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2019-07

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水囲いの庭

目次⇒陽の中に塗り込めて。

ヴィヴィなのです。この話だけなのは視点。
たぶん色んなことがわかる、、んじゃないだろうか。
続きよりどうぞ。



 水囲いの庭


 赤い空は私に色んなことを気付かせる。
 戦場の炎が炙った燃え盛る空であったり、少女の愛しい頬の熱であったり、自身の傷から今も滴れ落ちる血であったり。そしてそれを拭ってくれる手であったり。
 少女のつばを飲む音は酷く固く、溜息は踏みつけられた落葉のように掠れていたと気付いたのは、あれもやはり夕暮れだったように思う。

 日が暮れ始めると、私は夕食を作る手を止めてエプロンを外す。背中で結んだリボンを解き、鏡の前で軽く髪を整えた。学校へ、ヴィヴィオを迎えに行こう――と私は思う。校門までいけば流石に怒られてしまうから、近くの花がたくさん植えられた広場に向かった。ヴィヴィオもそこで待っていてくれるだろう。
 今日はどちらが先につくか、私はそれが毎日の楽しみだった。

 ヴィヴィオの姿を見つけると、私はいつも愛しさでいっぱいになる。たとえ十年過ぎても衰えない。
 公園のベンチは造りたてなのか真新しかった。私は木目の繊細な肌に腰を下ろし、まず空を仰いだ。それから足元に視線を落とす。公園にはもう青い草がいくつも背を伸ばしていた。荒れた芝にところどころ生えた草を追いながら足をぶらつかせるヴィヴィオを横目に見る。眺めているのは無人の遊具であっても、意識はヴィヴィオにあった。ヴィヴィオは額にうっすらと汗をかいていた。もう夏なのだ。
 今日はヴィヴィオが先だった。頬を膨らませたヴィヴィオにごめんと謝って、そのあとで少女はけろりと「今日は図書館に寄らなかったから、なのはママは悪くないよ」と言って笑った。「今日は早く帰りたかった」
 ぽつんと少女は呟く。だったら嫌なことでもあったのかと聞けば首を振った。
「ねえ。私は一人で帰れるのに、なのはママはどうして迎えにきてくれるの?」
「もちろんヴィヴィオと少しでも一緒にいたいからだよ」
「うん」とヴィヴィオは頷いた。「早く帰りたかったのは、それと同じ理由だよ」
 それからは夏休みの計画を立てた。自分は仕事を休んでいるから今年はたくさん遊べるはずだった。毎年毎年ヴィヴィオを一人家に残していたのが今更申し訳ないけれど、今年はそんなことにはならない。そういえば去年はどうしていただろうと考えると、去年もやはり一人にさせていたことを思う。友達と過ごしはしたかもしれない。けれど家では一人だったに違いない。
 ……何年も、私はヴィヴィオをほったらかしにしてきたのだ。
 誰よりも大切だと手を伸ばした少女をおいて、どうして旅になんて出れたのだろう。戻ってきた理由がしかも少女ではなかった。再び魔導師であるためだった。
 私はヴィヴィオの手を握りしめる。小さな手だったような気がするのに、いつのまに同じくらいになったんだろう。出会ったころを思えば、身長はもうずっと自分に追いついていた。ミッドチルダの家に戻ってきてから、私はとても驚いた記憶がある。それから少女の瞳は私の鼻先くらいにあり、口元は背伸びをすれば容易に届く距離だ。私はそれを知っている。ヴィヴィオの白く透明な爪が私の体を軽やかにひっかく感触だって。
「海と山がやっぱり定番だけど、どこがいい? どこでもいいよ、連れて行ってあげる」
「海もいいけど、山かな」
「どうして?」
 ベンチの横の大きな木は、その茂る葉で少女の頬に影を落とす。やがて朱から黒へ、闇が訪れたとしても灯火がヴィヴィオを照らすだろう。
「だって今こうして木の陰にいて、木漏れ日を受けるなのはママがとても綺麗だから」
 ヴィヴィオの頬は夕暮れの空よりもずっと赤く、私は思わず口元から笑みをこぼした。でもヴィヴィオに言うことはできなかった。私の頬も熱く、おそらくはヴィヴィオと同じくらい赤く燃えていた。少女の腕に抱えられたうさぎ型のデバイスは沈黙し、レイジングハートも黙っている。今この時、言葉を発する必要はどこにもなかった。
 顔を上げれば、ちょうど鼻先を冷えた風が掠めていく。それを機に私は立ち上がった。今から帰れば夕食の時間にはちょうどいい。
 帰り道の途中、ヴィヴィオは私の所在なき手に少女自身の指をからめた。私も握り返す。もう闇に喰われてしまうだろう影が、ぽつりぽつりぽつりと伸びていた。
 まるで幻のような平穏がいとおしくてたまらないけれど、ふと旅のことを思い出すと胸が締まる。あの人のことを考えると、己の心臓は正常ではいられない。たった一つ覚えた恋だった。だから彼女の手を取り、家を飛び出したわけでもなかったけれど。
 私は繋がっていた手が離れていく時の寂しさを知った。だがそれでも今、ヴィヴィオの手を離そうと思えない。ほどくのはきっと簡単で、だからこそ私は力を入れる。指の一本一本、できるだけ多くの肌に触れられるように私は指の間に絡ませた。初夏の夕暮れがこれほどの寂寥を運んでくるなら、秋になると一体どれくらい寂しいのだろう。
 だから戻るなら夏の終わりに。ゆえにこの時間は、あと二ヶ月くらい続く。 
 こうした時間がとれるのも私が仕事を休んでいるためだった。それはヴィヴィオと長く一緒にいたいがためである。そうヴィヴィオが望んでくれたから、私は甘えていた。
 だからこそ私はいつかヴィヴィオの身に危険が降りかかったとき、全力で護らないといけない。護ってあげたいと思う。無邪気な笑顔を浮かべる子に全力の笑顔を返して、大好きだと言ってくれる唇にそっと指で触れて。これまで自分を支えてくれたのはヴィヴィオのような気がして。今自分がここにいるのはヴィヴィオのためで。

