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2019-07

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『秋、はらむ空』 六章 その始まりは、あの終わり……7

『秋、はらむ空』 各タイトル⇒目次

七話「その始まりは」
はやてはね、優しいんだ。どこまでも。
フェイトはね、好きだったんだ。なのはのことがどこまでも。
そしてなのはは、愛してたんだ。何を?……いろんなものを。
決して博愛主義じゃない彼女が愛そうとした、その結果。

――「なのはを連れていく」



 秋、はらむ空
 六章 ―その始まりは、あの終わり―


 7.その始まりは

 夏というのはどうしてこうも晴れの日ばかりなのだろう。雨は元々降らないが、曇りの日まで少ないのはなぜか。ミッドチルダに移住してきたとき、まさかこちらに四季があるとは思わなかった。だけどたとえ四季があったところで生活に影響などでるはずもない。白い陽に髪を焼かれる心地も慣れ、私はいつも通りの日常をこなしていた。普段と何ら変わらぬ一日であり、その前の一週間も特に変質はなく、だからそれは唐突に訪れた。
 訓練の後の休憩時間、木陰で本を読んでいたヴィヴィオに、夕食を一緒にどうかと誘われた。
 私は今日の予定を思い返し、少し遅くなりそうなことを思って返事に戸惑った。つまりいつもどおりの時間。今まで夕食を一緒にしなかったのは私が遅い時間にしか食事をとれないせいで、待たすまいと考えてのことだ。一日くらいはいい。けれど毎日待つのはきっと疲れてしまう。だが今日に限って彼女は首を横に振り、「遅くなってもいいから」と肩をすくめた。もちろん私は頷いた。きっと用事があるんだ。
 大急ぎで仕事を片づけて食堂へと向かう。そこで話をするのかとばかり思っていたら、世間話や魔法の話で時間が過ぎていた。食事を終えて立ち上がり、考え過ぎだったんだろうかと私は内心で首を傾げる。だけど「遅くなってもいいから」と言った時の彼女の表情は、とても何でもないとは言い難かった。言われたときは嬉しさしかなかったが、こうして考えてみるとやはり引っかかるものがある。理由は、彼女の部屋に誘われた後で分かった。
「明後日、ここを出ようと思う」
 その時テーブル越しに向かい合って、増えていく書物を見ていた。
 ヴィヴィオの言葉をただ無防備に受け止めた私は、彼女の顔に視線を向けられない。本のタイトルを眺めている。けれど彼女は私の方を見ていた。
 唐突では、きっとなかった。
 日常に埋もれかけたが、この懸念はリハビリの最中に何度も感じたことであった。ヴィヴィオの顔はやけに真剣で、言葉にするのもはばかられるほど思いつめた表情をたまにした。けれどすぐに消え、幻とさえ間違いそうになるくらいの一瞬の歪みでもあった。目標だった距離を歩ききってみせれば、彼女は笑顔で私を迎えてくれた。背を撫で、髪を撫でた。「頑張ったね、なのはさん」その言葉が嬉しくて私はまた頑張った。息が切れ、足が震え、たまに身を崩して体を床に打ちつける。リンカーコアの修復など激痛であった。数千もの針に貫かれ、灼熱の業火に焼かれてもてもこうまでは痛くはない。気を失うぎりぎりのところで、長い間保たれている苦痛。血の色をした水たまりのような場所になお、自分から飛び込んでいくのは大変な勇気がいった。九年前の事件より傷はずっと深いようだった。後遺症のみの時でさえ、激しい痛みに苛まされていたのだ。しかしどれだけの苦痛も、ヴィヴィオの優しい言葉や笑顔を受け取る幸せには叶わなかった。
 ヴィヴィオは言った。自分がいなければ元に戻れるのだと。そこで、私はここにきて初めてヴィヴィオの顔を探し当て、見つける。彼女の顔はほんのすぐ近くにあった。彼女の顔はティアナやフェイトとも違う種類の綺麗な造形のされかただった。
