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2019-05

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『秋、はらむ空』 終章 無人の空……2

『秋、はらむ空』 各タイトル⇒目次

二話「黄色い花」
運命と永遠は全く性質を異ならせながらも、実は似ていると、そうは思わないだろうか?

――もちろんそこにはヴィヴィオがいる。



 秋、はらむ空
 終章 ―無人の空―


 2.黄色い花

 六課を出てから半年が過ぎた春。それは新暦の七十七年の三月だった。
 淡い色の花が咲き始め、白い蝶がささやかな風の中を舞う。時折羽を休めてはまた、漂いつつ己の道を見つけ出した蝶が往く。彼女たちは短い生の中で懸命に生きているように見えて、私はたまらなく切なくなる。春という季節そのものが私は好きではない。春はいろんなことが移り変わる。
 ところで誕生日にちなんだ名前の由来の花はこの時期に咲く。小さな花びらを付ける、背の高い花である。海鳴の町を歩けば道端のあちこちに見られた。特に庭にはまとまって咲いており、小さな花畑のようだ。私はこの花が好きだった。春は苦手だったけれどこの花が咲いているのを目にすると気分がいい。春がきて楽しみなことといえばそれくらいのものだった。
 桜は私の魔法光を思い出す。そういえば六課にも桜が咲いていた。
 淡い空が薄く頭上で伸びている。町に出れば学生たちが騒がしかったが、私はそんな場所からは離れた場所に住んでいた。休養という形で私はミッドチルダを離れていた。ゆえに海鳴の町の、人が少ない地に身を置いている。
 もちろんそこにはヴィヴィオがいる。
 私はヴィヴィオを見つけた。菜の花よりも深い蜂蜜色の髪に振り返って、二色の澄んだ瞳に出会った。
 ヴィヴィオを探す旅に出てから一月ほど経った頃に、私はミッドからも海鳴からも離れた次元世界を彷徨っていた。白い防護服は修繕も忘れるほどにぼろぼろで、擦り傷は多かった。ただ魔力だけは体中に満ちている。擦り減ったいろんなものと比べて、ブラスターの後遺症などなかったかのようにしっかりと二本の足で立っていた。これは一年の休息と、牢にいた数週間の為かもしれないと思う。はやての優しさはこんなところにも及んでいた。
 旅路は常に一人だった。人の少ない土地を選んで歩いた。このひと月の間に人との接触は、三本の指で足りる数しかなかったが、私の胸に寂しいなどという気持ちは一遍も登らない。解放でもなく、安堵でもない。これが私の“自然”だった。そしてその自然に介入してもいいのはヴィヴィオだけだった。
 私は荒野に縁があるのかもしれない。人影すら見当たらない世界をなんとなく放浪していた先で、私は彼女に出会った。喉が渇き、川を求めて歩いていたところだった。耳朶に触れるささやかな水音に惹かれて澄んだ水面を辿っていくと、そこにヴィヴィオがいた。
 ヴィヴィオは私よりも先に私を認めていた。なぜなら彼女は始めから終わりまで私を目視していたかのように動かなかった。私は別れる前より幾らか精悍な彼女の顔つきを眺める。豊かな頬から才ある芸術家が削ったような顎は見惚れさせるには十分であり、蜂蜜色の甘く細い髪に、いかなる宝石の比較も適さない二つの透きとおる瞳が、一見勇ましくになりすぎる彼女に女性的な美しさを与えていた。
 彼女が聖王か騎士か。どちらでも通用するだろう。けれど私にはヴィヴィオにしかみえない。騎士でありたいと言ったヴィヴィオには悪いけど、ヴィヴィオはどうしてもヴィヴィオだった。
 私は彼女の不安げな手を取る。こうして互いの手が触れ合えるまで長い時間がかかったことを思うと、これは幻ではないかとつい力をこめてしまう。長い時間だった。多くの距離を歩いてきた。だというのに私は、こんなに簡単に触れてしまっていいんだろうかと思っていた。彼女はまた忘れているんじゃないかという考えが過る。
「ヴィヴィオ」と私は言う。
「ヴィヴィオだよね。覚えているかな。わたしは」
「なのはさん、知ってるよもちろん。大好きなママで世界一愛しい人。もう忘れようがない」
 遮る場所のない荒野を抜ける気まぐれな風が、彼女の白い外套の襟をはためかせた。
「たくさんの言葉や気持ちが溢れてる。でもそのどれも、今なのはさんがここにいることを前にしたら意味を失ってしまう。だから話すことが見つからないけど」
 私は頷く。
「わがままかな、なのはさんの声は聞きたい」
 微笑みつつ、私の首筋に手を添える。まるで強張った喉を支えるような触れ方だった。振動さえ感じ取ろうとしているヴィヴィオに、私も微笑を浮かべた。
「それは少し困っちゃうな。だってわたしもヴィヴィオの声をききたい」
「なのはさんは……」とヴィヴィオは私の目許に指を伝わせる。咄嗟のことに、私は片目を閉じた。
「どうしてこんなに傷ついた瞳をしてるんだろうね。ここにくるまで、いったいどれだけあなたの心は傷ついてしまったんだろう」
「それでもきっとみんなの方が傷ついてるから」
「だから平気というの?」
「だってヴィヴィオがいてくれる」
「うん」とヴィヴィオが言う。
 ヴィヴィオと視線が混じる。それからゆっくりとゆっくりと解かれて、かわりに指が絡まり合った。
「なのはさんには、私がいる」
 渇いた世界の川縁で、私はまたヴィヴィオと会うことができた。それが運命によるものであっても構わないと思う。水面で曖昧に揺れる金色に、私が指を絡ませる。それから言葉が幾つか交わされる。
 私たちはしばし見つめあったままでいた。乾きは互いの中にある僅かな水分を与えあうことで癒した。飽くほどに彼女の顔を見ていたいと思い、彼女もまた私の顔を見たいと思ってくれていた。しかしやがて日が暮れ、首が疲れてくると私とヴィヴィオはその世界を離れる。どこに行こうか、と私は言った。どこにでも行けるよ、とヴィヴィオが言う。私はやはり頷いて、海と空が美しい町の名を言った。

