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2019-07

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黒蝶が導くは異界への

三代目拍手SS
ティアなのです。
よろしければ続きよりどうぞ。


 黒蝶が導くは異界への


 鈍い胸の痛み。私は恋に似た感情を気付けば握っている。
 私の気になるあの人には“過去も未来もない、今生きていられればいい”そんな意思が偶に見え隠れする。恐らくそこには、絡み合う人間関係や守るべき人達なんてものが存在するのだろうけど、私のようにこれと決めたものがはたしてあるのか。あるとして私に見ることができるのか。
 身体を何度も切り刻み、戦技教導隊という厳しい門をくぐり抜けていったあの人が固執するものがあるとしたら、それは何だろう。私では到底触れてはならないもののような気がする。
 誰にでも笑顔を見せるくせに、底深い孤独をあの人はいつも抱えている。
 強くなるために信頼のできる教導官、その教え子である自分。関係は簡単であるに越したことはないけれど、ではこの疼きの正体を放っておくにはあまりにも神経を乱される。多分、私では手に余る人。
 想いが氾濫する。いつか、そんな気がしてならない。
 淡い不確かすぎるものを抱え、私、ティアナ・ランスターは今日も訓練に勤しんでいる。

 星がひとつ空を走ると、それからは静かな夜の空気が流れ続けた。
 紫苑に染まった空に月が浮かんでいた。考えごとでもしていそうな朱の月は、もうずいぶんと長い時間空に居座っている。日の出ならぬ月の出を眺めつつ、私は息をついた。
《訓練での疲労に重ね、長い時間夜風に曝されているとお身体を壊しますよ》
 そう、横に置いたクロスミラージュが一度声をかけてくれたくらいだ。無口なはずの彼にありがと、と返した後もまだぼうっと空を見ているのだから、折角の気遣いも形無しだろう。
《もしそうなってしまわれたら、あの方も喜ばないでしょう?》
 今度は私は答えない。少しするとクロスミラージュは《出来過ぎた真似を失礼》と残し、点滅を消した。私は再び頭を持ち上げ、夜空を仰ぐ。
 空を見る理由を、私は探してみる。
 そうだ、この空には星がない。先ほど一閃の流れ星が見えたのを別として、今日は星が全くなかった。大きな月はあるのに、星は一つとして見つからないことを嘆き、悲しむとか。これだけ広いんだからどこかに一つはあるだろうと探してみるとか。
 馬鹿らしい。
 私は考えてすぐに放り投げた。意味も理由も、探す必要はどこにもありはしない。
 もっと闇に満ちていればよかった。そうすれば余計なことも考えず無心でいられたのだ。暗い空の下、光などない世界の中で私は一人空を見る。無の世界に一人いるような気になって、自己満足。やはりどちらでも気分が浮かばれないのは同じかもしれない。
 今日みたいな明るい夜には、瞼を落としても光が差し込んできた。草や伸びる枝葉の輪郭が宵に浮かび上がる。さらさらと風に流れては、光が合間から零れてきた。
 しかしいい加減にしないと明日の訓練にも触る。仲間に迷惑をかけるのも、教えてくれる人に幻滅されるのも怖い。私がようやく立ち上がろうか、と観念したところだった。
 ――ふと。そこに一頭の蝶が舞い降りてくる。ひらりと身を翻し、遊ぶように飛ぶ黒い蝶の姿にしばし呼吸が止まった。
 途端に幻想的な空気に包まれる。蝶には鈍い赤の斑点が漆黒の羽根に丸々と描かれ、強烈なコントラストとなっている。夜に珍しい、黒く美しい蝶。山も、花さえないのにどうしてこんなところにいるのか考えることが無粋に思えた。
 身が強張り何と無く胸が震える。感動ではない。その時、振り返ればあの人がいることを私は肌で知った。
 ああそうだ。先ほどの流れ星だと思っていたのは、きっとあの人の光。星のない空を走る一条の光だ。
「訓練していたら、ティアナが見えたから」
 何も口に出来ない私に、なのはさんが微笑んで言った。
「月が綺麗だね」
 私は今度は素直に頷く。確かに月は綺麗だった。何も考えずにただぼうっと眺めていられるほどに美しい朱の輝きをもった月に、実は見惚れていたのかもしれない。
「それに、蝶も綺麗だ。そういえば騎士甲冑を着たはやてちゃんも綺麗な黒い羽根を持っていたけど、それとは別の種類の綺麗さだよね。つい見ちゃうような、そんな端麗な輝きを放ってる」
「え?」
「はやてちゃん、八神部隊長だよ」
 知っている。そうではなくて。
「私が何かを綺麗だっていうのは、珍しいかな?」
「いえ、あの……なのはさんには情緒的なイメージがどうにも希薄だったので」
 彼女は一つ息を吐き、言った。
「当り前だけど、私だって普段は可愛いとか綺麗だとかちゃんと感じるよ。出さないのは必要がないだけ」
 そして出さないようにできるのがこの人なのだ。公私のけじめのつけ方や、強い自己の抑制力には尊敬する。でも私にはできないし見習いたくなかった。そんな自らを偽るような真似、とても。しかし、だからこそスバルに「分かりやすい」と言われてしまうに違いない。
「ああ、駄目だよティアナ、溜め息ついちゃ。幸せが逃げちゃうよ?」
「なんですか、それは」
「私の世界でよく言われてた言葉。自分の中にはたくさんの幸せがあって、溜息をつくたびに逃げていくんだよ」
「そうですか」
「そう。でもティアナにはどうでもいいかな?」
「……分かりません」
 それに幸せなんてものは逃げないようにしっかり握っていればいい。逃げていくのなら、握りが甘いせいだ。注意が足りない覚悟が足りない。――それでも回避しきれない災いは確かにある。例えば親しい人の死。彼女の世界の先人たちは、もしかしたらそのことを経験的に知っていたのかもしれない。でも自分にとっては過ぎたことだ。そう、それよりも。
 それよりも、いつの間にか隣でにこやかな笑みを浮かべているこの人の存在の方が、私にとっては重大だ。訓練をしていたなら当然疲れているはずで、部屋に戻ればいいのに。わざわざ私のところになんて来ているこの人は、一体何を考えているんだろう。
 黒い蝶が舞っている。なんという種類の蝶なのか、美しい黒の羽根をした蝶が一頭、当てもなく空を飛んでいる。
「難しい顔してる。嫌なことでもあった?」
「知りません……」
 さっきから胸が変なリズムで跳ねて、仕方がない。
 管理局のエースオブエース、機動六課戦技教導官の高町なのは。
「まあ、どんな顔をしていてもティアナは可愛いけどね」
「お願いですから、それは好きな人にだけ言ってください」
 本当に。呆れるくらいの殺し文句を、今日も吐きに来たのか。他の人の口から聞けば寒気がするような言葉も、彼女が言うととても真っ直ぐに響いてくる。胸を直接叩かれるような、心地良い甘い痛みを感じる。
「ティアナは可愛いよ。凄く」
「だから――」
「私はちゃんとその人に言ったよ。文句はないよね?」
 その好きの意味が問題なのだとこの人は一向に気付かない。かくいう自分も、おぼろげに恋という存在を感じているだけで、彼女の周りの人みたいに強い想いでいるわけじゃない。護ろうなんて大それたことを考えてもいない。だた惹かれているだけ。少しでも強くなって、褒めてもらいたいだけ。
 そんな自分が一緒に居たいと言っていいはずがなかった。なのはさんは、なのはさんは違う。恋らしき感情で動いたあとはもう後悔しか残らない。
「今夜はどうする。一緒に眠ってくれる?」
「今夜は」
 ――今夜も。
「なのはさんといたい」
「うん」
 今の私がそれを経験の上で明かしている。後悔しながらも止まらない、むしろ。
「嬉しいよ……、ティアナ」
 後悔することを知った上で、彼女を求めていく。淡い偽物の想いを胸に秘めて、この人の好意に溺れる。今日こそ断るつもりだったのに、いざ誘われてみると断る気が全く起きない。それどころかもっと深く、もっと強くつながりたいとさえ思う。
 一人で空を眺めていた? 違う。そんな情緒的な人間じゃない。私はただ、なのはさんの訓練が終わるのを待っていた。約束もないのに。
「なのはさんと一緒にいたいです」
 今までのやり取りはつまり、このことの前振りに過ぎないのである。
 恋のような感情だったものは、いつの間にか完全な恋に成り変わっていた。しかしよくよく見ると、それもやはり恋ではなく、恋に似た何かだった。
 自分の中にある得体の知れない甘さは、溶解しどろどろになって肌をべとつかせる。今はなんだか苦味すら感じられた。溶けたアイスが指に流れ落ちてくるみたいに不快な感情、なのに私は洗い流せずにいる。
 舌を出して舐め取って、その勢いでこのアイスを溶かした彼女に唇を乗せる。熱くて冷たいなのはさんの唇を舐めてみると、そこはなんとなく甘かった。
 甘さに惹かれてか、またはなのはさんが花にでも見えたのか。黒い蝶は長い間、ふらふらとあたりの空を泳いでいた。