 幼かった時、ヴィヴィオはただ無邪気で可愛らしかった。今の彼女は見惚れるのではない。逆に目を逸らしてしまいそうな、けれど絶対に逸らせない程にそこに縛りつけられるヴィヴィオの顔立ち。陰る彼女の瞳はそれでも美しく、光を忘れてはいない。それに彼女の目は私を一度も見失うことなく射抜いていた。
 この目が失われる。彼女がここを出たら、凛々しい眉は二度と私に向けては動かず、憂う瞳はもう私を見なくなる。
「私がいなければこうまで複雑にはならなかったんだよ」とヴィヴィオは言った。
「出会わなければよかったんだよね、きっと最初から」
「最初から?」
 問うとヴィヴィオは少し口元を緩め、首を振った。私の前で彼女はよく首を振る。
「……なのはさんの言う、再会した最初のこと。発見されたときのことを私は覚えていないけど、雪の中から見つけ出されたんでしょう? どうしてそんな中から分かったんだろう」
 運命、と私は呟いた。ずっと考えていたことだった。運命。
「私もそう思ったことがあった。けど運命ならどうして離れたりしたんだろう? 離れなきゃいけない理由なんてなかったよ、どこにも。もし一緒にいたら私たちはもっと上手くいっていたかもしれないのに、今じゃどう足掻いたって上手くいきようがないんだから。なのはさんが誰も選ばないのは当然のことだと思ってる。誰にも責められないし、責めちゃいけない決断だった」
 果たして、言ったことがあったかと思う。が、私の考えなど見通されていたんだろう。
「けれどそのうち無理がくる。今日私がなのはさんを誘ったとき、後ろにいた人達の変化に気付いてた? 声にこそ出さなかったけど表情には明確に表れてた。怖がってる。こうしてなのはさんと一緒にいてでえ怯えてるんだよ、あの人たち」
 ヴィヴィオはそう言って目を伏せる。
「だから私がここをでるよ。やっぱり一緒にいられないみたい」
「わたしとヴィヴィオとは」喉が痛かった。その先の言葉を言って、否定されてしまうことを考えれば恐ろしかった。だが、言っても言わなくても変わりはない。ヴィヴィオの方から口にした。
「もう、親子でもないよ」
 親子にはなれないんだよ、とヴィヴィオが言う。「そうだよね」その通りだ、と私は思った。別れを言ったあと、一度でも私の方から親子になろうと努力したことがあっただろうか。それどころか遠くの地に身を置き、逃げだしてしまった。ならばこれは自分が招いた当然の結末だ。
 六課を離れていくというヴィヴィオを引き止める権利は私にはない。だから私は自分に僅かに残された言葉をのみ言った。
 不誠実な私の言葉の意味も、きっと彼女は気付いてくれると。気付いてほしいと信じていた。ああなんて勝手な。転がり落ちた想いは私の抱えるたった一つの真実だった。ヴィヴィオにはいつだって本当のことを言わなかった。親子だとはっきり言い返せばよかったのだ。私はいつだって嘘をついてきた。『これから、本当のママになっていけるように努力する。だから、いちゃいけない子だなんて言わないで』――自分の声が遠い。痛いくらいの想いはここにではなく、あんな場所にあった。
「愛してる、ヴィヴィオ」
 握った手の甲に雫が落ちる。私の長い間溜まって零れなかった涙が音もなしに流れていた。愛してるよヴィヴィオ。愛してる……。
 なのに私は、どうしてヴィヴィオを引き止められないんだろう。それが分からなくて悲しくなってくると、また、ぽたぽたと涙が滴る。止まる気配のしない雫を、頬を、ヴィヴィオの指が撫でた。そこは未だ傷痕の深く残る場所だった。
「私も、なのはさんのことが大好き」
 愛していると。何故か苦しげに目を伏せるのを、私は薄ぼんやりとした視界の向こうに見ていた。

