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2019-07

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視界を割る鉄格子

目次⇒陽の中に塗り込めて。

ティアなのです。
普通の状況であるなら、ティアナの持つ美しさは凄い武器になるとおもうんだけど。
続きよりどうぞ。



 視界を割る鉄格子


 ガラスよりもずっと分厚いものが私とあの人との間には立ち塞がっていた。全面を覆ってくれればよかったのだが、姿が隙間から見えてしまうことで、却って手が届くのではないかという錯覚を呼んでいけなかった。
 届くわけがないならば、いっそと私は思う。僅かにでも届く可能性があるならば、私は諦めたりなどしない。でもちゃんと分っている。届かないと分かっていながら、いざあの人を前にすればそれ以前の覚悟や決心など容易く揺らいだ。
 ありありと目に映る鉄格子に指をからませれば、あの人はそれを温めた。大丈夫と尋ねるような優しい手の重なりに、私の胸は痛む。
 機動六課が解散となったあとで逢瀬の約束をつけなければよかったのだ。
 そうすれば一体どうなっただろう。偶然事件が重なり、仕事を一緒にする以外に接点など――いいや、ある。私は彼女の娘とそれなりに親しい。不思議なことに、私は少女に慕われていた。だから家にお邪魔しても喜びこそすれ、嫌悪されることはなかった。子供が好きなのはスバルのほうなのに、どうして無愛想な私の方が好かれているのかは、本当に不思議だった。だから完璧に関係を断つならば、彼女の愛する娘に厳しくするべきだった。
 後悔に果てはない。
 悔いがあるなら改めればいいものを、実際には不可能であるものばかりだった。なのはさんと会わないことも、少女に理不尽な対応をするのも私にはできそうもない。だから後悔というものはいつでも私の胸の中にわだかまったままだ。
 そういった環境の中で、指の一本さえ手に入らないならば、自分を使うしかないと思う。
 あの人はどうしてか私の外見をよく褒める。むしろ容姿にしかいいところを見出せないのではないかというくらいに、美しいと口にした。彼女の口からこぼれる言葉というのは、幾ら積み重ねられても価値を損なわない。私は鏡をのぞき、自身の顔をじっと見つめてみる。確かに醜くはない。けれど、美しい――? この顔が。
「綺麗だよ、ティアナ。ううん、こういうのを美しいっていうのかな……ティアナの心がもし悪しきに侵されても、きっとその姿に目がくらむ人だっているよ」
 まあティアナは大丈夫だと思うけどね、と彼女は微笑んだ。私の外見が、容姿が使えるのならば使ってしまおうと思った瞬間である。
「顔だけじゃない。朱の髪も、緑がかった青の瞳も、傷の刻まれた指だって。それに豊かな胸も、ね」
 乳房に唇が触れるのは、彼女にのみ許していることだった。髪に指が差し込まれても、瞳をじっと凝視されても、指に舌が絡みつくのだって許している。彼女だから。――全て、なのはさんだから。
 彼女はたまに思い出したように、好きだよ、と言った。
 私はそのうちに、意識された笑顔というものを編み出した。全開ではいけない。僅か過ぎてもいけない。唇をそっと持ち上げ、彼女がようやく気付くだけの笑顔を、そして気付いた後では目をそらせないほどの美しい微笑でなくてはいけない。
 そんな、彼女をのみ魅了する笑みを、彼女にのみ与える。それは私の愛する人の特権なのだと、頬を燃やし見惚れているなのはさんの耳に打った。
「もっと見たいですか?」
「う、ん……うん」
 私からすれば、彼女の顔だって綺麗だと思う。どちらかというと可愛らしい顔立ちに、中毒性の高い甘ったるい声は、とても魅力的だ。彼女はその使い方を知っている。私も、今は覚えた。なのはさんのために覚えた。
「してほしい?」
「うんっ、……」
 私は指で唇をなぞる。彼女はうっとりした瞳で私を見上げていた。三年ほど前は逆で、私の方が彼女を見上げ、彼女に見惚れていた。私は歓喜に満ち溢れる一方で、変わったのは、病んでいるのは誰だと叫びたかった。

