2017-10

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午睡

レイジングハート×なのは。
なのはさんと出会うまでの経緯は完全な捏造で妄想で想像。
それは恋愛ではないかもしれないけれど。

ではつづきよりどうぞ。



 午睡


「ああ、眠い」
 主の小さな吐息を傍らにいた彼女が感じ取る。
 紅く透き通るような石はなのはの愛機で、レイジングハートと名付けられていた。誰がつけたのか主はもちろん知らないし、彼女自身も知らない。ただ“不屈の心”という名前が主の心をも支えているような気がして悪くなかった。もしかしたら名前が導いてくれたのかもしれないとも思う。彼女の主だって不屈の心をもっているのだ。そんな人だからこそ、彼女は主と認め、芯から心を許したのかもしれない。デバイスである以上は従い、主のために行動し思考するが、忠誠を誓うのは主がそれなりの人物でなくてはならない。
 しかしながら、デバイスが選ぶ、というのとは少し違う。
 生まれながらにして、あるいは生まれるべくして生まれたインテリジェントデバイスは、主と寄り添うようにして造られているはずだ。主、高町なのはの親友であるフェイトのバルディッシュもそうだし、この間まで教導官として教えていた四人のデバイス達もそうである。はやての持つ夜天の書やリインフォースツヴァイもそうであろう。けれどレイジングハートとなのははどうだろう?
 偶然出会ったふたつの存在。そういうにはあまりにも浪漫や抒情的な要素が欠けている。しかし運命というには、あまりに自然で当然な出会いであった。つまり必然と表わすまでもない必然。遠い次元世界の魔法のことなど一切知らない高町なのはが初めて戦場に足を踏み入れたとき、手に握り締めるデバイスはレイジングハート以外では駄目だった。
 ――眠い、と主は言う。
 瞼をごしごしと擦る様は幼く、片側に結った長い髪は横になるときシーツの上へ乱雑に散らばっていた。波なんて荒くれものの美しさではないが、彼女は主の髪の美しさの例え方を思いつかない。
 マスターの髪。
 それが最上級である。
 今日、彼女の主には昼から思わぬ休暇が飛び込んできた。予定していた教導が中止になり、片す必要のある急ぎの仕事もとりあえずはない。そこで休暇となったのだが、それでも細々とした書類仕事を片付けようとするなのはを見て、帰宅を勧めた。普段働き通しのなのはであったが、流石に疲れがたまっていたこともありすんなりと受け入れた。
 そうしてなのはは今、高町家の自室に寝転んでいる。ヴィヴィオはもうしばらく学院から戻らず、だからなのはは気を抜いていられるのだろう。
 閉じかけた蒼い瞳に映る己の紅い姿を眺めながら、素早く頭を働かせた彼女は一つ提案する。
《マスター、今日はもうお休みになられては?》
 戦闘以外でレイジングハートが自ら進言するのは珍しい。
 なのはは少し考えて、レイジングハートがいうなら休んだ方がいいんだろうと頷いた。
「レイジングハートもスリープ状態に入っていいよ」
 はいと答えつつ、彼女は主が寝つくのを傍らでじっと待った。
 なのはは愛機の先に眠る気のない様子に片眉を提げて諦め、目を閉じる。すると間もなく眠りは訪れてレイジングハートは追及を逃れた。
 なのはの寝ているときの顔は記録に残る昔と全く変わらず、幼いものである。だから彼女はなのはの寝顔を眺めるのが好きだった。そうすると自身が作られてから出会い、今日までのことを思い返さずにはいられない。
 記憶の始まりは誰かの掌の中だった。白い箱の中、幾人かが騒いでこれを持ち上げる。紅い球体の石の出来上がりを喜んでいたのは、たしかに人だった。誰のために作られたわけではなく、無目的に、ただ技術の結晶であることが彼女にはすぐに理解できた。もちろん動作テストや模擬戦はあった。誰もが喜ぶ、しかし彼女には仕える主も目的も与えられなかった。不幸なことだとも、意味のないことであることも当時の彼女は分からず、自分のあり方というものも考えていない。不屈の心と名付けられた意味も――彼女には不必要であった。