 明後日に出ていくと彼女は言った。
「お世話になった人に挨拶がしたいから。突然言ってさようならじゃあんまりにも失礼だし。それにこうして出ていくといっても私なりに感謝してるの。ここに私を置いておけるよう計らってくれたはやてさんや、良くしてくれたヴィータお姉ちゃんにフェイトさん。ティアナさんやスバルさんとはよく訓練を一緒にした。たまにシグナムさんと打ち合ったりね。ザフィーラさんやアイナさんにもお礼を言わなきゃ」
 当たり前だが、ヴィヴィオは私の他にも六課で多くの関わりを持っていた。私の知らないところでというのは少し寂しかった。
 ヴィヴィオは関わった人たちの悲しんだ顔を、もう見たくなかったのかもしれない。優しい彼女は自分のせいで傷ついているのだと感じたのだ。そういったことも、彼女に六課から出ることを決意させてしまったに違いない。
「全部済ませた翌日に帰るね」
「見送るよ」
「いいよ、そんなの」
「見送りたい。朝は難しいけど、夕方頃なら時間取れるから。きっと私だけじゃなくて皆来ると思う」
「……うん。なんか珍しく強引だね」
 そうしないとヴィヴィオと会える機会を逃してしまうからだ。
「六課を出てどこに行くの?」
「さあ。でもどこにだって行けるよ」
 そうだね、と私は思った。ヴィヴィオならきっとどこにでも行けるだろう。出会った頃のヴィヴィオはもっと覚束なかった。不安定で、私に対していつも怒っていた。だが私から離れた場所――木陰で本を読んでいる時などには、彼女の顔は葉が散らす影に表情を覆われていて、強気な瞳の奥には危うげな部分が見え隠れしていた。けれど今は違う。今のヴィヴィオはしっかりと前を向き、自分の意志でここを出ようとしている。そして私はどこにも行けないし行きたくないと思っていた。一人、ここを抜け出すことはできる。けれど、その後の事が私にはどうしても想像がついた。一人でいる自分。きっと何でもやりきってしまう自分。その度に自分が擦り減っていき、やがて倒れてしまう。護るべき人達から離れた末の結末としては最低のものであった。
 ヴィヴィオの手を取り、二人でという考えは、浮かんでくる度に消した。それはあまりにも魅力過ぎていて逆に恐ろしい。
 翌日はよく晴れた、夏らしい一日だった。早朝だというのに訓練中にはみな汗をかいている。雨の兆しはない。訓練前にヴィヴィオはフォワードのメンバーや隊長陣を集めて挨拶をした。ヴィータが真っ先に私に顔を向けた。紅い髪の隙間から驚愕の色に染まった瞳がのぞく。念話を送られるかとも思ったが、何事も起こらなかった。フェイトとティアナも無言である。
 挨拶は数分で終わった。一日も、数時間くらいで終わった気がする。朝が再びやってくる。陽が暮れるのを、私は仕事に身を置くことで考えないようにしていた。空が赤く染まり午後の訓練がひと段落つく頃、ヴィヴィオが私の傍にやってきた。手に荷はない、が、彼女はまぎれもなく六課を去るのだ。表情がその証拠。
「広場に行こう」と私は言った。「人数もいるし」
「あそこは今の時間、すごく綺麗な空が見られるよ」
 ヴィヴィオの方が広場のことをよく知っている。私もヴィヴィオを見ていたから、多分それなりに知っている。
「じゃあ行こうか」
 私は散歩にでも行くようにヴィヴィオを誘った。

