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2019-05

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『秋、はらむ空』 七章 閉ざされた自身……6

『秋、はらむ空』 各タイトル⇒目次

六話「紅涙」
不器用なヴィータが愛しいと思う。
彼女の心はたとえ病んでいても澄んだ水のように美しい。

――「お前を縛っていいのは、お前と、お前の想うヴィヴィオだけなんだよ」



 秋、はらむ空
 七章 ―閉ざされた自身―


 6.紅涙

 閉ざされた部屋にどん、と鈍い音が響いた。ヴィータの拳が壁を殴りつけたのだ。
「なんでだよ」
 私は窓の外を見ていた。ヴィヴィオはもう六課を出て行ってしまったものだとばかり考えていたのに、今になっていなくなったと聞いても、悲しいだけだった。ヴィータがたとえ眉を吊り上げ私に怒鳴りつけていたとしても、何の感慨もない。ヴィヴィオはいない。
「なんで追わないんだ」とヴィータが言った。
「お前が望めばどんなことをしても護ってやるって決めていたんだ。ここから連れ出してもやれる。はやてだってあたしが他の人を護ることを許してくれた。だから……なのになんで探しに行こうとしない?」
 目を閉じ、項垂れる。早朝の真新しい爽やかな風が吹き込んでくる。ヴィータの声が夏の風に添える。あと何ヶ月かすれば涼しくなる。そう思えば恋しい暑さのような気もする。でも私は秋が好きだった。だから早く秋が来てほしいと思っていた。
「どうしてだよ。はやてはああ言ってるけど、お前を縛れるものなんてどこにもないんだ。お前を縛っていいのは、お前と、お前の想うヴィヴィオだけなんだよ。なのに何でそうやって手放そうとするんだ。前だってそうだ、あたしたちが傷つくからってヴィヴィオと離れて、それで怪我して、なんなんだよお前は。どうして自分のことを考えないんだよ。好きならまっすぐに行けよ」
 ヴィータちゃん、と私は言った。呼ばなくていいと彼女は首を振った。あたしの名前なんて呼ぶなよ。そう彼女は言っている。
 勝手なことを言っているというのは当然彼女には分かっていたのだ。だからこそ私は黙っていた。いつだって私は大切なものから手放していた。
「あいつなりになのはに懐いてたんだぞ。そして好きになっていった」
 ヴィヴィオについて語るほど仲が良かったんだろうか。私の背を押すようなことを言う彼女に、僅かに残っていた自尊心を傷つけられたような気がした。それにしても皆私の背中を押す。でも押した人はみんな傷ついていくのだ。
「たとえば今、私がもしヴィヴィオを追いかけていったら、ティアナはそれでも執務官を目指し続けるかな」
「たぶんな」とそう言った彼女の目線は揺らいでいた。
「フェイトちゃんは、きっと壊れちゃうよね」
 彼女の伏せた目が肯定する。
「ヴィータちゃんも、悲しいよね」
 ヴィータは首を振った。「あたしは騎士だから」
 だから悲しんでもいいとでも言うつもりだろうか。そんなことにはさせないと私は思う。これ以上彼女が悲しむ必要などない。はやてが言っていたように、ヴィータはもう充分に悲しみ、心を病んだ。彼女の心の病みが九年前の冬の墜落からであるなら尚更だ。
「それにヴィヴィオを追いかけたところで、わたしにはヴィヴィオのことを護れないの。その力がない。この手の魔法はヴィヴィオを護らない」
 航空戦技教導隊のエースオブエース。自身に与えられた尊称について考えれば、何と自分が情けなくなるだろう。
「なのは。昔はもっとまっすぐ手を伸ばしてくれたよな。敵対していたあたしにも疑いのない視線と笑顔で救おうとしてくれた。はやてのことだって、ヴィヴィオだって」
 ヴィータは膝をつき、私の肩を押さえつける。彼女はそうやって続ける。不思議なほどひどく熱心に説いている。
「いつからそうなっちまったんだよ。あたしのせいか、なあ、あたしのせいかよ」
 ヴィータは長い時間をおき、やがて立ち上がった。返すべき言葉は存在しないように思える。
「あたしはもう、なのはの騎士にはなれない」
 己のあり方を否定する言葉を呟いた彼女に、私が言うべきことはなかった。元々私の言葉なんてものは彼女の前では無力そのものだ。騎士は既に心に決めてしまっている。だから、彼女の流す涙は私の手の中には決して落ちてこない。
 私は黙って彼女の紅の髪が揺れる背中を見送る。騎士の背中は遠く、小さかった。

 部隊長から出所許可を得たのは、ヴィヴィオがいなくなったと知らされた日の午後である。ヴィータが来たのは午前で、そのあとだ。
 ヴィータは仕事に戻っていった。彼女にはするべきことと護るべきものがちゃんとあるのだ。そこは彼女だって気付いている。真面目で一途な紅の騎士。ひとときだけ私の騎士だったヴィータが部屋を出ていった。どんな別れよりも別れらしい終わりだと思った。
 はやては無表情に言い放つ。
「フェイト隊長、ヴィヴィオとの接触は引き続き禁止する」
 ヴィヴィオはもういなんでしょうと私が返せば、はやては同じ言葉を繰り返した。つまり探しに行っては駄目だということだ。私は理解する。
 教導も再開することとなり、まずは軽く模擬戦を行った。リミッターは一年を過ぎた時点でとれていたから、互いに全力だった。フォワード達の掛け声は高く遠くにまで響き渡り、空は青く澄みきっている。空に居て、白い防護服を纏っていると疲れた心が内側から癒されていくようだった。模擬的な戦いの中に身を置けば一層その感じは強まった。大丈夫、と私は思う。ここは最初と同じ世界だった。ひとつも変わっていない。新人たちが新人たちでなくなり、頼れるそれぞれになって。私は彼女たちの成長を誇らしく感じている。ティアナの指揮はよく通り、スバルのクロスレンジも強力である。エリオの突撃は一層鋭く、キャロの支援と竜召喚は状況打破に一役買った。私は楽しいと思う。ティアナに対しても何の苦労もなく言葉をぶつけられ、顔を見ることができる。ここにいれば私は自然であった。
 だけどふと地上に降り隊舎に戻る道すがら、広場の木陰にあの子がいないか私は探してしまう。――ああ、まったく何も変わっていない。
 夜の訓練を終えて一人部屋に戻ろうとしていた。いろんなことが久しぶりな一日でくたくたになりながら片付けを終わらせていると、隊舎の方からフェイトが歩いてきていた。足音と何となくの雰囲気で彼女と悟った。私は手を休め、彼女の方に顔を向ける。フェイトはゆっくりと私の方に歩み寄り、やがて触れるまでに近づいてきた。接触が禁止されていることはフェイトも聞いているはずだった。でも彼女は私に近づいてきた。私の内側に押し隠した不安を見抜くように、そっと手を取る。
 大丈夫だよ、とフェイトは言った。大丈夫。
「だからなのはは、大丈夫なんて思わなくていいんだ」
 フェイトに手を引かれて、私は部屋に向かった。もう随分と長い間踏み入れたことのない部屋は相変わらず広く、整頓されている。明かりはすぐに消した。暗いほうがきっと落ちつけるから、とフェイトは言う。彼女は私の頭を抱き締めつつ「大丈夫」と言い続けた。私には抗う気力など残っていなかった。ただ力は抜かないまま抱き締められている。
 確かに牢から出ることは許されたのだろう。しかし、私の世界は以前よりずっと狭く薄暗いような気がした。

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