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2019-11

『秋、はらむ空』 六章 その始まりは、あの終わり……5

『秋、はらむ空』 各タイトル⇒目次

五話「季節はぼんやりと過ぎていく」
なのはさんが自分のことをエースと呼ぶのは、別に本当にそう思ってるわけじゃなくて、思いこみでそうあるように言動するためだ。時には自分の存在を大きく見せることで、戦いに向かう教え子を支えてようとした。二つの役割。でももっとあるかもしれない。
機動六課が続いてほしいと、私こそが思った。

――なんて優しい復讐心だろう。



 秋、はらむ空
 六章 ―その始まりは、あの終わり―


 5.季節はぼんやりと過ぎていく

 ついに来てくれなかったヴィヴィオのことを考えながら、私は機動六課の地を踏んだ。
 六課の親しい人たちは皆私を快く迎え入れてくれた。レイジングハートも修繕を済ませて戻ってきてくれた。彼女は前のまま、不具合もなかった。
 その日の仕事を終えたあと、彼女らは疲れている中だというのに、二時間ほどの会を提案してくれた。会の中でも見なかったヴィヴィオの姿を、驚いたことに自室の明かりの中に見つけた。
 未だ戻らぬ体力に疲弊して、私は早く寝ようと思った。ここでは見回りに来るものもいない、訪問者も今日はいないだろう。完全な独りきりの状況が作れると思っていた。だが車輪を転がし扉を開けてみると、そこにはヴィヴィオがいたのだ。私は内心酷く驚いていたが、表では平常を装い話しかけた。
「ただいま、ヴィヴィオ」
「うん」
「帰ってきたよ」
「知ってる」
「……にゃはは」
 ヴィヴィオは何も言わなかった。あるいは私の方が無駄な言葉を不用意にかけすぎたのか。彼女は俯いたままポツリポツリと返事をするだけで、決して私の方を向かなかった。
 やがて沈黙に耐えかね私がまた無意味に言葉を口にしようとしたところで、ヴィヴィオが呟いた。
「どうして」とヴィヴィオが言った。「なんで私のこと怒らないの?」
「怒る?」
 意味がわからず、私は首を傾げる。
「だってなのはさんが入院している間、一度もお見舞いに行かなかった」
 それがどれだけ非情なことか、ヴィヴィオは識ってそうな顔で。しかし私は彼女を怒る気など全くなかった。顔を見れなかったことが呼んだのは怒りではなく、ひそやかな寂寥。埋まりようのない喪失感である。内に住む陰鬱は元々で、慣れた寂しさを怒りに代えてぶつけることなどあるはずもなかった。その寂しさも、ヴィヴィオの顔を見たさっき、瞬く間に霧散していった。
 ヴィヴィオに、会えただけで嬉しかったのに。
「駄目だったの。何度も行ったけどどうしても部屋に入ることはできなくて、会えなかった」
「ヴィヴィオ……」
「ごめんなさい」
 まだ退院する前、一度だけはやてにヴィヴィオのことを尋ねたことがあった。今、あの子はどうしているのかと。元気にしているんだろうか、ひたすらに心配だった。はやてはしばらくの空白を置いたあと、勉強熱心でよく訓練も一緒にすることがあるよ、と答えた。ヴィヴィオについての心配はそこでなくなった。あとは自分の感情の問題だ。会えない故の寂しさはただのわがままだったから、抑えればそれで済んだ。
 俯き、謝る少女の声がこころなし震えているような気がした。気付いた時、私はヴィヴィオを手元に呼んだ。
「ヴィヴィオ、おいで」
 彼女は躊躇いがちに歩み寄ってくる。膝を床につき、私と目線を合わせた。彼女の髪をそっと撫でる。背中に手は届かなかった。いっそ車椅子を降りれば良かったんだろう。けれどそれは砂に身を埋もれさせるに等しい勇気がいった。
「おかえり、……なのはママ」
 これほど誰かを愛しいと感じたことはない。
 恋情で結ばれた二人はいつか離れても、親愛で繋がれた二人は半永久的に心をつなげる。そんな乏しい永遠さえ私は信じたくなった。

