2017-10

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好きです 今でもずっと

目次⇒振り返る

はやなの……はやて→なのはです。
『eyes on...』のはやて視点でもありますが、読んでいなくても問題ありません。
ヴィータが“護る”だったら、はやては“見守る”だと思ってます。

続きよりどうぞ。



 好きです 今でもずっと



 久しぶりに顔を合わせたとき、昔なのはちゃんが私に向けてくれた叫びが突然よみがえった。
 残暑の厳しい、一日で最も暑い時分のことだった。故郷のように蝉が騒がしく存在を喚き散らすでもなく、じめじめと肌を湿らせて不快な気分にさせるでもない。爽やかな夏日の下で、クリアな壁面に囲まれて。それでも肌を焼く暑さにたまらず、木陰を選んで通った。それはまさしく偶然の邂逅だった。
 なのはちゃんは酷く驚いた顔をしていて、私はといえば素直に喜んでくれなかったことにほんの少し傷ついていた。けれどそんな想いはぐっと押さえ込む。唇を結び、笑顔に変える。今日に限って移動手段に車を用いなかったことを後悔した。最近は体を動かすことが少なく、運動不足だと歩くことにしたのが間違いだった。時間に余裕もあるし、なんて。失敗した。
 不意に吹き抜けた風が頭上の木の葉を揺らす。彼女の顔に散らばるその影が美しくつい目を細めて眺める。
 覚えているだろうか、昔もこんなことがあった。
 彼女を前にしても物怖じなかったあの頃、私はやはり今のように彼女に見惚れていた。伸ばし始めた栗色の髪を揺らす空気を掴みたくて、彼女の頬を撫でる風を羨んだ。彼女を纏う全てを包みたいと心から願った。私の返事次第でもしかしたら叶う日が来ていたかもしれないのに、じっと口を噤んで黙っていただけだった真昼のこと。十五歳だった。
 進路が別れてから初めて彼女と顔を合わせた。彼女は教導官に、私は捜査官に。海鳴で共に過ごす日はもう半年もない。そのことを一番に聞いたとき私は嬉しかった気がする。それから出来上がった白と青の制服を着ている少女にどこか危うい印象を持った。突撃思考の彼女が、こんな服をきて、私はしかも遠くからしか眺めることができない。だから好意を伝えられて、私はどうしようもなく躊躇ってしまったのだ。
「あまり会えなくなるけど、だからこそこれからもずっと見ていたいんだ」
 はやてちゃんが好きです、と少女が叫んだ。はっきりと前を向く少女の頬は赤く、こちらまで照れくさい。私はそれでつい彼女から視線を逸らしてしまった。それが彼女を勘違いさせた。
「迷惑、だったかな」
 慌てて振り返っても、既に顔を歪めてしまった後だった。あれだけ真っ直ぐに見つめてくれていた瞳が震え、唇も固く閉じられている。
 私は首を振るが、否定ではない。違う、とは言えなかった。
 それまでなのはちゃんについての想いを考えたことがなかった。おそらく好きだったのだろう。それも、彼女よりも先に好きになっていたのだろうと思う。けれどそのとき、私には到底応えることなどできなかった。ただ恥ずかしい気持ちが目を伏せさせて、真剣に考えたことのない自身の浅はかさが言葉を失わせていた。
 可愛らしいと思う、優しい光を守ってあげたいとも思う。けれど告白が嬉しすぎて、だからこそ彼女への気持ちの大きさが測れなくて、好きなんて言葉で括っていいのか迷ってしまったのだ。今の、罪を償っている最中の無力な私が、家族だけでなく彼女のことまできちんと護ることができるのか。
 そういった思考を彼女は鋭く見破ったのだ。
「困らせてごめんね」
 返事を躊躇った自分こそが悪かったのに申し訳なさそうに俯くのをみて、もう彼女は手の届かないところに行ってしまったのだと気付いた。それは正しかった。彼女は既に恋する少女ではなく、私とは真逆の方を向き、赤い宝石を握り締めて空を見上げる魔導師だった。
 あの日、墜ちたことなど感じさせない凛々しさで。
 その視線の鋭さに恐ろしくなって、家に帰ると真っ先にヴィータの手を握った。
「なのはちゃんのことを護ってあげて」
「んなの当たり前だ」
 目の前で墜ちる彼女を見ていたのだ。当然かもしれない。分かっていたのに、私はどうしても繰り返さないと不安だった。
「お願いな、なのはちゃんを護ってあげてな。お願いやから」
 肩を掴み、抱き寄せてから何度も口にした。痛みでかヴィータが顔を歪めた。青い瞳が大きく開いてどうしたのかと問いかける。私は愛しい家族の狼狽など気にもとめず、優しさなんてどこかに置き忘れてしまったかのように「お願い」と繰り返した。
 ヴィータはやがて諦めたように「わかったよ」と頷いた。
 それからのなのはちゃんはいっそう魔法に転倒していったが、私は気にかける言葉一つ持てなかった。青い空を瞳に閉じ込めてしまうかのように眺めるとき、彼女までも取り込まれてしまいそうだった。しかし決して取り込まれないということも分かっている。むしろ恐れるのは彼女の眼差しがあまりにも真っ直ぐだったことだ。空に魅入られたかのような彼女の優れた空間把握能力が、空を飛ぶために生まれてきたかのような青い瞳や白い防護服と重なる。青と白は彼女の色だった。アグレッサーよりも、幼い頃に着けていた長い衣装のほうが彼女に似合った。この間テストをしていたエクシードのバリアジャケットは、もっと似合っていた。青と白と黒の。それはまるで空の色。
 彼女にとっての空は敬愛する存在であるのだろう。薄っすらと笑みを浮かべて眩しそうに仰ぐ姿は儚く、瞬きをした瞬間に消えてなくなっている気がした。満月の傍らに佇む星だってこんなにおぼろげではない。
 どこかへ行ってしまいそう――幼少の頃アリサが呟いていたが、今はよく理解できる。空に手を伸ばしたまま青に溶けてしまってもちっとも不思議ではないのだ。
