FC2ブログ

2019-05

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『秋、はらむ空』 七章 閉ざされた自身……3

『秋、はらむ空』 各タイトル⇒目次

三話「おとぎばなし」
はやては、本当はなのはに引きとめてほしかったんじゃないだろうか。
なのははおかしくならない。何故かな。
おかしくなるのは周りばかりなんだ。なのはは悪魔なのかもしれない。

――こんなとこ、正常ならいられるはずないもんな。



 秋、はらむ空
 七章 ―閉ざされた自身―


 3.おとぎばなし

 愛されているという意思は、私を残酷にさせる。
 気付かせてくれたのはフェイトだ。私はまずフェイトに対しそうだった。それからヴィータ。ヴィータの想いは一途で、私の胸を熱く焼く。しかし私はヴィータに報いる心を持たなかった。だから見返りとして、残酷なる仕打ちを考える。ヴィータの心を傷つけるためのやり方を、知らず実践している。愛する者は向けられた私の残酷性を受け止める。

 ある朝ふと私は思った。ヴィヴィオはもしかしたらもう機動六課を出て行ったかもしれない。日が昇りきる前の、淡い空が段々と明るくなっていく様子を眺めていると、自然にヴィヴィオの六課を出ていく姿が浮かんだ。
 ヴィヴィオだって勇気を出して私に手をのばしてくれたのに、彼女はその手を下さなければならなかった。それどころか、私は今にもここを出ていくことができるというのに、はやての上辺だけの禁止に従うつもりでいた。そろそろこんな自分には愛想を尽かし、あるいは煩わしくなっていてもおかしくはない。
 昼頃にヴィータがやってきた。考えるタイミングというのは不思議と同じで、ヴィータが私の前に食事を置いてから立ち去るでもなく言った。なんでお前はそこからでないんだ、と。
「一度は逃げ出そうとしたんだろ。こんなとこ、正常ならいられるはずないもんな。護られるのをよしとしないなのははさ」ヴィータは私を理解している。しかし、それでも私を引きあげようとはしない。ヴィータも私と一緒にいたいと思ってくれているからだというのは想像がついた。ヴィータは私自身よりもよほど分かりやすい。その日彼女の大きな瞳を除くだけで何を考えているか予測できる。そう彼女が進んで私に教えてくれているためかもしれない。
 私は吹きこんでくる風が鬱陶しくて窓を閉めた。そしてまた座ると、ヴィータも私の真正面に座った。
「聞かせてくれ。お前のヴィヴィオを想う気持ちは、その程度なのか」
 私はこの頃の常のように黙っていた。沈黙を肯定と受け取ったのか、ヴィータは言う。
「だったらあたしはお前を諦めない。眺めるだけは止めにして傍にいてやる。護るだけじゃなく抱きしめてやる。ずっとな。どうせ、もう拒絶なんかできないだろ」
 ヴィータは続ける。いつからか、彼女は行動するよりも言葉をよくぶつけるようになった。
「あたしにしとけよ。あたしは嫉妬をあらわしたりしないし。何よりヴィヴィオのことは好きだ。姿は変わったけど、あいつがいいと言ってくれるならあたしはヴィヴィオと一緒で構わないんだ」
 ヴィヴィオという言葉にな私は反応しかけたが、固く飲み込んで無言を貫く。そうしていると、みんな諦めて出て行ってくれる。もう心を動かされたくはなかった。誰にも、ヴィヴィオにだって。ヴィータの無色の溜息は私に訴えてはこない。だからその言葉は卑怯であった。
「お前が本当のお姫様なら、王子様に憎まれても兵士に闇討ちされても、騎士のあたしが連れ去ることができるのにな」
 私は立ち上がり、彼女を絨毯に押さえ付けた。小さな体躯は思った以上に軽かった。前にヴィータの身体に触れたのは、いつだったか。ずっと昔のことに思える。それこそ何百年も前の、私が姫でありヴィータが騎士であった世界が存在して、そこで二人が人目を盗み逢瀬を重ねていた頃のことが脳に沁みついてでもいて、今それを読み取っているかのようだった。長い空白の時間、私はヴィータの瞳をじっと見詰めた。しかしそこに、何かを見出すことはできなかった。
「どうしようもないんだよ」
 所詮は夢物語。空想である。そんな世界はどこにもありえなかった。