 海鳴にやってくるとまず家族に挨拶をした。管理局の勤めは今は休んでいるのだというと、両親も兄も姉も皆揃って、お前の好きにしたらいい、と言った。疲れたなら休むのは当たり前なんだ、と父はいった。
「ところでここにずっといるのか、つまりこの家に」
 父の問いに首を振る。「この先どうするからはまだ決めかねてるけど、とりあえず今はヴィヴィオと二人で暮らそうと思ってるの。ヴィヴィオは私の家族だから」
「いいんじゃないか、なあ?」と父は隣に座る母に顔を向けた。母はにこりと微笑み、頷く。兄も姉も、しばらく会わなかったというのに親密な笑みを浮かべてこちらを見守ってくれていた。ありがたい。心底から感謝をする。
 ヴィヴィオが成長していることについて、家族は驚いたりしなかった。説明は一応したけれど、そういえば魔法について打ち明けた時もさほどの驚きはなかったように覚えている。家族はとても理解がいい。理解が良過ぎて、小さな頃は逆に不安だった。優しい家族に囲まれていたのに、私はすごく小さな人間だったのだ。
 母の知人を通し、町から離れたところに小さな家を借りた。元々住んでいた人がたくさんの本を置いていったことから、ヴィヴィオが読む本には欠かなかった。古い本が多かったがヴィヴィオはすぐに気に入ってくれた。荷物はなく、身一つでいたから、少しの家具と日用品をそろえてしまえば終わりだった。部屋の整理がついた日、私は懐に収めていた手紙を取り出して、ヴィヴィオの前で開く。
 彼女は恥ずかしいなあと頬を掻いた。その日は天気が良く、白い陽が彼女の血色の良い頬をあらわにしていた。ヴィヴィオは素直で、感情がしばし顔に出た。そんなところも私は愛らしく思う。
 そうして眺めているうちに、手紙は再び私の手の中に戻ってきた。
「持っていていいの?」
「もちろん。死ぬまで持ってていいよ。失くさないでね?」
 当然だ、これはヴィヴィオの気持ちだった。

