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2019-07

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君は扉を閉ざして

目次⇒陽の中に塗り込めて。

ヴィなの。といいつつヴィータ→なのは。
おわり。
続きよりどうぞ。



 君は扉を閉ざして


 空を見過ぎて青くなったなのはの瞳のように、ヴィータの目は青かった。ヴィータが長い間見ていた空は淀んでいて、故になのはの青よりも暗かったが空と同じ色にはかわりない。
 それでもなのははヴィータの瞳を“暗い”ではなく“深い”と言った。


 大切なものだけをこの手に、どうして掴むことができないのかとヴィータは思う。
 小さな願いだけをもった頃があって、それは苦しい時でもあった。たった一つの願いを叶えるために奔走した。けれど苦しいながら、なすべきことが限られていながら、今のこの楽な有様はちっとも楽ではなかった。考えることは少なければ少ないほうがいい。あの頃、自分の考えることは多いようで少なかったとヴィータはやはり考える。今、こんなことも考えている。ヴィータは考え続ける。
 主と仲間と暮らせるだけで幸せだった日々は、なんと素敵だっただろう。
 けれど時を経て、主はなのはを連れて旅に出ていった。決して彼女が自分たちを見捨てたなどとは思わなかったが、かといって取り残されたような、寂しい気持ちが侵入するのは拒めなかった。どちらからそういった感を受けたかだけは、ヴィータは考えたくなかったけれど。けれど考えるまでもなく、理解していたのだ。家族が遠い場所に行っても、心が繋がっていれば寂しくなどない。何より主はやては連絡をしてくれた。遠い世界からでもヴィータのことを想い、家族のことを考えていた。そんな優しい主なのだ。大丈夫なのか心配や気掛かりしても、決して寂しいなどとは思わなかった。
 だから決まっていた。寂しいと思うならばそれははやてが連れて行ったもう一人であるということを。

 過保護すぎたんだろうか、とヴィータは思う。口にこそ出さないまでも、想いはなのはにただ漏れになっていただろう。彼女は人の心の機微に敏い。その本質までわからなくとも、必要な分必要なだけ感じ取ってしまう。ヴィータが彼女を護ろうとしていることなどとうに知られていただろう。
「はやてを護るついでだからな。それにあたしは騎士だから」
 たったそれだけの戯れで、いかにヴィータが本気かということを見抜いた。別の想いは幾ら伝えようとしても彼女が理解しないのに、好意の大きさも信じようとしないのに。そういうところだけ鋭く見抜くのはずるいと言えた。少なくともヴィータは思っていた。
 そんな彼女に教導隊に誘われたからって、入るべきではなかったのかもしれない。
 後悔はしていない。自分に合う場所であり、はやても喜んでくれた。だから後悔はしないけれど、なのはの相変わらずの無茶を傍で見つづけることになってしまった。ならきっと態度に表れていた。監視に近い目で睨まれて、窮屈でないはずがなかった。悪いのは、なのはがそのまま認識してしまうことだった。ヴィータの中には無茶しないか、体は大丈夫かという心配とは別の感情がいっぱいにつまっていたのに、なのははそこまで手を伸ばしたりはしなかった。
 それはヴィータにとって大切で、触れられたくないものだった。そういったものになのはは決して触れたりはしない。たしかに誰かが悲しんでいたら肩を抱いてやるだろうし、泣いていたら何とかして救おうとするだろう。しかし、その人の中の深くにまで入り込むことはなかった。――傍にいたいのだと、どうして彼女は気付かない。
 ヴィータには分からない。きっとなのはにも分かっていなかったんじゃないかと思う。
 けれど彼女の体もまた心配だった。空を飛べなければ蝕まれるのは体だけでは済まない。心も浸食されてしまうだろう。だから彼女が休暇をとることは喜びこそすれ、悲しむことなど一つもないはずであった。しかし現実に、ヴィータは教導隊隊舎の広場を探さない日はない。
 なのはが一人でミッドチルダに戻ってきたとき、ヴィータは主に言われたとおりに出迎えた。頼まれていたのだ。よろしく、と。ヴィータははやての言葉の理由が分からなかった。なのはは旅立つ前よりもずっと快活さを取り戻しているように見えた。はやてがきっとなのはを癒したんだ、だから戻ってきたのだとヴィータは考える。誰にできなくても、我が主ならきっとできる。休暇は長旅の疲れをとるためで、ヴィヴィオとの失われた時間を取り戻すためだろうと納得した。
 でもなのはは一向に教導隊に戻っては来なかった。ひと月、ふた月、み月が経った。
 そのうちにヴィータは高町家を訪れた。八神家に劣らず大きな敷地に、広い庭と家が建っていた。ここになのはは、ヴィヴィオと二人で住んでいる。訪ねたことはこれまでに幾度かあったが、全てはやてと一緒だった。一人ではこれが初めてである。
 仕事帰りに訪れたものの、家になのははいなかった。夕暮れも過ぎた頃だからおそらくヴィヴィオを迎えに行き、帰りに寄り道でもしているのだろうとヴィータは見当をつける。
 空は青から朱に彩りを移している。既に日の大部分までが沈み、朱の頂である。黄昏がもうすぐ訪れるだろうが、なのはの姿を見つける自信がヴィータにはあった。もし見つけられなくてもなのはの方が見つけるだろうとも。
 だから学校帰りに通りそうな道を散歩を装って無為に歩いた。犬の吠える声や、鳥の最後のさえずり、昨夜降った雨粒が葉を伝って落ちてくる繊細な音の間をヴィータは通り抜ける。次第に暑くなってきたこの頃だが、日が沈めばずっと涼しくなった。散歩をするにはよい季節だ、十分な口実になる。
 余裕のできたヴィータは空を見上げ、予想できた暗さに溜息をつく。はやてが帰ってくる時間までに戻れるといいんだけど……。
 そのようにしばらく歩いていると、帰ってくるなのはとヴィヴィオの姿をヴィータの眼が認めた。そこにあったのは仲睦まじい親子の姿だけだった。
 なのはと少女の指が絡まる。互いを慈しむ仕草は、二人の母娘という関係を知っていても恋人を連想された。年齢の差が辛うじて食い止めているものの、ヴィヴィオの大人びた容姿となのはの幼い顔つきがそれらをうまくつなぎ合わせ、実際には十五ほどの差を五つくらいに縮めている。何よりも雰囲気が恋人のそれだった。恋人という呼び名が相応しくないならば、互いを愛しく思い合う同士と呼べばいい。そんなことは大した問題ではないはずだ。
 紅の騎士は声もかけられずに立ち尽くす。小さな影が朱の中に長く伸ばされるが、遠くの二人は一切気付かない。
 仕事を早く終わらせて、慣れぬ待ち伏せなどした結末がこんなものだとは。ヴィータは落胆する。予想ができたはずだった。それどころか家に彼女がいない時点で、自分がそう見当をつけたのだ。気分が沈んでいるのはヴィヴィオと二人で歩いていることではない。そうではなくて、彼女の目が、ちっとも救いを求めていないことだった。
 そういえばはやてはこうも言っていた。
 ――なのはちゃんを救ってあげて、くれへんかな。
 きっと主が癒したんだとばかり思っていたなのはは、今この瞬間にも心を痛めていた。久しぶりに目にしたなのはの姿に愛おしく思った一瞬後に、彼女が酷く傷ついていることがはっきりと分かる。
 はやてには救えなかったのだ。
 はやてでさえ、救えなかった。
 それはそうだろうとヴィータは納得する。
 ――なのはちゃんのことをヴィータが助けてあげて。
 彼女は救われたいなどと思ってはいなかった。ヴィヴィオと一緒にいたい。ただそれだけだ。それだけの人だった。
 そんなあいつを、自分が、一体どうやって助けてやればいいんだ?
「……無理だ」
 幼い頃、なのははよくはやてを見ていた。はやてと話しているときによく笑い、頬を染めた。はやてもまた、なのはといる時には気を休め、ほっとしているようであった。二人をよく見ていたヴィータだからわかる。そうやって楽しそうになのはについて話すはやてをずっと見てきたのだ。機動六課で二人は幼い頃のような親密を取り戻していた。仕事がらなかなか会えない日が続いても、そんなことはちっとも関係ないのだというふうに。だからはやてはなのはと幸せになるんだと勝手に思い込んでいたのである。
 だけれどもなのはははやてとは結ばれえない。もちろん自分とも。それは目の前の光景を見れば理解出来る。
 突き付けられたのは、そんな何年も前から分かりきっていた事実であった。