 その時ちょうど目に入った手錠の片輪を手繰り寄せると、彼女の腕にかける。鋼の重たい音が部屋に沈んだ。息がかかるほど顔を寄せる。微笑を浮かべた自らの唇を、少女の強張る唇に重ねた。久しぶりの湿った感触が、それから幾分も続けられる。ヴィータは逃げ、私が追う。それはいつのまにか逆転している。
 使いたいと思うなら、とはやては言った。なにも自分に使うことはない。自分は物理的な手錠などなくても十分に縛られていた。ならばこの少女を、ヴィータを縛ることは許されるはずだ。いいや、きっと彼女自身が許してくれる。ヴィータは私を想っているのだ。
 壊れるものはいつも私の心ではなかった。崩壊は私の精神を、心を避けて始まり、終わった。私は無事な心を握り、どうして腐り落ちてしまわないんだろうと憎んだ。けれどいったい何を憎めばいいのか分からずに、無理な憎しみは消えてなくなる。残ったのは砕けきってしまった周りの心だけ。拾い集めて修復しようとしても、元の形に戻す前にまた崩れた。ならいっそ自分から壊せばいい。そうしたら修復する必要もなく、二度と壊れることもない。
 ヴィータは私を睨んでいた。けれどその目の畔に口付け、耳朶を舐めてから下着を触ってやれば、指に水気が染みるほどか弱い抵抗でしかないと分かった。
「こうすればバインドみたいには解除できないね」と私は言う。「じゃあ壊せばいい」とヴィータが返す。
「本当に壊すの」
 問えばヴィータの舌打ちが聞こえた。好きにしろよ。彼女からはそもそも抵抗する意思が感じられなかった。最初から彼女は形だけだ。昔から……。どうして?
 何がしたいんだよ、とヴィータが言った。何もしたくない、と私は言う。何もしたくなんてない。
「わたしはまたヴィヴィオから離れることを考えちゃったんだよ。分からないかな。ヴィヴィオが全部だとまで思ったのに、どうしても求めきれない。わたしはわたしが理解できない」
「自分が分からないだって? 多かれ少なかれ、誰にでもそういう部分があるだろ」
「そんな抽象的な話じゃない。言ってるのはもっと本質的な部分だよ」
「なのは」
「黙って。ヴィータちゃんの言葉を求めてるわけじゃないの。ヴィータちゃんもわたしの言葉なんて要らないよ」
 私は彼女の白い襟元を左右に裂き、ボタンを千切りとばした。黒いハイネックのシャツまで破るのは面倒なのでめくり上げるだけにする。両手を縛っているので脱がせないんだ、仕方ない。胸の引っかかりに唇をつければ彼女は口を閉じた。
 言葉に感情がこもるというなら、いっそなければいい。
 だけどそれは無理な話だった。行為の最中、ヴィータは両手を縛られながらも私に言った。
「はやてが応援してくれたんだ。だから今更、やめたりできない」
 そして私は、彼女を縛ったつもりで自分が縛られているのだと気付く。
 幾度か終えたあと、手錠を外したヴィータが私の両手を掴み、錠をかけた。酷く乾いた音が頭上でした。これは仕返しではなく礼儀なんだろう。
 それでいい、と私は思う。ティアナが夢の中で私に目隠しをしたように。フェイトが両手を拘束し、私の中に己の魔力を注ぎ込んだように。思考の隅から隅までを埋め尽くし、何も考えられなくしてくれるなら、それもいい。
 ヴィータはベッドに私を寝かせると薄い布団をかけた。手首に残った痕を治療すると彼女のついた溜息を腕に感じた。私の何に呆れ、何に疲れているというのか。視線は交わることがなく、たまらずに私は目を閉じた。明るい時間だったから、瞼の裏側にも光を感じて眩しかった。
 私は瞼を一度落としてからは開く気がせず、頑なにヴィータを見なかった。彼女は出ていく間際になると唇を落とした。それが半日の行為が全て無駄になった瞬間で、私は立ち上がってからシャワーを浴び、窓を全開にして眠った。
 ひどい、と私は思う。彼女は優しさを最後になっておいていった。ひどすぎる。思考は削り取られないまま、後には新月のように物静かな優しさが残り、私は一層の苦しみを抱えなければならなかった。それはけれど、自分で招いた苦しみでもあった。ヴィータは悪くない。彼女は優しくて、色んなことを理解してしまっているだけだ。それで彼女は何とか改善しようとして失敗するんだ。でも仕方のないことだった。私が動こうとしないんだから、上手くいきようがない。
 出ていこう、と私は思う。明日になったら探しに行こう。夢の中でのティアナのことを想うと、眠りは秋よりもずっと迅速に訪れた。

