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2019-05

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私の中にあるものを全部かき集めて

三代目拍手SS
はやて×なのはです。
よろしければ続きよりどうぞ。


 私の中にあるものを全部かき集めて


 着替えを鞄から出していたところで、ふと横から名前を呼ばれた。一瞬自分の名と気付かずに、二度呼ばれて初めて認識する。特別な呼び名であったわけではなく、普段通り「はやてちゃん」と呼ばれたにもかかわらず、私は一歩遅れて振り向いた。
 市街から車で一時間ほど走ったところにある月守台に、私たちは訪れている。初めて来たが、空気も美味しくいいところである。
 足が治ってから五人で行く初めての温泉は、張り詰めがちな仕事の休息と、友人たちとの憩いが目的だった。ここに来たことがあるのは私とフェイトちゃんを除いた三人、アリサちゃんとすずかちゃん、それになのはちゃんだ。
 以前車は二台で行ったらしいのだけど、今回は三人増えたということで三台――ではなく、なのはちゃんのお兄さんとその恋人さんがいないので、二台でなんとか来ることができた。うちの家族も本当は一緒にと思っていたのに、遠慮して来なかった。「ご友人たちとのせっかくの時間を邪魔してはいけませんから」というのはシグナムの言。ヴィータやシャマルは少し行きたそうにしていたものの、将が言えばそれは決定事項となる。
「シグナム、別にかまへんよ? なのはちゃんたちも気にせんて」
「いえ、それにあまり大勢になると向こうの保護者にご迷惑がかかると思いますので。なにぶんうちの次女と末っ子は騒がしいですし」
 同意してしまうと途端、ヴィータとリインが抗議した。シグナムはそれを見て、ほらみたことかと首を振る。シャマルもそんな家族の様子に溜息をついて「これじゃあ仕方ないわね」と言った。騒がしくなってきたリビングルームを見渡しながら、今までじっと黙り通しだったザフィーラに目を向ける。彼は一礼すると扉の向こうに消えた。
「主の留守、しかと任されました」、そう言われては引き下がる他ない。また今度、家族で出かけるとしよう。
 なのはちゃんのご両親やすずかちゃんのメイドさんの運転でこの月守台に到着すると、豊富な自然に包まれた。見晴らしのいい丘もあったし、深い色の木々も茂っていた。建物の傍には池も見られ、実に風流な日本の風景といった感じを醸し出してる。昨夜の任務の疲れはまだ残っていたが、この分だとすぐに癒されそうだ。
 私ら仲良し五人組は早速温泉に入ることを決め、その準備に勤しむこととなった。広い部屋に通されて、それぞれに鞄を漁る。そうして自分の分の浴衣をとり、下着その他を探しているところに声をかけられた。
 振り向いた先には身を屈めた少女の姿があった。二つに結った栗色の髪がぴょこんと跳ねる。幼い含み笑いがそれに悪戯っぽさを添えた。
「ええと、なのはちゃん?」
 彼女には珍しい表情に、何事かと怪訝に眉をひそめる。自分に対してこういった悪戯好きの顔をすることはほとんどない。あるとするならアリサちゃんが相手だ。悪戯というより喧嘩というか、あの二人はよくしている。フェイトちゃんは可愛すぎて悪さが出来ないんだそうな。すごくどうでもいい。
 そんな彼女が唇の端を持ち上げて私ににっこりと微笑んでいるのは、言い方を悪くすれば気味が悪い。彼女はどんな表情をしていても可愛いことには変わりないけど、それでもだ。生憎意地悪をするのは好きだけど、されるのは苦手なのだ。フェイトちゃんやすずかちゃんあたりは、それでもなのはにならと言いそうではあるけれど。
 ……また思考が逸れる。なのはちゃんが何も言わずこちらを見ているせいだ。
 もう一度呼びかけようとして、準備を終えた友人の声に遮られる。
「おーい、そこの二人。何ちんたらしてんの、早く行くわよ」
 アリサちゃんが呼んでいる。見ればすずかちゃんもフェイトちゃんも皆支度し終えているようだった。私も慌てて荷物を手に立ち上がる。
「行こう、なのはちゃん」
「うん、……ねえはやてちゃん」
 ねだるような幼い声に、私は曖昧に返す。
「なんやー」
「温泉から上がったら」
 遠ざかる三人の背中。近づいてくるのは、なのはちゃんの唇。
 耳に軽く触れられ、私は彼女の顔を見返した。
「二人でお散歩しよっか」
 彼女の顔からはすでに意地悪さは消え、純粋な笑みだけが残っていた。久し振りに、本当に久し振りに見た年相応の笑顔に、意識せずとも胸が熱くなった。触れられた耳から伝って、内側で熱が爆発しているように身体全部が熱い。
 なんだか自分ばかりで悔しいと、彼女にこの熱を移してやりたくなって。必要ないくらいに強く手を握った。彼女はそれに一瞬だけ驚いた顔をしてみせたけれど、すぐにまた元の笑顔に戻った。