 部屋に入ると、なのはさんを背中から抱き締めた。
 彼女の長い髪が頬をくすぐる。甘い感情に浸りきる前に、私は彼女をベッドに倒した。何かに急かされるように彼女の髪をほどくと、色の分からないベッドに広がった。私は蝶のように、甘い彼女の身体のあちこちを吸う。散らばる痕に満足することなく、見えない傷でぼろぼろの彼女の体に、上から順番に触れていった。
 そうしてなのはさんを全部を求め、一部を抱いていると流れ込んでくるものがある。
 フェイトさんと親しそうに笑い合っていた情景。ヴィータ副隊長と心底楽しそうに戯れ合う情景。八神部隊長と交わすささやかなやり取りに、仲の深さを感じられた昼間。いくつもの目にした出来事が脳裏を過ぎていく。巡る思考に歯止めがかからない。
 この人はもしかして自分以外にも身体を開いているのかもしれないと思う。しかし聞くことはない。聞いてしまえば一緒にいられなくなるかもしれない。二度と誘ってくれなくなるかも。
 私はなのはさんと一緒にいたかった。別れた一瞬後にも会いたくてたまらないのだ。
 ならばこれは恋に似た何かが胸を焦がし続け、やがて焼き切れるまで続けられるのだろう。考えると恐ろしくあったが、止められないことも分かっていた。
 壊れるか、壊れる前に逃げるか。どうせ今は選べない。

 月が黒蝶を照らしている。
 舞う軌跡は何かの導きに似て。蝶は、月の光や甘い香りに狂わせられながらもなお、飛び続ける。

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