 はやてはなのはを動かせる最後の人だった。
 ヴィヴィオを置いてまではやてと旅に出たのだ。にも関わらず何もできなかったのは、はやてが自分から進んでどうこうする人じゃなかったからであろう。手を引いてあの場所から連れ出すことがはやてには精一杯だった。
 半年後に、なのはは教導隊に復帰する。もう空に上がれないだろうといわれていた彼女は“誰も驚くことなく”、再び空の中にいた。ヴィータさえ当り前であるように思う。高町なのはが飛べない時はもう、きっと生きてはいないだろうから。
 なのはは懐かしい教導隊の白と青の制服を纏いヴィータの前に現れる。
「ただいま、ヴィータちゃん」
 と笑顔で言って、彼女は機動六課にいた時のように頭を撫でた。ヴィータはそれを乱暴に跳ねのけるふりをする。力のこもらない抵抗だっていつもどおりだ。ヴィータはそんな薄汚れた繰り返しの現実に呆れてしまう。作り上げているのは自分であることも加えて。
 もう彼女は、ただいまとははやてに言わないだろう。それを言うのはヴィヴィオにだ。悪くない。悪くはない。大切な人が増えたというのはヴィータだってそうだった。けれど彼女のは、なのはのは増えたというんじゃなくて、ただヴィヴィオが唯一になったのだ。恋をしているわけでもなく、限りない友情を感じているわけでもなく。特別な存在。おそらくはなのはに、存在から訴えてくる存在。
 他などどうでもいいはずなのに、それでも空に戻ってきたという矛盾。魔導師は彼女にとっていったいどんなものなのかさっぱりわからない。本当に護りたいものを護りたいというだけなのだろうか。きっとそうだとヴィータは思う。それでまた訓練を重ねるんだろう。まったく、救えない。
 ヴィータは目を閉じる。改めてなのはの手を払い、乱れた髪を整える。それから彼女を睨みつける。
「なのは」
 顔を逸らさなかったのは間違えないため。なのはの肩を掴んで無理やり屈ませると、近づいた唇に自身の唇をぶつけた。口内のどこから切れて、やがて血が流れ込んでくる。しょっぱさが滲んで、目元が歪んだ。
 無抵抗な彼女の舌を捉えながら、ヴィータは語りかける。
 ――お前は戻ってくるべきじゃなかった。
 家の中に閉じこもっていれば、どうやっても開かない扉を開けようとなんてしなかったのだ。



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