「綺麗な池だねえ」
 嘆息するなのはちゃんに、ほんまに、と適当な相槌を打つ。
 穏やかな時間の流れの中で私がいくらかぼうっとしていると、突然何かを見つけたのか彼女は大きく驚いて、身を乗り出した。
「あ、鯉だ! 見て見てはやてちゃん、鯉だよ、凄く大きいよ!」
 水の中を、尾鰭をくねらせながら進む色鮮やかな魚を指して、彼女が言う。
 温泉から上がったあと、庭に置かれた池の傍らに私は立っていた。当然隣にはなのはちゃんがいる。湯上がり、色めいた彼女の浴衣姿に脳をずきりと痛ませながら、しかし平常を装って水面を見つめている。
 池に浮く木の葉が揺れるのをなんとはなしに目で追っていると、次第に心が落ち着いてくる。やましい考えも清涼な空気の中に溶けたのか、優しい気持ちで彼女の隣にいることができた。ゆっくりとした二人の時間は、そうとれるものではない。ならば、ただ無心で一緒にいるのもいい。
 腕が触れ合うくらいの距離で彼女といると、不意に時間を忘れる。黙って抜け出したわけではないが、仲間の事が気にならないこともなかった。アリサちゃんのしつこい追及も、すずかちゃんの無言の圧力も、フェイトちゃんの恨みがましい視線も正直受けたくない。受けたくないが、なのはちゃんといる時間を思えばどちらを選ぶかはおのずと決定された。しかもなのはちゃんからの誘いとなれば、断る理由に至らない。
 先ほどから香るなのはちゃんの髪の仄かな匂いを、風がさらっていく。それをきっかけに彼女の肩を抱き寄せた。
「ん、はやてちゃん」
 胸に顔をうずめてくる。甘い声、甘い香り。抱き寄せたのは私の方なのに、むしろ彼女に引き寄せられていた。
 自分の想いの、一体どれ程が伝わっているのかわからない。
 高町なのはという人はちょっとした捻くれ者で、あまり自身への好意をそれと受け取ってくれない。愛し合う二人をみて『仲良しさん』と言い表すことはなくなったけれど、今だに好きの種類を理解していないんじゃないかと思うことがある。無論自分が完全に理解しているとは言わないが、少なくともなのはちゃんへの気持ちは友情だけでないといえる。友情ももちろんある、でもそれだけじゃない。キスをしたいと、触れたいと思うのは彼女にだけだ。
 そんな面倒くさいことをずっと考えているわけではない、しかしたまに考える。
 ――彼女が私に感じている想いは、はたして恋なのか。
 甘えてくれるのも、好きだと言ってくれるのも、私だけじゃないのだ。
 ただ一つ信じられるとしたら、こうして皆と旅行に来ているときに二人で抜け出そうと提案してくれたことだ。大切な人との時間を何より大事にする彼女だから、皆に悪いとは思っても嬉しかった。特別だと思ってしまいたくなるくらいに嬉しい。
 期待、してしまうよ?
 肩を抱く手に力を込めて、気持ちが少しでも伝わることを思う。
「はーやてちゃんっ」
 胸から顔をあげた彼女が笑って、可愛らしく名前を呼んでくる。背中を撫でて私は笑い返す。
「流石にこの下には何も着けてへんな」
 好きな人に触れているどきどきから逃げるように、冗談めかしで言った。彼女はさっと耳を赤くして、再び胸に顔を埋めてきた。あかんなあ、と内心で苦笑する。なのはちゃんの胸が押し付けられて、治めるつもりだった心臓が余計に暴れることになった。
「もう、手付きがなんかやらしいよ」
 言ってくれる。手が震えてどうにかなりそうだというのに。
「はは、そういうんが分かるようになったんやな。成長、成長」
 胸に響くくぐもった彼女の声に対抗するよう苦し紛れに言うと、ちょっと肩を叩かれた。
 子供だった。戦闘時の凛々しい勇姿などどこへ行ったのか、一人の女の子として腕の中に納まっている。きっと一歩戦場に立てば表情を変えてしまう彼女が、今は無防備な表情を晒してくれている。なんと幸せなことだろう。
 彼女に背中へと腕を回されたのは、せめてもの抗いに「なのはちゃんはかわええな」と私が口にしかけた刹那だった。
「だって、私が分かるようになったのは」
 自分だけがときめいているようで、悔しくて。それなのに。
「……はやてちゃんが、教えてくれたからだもん」
 私はかくも簡単に撃ち負かされ、射抜かれたのだ。真っ直ぐな髪の隙間から覗く瞳から視線を外せない。魅惑を含んだ目と、ただ相手を撃ち落とすためだけの言葉にくらくらとする。
 やられた。
 頭を抱えたくとも両手は彼女の体から離れない。
 諦めたように私は空を仰ぎ見た。淡い青の中に薄っすらと月が浮かび上がっている。もうそろそろ部屋に戻らないといけない時間なのに、一度暴れ出した鼓動は一向に落ち着く気配を見せない。
 私がこの人に勝てる日はいつ訪れるのか。考えることさえ無謀に思える。
「じゃ、そろそろみんなのところに帰ろっか」
 ぎこちなく頷く自分に、彼女が手を差し伸べてくれる。勝ち負けも、想いの種類もどうでもいい気がした。どうせ定義なんて曖昧なわけだし、自分の中にあるものすべてをかき集めて、なのはちゃんの好きな世界を護ることができるならいい。こうしてたまに甘えてくれるなら、それでいいのだ。
「来年はヴィータちゃんたちも一緒に、みんなで来ようね」
 私だけでなく、ちゃんと家族のことも見てくれる彼女だから。
「……ああ。せやな」
 歩きながらなのはちゃんの手を握る。彼女の小指にさりげなく小指を絡ませた。その意図を素早く悟った彼女が、微かに頬を赤らめて言った。
「絶対だよ」
 こんな彼女に、私はどうしようもなく惚れ切っている。

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追憶の色に埋もれて
目次 / あとがき
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魔法少女リリカルなのは二次創作物、主に小説を扱っています。
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なのはさんをめためたに愛し、いじめていきます。

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