2017-11

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描写する100のお題 006:証

描写する100のお題をたまには。
目次、お題についての趣旨などは上のリンクから。

ティアナとなのは。
いろいろ書いているけど、きっと根本はすごく単純な話。
ティアなのというといつもどろどろだけど、今回は驚くくらいハッピーエンド。
たまにはこういうのもいいさ。

よろしければ続きよりどうぞ。



 006:証


 日中はめていた指輪を外して机に置くと、カランというその軽やかな音以上に軽い風が前髪をかすっていく気がする。
 天井の灯火を受けて鈍い輝きを放つ小さな輪っかに、つい視線がいく。
 自分はこれに縛られているのか、頼りにしているのか忘れてしまうことがある。だけど確かなのは、これがここにあるということは、あの人の気持ちが自分のもとにあるということだった。
『会いたい時は、願ってくれたらいつでも会えるよ』
 彼女の優しい嘘を、録音しておけばよかったかなと思う。突きつけて困らせてやりたい。それ以上に、こんな不確かな言葉なんていらないから会える時に会ってくれればいいと言いたい。会いたいと一言いえば、あの人は必ず無茶をするから。
『ごめんね、ちょっと今は時間がないんだ』
 そう言いつつも、三日以内には必ず時間を作って会いに来てくれる。そのためにどれだけ睡眠時間を削っても、あの人は顔を見せにくる。
 そのくせあの人はちっとも自分から会いたいなんて我が侭を言わない。忙しいのはあの人だけじゃなく、私だってそうだということを知っているのだ。忙しさだけでいえばもしかすると私の方が忙しいかもしれない。時間のなさで言えば私の方がないかもしれない。ミッドチルダを離れた遠い世界に何日も何週間も出かけて行って、帰ってくるのは二ヶ月後、なんてことがよくある。彼女はそれを当然知っている。だから遠慮しているのだろう。人並み以上に気を遣う彼女は絶対に会いたいなんてことは口にしない。分かり切った不可能をむやみに言ったりしないのだ。
 でもそれは嬉しくなんてなくて、それどころか寂しくて、愛情を疑ってしまうくらいに素っ気無く思ってしまう。
 だから私がちょっと別れを口にすれば簡単に壊れてしまうんじゃないかと思うのだ。そういうくだらない己の妄想を、自分で信じてしまいそうになる。
 ……私は首を振った。
 指輪を見て、そんなことはないと強く否定した。
 彼女は合理的で、現実主義で、なのに自分以外に優しいから疲れ果ててしまう人なだけだ。だから放っておけなくて、けれど自分はその人の傍にいて護ることが出来ない。間接的に彼女より夢を優先しているんだろう。彼女はそうとは思わないかもしれないけど、私はどうしても気になってしまう。
 ああ、そうじゃなくて。私はなのはさんの傍にいられないことが耐えられないのかもしれない。
 手元に転がる銀色の塊を見ながら考える。
 ――いつか、指輪を交換した。
 世間がするような恋人同士の将来を結ぶ契約ではなく、お互いへのゆるぎない好意を具現化したもの。指輪を差し出されたとき、結婚しようと言われることを期待した。だって私はそのつもりだったのだ。本当はプロポーズをするつもりだった。多忙で危険な職務に就いているだけあって金銭には困らない。十分なプレゼントを奮発できれば、それだけ渡すときに自信を持って告白することができる。情けないかもしれないがそうして私は覚悟をもってその日に臨んだ。
 いざ久しぶりに顔を見て、また前のような気持ちがすぐに甦った。会えない時間が少しでも気持ちを削ってくれればよかったのに、かえって大きくなっていた。
 楽しいデートを終えて日没を迎える。戦場や事件現場に燃え盛る炎の赤と違って、夕日の朱は心に沁みるように美しかった。圧倒はされない。ただ何かが胸に滲んで、それがなのはさんを前にして言葉を詰まらせた。
 鞄に忍ばせた小さな箱を、さていつ取り出そうかとタイミングを計っているうちに、向こうから切りだされた。
 目の前には丁重に包装された袋。一日変わらない微笑のまま掌に乗せられたものを開けてみれば、そこには指輪が入っていた。私が用意していたものと同じで、言葉を失うほどに驚くことになった。
 彼女に告白をされ、付き合い初めて何年になるか。とうとうか、と思った。本来なら自分から言うべきことだと思って、慌てて彼女の顔を見返した。けれどなのはさんの表情にはまったく変わりが見られない。照れもなくそれ以上の言葉もない。特別な意味をもったものであれば何か一言あってもいいはずだ。
 私は何度も彼女の顔を見つめて、それから指輪を手のひらに包み込んだ。どの指にはめようか、なんて愉しい想像さえする間がなく、現実を理解するのに苦労した。だから分かったのだ。これが“ただの贈り物”であるということが。
 なら私がそれ以上の重荷を彼女の手の上に乗せられるはずもなかった。
「ちょうどよかった。あたしも指輪を用意していたんです。交換、ですね」
「そうだね。ありがとう」
「いいえ。あたしの方こそなのはさんにプレゼントを頂けて嬉しいです」
「だって当然だよ、今日は……」
 その日は、彼女が初めて想いを伝えてくれた日。だけど、会おうと言ったのは私から。だから、私が言わなければこの日はなかった。
「好きだよ、ティアナ」
「あたしも。なのはさんのことが好きです」
 ――そうして交換をした。
 その指輪を、私はこっそりと薬指にはめている。何の保障にもならないけれど、私が彼女の愛を疑うことがないように、己への戒めとした。
 けれど、つい考える。……最後になのはさんに会ったのは、もう何ヶ月前になるだろう?

