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2019-07

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焼きついて離れない思い出をあげよう

三代目拍手SS
ヴィヴィなのです。
よろしければ続きよりどうぞ。


 焼きついて離れない思い出をあげよう


 よく知る人が姿を変えて、自室のドアを叩いた心境というのはどんなものだろう。しかも全く見知らぬ姿ではなく、面影を残したままなのだ。顔だけではない、体つきもかつて事件の最中に見たことがある人。聖王の遺伝子を受け継いだ私、高町ヴィヴィオは大人の姿になって現れた。
 彼女には、腰まで伸びた髪を左側できつく結んだ長身の女性、そう見えているはずだった。成長した娘の姿に、彼女はどう思っているだろう。目を丸くし、ただ茫然と立っているだけのように見えて、聡明なこの人の事だから、頭では理解への道を急ぎ足で駆け抜けているのかもしれない。いずれ自分が話さなくとも理解に至るはずだった。
 しかしそれでも、唐突な事で困らせてしまっていることは確かなようだ。
「……ヴィヴィオ」
 そう、間違うことなく名前を呼んでくれて。揺れた声も、申し訳ないと思う一方で嬉しくもある。私が彼女を動揺させることなんて、正攻法でいってはできない。
 例えば不貞腐れたり、いじけてみたり。そんな子供じみた我が侭で暴れた時にだけ彼女は困ってくれる。どうしていいかわからないといったように眉を下げて、自分のためにこっそりとキャラメルミルクを用意してくれていたりする。そんな彼女が私は好きで仕方がなかった。
 でも表現の仕方を知らなかった。或いはもっと幼い頃にはできていたものを忘れてしまった。
 出会った頃は無心で抱きついて甘えることができたのに、背丈が彼女に近付くにつれて素直に想いを表現できなくなった。なのはママの馬鹿、なんて喚いたこともあった。その時彼女は怒りも泣きもせず一言、ごめんねと呟いたのみだった。哀しい顔を覚えてしまうくらいには沢山そういうことがあった。
 それが今はこうして、彼女よりも高い目線で見合っている。
 服装は彼女に借りた。今自分が着ているのは動きやすく飾り気のない服。この朱のパーカーは当然私自身のものではなく、目の前のその人のを借りた服だった。この人は普段ぴったり合うような服を着ず、少し大きめの服を好んで着る。締め付けのあまり無い、ゆるい感じが心地良いと言っていたのだけれど、似合っているし可愛いのだから文句のつけようもない。それに今こうして役に立っている。
 私の今の背は、この人よりも少しだけ大きい。
 ママと呼びかけ、私は慌てて飲み込んだ。この姿でママは似合わない、それなら他の呼び方は一つのように思えた。迷うことはない。
「なのはさん――」
 困惑する少女みたいなこの人に、愛しさで狂いそうな心を押さえて、私は囁いた。

