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2019-11

無音の鎖

目次⇒陽の中に塗り込めて。

アリなのです。というかアリサ→なのは。
だいたいは美しく気品のある花を飾るより、雑草にまぎれて咲く小さな花を飾るのが難しい。
何故って売ってないし、摘んだところで野に生えていた時に感じた魅力を生かすことはできないからね。
続きよりどうぞ。



 無音の鎖


 美しい令嬢が自らの美しさをより際立たせるためのドレスを、アリサは身につける。動作のすべては計算し尽くされた美を演出する。けれどそれはやはり実らない。他の誰もが美しいと言っても、尊敬する父が褒めてくれてさえ、アリサの心は潤わない。アリサよりも美しい人が想い人の傍にいることを除いても、自らの美しさはないものと思っている。アリサは笑って流しているだけだ。
 アリサは一人の少女を見る。
 アリサと同じ年頃の、女性と言っても差支えぬ年の、けれど少女という印象を崩さない少女。決して美しいわけではない。綺麗であり、愛嬌のある顔ではあるのに、それでもアリサのようなきびきびとした美しさまで備えているわけではなかった。だけれども、人は皆少女を向く。視線の多くは少女に注がれ、少女は自然に魅入られている。アリサもその一人だった。
 今にも薄紅色の羽根を伸ばし、飛び去って行ってしまいそうな少女を数分も眺めていた。途中他の誰かと会話はしただろう。だが印象にまでは残らなかった。
 やがてそんなアリサに気付いた少女がこちらに歩み寄ってくる。
「アリサちゃん。わあ、すごく綺麗だね」
 待ちわびた笑顔を頬に浮かべた少女に、今しがた考えていたことの全てが吹き飛んでいく。アリサは大げさに溜息を吐きだして、少女の丁寧に結った髪に掌をのせた。なのはとの久しぶりの邂逅だった。何日とか、何ヶ月とかではない。年単位での久しさだ。少女は今、この世界にはいない――というと既に死んだ人間のようの感じるかもしれないが、実際はあまり変わらない。住む世界が違うという意味で、やはりこの世界にいない、とアリサは思う。ミッドチルダはアリサという一般人にとっては遠すぎる場所にあった。そも距離で測れるところですらなかった。
 だから会おうと思っても、少女からの連絡を待つしか術はない。
「パパが選んでくれた衣装なんだから当たり前よ」
「うんとね。ドレスもだけど、わたしはアリサちゃんの方に惹かれるよ。だってそのドレスはアリサちゃんが着たからこそ綺麗にみえると思うんだ。きっとお父さんだってそれを考えて選んだんじゃないかな」
「あんたは口がうまくなったわね」
「えへへ。でも本当だから」
「わかってるわよ。ところで……」
 アリサは続きの言葉をしばし躊躇う。だがこちらを見上げる少女のふたつの瞳に、仕方なしに口にした。
「今日はひとり?」
 大切なあの子は一緒ではないのか、とアリサは尋ねる。なのはは無邪気に首をかしげた。可愛らしい、そこに計算がいくらあるのだろう。もしほんの僅かにでも意識されたものであれば、笑って騙されてあげようと思えるのに。アリサは内心で苦々しく思いながらなのはの返答を聞く。
「今日はお友達の家に行くって。だから一人だよ」
 寂しいな、となのはが呟くのも、その子が現れてからだ。それまで一度だって寂しいなんて口に出したことがなかった。寂しいどころか、苦しいとも辛いとも言わない。せめて愚痴だけはこぼしてくれたのが救いだろうか。なのははアリサにだけ、大変だったことをぶっきらな口調で話しきかせた。アリサは仕方ないなという風を装いつつも、無論聞いてやった。
 最近の愚痴はもっぱらその子のことである。なのはの特別とも言える幼子。アリサと同じ髪の色をし、二色の澄んだ瞳をした――ヴィヴィオ。
「それはあんたに遠慮したんじゃないの?」とアリサは言った。
 そうなのかなあ、と心なし項垂れてなのはが返してくる。そうよと力強く支えれば、なのはの表情は明るくなった。なのはは心の全部をその子に捧げてでもいるのかとアリサは疑った。しかしすぐに思いなおす。疑うまでもなく、確かに捧げているのだと。
 昔フェイトをライバル視していた自分は、とんだ間抜けだった。なのはを全部で愛し抜くフェイトとてなのはの特別ではなかった。まだ学生であった頃は、フェイトとアリサのどちらがなのはをその気にさせるかとこっそり競っていた。はっきりと態度には出さなかったはやても妖しいとはおもうものの、彼女にはどうこうしようという意志が見られないのでアリサは考えないことにした。一番注意すべきは、最もなのはといる時間が長く、なのは自身も大切に思っているだろうフェイトであるとアリサは決めつけた。なのはとフェイトは親密で、旧来の仲であるアリサやすずかはもちろん、魔法という共有点のあるはやてであっても容易には割り込めない雰囲気があった。
 ――実際に、なのはがはやてを想っていたことなど誰も見抜けなかったのだけれど。
 なのはと一緒のときのフェイトは、なのはしか見ていない。でありながら邪魔はさせなかった。似合う一組が共にいれば周囲は自然と微笑み、認めてしまう。そんな二人だったため、アリサも諦めてはいないものの、フェイトならばと密かに覚悟していた。心からの祝福は送れないまでも、せめて笑顔でからかってやるくらいはできようとアリサは思った。なのははフェイトとの間にさえ僅かに距離を置いているように感じられ、フェイトとアリサ、そのどちらの対応も変わらなかったからだ。
 一体どうしてこうなったのだろう。
 なのはが昔と変わらずに色や恋に一切興味を持たない分だけ、ヴィヴィオへの気持ちが純粋であることの証明になった。
 なのはがヴィヴィオと居る時、アリサなど彼方へ追いやられてしまうほどに。
「……なのはっ」
「うん?」
 アリサの呼びかけになのはが半身を翻す。両手のこぶしを握りじっと睨んでいると、彼女はあらためて自分の方へと向き直った。アリサが美を演出するドレスをまとっているなら、彼女は無垢な装いを身につけている。それはよほど人の心を惹きつける衣装である。
 恐ろしいな、と言ったのは、あれは八神はやてだった。なのはちゃんは恐ろしい子やな――耳朶に蘇る柔らかな口調の幼馴染を浮かべて、アリサはなのはの手を取った。
「大丈夫なの?」
「へ? 何が」
「いや、仕事とか、……ほら、体調とか」
「ああ」
 彼女は思い出したように頷き、苦笑しつつも昔よりはずっと朗らかな笑みを浮かべた。
「平気だよ、大丈夫」
 その言葉が嘘偽りでないことを知っていながら、アリサはつい付け足した。「あんたはすぐ無茶するんだから、ちゃんと言いなさいよね」と。しかしアリサは気付いている。大丈夫かと尋ねる側の方がたいてい大丈夫ではないのだということに。そして彼女はそれを読み取らないということに。
 だからアリサは呟いた。
「今度は連れてきなさい」
「え?」
「ヴィヴィオよ」
「ああ、うん」
 彼女の歯切れは悪い。理由をアリサは知っていたけれど、あえて意地悪に訊いた。
「あたしと会わせたくないの?」
「そんなことはないよ」
「じゃあ」
「だってヴィヴィオがいたら、アリサちゃんとの時間を思いきり楽しめないから。そう言ったのはアリサちゃんでしょ?」
 そう聞きだしたくて、会話が砂利道を転がるように滞ることをも覚悟して言った。思い通りになのはが口にして、アリサは満足げに頷き「そうね」と唇を持ち上げる。ぎちぎちに縛りつけられた心臓を取り出して見ている気分で、アリサはなのはに笑いかけた。
「だってあんたはヴィヴィオがいると」
 ヴィヴィオしか見ないんだから。この言葉は音には出さずに、なのはの手を軽く握る。
「まったく、いつも仕事やら娘のことばかり言ってないで、たまには目の前の人を見る気はないの?」
「もちろん。今の前に居るのはアリサちゃんだからね。でもヴィヴィオは」
「何?」
「なんでも」
「何よ」
「いや、やっぱりちょっと心配かなって」
 アリサは溜息をつく。一体どうしたらここまでの親馬鹿ができるんだろうと思う。
 なのはは他人について余計な心配や無駄な気遣いなどしなかったはずだ。必要なだけの心配、邪魔にならない程度の気遣いのみを与えた。その代り優しさと微笑みは対象の相手にとって最も効果的な時に、しかも無限に降り注いだ。アリサもそうだったし、フェイトもはやてもそうであった。聞いたことはなかったが、すずかもおそらくそうなのだろう。例外などなかった。
 ヴィヴィオが現われるまでは。