 たまにとれた休暇日に彼女の住居を訪れる。この頃、彼女は身体の休養でずっと家にいる。彼女は娘と二人暮らしであるというのに、家はとても広い。
 玄関をくぐると鼻先を暖かな香りがくすぐり抜ける。彼女は昼食を披露してくれた。清潔な(おそらく彼女ではなくその娘が掃除しているだろう)廊下を歩けば、卓上には想像よりもずっと素敵な料理の数々が並んでいた。私はつい彼女の顔をのぞく。彼女は幼い、照れた笑みを浮かべていた。
「ティアナのために用意したんだ」と彼女は言わない。代わりに娘が「ティアナさんのために頑張っていたんだよ」と言った。私は素直に嬉しいと思う。けれど、それでもやはりなのはさんの口から聞きたかったというのは我が侭なのだろう。
 私の目の前にはなのはさんと娘が座った。椅子につくと不意に視界の中に娘の手があった。テーブルの上に揃えた娘の両手の指は、自分よりもずっと若く綺麗だった。傷一つなく、短く短く切られた爪も細いながら丸みを帯びている。自分のは……いいや、この指だって彼女は褒めてくれた。比べることはない。それにしても子供の頃というのは、爪など伸ばし放題だったような気がするのに、少女は身だしなみをきちんとしていて驚く。けれど私は何も言わなかった。不思議と少女の爪について問いかける気がしなかった。たいしたことではない、と思い込めばそれで足りた。
 賑やかな食事を終えて後片付けを済ませてしまうと、当然のように寝室に誘われる。娘はとうに自室へと引き下がった。無論、少女が自主的にだ。なのはさんは決して娘を追いたてるようなことは言わない。コーヒーを喉に流し込み、私は彼女が普段眠るベッドに横になった。
 ベッドは広い。三人はゆうに寝られるくらいの広さがあった。私はそこにふと思うことがある。自室に向かったと勝手に思ったけれど、少女の寝室もここではないのか? 考えは、なのはさんの訪れによって遮断された。シャワーを浴びたなのはさんの乾ききらぬ髪に、自身の喉が鳴る。母親らしいエプロン姿の彼女を一目見たときから、実は内側が熱く焼かれていた。そうでなくても濡れた姿というのは情欲をそそるのに、その彼女がベッドにぺたんと座り、雫の滴る髪の隙間から片目で見上げているとなればなおさらであった。
「おかえりなさい、なのはさん」
「気持ち良かったよ」、彼女は雫をタオルで拭いつつベッドに腰を下ろした。隣からは僅かな熱気と、流し切れなかった色香が鼻先に触れ、平常を装うのに苦労した。私はごく普通に彼女の一動を見届けなくてはならない。慌て、興奮するものに誰が惹かれるというのか。
 ふう、と息を吐く。それから首振りで、彼女のまとわりつく魅力を振り切る。もう慣れたものだ。
「あたしは、する前にシャワーを浴びるというのはあまり好きじゃありません」
「そうなの?」
「無駄じゃないですか。それに匂いだって消えてしまう」
「じゃあとめてくれたらよかったのに」
 少しだけ落ち込んだ彼女の髪を撫でながら優しく言ってやる。
「でも、あなたの濡れた髪はとても素敵だから」
 頬に掌をあてがってやれば、たちまち彼女は顔を真赤にした。湯上がりのせいではない。
「どうしてあなたはこんなにあたしを興奮させるのが上手いんでしょう」
「上手なのはティアナの口だよ」と彼女は唇に人差し指をそっと乗せた。それから横になぞられる。
「それに、とてもそんな風には見えないんだけどな」
「魅力的な人を前に、みっともない真似はできませんから。ちいさな見栄です、見逃してくれませんか」
 私は唇を微かに動かして微笑んだ。目線はじっと彼女に留めたまま、動かさない。私が相手のことを“そういった意味で”見詰めれば、ちゃんとその気になるというのは、彼女に教わったことだった。
 彼女が自ずから瞳を閉じれば、すかさず唇を塞ぐ。触れるだけのキスから、徐々に湿り気を帯びるようなものへと変化させていく。彼女の合わさった膝を手で少しだけ押してやれば、彼女は絨毯を足裏で擦るようにずらした。手を滑らせれば、私は彼女が身を昂らせていることの確信を得られる。あとは思うがままだ。指摘してやってもいいし、無言で進めてもいい。彼女は受け入れてくれるだろう。
 けれど、扉の外から声が届いた。
「なのはママぁー」
 私はちょうど彼女のボタンに手をかけ、首筋を撫でていた。突然の、しかし予測された闖入者に振り向いたのは私ではない。私は続けてもよかった。たとえその子が入ってきたとしても。でも彼女が振り返った。
「ヴィヴィオ」
 声がすれば彼女は私などからはもう視線を外し、扉へと顔を向けていた。
 この家のもう一人の主。ヴィヴィオの声で時間は終わる。
「ごめんね、ちょっと行ってくるね」
 私は部屋に残される。絶望に似た脱力を感じ、広いベッドに身を倒す。再び眼前に下ろされた鉄格子を前に、私はただただ立ち尽くしていた。

 ヴィヴィオに嫉妬をする余地もない。
 彼女が認めてくれた美しさは、他のどんなものを退け彼女を惹きつけることができたとしても、ヴィヴィオという存在の前にはちっと役に立たないということを、その日、私は思い知った。



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