 海鳴の空は真っ青だ。端から端までが青のグラデーションである。見上げて一日を過ごしてもまったく無駄にはならないくらい、綺麗な青だった。庭先に腰を下ろし、菜の花を眺めながらそうして過ごす一日だってあってもいいと思う。
 軒先で本を読むヴィヴィオの横でうたた寝をする。夕暮れ時になって二人で散歩をすれば、道端には白い蝶がいる。黄色い花と、それから二十分程歩いたところにはあの海鳴臨海公園がある。ヴィヴィオはすぐにその公園が気に入ったようだった。好きだよ、とヴィヴィオが言う。もちろん私も同意した。故郷であるという以上に、それらは機動六課のある場所にとてもよく似ている。
 私たちは数か月をその土地で過ごした。
 春は短かったがそのかわり、色とりどりに咲いた花は、そしてそこに留まる蝶は美しかった。稀に黒い蝶が舞い降りてきた昼間には、ティアナを思い出して切なかった。夏は早朝の爽やかさが格別で、陽射しが熱を持たぬうちにに結界を張り、訓練をつけた。たまにする模擬戦はヴィヴィオとは全力であたった。し合う度に勝敗は異なるほどにヴィヴィオは強くなっていた。虹色の魔法光が私の横髪をかすり、空を突き抜けていくのを眺めるのはとても気分が良い。けれどふと道端に植えられたトマトの艶やかな紅にヴィータを思い出ししまう。夕暮れ間近には若干の遠出をして公園に行った。手を繋いで銀色に輝く手すりの傍を歩く。そこでも六課を、フェイトを想わずにはいられなかった。
 遠い場所に来ているんだ、と思った。私は隣を歩くヴィヴィオを見る。
「ヴィヴィ」と私は彼女を呼ぶ。「幸せ?」
 彼女は頷く。「なのはさんは」
「幸せだよ、すごく」
「ほんとうに?」
 私は少し間をおいて頷いた。
 幸せだ。ヴィヴィオと一緒にいて、笑うヴィヴィオの隣にいることができて幸せだった。けれど、今も六課に居る彼女たちのことが気にならないといえば首を振るしかない。
 夏の暑い一日の終わり、眠れない夜にヴィヴィオは私のために子守唄を歌う。星が墜ちる詩。私は目を閉じて彼女の唄声の中にたゆたう。幾度も繰り返し聴いた詩も、ヴィヴィオによって歌われればまた違った印象が生まれた。星、と私は思う。それから空のことを想った。
 訓練をすることで魔法には日常的に触れている。けれど空を飛ぶことは許可が要った。休暇中の私が必要もないのに申し出ることはできず、必然的に地上か空想での空かに限られている。私はそのことで鬱屈とした気持ちが溜まっているかもしれない。たまに空を見上げるとき、やけに眩しい気がする。白い陽は熱を含んでおり、私の目を強引に閉ざす。ヴィヴィオがそんな私の瞼をそっと掌で覆い、影をつくる。あまり夏の陽を見ていたら痛むよ、と微笑む。向日葵だってたまには俯くよ。暗くなりかけた気分はすぐに一掃される。それから優しい抱擁と時間とが訪れる。
 ここには全部が完結しているように思えた。
「ねえ、ヴィヴィオは幸せ? 本当に」
「私はなのはさんといられればどんな形でもいいし幸せだよ」と彼女は改めて言った。私の顔の近くまで寄り、髪に指を絡ませている。私も彼女の髪に触れる。繊細で柔らかな彼女の髪は触れているだけで心地よい。だというのに、彼女は言った。
「幸せじゃないのはなのはさんの方かな」と。
 私はつい絡めていた金色から指を抜き、ヴィヴィオを見返す。彼女はいつの間にか真顔になっていた。
「確かにここにはあなたを傷付けるものはないし、笑えるようにもなった。それは進歩なんだろうね。あそこに在った色んなものはないけれど、ここにだって色んなものが在る。なのはさんにとって必要なほとんどが揃ってる」
 だけどとヴィヴィオが目を伏せる。「今が幸せなのは、休息の時間だからに違いないよ。今はほんの休憩で、時間が来たらあなたは再び空に上がるんだ。たまに懐かしい目をするのは六課が恋しいだけじゃない。そう思おうとしているだけだよ。だってなのはさんの瞳の蒼は空そのもので、手にある魔法は私を護るためだけのものじゃない。そう、なのはさんは気付いている」
