2017-09

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描写する100のお題 007:十字架

描写する100のお題
目次、お題についての趣旨などは上のリンクから。

フェイトさんだけで完結されてる話。なのはさんがいてこそではあるけど。
短くはありますが、よろしければ続きよりどうぞ。



 007:十字架


 暗がりの中で、フェイトは白い肌を見る。隣で眠る人の、掛け布団から出た白く丸い肩を。フェイトは触れようとして、けれど躊躇った。彼女はいつもそうだ。いつも触れられない。この高潔な人は、フェイトの手の決して届かないところにいる。
 ……相手に自分を刻む一番の方法を知っているだろうか。
 愛や金銭をこめた贈物で自分が満たされた気分になったり、相手の身につけるものを買ってやって独占欲を満足させてみたり、単純に触れ合うことでもいい。行きすぎると相手を檻の中に閉じ込めてしまうというのがあるが、そこには相手の心はない。稀に、相手の体に名前を刻むということをする人がいる。鎖骨から肩の辺りにかけて、最低一月は消えぬ傷をつけるのだ。それは愉しくお互いが満足するだろう。
 けれど実践できるのはほんの僅かで、考えるだけで望まない人ばかりだ。例えば、相手を壊れもののように扱う人。砂で築かれた城のように、雪でできた羽根のように、子猫のように大事にする人。
 フェイトがそうであった。なのはに対してのフェイトがそうだ。
 本当は全身に鎖を絡めて地上に縛りつけ、部屋から一歩も出したくない。でもそうすることをなのはが嫌うだろうからやらない。フェイトもなのはの綺麗な体や心を傷つけるなど不可能だろう。なのはの綺麗な身体も心も、見えぬ何かに守られているのだ。こうして横にいて、肌をさらしていてでさえフェイの手は決して彼女の体に触れない。ゆえに傷どころの話ではなかった。――Fと、Tと、Hを。刻めればどれだけ満たされるか、フェイトがどれだけ承知していたとしてもだ。
 だから、せめて。
「なのはの名前を刻みたいんだ」、そう漏らしたとしても仕方がなかった。結果など分かっていた。返事など聞かないでもよかったのに、彼女は酷く辛そうに顔を歪めて笑う。すぐにフェイトは、私はどれだけ彼女を傷つければ気が済むんだろうと後悔する。
「駄目だよ、自分の体を傷つけちゃあ」
 それからいかにも身勝手な悲しみが襲ってきた。
「そんなことされても、ちっとも嬉しくないよ?」
 優しい気持ちから出た言葉のはずだった。だけどフェイトにはていよく拒絶されたように感じられ、苦し紛れに「ただの冗談だから」と乱暴になのはの髪を乱した。素直に信じて怒るなのははやはり優しかったんだろう(いつだって人を一番深く傷つけるのは優しさゆえの言葉だ)。察しのいいこの少女が気付かぬはずはなく、だからこそフェイトは翌日の任務に備えながら考える。
 こっそりと刻んでやろう、そうだ、なのはの決して目のつかぬ場所に刻もうと。
 朝になり、なのはが先に仕事へと出て行ったあと、フェイトは服の上を脱ぎ捨てて洗面所の鏡の前に立った。手の中には金の戦斧。斧は刃へと役割を変え、そうして一瞬の躊躇いの後、主の命のままフェイトの鎖骨に赤い筋を浮かび上がらせた。
 フェイトは己の露出した肩を見た。彼女の口元には耐えようのない歪な笑みが浮かぶ。
「それに、わたしの名前なんて刻んだってしようがないんだから」
 あの言葉は拒絶であったに違いない。フェイトに対しての拒絶であったのかなのは自身に対しての拒絶であったのか、それは彼女には図れなかったが、もう構う必要がない。既に残されてしまった。
 この傷はやがて黒くなるだろうが、ずっと残るはずだ。「私は君のもの」っていう印――名札である。
 君さえ知らぬ間に、私は君のものになっているんだよと言えば、あの子はどんな顔をするのかな――。
 ふふ、とフェイトが微笑む。澄明な朝の空を鳥が大きな羽音を立てて飛び去った。あと三時間ほどもすれば蝉がけわしく鳴き始め、深緑の葉は風との対話を始める。一日の始まりの中、フェイトはそんなものとは無縁の冷えた場所で執務をこなしているだろう。黒い制服の下に二文字の名札を付けて、きりりと口元を引き締めた誰もが見惚れる執務官でいる。
 だがフェイトはその内で、なのはに対する後ろめたさよりも喜びの方をずっと強く感じながら、今夜なのはに打ち明ける妄想をしては愉快になった。



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