 雲は燃え盛り、空が狂おしく色をとりどりに変える。夕映えがヴィヴィオを紅く染めていた。
 私より背の高い彼女は、このところずっと私に優しい笑みばかりを見せてくれていた。再会したばかりの厳めしい表情をしていたヴィヴィオとはまったく別の人の顔みたいに見える。でもあれもヴィヴィオだった。私は出会ってから二度、ヴィヴィオに心を奪われたのだ。ヴィヴィオは未だ昔のことを思い出さないけど、そんなことは些細だった。昔のヴィヴィオも今のヴィヴィオも、私にとってはすべてだった。
 だけど私は今日、彼女を送り出す。
 昼間は青く茂っていた広葉も夕暮れに染まると黒く塗り込められていた。陽は赤く赤く、近づく日没を予言している。互いの位置を少しずらすとその人を黒い影が覆い、誰だか分からなくなりそうな黄昏時。だけど稲の穂がなびくような金色の髪に、それがヴィヴィオと知る。はやてとフェイトがやってくると、私はあらためてヴィヴィオに向きなおった。
「忘れ物はない?」と私は訊いた。ヴィヴィオは頷く。「ないよ」
 フェイトとはやて、ヴィータ、守護騎士達がいた。スバルやティアナもヴィヴィオを見送りに来ていた。ヴィヴィオとの別れが辛いのか、涙ぐんでいる人までいた。私はヴィヴィオの部屋で泣いたきり、あとは泣かなかった。
 今日一日私は仕事に集中していた。ヴィヴィオのことを想わなかったわけじゃない。しかし、仕事は私をいつも没頭させる。特に訓練はどんな変わり映えのしないものでも、一度足を踏みいれてしまえばそこにのみ集中する。むしろ自分から進んで没頭し、普段よりもはかどったほどだ。そういえば一年前にヴィヴィオがさらわれたときにも、私はこのようにして気を紛らわしていた。そして焼け跡からぬいぐるみの残骸を見つけたとき、それらの努力がすべて無駄になった。今日もそうだ。いったん服を着替えようと部屋に入ってから見つけたあのぬいぐるみは、私の心を激しく震撼させた。
 私をじっと見つめてる彼女に、ヴィヴィオ、と声をかけた。後ろの誰もヴィヴィオに声をかけなくて、たださらさらと木の葉と風が擦れる音のみがした。
 こういうとき何と言えばいいんだろう。
 ここに来る前、来てからというもの、ずっと考えている。何て言えば引き止められるんだろうとそればかりを考えている。
「やっぱり行くんだ」
 ヴィヴィオは目を細め、「本ももう返しちゃったしね」と微笑む。
「でも、なにも一人で行くとは言ってないよ」とヴィヴィオが言った。私は意味が分からなかったが、彼女は続ける。
「もしなのはさんが一緒にいたいと言ってくれるなら、私は私の全部をかけてあなたと一緒にいるよ。その終わりまで、ずっとついてる」
 ヴィヴィオの真摯な瞳にあてられて、ふらつくような気分だった。それが私には、ヴィヴィオが初めて向けてくれる告白のような気がしたのだ。
 私はふるふると首を振った。行けない。
「……行けないよ」
 ヴィヴィオが今度は首を振った。もう何度目かに見るヴィヴィオの首振りさえ自身の胸を痛める。
「違うよなのはさん。行けるか行けないかじゃなくて、行きたいか行きたくないかを聞いてるの。私と一緒にいたいかどうかだけなんだよ。どんな答えでもいい。それが心からの言葉なら私は受け止めて見せるから」
 ヴィヴィオが私を見つめる。二色の瞳に見つめられると涙が滲む。
「なのはさんの本当の気持ちを、私に教えて」
 彼女の身を防護服が纏うという錯覚を見た。そして聖王の鎧と、踊り狂う虹色の魔法光を。
 その言葉で私の中がいっぱいになった。ゆりかごで私は同じ言葉をヴィヴィオに言ったことがあったのだ。幼い姿だった頃にあった色んなことをヴィヴィオは覚えてる。思い出している。そのことに気付いてからではもう拒絶などできなかった。
「いたいよ。ヴィヴィオと一緒にいたい。二度目に出会ったときにそう思ってた。離れたくなんかない。本当はわたし、ヴィヴィオとずっと一緒にいたいよ……」
 自分でわかるくらいぼろぼろだった。もうどうしようもなかった。言葉が口を勝手についてでる。ヴィヴィオのことしか見えない。ヴィヴィオだけでいいとこのとき初めて思う。後ろで親友や騎士や教え子たちがいることなど忘れ去り、ただ懇願していた。