 ヴィヴィオに心を縛られているのではないか、とアリサは考えたことがあった。悪い意味ではなく良い意味だとしても、縛られていることに変わりはない。自分こそ省みないものの仕事の無茶は留めるようになり、護るべき人を得たなのははとても幸せそうに見えた。
 けれどアリサにはどうも腑に落ちない。
 想い人であるはずのなのはとの会話が楽しくない。それはなぜだろう。考えて、やはりヴィヴィオが浮かんだ。礼儀正しく、愛想もいい少女の姿が。
 アリサがもう片方の親に立候補することも考えた。だがどうしても出来ない。ヴィヴィオはなのはがいればいいし、なのはもまたヴィヴィオがいればいいように思えた。そこには第三者の存在など必要としていなかったのだ。どうしてアリサが割りこめるだろう。
 恋人でも夫婦でもないのに、彼女たちはまるで幾世も前から決まって結ばれた二人のようであった。だからアリサがなのはを一人占めできるのは、ヴィヴィオと離れたなのはだけであり、それは本当に僅かな時間しかなかった。
 これじゃあフェイトに奪われたほうが良かったかもしれない、とアリサは思う。それならばまだ諦めもつくし、できなければ気付かれないように会えばいい。なのはは断らないだろう。そして、フェイトも見過ごしてくれるだろう。何よりなのははなのはのままだった。
 まるで今のなのはは、音のしない鎖を自らの手足に括りつけているように見える。自分から囚われにいっている。ヴィヴィオから離れればもっと別の世界だってあるというのに、なのははそこで満足していた。アリサやフェイトがいくら気を惹こうとしても、決して友人の域を出ない。

 アリサは溜息をついた。
 何度目かの溜息は、そっとなのはの咥内に呑み込まれていく――そんな夢さえもなのは見させてくれなくて。アリサはなのはの、しばらく見られなくなるだろう横顔を記憶に焼きつけることにした。



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