 うん、と私は迷いもなく頷く。時間はたっぷりとあり、考える時間もまた溢れていた。私とヴィヴィオの思考が重なるには十分の時間だ。
 だってもうすぐ秋が来る。
「ヴィヴィオはそれで寂しくなったりしない?」
「どうして」とヴィヴィオが首を傾ける。本当に分からないという表情ではなかったが、私はちゃんと答えた。
「だって、わたしだったら寂しいよ」
 ヴィヴィオが私以外の人を護るなんて、それは私の方こそが寂しくなってしまう。
 ささやかで傲慢な嫉妬を口にするのは少し勇気がいった。だがヴィヴィオはきっと笑ってくれている。そういう信頼がこの地で過ごした数か月の間に私の中に備わっていた。抗うべき嫉妬でさえ、彼女は受け入れてくれる。
 そしてヴィヴィオは笑ってくれた。
「しょうがないな、なのはママは」とわざと幼く口元を歪めて、私の頭を撫でる。その幼い腕でもって抱き締めてから耳元に打った。
「確かに寂しいよ。でもそれより、あなたがが空を飛んでいるのを見る喜びの方が勝っている。なのはさんが空に居るということは、なのはさんの幸せにはかけがえのないことなんだよ。代用ができないし、私がいるから満たされるというわけでもない。なのはさんはもしかしたら、それでもいいと思ってるかもしれない。これまでに傷付けてきた人たちのことを思ってきっと自分からは言わない。だから私が言うよ」
 ――もう一度空にいるあなたが見たい。そう、ヴィヴィオが私を見据えながら言った。
 星が落ちてくる音とともに私はヴィヴィオの声を聴く。背景音楽のような存在に、私はいつも癒されている。星は音を立てては落ちてこない。ただ光る。輝きのみを残して、やがて朝の光の中に消えていく。でもヴィヴィオはもういなくなったりはしなかった。それは何よりの安堵であり、安心だった。
 私はそれでも空に上がるんだろうか? ヴィヴィオに望まれたからといって、ヴィヴィオを残して?
 空に上がるには、少し疲れたような気がする。けれど時間はある。もう少しだけ残っている。春になるまでの冬に戻ればいい。あるいは戻らなくてもいいのかもしれないと思う。
 逃げる気などないくせにそういった選択肢をわざと並べてみて、疲れたふりをしてみた。最初から決まっている。たとえヴィヴィオが言いださなくても、私が再びミッドチルダに戻り魔導師を続けるなんてことは、機動六課を出る前から決まっていたんだ。私にはとてもやめられない。ヴィヴィオのためならばきっと止められるだろうけれど、自分の方から手をとってどこか遠くの次元世界に行くことだってできるだろうけど、でも決まっているのだ。
 ヴィヴィオが望んだ。私も、望んでいる。私は昔から、大切な人を護る手を何よりも欲していた。そうして手に入れた力を捨てることなんてできない。
 六課は確かに自分を縛りつけ、押さえ付けたこともあっただろう。けれどすべては自分の起こしたことであり、自業自得とも言えた。それにいいことだって多大にあった。この一年と少しの間で苦痛も次第に和らぎ、乾いた痕をたまに見るくらいとなっていた。傷は時に愛しさへと変わる。それはティアナの言葉である。戦いが肉体に残した傷も、大切な人が精神に残した傷も、そのどちらも愛しいと私は思っている。
 来年の春に六課が解散されるということを、私は聞いた。だから戻るなら冬が来る前にだ。
 レイジングハートもそろそろぼろぼろになってきたしね、と私は彼女に向かって笑いかけた。オーライ、と彼女はいつものように返答する。おーらい。彼女には私のすること全てがおーけいなのだ。私は彼女を握り締め、ここまでついてきてくれたことの感謝と謝罪をする。もちろん彼女は点滅した。いつもより少しだけ明るく。