 夏のある日にヴィヴィオから通信が入った。
 家に来てほしいと、我が侭をあまり言わない少女からの強い声で私は高町家に足を踏み入れることになった。少し疑問だったのは、その日たまたま休日であったこと。まるで少女は私が来れることを知っていたようだった。
 家には仕事のはずのなのはさんがいた。今日は休みなのだろうか?しかし休日が重なっていれば会おうとしたはずでそれは考えられなかったが、自室に誘われてみると理由はすぐに分かった。
「なのはママね、体を壊してお休みしているんだよ。ママは行こうとしたんだけど、私がとめたの」
 私はよくやったという意味を込めて少女の頭を撫でる。もし少女がいなければ、今日なのはさんはどこかで倒れていたかもしれない。あるいは苦しくても辛くてもやり切って家に戻ってくるのだが、そこで二度と起き上がらなくなるかもしれない。そう考えると恐ろしくなった。
「でもヴィヴィオ、よくあたしが休みだって分かったわね」
「知らなかったよ? ただティアナさんは絶対来てくれると思ったし、来てほしかったから。ママがつらい時、一番の薬になるのはきっとティアナさんだと思ってるから」
 私は、ヴィヴィオだってなのはさんの薬になる、と言おうとした。けれど少女はあまりにも真剣に呟いたから私は口を閉じた。視線をベッドに落とすと、なのはさんは眠っていた。汗を滲ませて辛そうで、額に乗せられたタオルさえ重たそうに見えた。
「とにかく知らせてくれてありがとう。あとはあたしが見てるから、ヴィヴィオは学校よね?」
「う、うん。でも」
「大丈夫」
 制服姿のヴィヴィオを真っ直ぐに見て頷く。大丈夫。
「そう、だね。じゃあよろしくお願いします」
 扉が閉まり、家の中の音がすべて消える。あとはなのはさんの荒い呼吸と、己の心臓の音くらいだ。
 タオルを冷たいものに変えてやりながら、自らの額にも汗が浮かぶのを感じた。何ヶ月も会わずにいた人とこうして居るのはすごく不思議なことなのではないだろうか。私は本当にここにいてもいいのか。もっと、傍にいてなのはさんが元気になれるような人がいるんじゃないのか。
 そういった想いもあったが、今度は前とは違った気持ちで否定することができた。
 大丈夫だ。なのはさんが辛い今、ヴィヴィオが呼んでくれたのは私だった。私を呼んでくれたのだ。そのことが示すものを考えれば自然に彼女へと向き合え、手を握り締めることができる。
 ヴィヴィオはきっと一番近くでなのはさんを見ている。だからきっと、私はなのはさんにとって必要なのだ。
「……ティアナ?」
 屋根を伝い落ちる雨垂れのような声に、私ははっとする。彼女は夢に半身を浸しながら、必死に現に乗り出してきていた。そんな彼女の背中をそっと支えてやると、彼女は微笑んだ。
 久しぶり、なんて言葉も出ないほどに久しぶりで、大きな蒼い瞳を覗き込んだのはもう何年も前のようで。どうすればいいのか分からない。背中にまわした腕で包み込むように抱き寄せたくて、私はそれでも必死にとどめた。きっと今の彼女の体には苦痛だろう。
「ティアナだ……ティアナがいる。どうして」
「会いたかったので会いにきたんです」
 それだけです。
「はじめて、だね」
「え?」と私はあらためて彼女を見かえした。彼女は少し俯いて、それからまた顔を持ち上げた。
 触れている肌はどこもかしこも熱を帯び、今にも掌が焼けてしまいそうだったけれど、それでも離すことはできない。熱に溶けてしまっても彼女に触れたままでいたかった。
 何となく、彼女が教えてくれる前に言おうとしてる事がわかってしまった。
「ティアナが会いに来てくれたのって、初めてなんだよ」
 ――そうだ。いつも口だけだったのは私で。いつだって行動して、努力して、会おうとしてくれたのは彼女だった。
「だからすごく、ね。嬉しい」
 この腕の無力を私は嘆かずにいられない。
 愛しい人を抱き締められないことがこれほど辛いとは思わなかった。今まで幾度となくそういう場面が訪れたが、拳を握り潰せば我慢が効く程度だったのだ。だがあんなものは辛いとはいわない。今この時を辛いというのだ。
 ぐっと抑える。血が滲んだところで構うものか。
 大丈夫だと言わせたくなくて、大丈夫となのはさんに言った。
 彼女はまた、眠りにつく。安らかとは決して言えない寝顔を見つめて、私はいつの間にか同じベッドに顔を伏せていた。

