2017-07

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『秋、はらむ空』 七章 閉ざされた自身……5

『秋、はらむ空』 各タイトル⇒目次

五話「何度目かの喪失」
このなのはさんに誰が好感を持てるんだろうか?
作者はなのはさん好きなので大丈夫だけど、……大丈夫かな。

――運命というものを私は知っている。



 秋、はらむ空
 七章 ―閉ざされた自身―


 5.何度目かの喪失

 運命というものを私は知っている。
 運命とは名前の響きほど美しく素晴らしいものではない。運命は抗う気力さえ削いでしまい、忘却の意志も喪失させる。ただそこにどっしりと存在し、二人を繋いでいるのだ。これで恐ろしいと思わないのだから本当に不思議だった。恐怖さえ抱かない恐怖。
 私がフェイトやヴィータやティアナの中に、ヴィヴィオを見なかったというのは嘘だ。彼女たちを重ねているつもりはないが、しかしヴィヴィオという存在は相変わらず私の前にふらりと現れ、横たわっている。以前ヴィヴィオの思いつく長所をあげようとして、それがフェイト達の中にあるものだと気付いた時にも運命を感じた。出逢った時期が逆であったら、私は彼女たちにもっとひどいことをしていた。彼女たちの個性など無視をし、それぞれの中にヴィヴィオを見出そうとしてその部分のみを愛していた。しかし仮にそうであれば、今ほどフェイトやヴィータやティアナのことを大切にも思わず、強く惹き合うこともなかったかもしれない。
 どちらが良かったかは分からない。仮定だ。それこそヴィータの語った夢想と同じくらい現実味のない例え。
 生きていれば何かを失う。一度では済まない。二度三度四度、数えるのをやめても人はまだまだ失う。だから生きるのをやめる人もいる。それは賢い選択かもしれないが、逃げの選択でもある。弱さを抱え持ってでも生きられない人が選ぶ道だ。己の持つ弱さをよしとする人のみが進む。それもいいと私は思う。けれど選ばない。たとえば私の愛する人がいなくなっても、私を愛してくれる人がいる限り生きつづけてみせる。
 それは私にとっては当然の選択であった。だから「ヴィヴィオを追わないのか」と尋ねられても、答えはしない。緩い首振りで抗う。私とヴィヴィオは繋がらないほうがいい。これは、誰一人として幸せにならない想いだ。そうして私はフェイトを傷つけ、ヴィータを狂わせ、ティアナを消耗させた。ヴィヴィオも、居なくならなければならないほど追いつめた。いいや、本当のところは彼女がどんな気持ちで出ていったかなど知らないのだ。私は、ヴィヴィオの気持ちをどれだけ理解していたのだろうか。
 だから私は追わない。だってヴィヴィオは自分から離れていったのだ。前みたいに手を差し伸べはしなかった。だったら私はここにいよう。機動六課はおそらく心地良い。はやてが作ってくれた部隊なのだ、悪いはずがない。
 ああでも。そんなことを前にも思ったことがあった。


 牢に戻った日の昼頃、シグナムが六課の近況や訓練の状態などを報告してきた。スバルもティアナもエリオもキャロも、みんな頑張っているという。私は嬉しくなった。上達した彼女たちを見てみたいと強く感じた。ここを出れるのはそう遠くではない、とシグナムが告げた。明日か一週間後かはまだ分からないが、訓練にも出れるようになるだろう。そうしたらいくらでも見てやればいいさ。私は頷いて、その日を心待ちにするが、そんな自分がすぐに嫌になった。
 はやても忙しさの合間に来てくれた。指揮官としての名は随分と管理局でも広まっているようで、多忙を極めている彼女だったから一日置きとはいかないが、三日に一度は来てくれた。あるいは彼女の方で会いにくいのかもしれない。現在の私は、閉じ込めたというよりは保護の扱いとなっていた。……保護? それはやはり、六課を出ていこうとした私自身と、フェイトからだろう。
 フェイトについて、シグナムもはやても無言だった。私も特に聞いたりしなかった。彼女ならおそらくは変わらず、仕事も訓練もうまくこなしているような気がしていたのだ。それに、たまに窓の外に彼女の影を見る。直接窓から乗り込むこともできないのに顔を見せないのは、彼女に自制がきいているからだ。だから安心できた。
 ただヴィータはあれきり部屋を訪ねてこない。食事も運んでくるのはシグナムかシャマルかザフィーラである。どうしたのかと聞く前に、どうしたのかと騎士たちに聞かれた。私は少し考えて、「色んなことがうまくいかなかった」と答えた。確かに私とヴィータはうまくいかなかった。主に私が原因で。
 ヴィータは優しすぎた。私が彼女を気にする前に彼女の方が気にしてくれた、それは私にとってはあまりいいことではなかったのである。好意が嬉しかったからこそ、ヴィータにはもっと私から離れた位置にいてほしいと思う。私はヴィータをきっと傷つけることしかできない。しかも態度に表れないぶん、私のちっぽけな眼ではとうてい見えないほど深くを蝕んでしまっていても気付けないし、気付いたところでどんな気持ちも返してあげることができない。ヴィータを今更大切に扱おうと、彼女は嫌がるだろう。私の心に居るのはヴィヴィオであると、あの夏日の残る夕間暮れに知られている。それはだから、ヴィータにとって偽りでしかなかった。私がいくらヴィータを抱いても、体に触れても、ひとときの逃避ですらなかった。ただヴィータを辱めただけなのだ。
 ヴィータは優しいから丁寧に返してくれた。私の手を同じように繋ぎ、お礼をした。嬉しかったと彼女は行為で示す。縛られるのが嬉しいなんてとても正常では思えないことを、ヴィータの心は呟いていた。辛くないはずがなかったというのは、想像力が欠けているのだろう。ヴィータはたしかに喜んでいた。嫌がっていたならしなかった。出来なかっただろう。
 しかし彼女の中に拒絶の意志は存在するのだ。それでヴィータは部屋に来ない。
 ヴィータもティアナも、私に会いたくないのだ。
 私は、会いたい。誰に。フェイトちゃん、ヴィータちゃん、ティアナ。それから。
「ヴィヴィオ」
 声は開け放った窓からするりと抜け出し、星の浮かぶ空へ舞い上がった。