 今日彼女は仕事に出ず、珍しく家に居た。忙しいこの人が進んで休暇日を取るなんて、余程特別なことがあった日くらいだ。なのはさんと親しく、また私とも仲良くしてくれているヴィータさんがいくら言っても無茶をしてしまうような人なのだ。
 だから私は前日に話を聞いた時に驚いた。
「どうしたの、なのはママ」
 よく考えもせず口にしたことをすぐに後悔した。特別な事があったのは分かっているんだから、少しは考える努力をすべきだったと後から思う。
 しかし彼女は特に気にするでもなく、さらりと答えた。
「今日は、ヴィヴィオのママになるって決めた日だから一緒にいたくて」、と。
 優しい優しいなのはママ。私が求めていることを聞きもせずに察し、やってのける。完璧なようなのにたまに抜けていたり、素敵なのに鈍かったり、とても可愛い人だ。身内びいきなどでなく心から思う。
 ただ。大きくなっても抱きしめてくれるのは嬉しいけど、私は彼女を抱きしめたかった。腕の中に収めて、自分のものだって囁きたかったのだ。
 小さいのがもどかしい、でも大人になって甘えられないのも嫌だ。
 矛盾が頭の中を駆け巡り、それがまた私を素直になることから遠ざけた。だからって、大人になっても甘えてくれるくらい大人になればいいんだ、なんていう思考は短絡過ぎるかもしれないけど。
 私はこうして彼女のドアの前に立っている。特別な日、きっと一日だけのものを無駄にしないように、なのはさんの服を着て、なのはさんへの想いを胸に詰めて立ちつくす。その後の事を考えるほどの余裕などなかった。
 陽がようやく明るい白に天地を染めた頃、私は部屋のドアを叩いた。
 初めて恋をした少女のような気持ちで――いや、私にとってはまぎれもない初恋には違いないが、正確には彼女に恋をするのは二度目だ。一度目はゆりかごの内部で、諦めることなく「助けるよ」と言ってくれた彼女の力強い目に。それから子供に戻って親への愛か恋か曖昧になり始めた頃に、二度目。魔導師への道を目指すことを決め、報告に行ったとき。
 はじめ、フェイトさんには反対された。フェイトさんなりに自分の事を心配してくれているのは嬉しかったが、私はどうしても母のような立派な魔導師になりたかった。白い衣を纏った彼女に憧れて、彼女の教え子よりも誰よりも尊敬して、近づきたかったのだ。決意は揺らがなかった。反対されるとは微塵にも思わなかった。危険な道だ、よくは思われないかもしれないけど、それでも母なら頷いてくれると信じていた。侮っているわけではない。今まで触れあって、生活してきた中で分かったことだ。彼女は人の行こうとしている道を阻害したり、引き止めたりはしない。
「ヴィヴィオの決めたことを、私は見守っているよ」
 優しい優しい目をして、頭を撫でて言ってくれた。
 他に特別な事を言われたわけでもされたわけでもないのに、その頭を撫でてくれる手が優しくて、嬉しかった。目の奥も、胸の内側も焼けるように熱く煮えていた。
 いつかフェイトさんのようななのはさんにとっての王子様や、ヴィータさんのような立派な騎士になって、彼女の事を護りれるようになりたいのだと、自信をもって言える日まで。
 ――言葉は暖めておく。
 そう決めたから言わない。でもこの日、なのはさんを抱き上げることの出来る今日だけは。

 ドアの前の少女みたいななのはさん。状況を飲み込んだらしい彼女が頬に浮かべた笑みは、柔らかく胸をくすぐった。羽根のような感触なのに、少し痛いのはどうしてか。まだ分からない。
「ヴィヴィオ、なんだか王子様みたいだね。それともベルカだから騎士かな?」
「どっちでもいいよ。ママ……なのはさんの好きな方で」
「じゃあ私の王子様で騎士、っていうのはちょっと欲張り?」
 私は首を振る。欲張りでもなんでもいい。彼女の王子様や騎士になれるのなら、それでいい。まだまだ恋を囁くには自分は幼な過ぎるから、ほんの少し彼女の前に出て、護れるくらいで十分だった。
「思い出をあげる」
 パジャマ姿のなのはさんを抱き上げる。王子様らしい振舞いをするためのお姫様抱っこ。彼女の体は記憶にあるものよりずっと軽く柔らかい。思わず胸に触れてしまった指の埋もれる感覚とか、間近にある少し照れた表情にこちらまで赤面させられそうになったが、しかし今日はそれでは駄目だ。いつもみたいに恥ずかしさに顔を背けてもいけない。
 だって今日は特別な日。
 自身に言い聞かせる。この人が力を抜いて任せられるような人であれ、と。
「思い出?」
 腕の中のなのはさんが言う。私は頷く。
「思い出だよ。私が大人になるまで消えない、大人になっても消えないような思い出を、受け取ってくれる?」
 彼女は少し戸惑った後、演技を込めて見上げるよう、首に腕を回してくれた。雰囲気はばっちり、お姫様役も容姿端麗とますます物語が盛り上がっているように見えたが、ここにきて彼女の寝間着の袖が肘にまでずれ落ちた。何だか格好がつかないなあ、と笑いながら彼女は言う。私も合わせて、大丈夫と笑った。これも思い出の一つだから。いつかまた自然に大人になったとき、なのはさんを抱きかかえられるようになって、今日の事をなぞってみるのも楽しいかもしれない。
「じゃあさっきの返事を聞かせて、なのはさん」
 彼女は改めて私の首に腕を回す。同じように袖がずれ落ちるが、今度は誰も笑わなかった。
「喜んで」
 なのはさんの唇が、定められたことのように合わせられる。
 彼女の「喜んで」という言葉を何度も反芻しながら、私は口腔で呟いた――ありがとう、ヴィヴィオだけのお姫様――焼きついて離れない思い出を、きっとあなたにあげよう。

 出来るならばいつか、思い出を幾重にも重ねていけるように。

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