 ヴィヴィオの呼んだ名前を私は気にも留めなかった。ヴィヴィオなりのけじめなのだと思い、それで終わった。何より彼女がそう呼んだのはあの一度きりだった。それからは以前のように呼び、私たちはまた、憩いの時間を取り戻す。穏やかで静謐なひとときである。
 退院して間もなくリハビリがはじめられた。
 私はやっぱり空が恋しかったし、機動六課は元々の期間が過ぎても続けられることになったのだ。ということは、魔法を行使でき、空を飛べるようにならなければ教導官は永遠に務まらないということだ。今更夢をうたうのはおかしいかもしれないけれど、これも私にとっては大事なことだった。四人がランク昇格試験に合格した。でもまだ教えてないこともある。これからだった。そう、これから――。
 元の教導隊には戻れないのではないかという当然の疑問もあった。だがその件については話し合いが済んでいると、はやてが言ってきた。
「心配することは何もないんよ」
 協力者の一人、カリム・グラシアはこう言ったらしい。「教会に来た時のあなたは、あまりにも儚そうに見えたの」既に護らなければいけない存在なのだ、私は。一人の英雄(エースオブエース)ではなく、お姫様だと見られている。それを知るのは、何よりも苦い想いがした。それよりもエースオブエースと大袈裟に言ってくれた方がまだそう振る舞うこともできるが、姫などと見られてはたまらない。私はそんな位置にはいたくなかった。
 意義を申し立てようとして、しかしはやての顔を見てしまうと言葉は沈んでしまった。
「みんな、なのはちゃんと離れたくないんや」
 私は彼女の言葉を好意からだけと取ることはできなかった。
 はやての言葉にはひそやかな復讐のようなものを感じる。待つべきものがいる自分が、ただ一時生を手放したことを責めている。家族のいるはやてにはそれが許せなかったのかもしれない。なんて優しい復讐心だろう。
 一番の理由はやはりヴィヴィオだった。私の傍には以前よりは遠い場所にヴィヴィオがいた。なら遠くからでも私は護れるようになりたかった。
 なのに周りはそうはさせてくれない。
 リハビリは推薦し、実際にすることになれば応援もしてくれた。だが機動六課の存続が決定してからそこはただのゆりかごのように思えた。護られるべきものを囲う護り人達。機動六課という一種の檻が春には完成する。
 ……私なんかを守るために仕事をするという姿は、どこかおかしい気がした。フェイトが賛同するのは、まだ分かる。けれどフォワードの四人までが残るというのはどうだろう。エリオとキャロはフェイトと同じ仕事ができるのをよしと考えるかもしれないが、スバルもティアナもここは夢への道の途中にすぎないはずだった。特別救助隊、そして執務官。
「ゆっくりでもいいんです。しっかり追いかけられますから」とスバルが言う。「まだまだティアは心配ですしね」苦笑をもらすスバルの顔を私は無表情に眺めてしまった。視線を外し、ティアナの方を向く。ティアナは言った。
「独りにしないという約束はまだ続いてるんですよ」
 ヴィヴィオといないなら有効のはずだと。ティアナには珍しく笑った。そこで彼女の心が決まっていることを知る。美しい笑顔には、かつて自分がしていたような不屈の意志があった。
「それに試験はここでも受けられます。平気ですよ」
 守ろうとして、気付けば守られていることの無力さに抗うためにも私はリハビリに励んだ。無駄かもしれない、けれど時間のやり過ごし方を私は他に知らない。諦めるという考えなどはずっと昔、どこかに捨ててきてしまった。
 冬がいつの間にか過ぎていて、見上げれば春が桜の花びらに乗ってやってきた。はやてが植えた桜が幾本も咲き、既に広場は満開である。なのはさんの魔法の色みたいですね、と誰かが言った。スバルのような気がする。私は笑い、あらためて空を見上げた。魔法よりも魔法らしい、美しい光景だと思う。その気になれば夜、冬の無骨な枝に魔力を灯すことでそっと咲かせることができそうだったが、その幻想は初めて見る者にしか通用しない。本物を見た人には興ざめの芸にしかならないはずだ。
 長い時間空を見過ぎたせいで、頭がつきんと痛んだ。額に手を当て数十秒ほど目を閉じていた。瞼の裏側にはまだ青が残っている。そんな圧倒的な空の青に眩暈がした。見上げるだけじゃとても足りない。
 夏になったら私はあそこにいるんだろうか。そして機動六課を――?
 夜、明るいままの隊舎を抜け出し、私は再び広場に来ていた。熱を帯びる前の冷たい春の風は、どことなく貴くて儚い。秋ほどの寂しさを運ばない変わり、夜の春風は吹かれる者に妙な脆さを感じさせた。暗い空を見上げる。一面が雲に覆われ、星も月もない夜である。でも空だ。そして暗闇を最も強く照らすのは星や月ではなく、魔法光だった。金だったり紅だったり朱だったり、さまざまな光が駆け抜けていく夜空は、昼間の桜吹雪よりも美しい景色になる。

 その年、新暦七六年の七月。私は再びあの眩暈のするような青の中にいた。

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