 雪が降る異世界任務で起きた事件以降、彼女にはそうした危うさを含んだ魅力が纏っていた。目の前に居れば、この世の住人でないかのような不均衡を保った精悍さに立ち眩みが起こる。実力だけのエースオブエースではないのだ。彼女を包む雰囲気も皆にそう呼ばせていた。特にエクシードモードの高町なのはを一度でも見た者には揺ぎ無いイメージだろう。故にこそ恐ろしい。空と消えていくというなんとも現実味のない妄想が、そしてありありと浮かんでくる想像が想像でなくなる。
 だから同じ空に立てるヴィータを頼った。ヴィータにも荷が重いかもしれない。けれどヴィータ以外には、持つべき荷物さえ判断できないに違いないのだ。
 信頼できる家族に任せることで安堵を得て、彼女についてそれ以上気にしないことにした。深追いすれば自身まで影響が出るし、それは自分の本意ではなかった。途絶えない仕事に没頭し、解決しなければならない事件が終わらないそばから転がり込んできた。一つずつ、辛酸を舐め、諦め、振り向かず、思いを飲み込む。上手くいかない事柄のほうが多かった。妥協を覚えながらも、やがて少数ではあるがとりあえずの目標だった一部隊を持つまでになった。
 機動六課へ誘うために顔を合わせた時には、お互い何の感動もなかったような気がする。大人になっていたくらいで、彼女の方はあの時と変わらなかった。僅かにも不自然な様子がなくて少し拍子抜けした。愛らしかったのが削れ、長い髪も相まってより魅力的になっていた。
 肩までの髪も好きだったけれど、と私は思う。髪を解く役目を私だけの特権にしたいと思うくらいには。
 美しく勇敢だった彼女は、未曾有の事件を解決に導いた。私は救ってくれたときのことを思い出す。リインフォース、あの子の中から交わした言葉はもう忘れてしまったけれど、真剣で勇敢な声色は闇の書の闇を突き抜け、心の深くにまで届いた。彼女の勇敢さは戦果として、機動六課が解散となっても私のもとにまで届いた。その度に通信を入れようとしたが、どうしてか昔のあの、申し訳なさそうな顔を思い出していけなかった。
 彼女にとってもう自分は必要ないということを知るのが怖かったのだろう。あれから十年余りが経っていた。恐らく彼女は日常生活において自分に対する意識など欠片もあるはずがなく、友人以上の感情は喪失してしまったように感じられた。気持ちを伝えられた自分の方はといえば、想いを募らせていくばかりだというのに……。
「久しぶりだね、はやてちゃん」
 こうして顔を合わせてみれば、いかにも平常心を保てないのが分かった。表情だけがどうにかまともに機能してくれるおかげで適当な挨拶が事ができた。それでも、ああ、とかそんな途切れた言葉しか呟けなかった。心の準備をして会うのではない。不意打ちとして高町なのはが目の前にいれば、まったく自分が保てなくなった。
「最近は特に暑いね」
「そっちでヴィータはちゃんとやっとる?」
「うん、ちゃんと教導官してるよ。むしろわたしより上手かな」
「そういえば暑くてかなわんわ」
「外の仕事は特にそうだよ。はやてちゃんも最近はそうなのかな」
「なのはちゃん」
「なあに」
「なのはちゃん」
 うまく言葉が出てこない。会話の仕方を唐突に落としてしまったみたいに、ちぐはぐで修繕の見込みもつかなかった。一体どうしたらいいのだろう。彼女は明らかに不自然な様子の私に首を傾げ、たずねている。
 どうして今まで会わずすんでいたのに。どうして今日突然会ってしまったのか。
 暑い夏の日、クリアな青い壁に囲まれた道の傍らで。私はただ車を使えばよかったのに。
 先ほど見せた驚きの表情は今はすっかりと落ち着き、笑みを顔中に散らばせたなのはちゃんは、昔と変わらずに愛らしい。毎日ヴィータが護っている笑顔だ。胸の中に何かが落ちてくる。その正体を、つかんでみる。すかすかの心に一つだけ浮かぶ青色の玉。それはあの十五歳の夏からずっと変わらずに、傷一つつかずにあった。
「ねえ、凄く久しぶりだね」
 雲が風に流され、木の葉の影が彼女の頬を覆う。数分、頭上を暗く覆った。今、お互いの顔が少し見えにくい。
 だからこの瞬間にしか尋ねられなかった。
「あのときの告白を覚えとる?」
 ずっとずっと尋ねてみたかったこと。
 微塵にも出さない、彼女に。そんな想いがあったことさえ消えうせてしまったような恐れが今更言わせた。しかし私は口にすべきではなかったのかもしれない。
「ごめん」
 返ってきたのは、耳を塞ぎたくなるような言葉。
「もう、忘れちゃったよ」
 知っていた、分かっていた。けれども私は言いようのない喪失感に襲われていた。
 嘘か本当か、彼女の表情からは窺い知れない。どこか悲しく見えたのは、私の願望なのだ。誤魔化したのは、彼女のためではなくきっと私がこれ以上傷つきたくないから。
「ほんならええんやけどな」
 今、空が飛べたらいいのに。
「私はな、なのはちゃん。あの時は返せへかったけど」
 自分が何を言おうとしているのか。
「今でもずっと、なのはちゃんのことが」
 は、っと。熱に浮かされかけた私が不意に現実に立ち返ると、正面に顔を歪める彼女の姿があった。目をきつくきつく閉じて、小さな子供みたいに唇を強く結んで。そして拳を握り締めていた。
 冷静になれてよかった。まだ、彼女のことを思い遣る気持ちがもてた。
 脱力のまま首を振り、諦めたように瞼を落とす。落胆よりも、あの先を言わずにいれたことに安堵した。
「はは、暑いせいかな、なんや今日頭がおかしくなってるんかも」
 体に気をつけて。私はそう、逃げるように別れを告げた。私と彼女とが繋がる瞬間は、十年前のあの日に終わっていた。今日がなければその事実に気付かなくてすんだかもしれなかった。初めに想いを断ち切ったのは自分のほうで、そもそもが今更だったのだ。今更繋がらない。それでも彼女を想わずにはいられずに、馬鹿なことを口走りそうになった。
 言わなくてよかった。泣かせたくない。自分が我慢をすればいいならそうしたらいいだけの話。それは本心だった。
「ばいばい、はやてちゃん」
 背中を抱きしめる勇気が、なくて本当によかった。