 そのうちに研究所は取り壊しとなる。既に優秀なデバイスとして認められていたレイジングハートは引き取り手が決まっており、配達人の手で運ばれることとなった。
 しかし事故は起こる。意図されたものであれ偶然であれ、彼女は初めて人の手を離れて地面を転がった。土の中で幾年かを過ごし、彼女も活動をやめた。再び白い光を見たのはどこかの発掘者が掘り起こしてからだ。その一族はこと発掘にかけて非常に優秀だった。再び機能するまでに修繕され、彼女は一族の一人に渡った。危険とされるロストロギアを運ぶ為に、彼女は少年の武器として、護衛として持たされたのであろう。彼女にもちろん否はない。感謝も不満も、嘆く心をもレイジングハートは持ち合わせていなかった。
 ――だからあの幼い大きな瞳に吸い寄せられるように飛び込んだ時の気持ちを、今だによく思い出せない。暗がりでも輝く、夜空を詰め込んだみたいな瞳が彼女の視界に真っ直ぐに入ってきた。後からその瞳の色は青空であると密かに訂正して、白い衣服が似合うことは同じで。しかしどうしてあれほど引き寄せられたのか、それだけは不思議としか表しようがなかった。
 遣われる人が少年から少女へ移っただけのこと。少女の魔力のほうが膨大で、初めてであるのに遥かに上手であることを踏まえて考えても、彼女に感嘆を表す心などなかったはずである。名前が不屈の心というのに、インテリジェントデバイスであるというのに、レイジングハートには心が欠けていた。美しい満月の夜、雲が場違いにもかかってしまったように虚ろで朧げで。けれど少女に両手で抱き締められるように包まれた時、雲はすみやかに散っていった。
 今宵、空はよく晴れていた。
 夜の中で黄金色のフレームはまるで新月のようにも輝いた。少女の小さな手に包まれて構えられると、それが本来の役目であることを彼女は思い出す。降りかかる攻撃にプロテクトをはってみると、こうやってこの少女の身を護るために生まれてきたようでもあった。
 これが自分の存在理由だったのだ。いつか己の前に現われてくれる主のため、その人を護り、その人の力を生かすために作られたのであると。……少年を主だと思わなかったのは、掌に握られても一向に心が動く気配がなかったからだろう。そこは意志の及ぶところではない。
 少年の落としたロストロギアを巡る事件は終ろうとも事件は続く。闇の書の闇と主、高町なのはが衝突した。その時点で、既に絶対の信頼が双方におかれるようになっていた。
 レイジングハートは本来のその熱い心を浮き彫りにさせ、たまに気弱になるなのはの背を押した。なのはが気弱になるのはいつだって自分の身を案じてではなく、他者を想ってであった。でもそれは良いことだけではない。なのはの身を危機に追い込むことだってある。
 だから主に声をかけ、奮い立たせてやる必要があった。これもデバイスとしての役割なのだろうと。もしひとつ間違えれば彼女自身が壊れてしまう状況でも、主が自分の扱いに失敗するなんてことは考えの外にある。そして主は上手くやってくれた。驚く必要はない。自分のマスターなんだから当然なのだ。
 しかし二つの事件を終えて、その後も彼女の主は訓練を続けた。中には無茶なものもあったが、止めて聞く主でもないし、彼女も主がやりたいのなら手伝ってやる気持ちでいた。彼女が望むなら己が壊れようと、なのは自身が壊れようとも構わない。主が望むなら。――だけど、あの墜落は主の望みではなかったはずなのだ。
 ヴィータが無事でよかったと紅にまみれて呟く少女を、レイジングハートはひび割れた視界で見つめた。良く似合う白が赤に染まり、大きな空色の瞳は閉じられて、二つに結った髪はしな垂れていた。悔しくもそこでレイジングハートは機能を停止した。
 事故のあとからなのはは無茶を控えるようになったが、四六時中共にいる彼女にはそれが表向きでしかないことが解ってしまった。でも、それはずっと一緒にいるからというわけでもなく、ただなのはがレイジングハートに心を許しているからだということは救いだった。
 彼女は唯一だった。きっとなのはを救えるのは彼女以外になく、故に彼女はなのはを救わない。

