2017-09

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癒えない傷と そして

目次⇒振り返る

ヴィなの。一番に書きたいと思った。
それは冬のもっとも寒い時期の話。反対側の季節のこと。
これが多分、一番短いお話。

続きよりどうぞ。



 癒えない傷と そして


 空を舞う桜がまるであいつの魔法光みたいだったから。その時は、ほんの気紛れだった。
 騒がしくて皆で賑わっていて、あたしの言葉も空気にまぎれていくのだという気がしたから。その時は、ほんの軽い浮ついた気持ちだった。
 受けたことのない柔らかな日差しが暖かくて、胸の中の雪の思い出が溶けていったから。
 だから。
「あたしがちゃんと護ってやるよ」
 花見の席で戯れに放り投げた。それがどれだけ本気か、心からの誓いだったのか自分で気付けなかったのだ。
「護ってやるのはお前とあと数人。だからそれはあたしにとっての特別だ。そこに入れてやるんだから、ありがたく思えよな」
 あたしの前ではいつもどこかに混じっていた苦味が消え、満面の笑みに変わった。こんな言葉があいつの心にどれだけ優しく降り注いだだろう。それまでなのははどこかあたしに距離を置いていた。敵として、分かり合えない存在として、線を引いていたのだろう。それは自分もだった。戦場でも説得の言葉とともに杖を構える少女に鼻で笑っていた。主を助ける以外の行動は無駄なだけった。救いの言葉も信用に足りない。忘却の底から浮かびかけた真実も、邪魔だと振り払った。思い出せば悲しいだけだった。
 結局のところ、救ってくれたのはあたしの流した血ではなく、あいつの桜色の魔法光だったのだ。どれだけ弾き飛ばされようと、突き進んで、闇の書を突き破ってくれた。あとで聞いた話だったが、それは前を見据える高町なのは以外では適わなかっただろうという気がする。主が眠りから覚め、立ち上がれたのも、あいつの光があったから。それは少し、悔しいけれど。
 雪が降り積もる、祝福の風が空に溶けていく。俯かずに見送るあたしに傘を差し出したのは、なのはだった。
 なのはは黙って腕を伸ばし続けていた。傘を持った手が下ろされ、あたしの足元に置かれてからあいつは静かに立ち去っていた。そのことに気付いたのは、彼女の足跡が消えかけた頃のこと。体が十分に冷え切って涙が凍ってしまいそうな程頬を痛めつけていた。
 なんて不器用なんだ、とあたしは思った。そしてお礼も言えないあたしは、なんて馬鹿なんだ。
 ああ、そういえばあいつの頭も肩も、白かったなと思い出したのは随分後だった。

 一つの悲しい思い出が溶けていっても、また一つ悲しい思い出が降り積もる。雪の降りて来る季節に、白い粉さえ染めていく赤い染みが黒く黒く、視界を埋めていく。一体何の間違いだ。どうしてこいつが。疑う自分が信じられなかった。十分知っていたはずなのだ。悲劇はいつだってやってくる。唐突に、前触れも無く。
 その頃あたしは身丈に余る幸せを感じていた。管理局に籍を置いてから、仕事という名の懺悔は忙しくも充実していた。義務とはいえ主はやてや、はやての暮らす世界を護るということは、自分にとっても重要なことだったのだ。
 はやてを思い出すとき、ちらりと浮かぶ存在があった。
 ――護ってやるよ。
 他にも大事な存在はあったが、口に出して言ったのははやて以外にはあいつしかいない。それはあの頃の自分も恐らく気付いていた。認めたくない一心で、頭に浮かんだ笑顔を振り払う。
 ついでだ、ついで。はやてが仲良くしてるから。花見の席とはいえ、戯れにでも言ってしまったから。ましてや過去の自分の言葉にだけでなく、たまに会う彼女の姿に心臓が大きく動くなんて、どうかしている。「教導隊に入ったんだけど、これ制服。どう似合う?」。やめろ、惑わすな。お前は知らないだろう。騎士は主と並ぶほどの存在を作ってはいけない、そんな葛藤が摩擦となりいつまでも心を焦が付かせるんだ。
 胸の内で渦巻くものにちゃんと目を向けてやればよかった。そうすればあいつは墜ちなかったんじゃないのか? あるいは護りきれたかもしれないのに。
 あおい空、しろい世界、鮮血のあか。
 あの日より、雪が視界を覆い尽くす二つ目の記憶は溶けない。