 木々の紅葉が始まり、街路を歩けば落ち葉を踏みしめる乾いた音が心地よく響いた。ひっそりとした雰囲気に包まれぼんやりと佇んでいると、無言の寂寥が風によって届けられる。自身の胸に落ち葉のように降り積もっていく物哀しさが苦しくて、そっと服の上から握りしめる。一人で歩くとき、秋ははじめてその訪れを教える。
 冬ももうじき来るだろう。でもまだあと少しだけは秋だった。
 私はヴィヴィオに手を差し伸べ、行こうか、と言った。
 ミッドチルダに、また魔導師として空をかける道に戻ることをヴィヴィオには告げていた。彼女は一緒に行くとも連れて行ってほしいとも言わず、私もまた何の言葉もかけなかった。そんなことは必要もないほどに、最初からお互いの心の中で決まっていることだった。
 だから手を差し出すだけでいい。手が重ねられるのを待っていれば……。

     *

 ミッドチルダに戻る前、私は寄り道をした。私は、旅とも呼べぬ旅をヴィヴィオと二人でしてみたかったのだ。帰ってしまえば仕事に追われ、なかなか一緒にいる時間がとれないだろうからと。ヴィヴィオは頷いてくれた。それで今は草の茂る岩壁の上に二人して座っている。
「帰ったら何をしようか」と私は尋ねた。「思いつくことは全部してきたつもりだけど、何かしたいね」
「一緒に暮らす?」
 きっとそれもいい。それにしても、とヴィヴィオは空を仰ぐ。
「六課のみなさん、何してると思う?」
「ヴィータちゃんは教官かな。ヴィヴィオも教わってたんだよね」
 うん、とヴィヴィオは頷く。
「お姉ちゃんは厳しいけど、すごく強くて優しいから、素敵な教導官になってるだろうね」
「ティアナはきっと背が伸びてるね、少し楽しみだな」
「それにきっとフェイトさんくらい優秀な執務官になってる」
「フェイトちゃんは元気かな」
 そう尋ねると、ヴィヴィオは首を緩く振った。
「あの人、そんなに弱くないよ」
 たしかにそうだ、と私は思う。フェイトは強くはないが、弱くもない。それは私の背を押してくれたフェイトを思い出せば分かる。
「もちろんなのはさんだって弱くない。ここに居るということそれ自体が強さの証だし、そもそも強さなんてどうでもいいことなの。あなたにとって心の強さなんて量る意味がない。だって例え弱かったとしてもなのはさんは私がいる。……なのはさんがみんなを護るなら、私はあなたを護るよ」
 だから寂しくなんてない――そう真っ直ぐな視線を向けてくるヴィヴィオを抱き締める。滲んだ涙になんて気付かなくていいと腕に力を込めて彼女を抱いた。

 もうじき帰るよ、と連絡を入れた。部隊長は変わらずに穏やかな声色で、ああ、と言った。迎えてくれるかどうかは分からない。はやてはそれ以上のことは言わず、通信はとても短かった。けれどたった一つ呟いた声が、何となく私を六課へと向かわせる。私は戻らないといけない。
 暫くの旅の果てに辿りついた場所は、海の見える、青い風景だった。機動六課は変わらずにそこにあった。寒さに体を震わせていると、遠くに訓練施設が眺められた。作り上げられた森林の中に彼女たちは居る。隊舎にはそれぞれが仕事をしている。護るべき人を護る仕事である。
 私は再び六課に足を踏み入れた。それは秋が終わる日。ミッドチルダに雪のはじめのひとひらが降る前日だった。



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