● COMMENT FORM ●


管理者にだけ表示を許可する

『秋、はらむ空』 七章 閉ざされた自身……4 «  | BLOG TOP |  » 『秋、はらむ空』 七章 閉ざされた自身……2

Web Clap

ご意見、ご感想などあればどうぞ。
  

Recent Entries

Categories

Novel List

― Short Story ―
アリサ×なのは
心が君の名前を呼んでいた
違えた道の端  前編 / 後編
すずか×なのは
無想と空想と、紋黄蝶
フェイト×なのは
No title...フェイトver
あなたを想って流した涙は
溶けた灰色の小石
白 -white-
穴の開いた箱
なのはへ。
ヴィータ×なのは
StarDust
21.5話妄想
No title...ヴィータver
大切な Trash Box
誰よりも君に笑ってほしくて
Reinforce
真紅のグラス
Limited Sky
強奪者
蒼い棘
薄氷の上で
摩擦熱
あやふやな星
語ろうとした震え
消えない夕立ち
青と白、それから赤
優しい境界線
はやて×なのは
Sky Tears  SIDE:H / SIDE:N
夜色の羽根
eyes on...
孤島の夢
なのは×リインフォースII
小さな涙
スバル×なのは
君は空しか知らない、僕は大地しか知らない
ティアナ×なのは
月明かりよりも頼りない
貴女の血の味すら
失われた部分と残された部分
命を吹き込まれた落葉
台所で。
求めるままの逃亡
涸れた土
ティアナの適当に幸せな一日
迷子へと示す道標  1 /  /
Don't shake off.
空さえ貴方の前を覆わない  前 /  /
窓を打つ雨みたいな恋
月が堕ちてきた
もっとも不誠実な恋人
世界の終わり
銀朱の残照
僕に重ねて、君は夢をみて
ヴィヴィオ×なのは
掌で心をころがして
擬似家族
小さな声で求めて
蜂蜜
硝子内のひめごと
レイジングハート×なのは
午睡
虚空の紅玉
その他
ヴィヴィなのフェイもどき
SHOUT!  前編 / 後編
猫と主と変質者。
なのはにチョコをプレゼントされたときの台詞
なの!!
雷の憂い

― Long Piece Novel ―
幸福の在処
目次
星たちの休日
 /  /  /
別の世界を願うなら
設定 / 目次 / あとがき
追憶の色に埋もれて
目次 / あとがき
秋、はらむ空
前書き / 目次 / 後書き

― Project Story ―
聖夜 ……目次
拍手SS
一代目 手を伸ばして
二代目 時間
二代目 光の章/夜の幻
描写する100のお題 ……目次
陽の中に塗りこめて。 ……目次
振り返る ……目次

About

魔法少女リリカルなのは二次創作物、主に小説を扱っています。
このブログ内で使用している文及び画像の転載は、例外なくご遠慮下さい。

◇小説の傾向
なのはが絡んでいる百合、修羅場が多め。
なのはさんをめためたに愛し、いじめていきます。

◇リンクについて
リンクフリーですが、貼っていただく場合には下の本館にお願いします。
本館:

何かありましたら下まで。
kone6.nanoなのgmail.com(なの⇒@)



Profile

Author:こねろく
リリカルなのはが大好き。
なのはさん溺愛。そしてゆかりさんにめろめろ。
詳しいプロフィールは本館のMYSELFに。

Pixivtwitter

Monthly Archive

11  09  05  04  03  02  01  08  07  04  07  02  06  03  08  07  06  02  01  11  08  07  06  06  05  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09 

Link

その境界線は。(本館)

Search Area

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。