 忙しげな夏の日の終わり、いつものように家に帰り着く。真っ先に探すのはヴィータの姿。少女の向こう側、必死に彼女の姿を探してみる。手を握った。小さい手。抱きしめる。大きな背中。まるであのときと同じ。私は変われない。確かめるような私の行動にヴィータは不審がった。少女は何かもごもごと喋っている。
 抱きしめながら、私はもう一度だけ彼女を思い出す。疑いようもない。彼女のことを、たしかに愛していた。
 彼女がたとえどれだけ優しい嘘吐きでも。
 ――ごめん、もう忘れちゃった。
 ちっとも忘れていない顔で嘘を吐く彼女に、言葉だけでなく表情さえ覆い隠す嘘吐きな自分。これでは上手くいくはずもない。初めから、上手くいくはずがなかったのだ。だけど。
「好きやった」
「え?」
「誰よりも、ずっと好きやったのに」
「……はやて」
「ごめんな、……ちゃん」
 なのに、自分は傷つけたことしかない。繋がらなくてよかったのだ。ヴィータが自分をぎゅうと抱きしめる。なのはに向かって行けなんてことをヴィータは言わない。大丈夫だ、はやての想いはきっと伝わるから――そんな嘘も言えなくなるくらい遅すぎていた。いつも側で見ているヴィータは全て理解しているのだろう。
 彼女はもう誰をも視界に入れない。全てを背中において、世界を護る。彼女の愛した空とともに、空を飛べなくなる日までずっと。
 辛いのは今日だけだ。明日からはまた、昨日のような一日がやってくる。私はそれを一つずつこなしていき、時間を消耗する。彼女が魔力を消耗していくように、私もまた一日を消耗していくのだ。
 顎から汗が滴りおちるような暑い日、ヴィータのアイスを持った手が、溶けきった棒だけになっていた。

 小さな世界が彼女のすべて。その護る手伝いを、せめて。



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