「だから、傍にいて」
 置いていかないで。
 私は縋った。言葉でヴィヴィオを求めた。私とヴィヴィオとの距離は離れていて、とても手を伸ばしたくらいじゃ届かなかった。私は歩けない。だから、ヴィヴィオの方を見た。
「私にはね、あなたを幸せにする自信がない。けれど、私よりあなたを幸せにできる人がいるとも思えない。夕暮れの中においても、昏い闇の中にいてもなのはさんを必ず見つける。……言ってくれてありがとう。一緒に行こう」
 ようやくヴィヴィオに手が届く――そう思う。だが後ろから差し込んだ一閃の光が、それを遮った。雲間から天まで貫く、強く眩い金色の光だ。低い電子的な声はバルディッシュのもので、呟きは私の名前だった。
「なのは」
 こうまで悲痛に私の名前を呼ぶのはフェイト以外にいない。フェイトの声がヴィヴィオに触れかけた私の体を引き摺り戻す。
「ねえ、なのは。私にはもうなのはしかいないんだよ。離さないで。嫌だ、嫌だ、そんなのは嫌だ」
 血を吐くような声に、私はつい振り向いた。振り向くべきではなかったのに、フェイトの幾筋もの涙が伝う顔を見てしまった。
「ヴィヴィオと一緒になんていさせない、渡さない」
 いつのまにか起動されたバルディッシュ。周囲の破壊具合で、殺傷設定だとわかる。
「でもね、ヴィヴィオには手を出さないよ。だってそんなことをしたらなのはに嫌われてしまう。一層悲しんで、心を閉ざしてしまうかもしれない。だからね」
 普段なら決して囚われない、けれど気をとられていた私は彼女の展開するバインドに引っかかった。金の輪が両手足の首を縛った。眼前で鎌状になったバルディッシュが構えられる。マスター、とレイジングハートが私に知らせる。その魔力が私に向けられていることを。私は彼女に目配せをし、首を横に振った。
「なのはを連れていくよ。二人だけになれる世界に、なのはを。許してくれるよね。ヴィヴィオにさえ手を出さなかったら、なのはは……っ」
 彼女の心を蝕む昏い闇を見た私は、深く瞼を落とした。うん――許すよ、フェイトちゃん。
 ヴィヴィオ。
 私は目を閉じ自分の中のヴィヴィオを見ていた。フェイトもそれに気付いていたかもしれないが、もう止まらないようだった。あるいは彼女にはすでに、私が誰を想おうが関係なくなっていたのかもしれない。私はいなくなるべきだ。私こそがいなくなるべきだった。死ねないといったけれど、フェイトの手にかかるのなら仕方がなかった。先ほどまで強くヴィヴィオを求めていた気持ちは、もう蘇りはしないだろう。
 ヴィヴィオ……。
 しかしフェイトの鎌は振り下ろされることがなかった。代わりに一角の氷が叩き下ろされ、私とフェイトとの間を割った。リインだった。だがそれでは終わらない。炎を纏う剣と、下から突き上げる白い刃が続けて飛び込んでくる。シグナムとザフィーラがいつの間にか各々のデバイスを起動していた。それから白い強い光だ。引き裂くべく強い光が視界を覆い、とっさに私はフェイトの拘束を解いてヴィヴィオの元に向かおうとした。けれど私の腕は強く引かれ、崩しかけた身体を誰かが支えた。振り返った先で見たのは、はやてだった。騎士が動いているのは彼女の命があったからなのか。
 私は何かを言おうとするがうまく動かない。はやては私の腕を掴む力を強め、言った。
「お礼は言わんでええよ、これからひどいことするんやから」
 私は再び、今度ははやての手にによるバインドで拘束される。それだけならまだ解除できたが、腕を引くはやての強く震えた声が、それを止めた。
「なあ、お願いやから……」
 はやてのこんな悲愴に満ちた声を聞いたのは、別れを告げられた時以来だった。
 離れたところで、ヴィータとティアナがこちらを見詰めている。フェイトの姿は見当たらない。ヴィヴィオもいない。
「一緒に来てや、なのはちゃん」
 そうして私は捕えられた。今度こそ正真正銘の、機動六課という檻に。

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