 教導隊に入ることが決まってから、なのはは一層任務と訓練に精を出すようになった。訓練にはたまに付き合い、その時々で勝敗は変わったが、シグナムのような戦闘狂いとは違うため、彼女の砲撃を受けるのには辟易した。やれやれと防護服を解除するが、毎度訓練に付き合っているからこそわかる、相手の体調の変化。なのはは少し疲れているように思えた。隠す彼女が見せたほんの僅かな綻びを追求してやることはできなかった。
「気をつけろよ」
 任務に赴く前、必ず一言告げるようになったあたしに、相変わらず彼女は笑顔で手を振った。
 日に日に大きくなっていく背中が消えていく妄想が浮かんだ。笑顔が歪んで沈んでいく幻想が見えた。倒れたという報せを聞く夢にうなされた。病室の前に立ち尽くす現実が忘れられなかった。
 張り裂けそうな心臓を、殴りつけて破裂させればいっそ楽になれるのだろうか。
 そんな中、なのはの任務が一日延びる。帰ってこない。
「なのはちゃん、随分とてこずってるみたいやね」
「まああいつならば心配はないでしょう」
 食卓ではやてとシグナムが交わす間、箸も止めてあたしは俯いていた。墜落した時のことが過ぎる。大丈夫、あれきりのことだ。忘れてしまえ。
 だが蘇る。
 あおい空、しろい世界、鮮血のあか。
 ああ、忘れてはいけない。飛べないといわれた彼女が再び空の中にあるのをみて、涙が溢れたことを。振り返って驚くなのはの、少し歪になってしまった笑顔にまた促進される。
 なんてことだ。見える傷は確かになくなった。今なのはの体を蝕むのは寿命と、魔導師生命と、将来と、苦痛のみで、空を飛ぶこと自体に恐怖はないだろう。魔法などいざとなれば抑える気配がない。そうだ、肝心のなのはは耐えていた。だというのに。
 自分こそが怖いんだ。お前の体の傷はもう心配してない、だけど。
 どれだけ元気な姿を見せてくれても、一瞬あとにあの光景が現れるかもしれないと震える。あたしはいつだってこうして恐れているのだ。大丈夫だよというあいつの口癖も、信じないあたしに向かっては口にしなくなった。
 やがてなのはが予定より更に二日送れて任務から戻ってくる。はやてに声をかけ、真っ先に向かった。でもその顔は見れない。
「ただいま、ヴィータちゃん。でもそれは何の冗談かな」
 なのはの声を頭上で聞いた。
 怒鳴る言葉も抱擁も、まったく浮かばない。だが意識的に跪いていた。静かに頭を垂れる。言葉よりも無心の行動が、自分が騎士であることの意味を知る。
 今彼女がどんな顔をしているかは推し量れないが、あたしは無言で続けた。それは忠誠を誓う姿勢というよりは、謝罪にも似た格好で、自身に根付く守護の意識が自身の矜持だった。
 なのはの優しく降って来る声に主を僅かに浮かべる。守護騎士たる自分はあの言葉を、本当はたった一人に捧げるべきだったのだ。護ってやるよ、なんて。本当に言わなければよかった。思っているだけで十分すぎる誓いであったのに、本物にするため自身へ更に傷を彫ってしまった。
 護ってやる、お前が世界を護ろうとする以上に。“そのためにいつも側に、ついていこう。”前に立ち、背中を守り、心を支えよう。そういう生涯を捧げる誓いを。
 やがてなのはの瞼が落ちたのを空気で感じた。それを受けてあたしは立ち上がり、彼女の胸に両手を添える。しようとしたことが分かったのだろう、彼女は身を屈めてあたしの頬に顔を寄せた。閉じられた瞼の両方に唇を乗せる。
 目を開いたなのはに驚きはなかった。ただこちらを見詰めている。気持ちは窺えない。もっともその必要もない。
「弱くて、ごめん」
「……ありがとう」
 無事でよかった。そういう言葉で表せない気持ちを、どうにか伝えることができたという実感があった。
 なのは乾いた瞳が細められ、やがてゆっくりと笑みに変わった。歪だった表情は不思議と柔らかなものになり、あたしもようやく顔を緩めることができた。
 あたしは弱い。こうでもしないと笑い合えないなんて。
 はやてには気付かれているだろう、最近ようやく自分の目でも視えてきた傷が、開いて閉じなくなったのを。いつまでたっても瘡蓋ができない一筋の赤い線を撫でながら、あたしはなのはの隣を歩くのだ。だからそれはまったく苦痛ではない。

 それは冬の日みたいな話。灰色で寂寥感に溢れた日々。
 二人の間に夏は来なかった。延々と冬だけが横たわり道を塞いでいた、その上を転ばないように支えあって歩いていた。それは雪を不用意に踏んで滑ってしまったあたしと同じ目線になって、頭を撫でてくれたようで、またなのはが寒さに身を震わせていれば勇気を出して手を握ったような。そんな感じの冬が続いた。