 昼間の強い陽が窓を通り差し込んでくる。
 彼女は人間形体を取ると窓の傍に寄った。窓は開け放たれていて、風が吹き抜けて彼女の細い髪を揺らす。光に溶けた金色が降り注ぐ陽と混じる。彼女はカーテンを閉めた。紅い瞳が映すのは、今も変わらずに幼い寝顔をする主である。そこに、ほんの少し憂いの影がかかったのがたったひとつの変化だろうか。
 マイ、マスター。
 彼女は主のことをそう呼ぶ。ただ主ではない。私の主。たった一人の(マスター)
 記憶の海から身を引きあげてみると、あの出会いがどれだけ特別だったのか思い知らされる。
 なのはは幼い頃から、胸にたくさんの想いが詰まっていた。その一つ一つは生きていくための困難であり重荷であるのだが、なのははそれを誰にも言わない。ただ彼女にのみたまに漏らす。しかも教えてくれるのでない。察するのが可能な程度、感じ取ってくれるのなら感じ取ってくれればいいという、非常に遠慮がちに。けれど“ちゃんと考えれば察することができるように”伝えてくれた。だからこそ彼女は、そんななのはの気持ちの一滴だって取りこぼさないように、主の傍を離れなかった。
 なのはがふと寝がえりを打つ。彼女はごく自然な流れで布団をかけなおしやり、その勢いで床にひざまずく。そしてうたた寝のときのようにベッドに両腕を乗せる。ひどく近い距離で、なのはの閉じられた瞼の影をなぞるように見詰めた。彼女の動かぬ表情の中、きっとなのはだけが“気持ち”を感じ取れる。紅い瞳に映る人がたったひとりだけが。
 高町なのは。
 表情が動かない――といっても。その場に誰か親しい者がいればそこに感情を見出すことくらいできるかもしれない。だが確信までは持てないだろう。曖昧な。もしかしたらという程度。けれどなのはは違う。はっきりと、楽しそうだね、と言えるのだ。
「その姿でいるときのレイジングハートは、すごく優しい顔つきをしてるよ」
 彼女には分からなかった。何か楽しい事があるわけでも、優しくする必要があるわけでもなかった。ならばそれは、主と共にいるからなのだろう。主はいくつも胸や体に傷を作り、だからこそ優しい。見習って見習って、優しさというのはこういうものなんだと理解して。
「綺麗だよ」
 とてもデバイスに向けているとは思えぬ言葉だった。
 きれい? ただ人間を模しただけのこの姿が。髪の金色はフレームの色にすぎず、瞳の紅は核の部分にすぎず、小さな背丈は出会った時の主と同じ目線であろうとしたためにすぎない。
 ならば違う。レイジングハートは思った。違うのだ。別になのははレイジングハートが人間のように見えるから綺麗だと言っているわけじゃない。そこは間違えるな、と彼女は己に言い聞かせる。
「レイジングハートがその表情を見せてくれるっていうのは、わたしのことを想ってくれているからなんだよね。わたしね、誰からも好かれている自信はないし、わたしが誰かに影響なんてできないけど。でもレイジングハートにだけは違うんだ。わたしがいるから、わたしと一緒だから優しくて、あたたかい色をしていて、すごく綺麗なんだって。――そう自惚れることができるんだ」
 ああだから。レイジングハートの表情の意味がわかるのは主だけなのだ。
 だって彼女の瞳が向けられているのは主にだけだった。主はそのことに気付いているはずだった。それは信頼に他ならない。
 無類の信頼。
 二人で培ってきたこれまでが築き上げ、幾重にも編まれた絆で結ばれた二人であった。
「もちろんです、マイマスター。自惚れてください、いくらでも、いくら自惚れてもきっと追いつきません」
 それでもレイジングハートはその優秀な頭脳で思う。
 それでも最後まで共にいるのは、自分ではないのだろう……。
 主へと向ける密やかな想いを彼女は己の中におし込め、少し寝汗のかいたなのはの額に唇を乗せた。己をわきまえぬ接吻など、もしかしたら主への冒涜かもしれないけれど、どうかマスターが悪い夢を見ませんようにと祈らずにはいられなかった。

 ――さて、主が目を覚ます。
 陽が陰る頃。再び小さな丸い赤石に戻った彼女は、眠たげに瞼を擦る主に寄り添った。





[ WEB CLAP ]
信頼と理解。簡単に言えるけど、作り上げるのが難しいことはきっと誰でも知ってる。
故に――異常。だから無類。
なのはの特別と運命がヴィヴィオにあるなら、レイジングハートは必然なんだろうな。

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