死ねば全てが終わりだった。しかしもし彼女が死んでしまったなら、アルハザードに行ってでも取り戻しに行くんだろうということもヴィヴィオには分かっている。
 誰よりも優しく、強い人だった。自分のことを大切に思ってくれるのが子供心にも分かった。彼女は力強い声で助けようと手を伸ばしてくれた。そのときヴィヴィオは世界で一番なのはのことを愛し、いつかこの人を護るようになろうと決めたのだった。記憶を焼かれても魔法を学ぼうと考えたのは、心の奥底にそういう気持ちがあったからではないだろうか。今度は自分が助けてあげられるように、と頭ではなく心で誓っていたのだ。
 記憶なんかで想っていたわけじゃない。
 彼女のことを想うとヴィヴィオの胸は焼けるように熱かった。こうして彼女を見ているとあの頃のことがよぎる。母として優しかったなのはのこと、ベッドの中で追憶に駆られるように多くを取り混ぜて語ると、彼女がとても喜んでくれたこと。キャラメルミルクをつくってくれる時、どうしてあんな寂しい顔をしていたのかということ。
 瞼を落とした彼女の顔は青白いながら安らいでおり、あがきや苦痛などといった感情を見い出せない。この世界に彼女はこれっぽっちも未練がない顔で、ヴィヴィオはそこにこそやり切れなくなった。付近に散らばるガジェットの残骸をみれば、たとえ疲れていても遅れをとるような相手じゃないことは間違いない。自分は彼女の未練になれなかったのだろうか……。
 何気なく見た彼女の手元に咲く一輪の花に、ヴィヴィオはふっと目を惹かれる。太陽の色をした花が寄り添うように荒野にひとつだけぽつんと咲いている。ヴィヴィオは思い出したように空を見上げ、それから再びなのはを見た。なのはの左腕に抱かれたデバイスが陽光を浴びて無機質な輝きを放っている。
 厳粛な空気を割るように近くで獣が吠えた。見れば、汚れきった茶色の毛を引きずりながらこちらに向かってくる者の姿がある。短い耳をピンと立て舌をだらしなく垂らしているが、瞳には狡猾な光が宿っていた。血の匂いを嗅ぎとった獣がやってきたのだろう。数は六匹。狼やハイエナの類いはどこにでもいるらしい。
 ヴィヴィオはぎゅっと目元を細めると彼らを睨めつける。彼らはびくりと体を震わせたものの、引き返すはずがなかった。久々に、それも極上の血が流れたのだ。彼らは匂いでそれと識っていた。ぜひ口の周りを素晴らしい血で濡らせ仲間に誇ってやろう、とそういう魂胆だった。
 ヴィヴィオはそんな彼らに、苛立たしげに奥歯を擦り合わせる。邪魔だった。邪魔しないでという呟きは、無論彼らには届かなかった。数秒後、聖王の力を見せつけられた獣達は手負いの足を引きずり、すごすごと逃げ帰っていく。ヴィヴィオはもう彼らに一切の関心がない。
 傍らに咲く、ヴィヴィオの髪と同じ色の花に、なのはの指が触れている。何かがなのはを引きとめてくれたんだということがヴィヴィオにはわかる。ゆっくりと息を吐く。
 ――死ぬはずがない、と思った。
「だって私がまだここにいるよ、なのはさん。私は生きてる、あなたに助けてもらったんだよ」
 ヴィヴィオは涙を拭ってなのはに近づき、彼女の傍で片膝を折る。胸に耳を当てれば微かに鼓動の音が聞こえた。そうだ、死なせない。どれほど自分勝手でもいい。この人がいなくなったら私の存在はまったく意味がないのだ。
 なのはの頬を人差し指で二筋なぞると、紅い雫がつうと耳朶を伝い落ちていった。聖王の姿でヴィヴィオはなのはを抱き上げる。
「大丈夫……なのはママ。ヴィヴィオが絶対に助けるから」
 抱く腕に力を込めると、しっかりとした足取りでヴィヴィオは急いだ。

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