 ――鼻先に雨の雫が滴れ落ちてきた。始めの一滴のあとは無数の粒が続いた。魔力の代わりに水分を集めてスターライトブレイカーを撃ったみたいだ。硬質な雨は一瞬にして全てを濡らしつくしてしまう。ただ幸いにも、もう玄関が見えるところまで来ていたので、慌てて庭をかけて扉を閉めた。
 家に入るとまずはヴィヴィオに服を脱ぐように促し、その間に自分も着替えておく。ヴィヴィオが寝室へいる間、私は台所のエプロンをかけなおしてテーブルに皿を並べていた。
 食事と入浴が済めばあとは寝るだけだった。後片付けはヴィヴィオがしてくれることになっていて、私は先にベッドに腰を下ろしていた。やがてヴィヴィオが寝間着姿で寝室へと足を踏み入れ、私たちはそろって潜り込む。広いベッドだったが、私と少女との間に隙間はあまりなかった。だから隣に少女の存在を感じると、私の胸はどきどきした。旅先であの人に感じたのとは違う種類の緊張だった。さっき思い出したりしたからだろうか。それともまだ湯ざめをしていないのか、身体が熱くなってくる。雨の連続した音も一役買っている。
 けれど一番の要因はそれらのどれとも違った。「眠れないの? じゃあ眠れるようにしてあげるね」とヴィヴィオが優しく触れてくれるからだった。
 親子で、というよりは、愛しく思っている子にされていることに罪悪感があった。駄目なことなのだと思えているうちはまだよかったのだろう。しかしあの人のことも頭に上らなくなり、その時間を心待ちにするようになってからおかしくなった。いいや、おかしくはない。心臓の動く過剰な音よりもまったく正常なことだろう。だからないほうが異常であり、今晩落ち着かないのはそのためだった。
 その晩に限って、ヴィヴィオは幾ら待っても音沙汰なかった。いつもは言わなくても手を握ってくれるのにそれがない。だから何も始まらないし、終わらなかった。時計の数字が全く進まないことさえ苦痛になって、私はたまらずになのははヴィヴィオの手を握る。昼間とは違う意味を含めた触れ合いだった。
 元々なかった距離を詰めて「ヴィヴィ……」と耳元に囁いた。
「うん、分かってるよ」
 それは自分からの初めての誘いだった。にこりと笑みを浮かばせているのをみて、ヴィヴィオは待っていたのだと思い知る。
 頭ごと少女の小さな胸に強く押し付けられるような、待ち望んだ抱擁を受ける。頭上に降り注がれる彼女の声は、身体に響いてきた。
「なのはさん、遅いよ」
 ちっとも甘い言葉ではないのに、私は精神からとろけるような気分でいた。腕の中から二度と抜け出せる気がしない。
「遅いって、だっていつもヴィヴィオから、だから。でも今日はなくて……どうしたの?」
 間違ったことだと思いなおしたのか、あるいは嫌になったのかと思ってしまった。どうにか手を握れたのは、昼間にヴィヴィオから指をからませて来てくれたのを覚えていたからだ。何より今、こうして抱き締めてくれている。
「私が誘うからなのはさんは仕方なく受けてるのかと思って待ってたんだよ」とヴィヴィオは一切の気負いなく言った。あまりに自然に言うものだから、私はつい尋ねてしまう。
「もし今日私から誘わなかったら、どうしてた?」
「もちろん、二度としなかった」
 ヴィヴィオの近づいた顔を見つめていると、やがて視点が合わなくなった。私は瞼を落とす。頭の中がひどくぼんやりしているのは、気持ちが良いせいなんだろうと思う。ただ身体が溶けていくような気がするけれど、頭の中はぼんやりとしたままだ。
 ――そういえば最近、ティアナさんは来ないね。とヴィヴィオが言う。私はキスを受けながら、そういえばフェイトちゃんも来ないな、と思う。そんなに忙しいのか、休暇ができても来ないのか。ずっと以前に出張中だと連絡をもらってからそのままになっていたが、ここまで連絡がないと、もしかしたら私は知らず嫌われていたのかもしれないとも思う。それも避けられるほど、ひどく。
 ティアナのこともまるで今、とってつけたように気になった。最後に会ったのがいつか、私はとても思い出せない。
 舌が絡む。鈍い金色の髪を撫でながら、ヴィヴィオとの段々深まるキスに没頭する。先日海鳴への帰郷を済ませてきてから私の世界にはヴィヴィオしかいなかった。アリサちゃんと私は一体どんなやりとりを交わしたんだろう。
 そこにそっと雨音が侵入してきて、私は現実に引き戻された。空のことを思い出して、私はようやく現実に立ち返ることができた。
 はやく魔導師に戻らないといけない。そうしなければ私はうまく考えることが出来ない。
 空がひどく恋しかった。
 夜の終焉の間際に、私はヴィヴィオを見上げる。ヴィヴィオの顔が当然のようにそこにあり、私は安堵の中にゆっくりと思考を手放した。



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