 実際の冬の話。白色で寒さのすぐ側に暖かな家と炬燵が用意されているような日々。
 なのはが撫でたのはあたしではなく、あたしの大切にしていた傷であった。あたしが握ったのはあいつの手ではなく、気丈に振舞おうと取り繕う笑顔であった。お互いに触れるべきではなかったものに触れ、あの日から色んなことが変わった。
 はやては気付いているだろうか。この一見普通の関係を。ゆがんだ思考を。気付かれているのだろう。だが後ろめたく思いながらも変わる意識はなかった。繋がっている実感があったのだ。触れ合うことで少なくとも手の届かないところで倒れる心配もしなくてよく、心から笑顔でいられた。
 ある日になのはへ贈り物をする。誕生日だったか何かの記念日かは忘れてしまったが、八神一家がミッドチルダに住まいを構えて後ぐらいのこと。渡したのはウサギのぬいぐるみだった。漆黒の垂れた耳をした毛むくじゃらだったが、彼女はとても喜んだ。可愛らしく両手で受け取ろうとする様子にたまらず体が動いて、なのはの頭を胸に掻き抱いた。目を閉じると今まで過ごしてきた季節の移ろいが蘇ってきた。
 贈り物をして良かった。彼女にとっては辛い体勢だっただろうが、考える余裕と暇がなかった。
「ヴィータちゃん、そろそろ苦しいよ」
「ああ、そうだな」
「どうしたの、寒かった」
 腕の中から顔をのぞかせ尋ねてくる。分かっているのだろうか。彼女は眉を寄せてこちらを見ているが、それは抗議じゃない。ただ気をひいて、誘っているだけだ。
 あたしが離す気のないことを悟ったのか、なのはは諦めたのか体をよじると、こちらのお腹をぎゅうと抱き締めた。少し苦しい。
「お返しだよ」
 暖かいのにちっとも温かくならない自身に、それ以上かける言葉を失った。
 どれほど時間が流れていただろうか、日が暮れ身体も冷え切った頃、シグナムがこちらへ歩いてきた。よく見ればフェイトも隣にいた。恐らくは訓練でし合ってでもいたのだろう。フェイトはなのはを、シグナムはあたしを迎えにきたのだ。これでようやく離れるきっかけできた。
 灰色の風景は今は朱に染まっていた。混じる紫がやってくる夜を伝えている。
「なあ、なのは」
 振り返る姿に声をかけた。 
「明日はもっと寒くなるらしい」
 だから――少しの間のあと、やがて気付いたように笑い、頷いた。
 どうしたのと表情をころころ変えるフェイトに、なんでもねーよとさっさと背中を向けてシグナムを呼んだ。シグナムとなのはとの間にいくつかのやりとりが交わされると、先を行くあたしに歩をあわせた。
 明日、特別に会う予定はない。相変わらず仕事は忙しいし、いつ急な出動がかかるかもわからない。それはなのはも同じだろう。だけれども会いたいと思ったのだ。そう思ったから、言った。

 兎は寂しいと死ぬとよく言われるが、実際にそんなことはないし、むしろ一羽のほうが上手くやっていくだろう。そんなところがなのはに似ている。いかにも放っておけないのに、実は一人でも平気な彼女に。

 だから、あたしにウサギのぬいぐるみは要らない。
 抱きしめて触れて、寒さで傷が軋んでしまわぬよう温めてあげたいのはなのはだった。枯れきって腐った落葉を踏みながら、帰路の途中、そういった気持ちが自分の中にあったのだと思い返していた。
 家に入ればあたたかな食卓がそこにはある。唯一の場所だったのに、今はもうひとつ同じくらいあたたかな場所があることを知っいていた。
 随分と素直なことを考えるようになったなと実感して、自分が疲れていることを思い出した。湯船につかり身体を温めて眠らなければ。そう思うのに、わだかまる違和感があたしを落ち着かなくさせた。玄関の扉を開け、再び家を出て行く。
 主の声を押し切って向かう先は、なのはがミッドでの仮住まいに選んだ宿舎だった。必要なものしかないある種暮らすのには便利な部屋だが、外装までが簡素な造りの建物だった。呼び鈴を押せばすぐに声が返ってくる。出迎える顔には驚きがひとつも浮かんでおらず、あたしは笑ってやるしかなかった。
「驚かないんだな」
「もちろん、驚いてるよ。それよりも嬉しいほうが先かな」
「来なくてもよかったな」
「来てくれてよかったよ」
「わかってるさ」
「今晩も冷えるんだって」
 だからおいで。
 なのはが甘く囁き、あたしはいざなわれる。あるいはもしかしたら自分の方から誘ったのかもしれなかった。
「もうじき雪が降るかもな、本当に寒くなってきた」
「ドア閉めようか」
 頷くと、今度は違和感なく足を踏み入れる。吹きぬけようとした秋の最後の残滓が扉に阻まれて音を閉ざした。
 その夜暗闇の中で裸になって、傷はもうずっと昔に膿んでいたことを知った。だから夏を避け、冬を恋しく思うのだった。どろりとしたそこを撫でてくれる彼女の手をたまらなく愛おしく感じ、握り締める。
「もし空を飛べなくなったら、“お前がそうするように”あたしも一緒にいくからな」
 そう言ったときのなのはの顔は、ちょうど暗くて見えなかった。



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