 どれだけ時間が流れただろう。
 再び目覚めたとき、なのはさんはやはり眠っていた。温くなったタオルを変えると、彼女の呼吸は心なし穏やかになっていた。おそらくは疲労が積み重なったがゆえに起こったことなんだろう。
 相変わらず無茶をする人だ。そんな人だから心配で、気になって仕方がない。
 ふと嬉しいと言ってくれたなのはさんを浮かべて、これまで彼女が努力してくれたみたいに自分から会いに行こうと思った。自分を押し込めてしまう人に会いたいと言われるまで待つなんてどうかしている。勇気が出なければ、さっきの顔を思い出せばいいのだ。そして、今彼女の指にはまっている銀色の輪っかを覚えておけばいい。
 私はそっと彼女の薬指に触れた。見たことのあるその指輪を、つうと撫でる。先程まで布団におさまっていた彼女の手はなんだか温かかった。

 無心でいることは延々と考え続けるよりも難しい。
 私は特に苦手で、何も考えないでいることが耐えられなかった。でも今、私は愛しい人の顔をぼうっと眺めるままに過ごしている。何もしない時間など、そういえば何年もなかった。愛しい人の顔を無心で見つめつづけることの幸福をいつのまに忘れてしまっていたのかと思う。忙しさに埋もれて、掘りおこすことも忘れて、私は一体何をしていたんだろう。
 機動六課にいる間はつらくても楽しくて、確かに幸せだった。けれど今この時間も、決して不幸などではない。
 カーテンを開けた窓から赤い空が見えた。夕暮れ時、空を横切った鳥が黒い影を記憶に残していく。
 いつの間にか目を覚ましたなのはさんが、腕を伸ばして私の髪に触れていた。
 遠くで玄関の扉が開く音を聞いた。小さな足音もぼんやりとしか聞こえない。起きなければと思うのに酷く瞼が重い。頭を撫でる手の平が優しくて、微睡みが足を忍ばせてやってくるのに気付いていた。だけれどもそれは無条件に受け入れてしまうような安堵であり、ちっとも抵抗する気になれなくて、私はまた目を閉じる。
「おやすみ、なさい」
 おやすみという声を朧げに聞く。どこも疑うところのない声に、私はやはり安心して眠った。



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