 夜になると私はまた牢をでて隊員寮を歩いた。服の隠しに手を入れると、冷たく硬質なものが触れた。鋼の、現実から逃げだすための鍵である。ティアナを探すときに持ち歩いていれば彼女が現われてくれる気がした。ティアナと会ってから上手に話せるようにという気持ちも込め、ちょっとしたお守り代わりのつもりだった。
 今夜はよく晴れていて、雲もたまに空を隠すくらいだ。星も月も十分に見える。青みを蘇らせた芝がさらさらと音を立てて揺れた。風が少し吹いている。雲を流す。こんな日にはきっと彼女は訓練をしている。この前はどうして思いつけなかったんだろう。ティアナなら夜は訓練をしているに決まっている。
 ティアナを見つけたのは月が一番明るい時間だった。外に出ると窓からの風とはまた違った空気を感じる。涼しい夜だったがティアナは遠目にも見えるほど汗をかいて、熱心に銃を構えていた。ランスターの弾丸が目標を射抜く。
 私は意識せずに彼女に近づいていた。散歩を装って、歩いて行った。それがいけなかった。ティアナは足を止め、顔をこちらに向けた。だが表情までは見られない。私が彼女の顔を見ないように背けていたのだ。唾を固く飲み込み、息を詰めてそこを通った。私は表向き、ティアナには見向きもせずに通り過ぎた。彼女の横を、幽かに覚えた汗の匂いを記憶しながら、私は足を動かし部屋に戻る。ポケットに手を入れて鍵に触れれば、それはいかにも冷たく掌をつき返してきた。
 部屋に帰りつくと私はそのまま扉に背を凭れて崩れ落ちる。話すどころか顔も見られないなんて。
 けれど、いったい何を話せばよかったんだろう? 愛している、好きだよ。そう言えばいいのか。それとも無言で触れればよかったのか。でもそれからどうすればいい。きっとどうにもならないし、どこにも行き着かない。私はヴィヴィオとは別の部分でティアナのことを愛している。でも、ティアナだけじゃない。それは昔アリサが言ったようにとても酷いことなのだ。
 空に一番近い場所に行きたくてどうにか窓辺まで這っていくと、開け放った。涼しい夜の風のはずなのに、むしろ肌寒かった。顔を持ち上げると月が見事な円を描いて空に浮かんでいた。ティアナの銃の切っ先がえどったみたいな美しい月だ。私はけれどそのうち見ていられなくなって、床の上に寝そべった。月の光はそれでも白く淡く、足元を照らしている。目を閉じればすれ違う時に見たティアナの横顔が浮かんできて、掌で瞼を覆った。それでも完全な暗闇は訪れない。
 ティアナの視線はまだ私を向いてくれていた。そこに込められた一瞬に彼女の想いを感じ取る。私は胸を押さえ、咳をする。
 痛い、と思った。私はいつか、自らの胸の痛みにさえ泣いてしまう。

 部屋についてからずっと手が震えている。この手の魔法は悲しみ一つ撃ち砕かないだろうという気がする。
 ゆりかごでヴィヴィオを取りこぼしてしまったあの時に気付くべきだったのだ。
 ――もう、誰も護れない。
 確信させられるかのように明くる朝、ヴィヴィオが機動六課宿舎から消え失せたことを知った。

 私は終わりを願った。だが運命の酷いことは、そこで終わってしまわないところにあった。

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